北総線「印西牧の原駅」(筆者撮影)[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]続々と建設される最先端施設と新興住宅地 千葉ニュータウンの一角にある人口約11万人のまち・印西(いんざい)市。千葉県の北西部に位置し、利根川、印旛沼、手賀沼に囲まれ、豊かな自然が残る一方、ニュータウンエリア内には新興住宅街が広がる。 かつて経済誌の「住みやすさランキング」で7年連続1位になるなど、住みやすいまちとして人気のベッドタウンが、最近は意外な面で注目されている。 グーグル(Google)やアマゾン(Amazon)など世界的なIT関連企業のほか、国内の大手金融機関などのデータセンター(DC=サーバーやネットワーク機器を収めた施設)が続々と建設、稼働しているのだ。いまでは海外でもDC集積地“INZAI”の名は知れ渡っているという。いったいどんな街なのか、現地を取材した。

2月中旬、クルマで印西市に向かった。都心から首都高、東関東自動車道を走り千葉北ICで下りる。国道16号を北上し、途中から県道に。ゴルフ場も多いひなびた光景の道を進むと突然、物流倉庫やらビルが見えてきた。千葉ニュータウンの一角、印西市の市街地が近づいてきたのだ。都心から約50km、走行時間は1時間程だった。昔ながらの光景も残る印西市(筆者撮影) 最初の目的地は大和ハウス工業が進めている日本最大級のDC開発プロジェクト「DPDC印西パーク」(印西市牧の台)。ショッピングモールや大型ホームセンターなどがある市街地を抜け、1.5kmほど進むと広大な敷地に開発エリアがあった。DPDC印西パーク(筆者撮影) すでに大きな物流倉庫みたいな建物が2棟建っている。とにかく広い。リリースによると総延床面積は約33万m2(8万2000坪)。東京ドーム7個分だ。この開発計画に1000億円が投じられ、全部で14棟が建つという。いったいどんな企業が入るのだろうか。 市街地に戻る途中の道沿いには同じような形をした一戸建て住宅が建ち並んでいる。電柱が見当たらない。無電柱化が進んでいるようだ。わき道に入ると「新築分譲住宅 全151邸 好評分譲中」の横断幕。ネットで調べると111平米(建物)で約4200万円だ。都内23区近郊の6~7割程度か。近くの公園では親子連れが楽しそうに遊んでいる。比較的若いファミリー層が多い。 北総鉄道「印西牧の原駅」の前にはビジネスホテルと観覧車や大型室内遊園地があるショッピングモールがある。買い物、食事、遊びのスポットが勢ぞろいだ。印西市内の新興住宅街(筆者撮影)なぜ印西にDCが集積しているのか? 駅から数百メートル離れた道路沿いに工事中の用地があった。掲示されている開発事業事前公開板を見ると「用途 データセンター」とある。施工は大手建設会社。こんな駅近にも建設中なのだ。その他の場所でも建設中の現場を見かけた。すでにDC集積地となっているのに、まだまだ増殖中なのである。 印西市役所から南に2kmほどの地区に存在するのは巨大な物流施設エリア「グッドマンビジネスパーク」だ。アジアパシフィック、ヨーロッパ、北南米などで事業展開するオーストラリア最大の不動産グループであるグッドマンが開発した。グッドマンビジネスパーク(筆者撮影) 4棟合わせて約51万6000m2は100%稼働中だという。2021年にはさらに最新鋭の1棟(13万m2)が完成した。このエリアの一角にグーグルのDCが建設中だ。完成したら、また大きな話題になることだろう。 2時間ほどクルマで印西市内を回ったが、区画整理がきちんとされ道幅が広い新興住宅街と、畑や林が残り道幅も狭い旧市街では街の様相が全く異なる。そんな複合的な街には、ショッピングモール、ホームセンター、自動車販売店、大病院、外食チェーン、住宅街、公園、畑、ゴルフ場、競走馬育成・調教の牧場、そして物流倉庫やDCが混在している。棲み分けはできているが、田園風景と最先端施設、昭和と令和が混じり合ったなんとも不思議な光景だった。DC建設現場(筆者撮影) 印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立 恵まれた環境が整っていたのだ。「DC銀座」の恩恵で市の財政が潤っている「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。 令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。 10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。 恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]続々と建設される最先端施設と新興住宅地 千葉ニュータウンの一角にある人口約11万人のまち・印西(いんざい)市。千葉県の北西部に位置し、利根川、印旛沼、手賀沼に囲まれ、豊かな自然が残る一方、ニュータウンエリア内には新興住宅街が広がる。 かつて経済誌の「住みやすさランキング」で7年連続1位になるなど、住みやすいまちとして人気のベッドタウンが、最近は意外な面で注目されている。 グーグル(Google)やアマゾン(Amazon)など世界的なIT関連企業のほか、国内の大手金融機関などのデータセンター(DC=サーバーやネットワーク機器を収めた施設)が続々と建設、稼働しているのだ。いまでは海外でもDC集積地“INZAI”の名は知れ渡っているという。いったいどんな街なのか、現地を取材した。

