お店や企業に対し、理不尽な要求や暴言など悪質なクレームを行うカスハラ(カスタマーハラスメント)。その多くはお客や消費者によるものだが、取引先の担当者の中にもカスハラまがいの態度でクレームを入れてくる者も。それも取引停止を脅しのようにチラつかせてくる場合も珍しくない。 建材メーカーで受注業務を担当する宮村正臣さん(仮名・31歳)も日常的にカスハラの被害に悩まされているひとり。少し声が高いせいか年齢以上に幼く思われるらしく、担当者の中には明らかに見下した態度を取る者もいるそうだ。
◆“要注意人物”への対応に苦慮
「なかでもひどかったのは私が勤める支社と同じ市内にある建設会社のアラフィフの担当者Mさん。その会社とは30年来の付き合いがあり、お得意様なのですがアナログな方で用件があるときは電話。
しかも、それならまだいいほうで直接会って話さないと気が済まないらしく、コロナ前は月に何度も先方に呼び出されていました。私の支社から比較的近い場所とはいえ、往復で40分はかかります。
一度、リモートでの打ち合わせを提案したのですが、『直接膝を突き合わせて話をするのが筋だろ!』って怒られました(苦笑)」
この取引先は宮村さんが受注担当になる数年前に代替わりして、先代の息子が新しい社長に就任。Mさんは彼が連れてきたそうだが、先輩社員から業務を引き継ぐ際に“要注意人物”と伝えられていた。
◆“社長と友達”アピールでマウントを取ってくる?
「先輩は私より2回り近く年上でMさんとほぼ同世代でしたが、『絵に描いたような横柄な人物』って。聞いてもないのに社長の学生時代からの遊び仲間だと自慢し、遠回しに『俺は社長の友達だから機嫌を損ねないように気をつけろ』と言われているように感じました。でも、ウチの社長ではなく自分の会社の社長と友達ってアピールされてもこっちには全然関係のないことなんですけどね(笑)」
相手はそれほど大きな会社ではなかったが、宮村さんが抱える取引先の中では大口。そのため、Mさんにせがまれて何度か接待したが、ここぞと言わんばかりに高い酒ばかり注文してきたという。
◆「指定した期日までの納品は無理」と断ると…
でも、それ以上にキツかったのは突然の発注。早いものは2~3営業日で配送されるが、納品までの期間は商品によって異なる。なかには半月やそれ以上かかる商品もあり、そのことはカタログや発注専用のウェブサイトに明記していたが、そんなのお構いなしに「来週までに納品してくれ」と無茶ぶりされることもあったそうだ。
「特に2020~21年は新型コロナの影響で海外からの輸入が激減し、普段よりも納品に期間を要する商品が多かったんです。そのことも普段から何度も話していましたし、希望する期日までの納品は難しいと説明しました。
すると、『お前んトコの契約全部切るぞ』と恫喝。私の一存では答えられないので折り返し連絡する旨を伝え、上司に相談しました。Mさんの件は先輩が担当していたころから問題視されていたので『無理難題言ってくるなら受注を断っても構わない。最悪、取引がなくなってもいい』とゴーサイン。社長の許可を取り付けていることも確認し、Mさんには今回は受注できないと正式に断りました」
◆理不尽な脅しに対して上司は…
なんと、この日の午後にアポなしで宮村さんの支社に乗り込んできたとか。仕方なく会議室に案内すると、「ふざけるな! こっちは契約を切ってもいいんだぞ!」など大声で脅してきました。

◆実は、上司も取引先にキレていた
「ウチの会社も小さな建材問屋ですが、地域内の建設業界における影響力はそれなりにあります。さすがに次期社長が相手では旗色が悪いと思ったのか謝ってきましたが内々に済ませるレベルではありません。商品はこちらの指定する日で納品することになりましたが、上司はMさんについて彼の会社の社長に抗議。その際、長年の付き合いから他社より安く設定していた卸し価格の値上げを通告したそうです」
後日、上司に誘われて飲みに行った際、このときのことを尋ねるとニヤッと笑みを浮かべ、「私も内心ムカついていたからね」と一言。それで相手をギャフンと言わせ、値上げを受け入れさせて利益を増やしたのだから大したものだ。
「ちなみにMさん、社内でもパワハラまがいの態度を取っており、それが原因で辞めた社員が大騒ぎして大問題に。昨年、追われるように会社を辞めたそうです。おかげでこの日の酒はいつも以上に美味かったです(笑)」
ここまでひどい取引相手もなかなかいないが、それでもいざという時に上司が守ってくれるのは部下としては心強い。できればこんな上司の下で働きたいものだ。
<TEXT/トシタカマサ>