2月中旬、クルマで印西市に向かった。都心から首都高、東関東自動車道を走り千葉北ICで下りる。国道16号を北上し、途中から県道に。ゴルフ場も多いひなびた光景の道を進むと突然、物流倉庫やらビルが見えてきた。千葉ニュータウンの一角、印西市の市街地が近づいてきたのだ。都心から約50km、走行時間は1時間程だった。昔ながらの光景も残る印西市(筆者撮影) 最初の目的地は大和ハウス工業が進めている日本最大級のDC開発プロジェクト「DPDC印西パーク」(印西市牧の台)。ショッピングモールや大型ホームセンターなどがある市街地を抜け、1.5kmほど進むと広大な敷地に開発エリアがあった。DPDC印西パーク(筆者撮影) すでに大きな物流倉庫みたいな建物が2棟建っている。とにかく広い。リリースによると総延床面積は約33万m2(8万2000坪)。東京ドーム7個分だ。この開発計画に1000億円が投じられ、全部で14棟が建つという。いったいどんな企業が入るのだろうか。 市街地に戻る途中の道沿いには同じような形をした一戸建て住宅が建ち並んでいる。電柱が見当たらない。無電柱化が進んでいるようだ。わき道に入ると「新築分譲住宅 全151邸 好評分譲中」の横断幕。ネットで調べると111平米(建物)で約4200万円だ。都内23区近郊の6~7割程度か。近くの公園では親子連れが楽しそうに遊んでいる。比較的若いファミリー層が多い。 北総鉄道「印西牧の原駅」の前にはビジネスホテルと観覧車や大型室内遊園地があるショッピングモールがある。買い物、食事、遊びのスポットが勢ぞろいだ。印西市内の新興住宅街(筆者撮影)なぜ印西にDCが集積しているのか? 駅から数百メートル離れた道路沿いに工事中の用地があった。掲示されている開発事業事前公開板を見ると「用途 データセンター」とある。施工は大手建設会社。こんな駅近にも建設中なのだ。その他の場所でも建設中の現場を見かけた。すでにDC集積地となっているのに、まだまだ増殖中なのである。 印西市役所から南に2kmほどの地区に存在するのは巨大な物流施設エリア「グッドマンビジネスパーク」だ。アジアパシフィック、ヨーロッパ、北南米などで事業展開するオーストラリア最大の不動産グループであるグッドマンが開発した。グッドマンビジネスパーク(筆者撮影) 4棟合わせて約51万6000m2は100%稼働中だという。2021年にはさらに最新鋭の1棟(13万m2)が完成した。このエリアの一角にグーグルのDCが建設中だ。完成したら、また大きな話題になることだろう。 2時間ほどクルマで印西市内を回ったが、区画整理がきちんとされ道幅が広い新興住宅街と、畑や林が残り道幅も狭い旧市街では街の様相が全く異なる。そんな複合的な街には、ショッピングモール、ホームセンター、自動車販売店、大病院、外食チェーン、住宅街、公園、畑、ゴルフ場、競走馬育成・調教の牧場、そして物流倉庫やDCが混在している。棲み分けはできているが、田園風景と最先端施設、昭和と令和が混じり合ったなんとも不思議な光景だった。DC建設現場(筆者撮影) 印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立 恵まれた環境が整っていたのだ。「DC銀座」の恩恵で市の財政が潤っている「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。 令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。 10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。 恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
千葉ニュータウンの一角にある人口約11万人のまち・印西(いんざい)市。千葉県の北西部に位置し、利根川、印旛沼、手賀沼に囲まれ、豊かな自然が残る一方、ニュータウンエリア内には新興住宅街が広がる。
かつて経済誌の「住みやすさランキング」で7年連続1位になるなど、住みやすいまちとして人気のベッドタウンが、最近は意外な面で注目されている。
グーグル(Google)やアマゾン(Amazon)など世界的なIT関連企業のほか、国内の大手金融機関などのデータセンター(DC=サーバーやネットワーク機器を収めた施設)が続々と建設、稼働しているのだ。いまでは海外でもDC集積地“INZAI”の名は知れ渡っているという。いったいどんな街なのか、現地を取材した。
2月中旬、クルマで印西市に向かった。都心から首都高、東関東自動車道を走り千葉北ICで下りる。国道16号を北上し、途中から県道に。ゴルフ場も多いひなびた光景の道を進むと突然、物流倉庫やらビルが見えてきた。千葉ニュータウンの一角、印西市の市街地が近づいてきたのだ。都心から約50km、走行時間は1時間程だった。
昔ながらの光景も残る印西市(筆者撮影) 最初の目的地は大和ハウス工業が進めている日本最大級のDC開発プロジェクト「DPDC印西パーク」(印西市牧の台)。ショッピングモールや大型ホームセンターなどがある市街地を抜け、1.5kmほど進むと広大な敷地に開発エリアがあった。DPDC印西パーク(筆者撮影) すでに大きな物流倉庫みたいな建物が2棟建っている。とにかく広い。リリースによると総延床面積は約33万m2(8万2000坪)。東京ドーム7個分だ。この開発計画に1000億円が投じられ、全部で14棟が建つという。いったいどんな企業が入るのだろうか。 市街地に戻る途中の道沿いには同じような形をした一戸建て住宅が建ち並んでいる。電柱が見当たらない。無電柱化が進んでいるようだ。わき道に入ると「新築分譲住宅 全151邸 好評分譲中」の横断幕。ネットで調べると111平米(建物)で約4200万円だ。都内23区近郊の6~7割程度か。近くの公園では親子連れが楽しそうに遊んでいる。比較的若いファミリー層が多い。 北総鉄道「印西牧の原駅」の前にはビジネスホテルと観覧車や大型室内遊園地があるショッピングモールがある。買い物、食事、遊びのスポットが勢ぞろいだ。印西市内の新興住宅街(筆者撮影)なぜ印西にDCが集積しているのか? 駅から数百メートル離れた道路沿いに工事中の用地があった。掲示されている開発事業事前公開板を見ると「用途 データセンター」とある。施工は大手建設会社。こんな駅近にも建設中なのだ。その他の場所でも建設中の現場を見かけた。すでにDC集積地となっているのに、まだまだ増殖中なのである。 印西市役所から南に2kmほどの地区に存在するのは巨大な物流施設エリア「グッドマンビジネスパーク」だ。アジアパシフィック、ヨーロッパ、北南米などで事業展開するオーストラリア最大の不動産グループであるグッドマンが開発した。グッドマンビジネスパーク(筆者撮影) 4棟合わせて約51万6000m2は100%稼働中だという。2021年にはさらに最新鋭の1棟(13万m2)が完成した。このエリアの一角にグーグルのDCが建設中だ。完成したら、また大きな話題になることだろう。 2時間ほどクルマで印西市内を回ったが、区画整理がきちんとされ道幅が広い新興住宅街と、畑や林が残り道幅も狭い旧市街では街の様相が全く異なる。そんな複合的な街には、ショッピングモール、ホームセンター、自動車販売店、大病院、外食チェーン、住宅街、公園、畑、ゴルフ場、競走馬育成・調教の牧場、そして物流倉庫やDCが混在している。棲み分けはできているが、田園風景と最先端施設、昭和と令和が混じり合ったなんとも不思議な光景だった。DC建設現場(筆者撮影) 印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立 恵まれた環境が整っていたのだ。「DC銀座」の恩恵で市の財政が潤っている「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。 令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。 10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。 恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
最初の目的地は大和ハウス工業が進めている日本最大級のDC開発プロジェクト「DPDC印西パーク」(印西市牧の台)。ショッピングモールや大型ホームセンターなどがある市街地を抜け、1.5kmほど進むと広大な敷地に開発エリアがあった。
DPDC印西パーク(筆者撮影) すでに大きな物流倉庫みたいな建物が2棟建っている。とにかく広い。リリースによると総延床面積は約33万m2(8万2000坪)。東京ドーム7個分だ。この開発計画に1000億円が投じられ、全部で14棟が建つという。いったいどんな企業が入るのだろうか。 市街地に戻る途中の道沿いには同じような形をした一戸建て住宅が建ち並んでいる。電柱が見当たらない。無電柱化が進んでいるようだ。わき道に入ると「新築分譲住宅 全151邸 好評分譲中」の横断幕。ネットで調べると111平米(建物)で約4200万円だ。都内23区近郊の6~7割程度か。近くの公園では親子連れが楽しそうに遊んでいる。比較的若いファミリー層が多い。 北総鉄道「印西牧の原駅」の前にはビジネスホテルと観覧車や大型室内遊園地があるショッピングモールがある。買い物、食事、遊びのスポットが勢ぞろいだ。印西市内の新興住宅街(筆者撮影)なぜ印西にDCが集積しているのか? 駅から数百メートル離れた道路沿いに工事中の用地があった。掲示されている開発事業事前公開板を見ると「用途 データセンター」とある。施工は大手建設会社。こんな駅近にも建設中なのだ。その他の場所でも建設中の現場を見かけた。すでにDC集積地となっているのに、まだまだ増殖中なのである。 印西市役所から南に2kmほどの地区に存在するのは巨大な物流施設エリア「グッドマンビジネスパーク」だ。アジアパシフィック、ヨーロッパ、北南米などで事業展開するオーストラリア最大の不動産グループであるグッドマンが開発した。グッドマンビジネスパーク(筆者撮影) 4棟合わせて約51万6000m2は100%稼働中だという。2021年にはさらに最新鋭の1棟(13万m2)が完成した。このエリアの一角にグーグルのDCが建設中だ。完成したら、また大きな話題になることだろう。 2時間ほどクルマで印西市内を回ったが、区画整理がきちんとされ道幅が広い新興住宅街と、畑や林が残り道幅も狭い旧市街では街の様相が全く異なる。そんな複合的な街には、ショッピングモール、ホームセンター、自動車販売店、大病院、外食チェーン、住宅街、公園、畑、ゴルフ場、競走馬育成・調教の牧場、そして物流倉庫やDCが混在している。棲み分けはできているが、田園風景と最先端施設、昭和と令和が混じり合ったなんとも不思議な光景だった。DC建設現場(筆者撮影) 印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立 恵まれた環境が整っていたのだ。「DC銀座」の恩恵で市の財政が潤っている「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。 令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。 10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。 恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
すでに大きな物流倉庫みたいな建物が2棟建っている。とにかく広い。リリースによると総延床面積は約33万m2(8万2000坪)。東京ドーム7個分だ。この開発計画に1000億円が投じられ、全部で14棟が建つという。いったいどんな企業が入るのだろうか。
市街地に戻る途中の道沿いには同じような形をした一戸建て住宅が建ち並んでいる。電柱が見当たらない。無電柱化が進んでいるようだ。わき道に入ると「新築分譲住宅 全151邸 好評分譲中」の横断幕。ネットで調べると111平米(建物)で約4200万円だ。都内23区近郊の6~7割程度か。近くの公園では親子連れが楽しそうに遊んでいる。比較的若いファミリー層が多い。
北総鉄道「印西牧の原駅」の前にはビジネスホテルと観覧車や大型室内遊園地があるショッピングモールがある。買い物、食事、遊びのスポットが勢ぞろいだ。
印西市内の新興住宅街(筆者撮影)なぜ印西にDCが集積しているのか? 駅から数百メートル離れた道路沿いに工事中の用地があった。掲示されている開発事業事前公開板を見ると「用途 データセンター」とある。施工は大手建設会社。こんな駅近にも建設中なのだ。その他の場所でも建設中の現場を見かけた。すでにDC集積地となっているのに、まだまだ増殖中なのである。 印西市役所から南に2kmほどの地区に存在するのは巨大な物流施設エリア「グッドマンビジネスパーク」だ。アジアパシフィック、ヨーロッパ、北南米などで事業展開するオーストラリア最大の不動産グループであるグッドマンが開発した。グッドマンビジネスパーク(筆者撮影) 4棟合わせて約51万6000m2は100%稼働中だという。2021年にはさらに最新鋭の1棟(13万m2)が完成した。このエリアの一角にグーグルのDCが建設中だ。完成したら、また大きな話題になることだろう。 2時間ほどクルマで印西市内を回ったが、区画整理がきちんとされ道幅が広い新興住宅街と、畑や林が残り道幅も狭い旧市街では街の様相が全く異なる。そんな複合的な街には、ショッピングモール、ホームセンター、自動車販売店、大病院、外食チェーン、住宅街、公園、畑、ゴルフ場、競走馬育成・調教の牧場、そして物流倉庫やDCが混在している。棲み分けはできているが、田園風景と最先端施設、昭和と令和が混じり合ったなんとも不思議な光景だった。DC建設現場(筆者撮影) 印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立 恵まれた環境が整っていたのだ。「DC銀座」の恩恵で市の財政が潤っている「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。 令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。 10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。 恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
駅から数百メートル離れた道路沿いに工事中の用地があった。掲示されている開発事業事前公開板を見ると「用途 データセンター」とある。施工は大手建設会社。こんな駅近にも建設中なのだ。その他の場所でも建設中の現場を見かけた。すでにDC集積地となっているのに、まだまだ増殖中なのである。
印西市役所から南に2kmほどの地区に存在するのは巨大な物流施設エリア「グッドマンビジネスパーク」だ。アジアパシフィック、ヨーロッパ、北南米などで事業展開するオーストラリア最大の不動産グループであるグッドマンが開発した。
グッドマンビジネスパーク(筆者撮影) 4棟合わせて約51万6000m2は100%稼働中だという。2021年にはさらに最新鋭の1棟(13万m2)が完成した。このエリアの一角にグーグルのDCが建設中だ。完成したら、また大きな話題になることだろう。 2時間ほどクルマで印西市内を回ったが、区画整理がきちんとされ道幅が広い新興住宅街と、畑や林が残り道幅も狭い旧市街では街の様相が全く異なる。そんな複合的な街には、ショッピングモール、ホームセンター、自動車販売店、大病院、外食チェーン、住宅街、公園、畑、ゴルフ場、競走馬育成・調教の牧場、そして物流倉庫やDCが混在している。棲み分けはできているが、田園風景と最先端施設、昭和と令和が混じり合ったなんとも不思議な光景だった。DC建設現場(筆者撮影) 印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立 恵まれた環境が整っていたのだ。「DC銀座」の恩恵で市の財政が潤っている「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。 令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。 10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。 恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
4棟合わせて約51万6000m2は100%稼働中だという。2021年にはさらに最新鋭の1棟(13万m2)が完成した。このエリアの一角にグーグルのDCが建設中だ。完成したら、また大きな話題になることだろう。
2時間ほどクルマで印西市内を回ったが、区画整理がきちんとされ道幅が広い新興住宅街と、畑や林が残り道幅も狭い旧市街では街の様相が全く異なる。そんな複合的な街には、ショッピングモール、ホームセンター、自動車販売店、大病院、外食チェーン、住宅街、公園、畑、ゴルフ場、競走馬育成・調教の牧場、そして物流倉庫やDCが混在している。棲み分けはできているが、田園風景と最先端施設、昭和と令和が混じり合ったなんとも不思議な光景だった。
DC建設現場(筆者撮影) 印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立 恵まれた環境が整っていたのだ。「DC銀座」の恩恵で市の財政が潤っている「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。 令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。 10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。 恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
印西市にDCが建ち始めたのは20年以上も前からだと言われている。国内の大手金融機関が千葉ニュータウン駅近くにオフィスと兼用の高層ビルを建てた。それ以降、金融機関、保険会社、シンクタンク、情報通信などの企業が続き、ここ10年ほどは海外の大手IT関連企業が続々と進出してきている。印西市にDCが集積した要因は次のような点が指摘されている。
(1)千葉ニュータウン内ということで広大で安価な事業用用地があった(2)地盤の固さ、浸水の恐れがないなど防災面での優位性(3)IT機能が集積する東京へのアクセスがよく、成田空港にも近い(4)海底ケーブルの陸揚げ局から近い(5)安定した電力供給のインフラが確立
恵まれた環境が整っていたのだ。
「DC銀座」と称される市内には、およそ20カ所のDCが存在しているとみられている。機密性が極めて高い施設のため、存在を公にしていない企業もあり、実態は市当局もつかめていないという。とはいえ、DCの集積は市の財政に大きな潤いをもたらした。それは市の財政を見れば一目瞭然だ。
令和3年度(2021年度)決算をみると、一般会計の歳入は約475億円。地方税約220億円のうち、固定資産税が116億4600万円と5割以上を占めている。
10年前は東日本大震災の年なので、その前年の平成22年度(2010年度)と比較すると、歳入は1.32倍、地方税は1.47倍、固定資産税は1.62倍となっている。固定資産税だけみても、およそ10年間で約44億円も増加していることが分かる。ちなみに近隣の自治体に比べ、市民一人当たりの固定資産税額は1.6倍から2.4倍となっている。DC銀座の恩恵である。
恵まれた税収があることから、印西市の財政基盤は強固だ。財政力指数は1.04で全国平均0.50の倍以上、実質公債費比率0.2%、将来負担比率2.2%は全国平均を大きく下回り、極めて健全性が高い。
DC建設現場と観覧車(筆者撮影) DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。 関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)想定外のペースで増え続ける人口 1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。 人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。 注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
DC集積のメリットはそれだけではない。市の関係者がこう語る。
「データセンターの集積地ということで、メディアの方や自治体関係者の方からの問い合わせが多くなり、印西市の知名度が上がってきていることを実感しています。おかげさまで海外でもINZAIといえばDC集積地という認識が広がっていると聞いています。
関わる人材が限られているデータセンターは、雇用創出にはあまりつながりませんが、固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てさせていただいています」(印西市経済振興課の担当者)
1960年代から始まった千葉ニュータウンの開発事業は、バブル崩壊やリーマンショックなどで事業が停滞した時期もあったが、ここへきて実を結びつつある。
人口の64%がニュータウンエリアに住む印西市は、平成22(2010年)年の合併(印西市、印旛村、本埜村)時には8万8998人(同年3月末)だった。それが最新の2023年1月末時点では11万90人と、13年間2万人以上、率にして24%も増加した。ここ数年を見ても毎年2000人前後の社会増、100人規模の自然増が続き、10年以上も人口が増え続けている。
注目は年齢別人口の構成だ。子ども人口(0─14歳)が16.4%、生産年齢人口(15─64歳)が60.4%、高齢者人口(65歳以上)が23.2%と、バランスがいい。子ども人口比率は全国平均11.6%を大きく上回り、高齢者人口比率は同29.1%を大きく下回っている。子育て世帯の流入が多いことから、一部の小学校で教室不足となるほど、人口増は想定外のペースとなっている。
人口増加が続く印西市(印西市役所/筆者撮影) 人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。 千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。筆者:山田 稔
人口増に伴う課題解決という、過疎自治体からすれば羨ましいような状況となっているのだ。
千葉ニュータウンでは長年、鉄道運賃の高さがネックとなっていた。しかし、累積損失解消を機に、北総鉄道が2022年10月に全体で15.4%、通学定期は64.7%もの大幅値下げに踏み切った。沿線住民の負担減につながったこともあり、今後も人口増加の流れは続きそうだ。
「住みよさ実感都市 ずっと このまち いんざいで」という将来都市像を掲げる印西市。人口増加の流れが続き、DCや物流拠点の充実で世界のINZAIとなった北総のまちが、今後どんな変貌を遂げていくのか注目したい。
筆者:山田 稔