成人してからも幼少期から過ごしてきた子供部屋に居座り続ける中高年男性“子供部屋おじさん”が社会で取り沙汰されるようになって久しい。本人のみならず、高齢の両親や兄弟を巻き込んだ問題として語られることが多いわけだが、そんな暮らしに満足している人たちだっている。
「僕も家族もいまの生活になんの不満も感じていませんよ」と話すのは、倉田正則さん(仮名・42歳)。
◆“エンジョイ子供部屋おじさん”のリアル
倉田さんは、実家住まいの独身。40代にもかかわらず、いままで1回も一人暮らしの経験はなく、小学生のころに親から与えられた部屋で生活する、いわゆる“子供部屋おじさん”である。
だが、悲壮感はまったくない。自身の現状について「“エンジョイ子供部屋おじさん”ですね」と微笑む。 倉田さんは3人姉弟の末っ子。姉2人は高校卒業後、家を出て一人暮らしを始めたそうだ。
◆高校卒業後「ちょっと就職はいいかな~」 「姉は7歳上と3歳上。2人共ちゃんと就職して、今は結婚してそれぞれ子供が2人いて。車で1時間ぐらいのところに住んでいます。僕も一応、工業高校は卒業しているんですよ」
姉たちが王道ルートの人生を歩んでいる一方、倉田さんは高校を卒業したものの、就職活動をしなかったという。 「まわりが就活を始めたころ、受験と同じで『やらなければいけないかな~』とは思ったんですが。とくにやりたいこともないし、様々な企業の勤務形態や給与体系をみて『ちょっと就職はいいかな~』と思いまして。親も『学校は卒業しなさいよ』しかいいませんでしたし」
◆日雇い労働で月収13万円でも「毎日快適」
進学も就職もしないまま、とりあえず高校卒業。数ヶ月は仕事もせず、お年玉貯金を取り崩して生活。それが尽きてから現在までの24年間、日雇い労働を続けている。 「実家なので家賃はナシ。もう両親もいい年ですが、年金もあるし、アルバイトもしているので、食費や光熱費も請求されたことはないです。携帯代も家族割でまとめて払ってもらってます。ゲームに課金しすぎた月とかは“気持ち程度”支払いますけど」 倉田さんの月収は平均13万円。使いみちは主にゲームの課金と外食費、たまにくる姪や甥におこづかいをあげるくらいだそうだ。 「多いときで月3万円はあまるかな。それはそのまま貯金……というか、残高が貯金って感じですね。確認してないからわからないけど、200万はあると思います。
具合が悪いときや気分が乗らないときは日雇いの仕事は入れません。休みは家でゆっくりゲーム三昧。両親や姉家族とも関係は良好。毎日快適です」
そんな生活ぶりを友人に話すと「しっかりしろ!」「やばいだろ!」といわれることもあったというが、倉田さん自身は「気にならない」そうだ。
◆ニュースを見て「世間の評価」を知る
だが、ある日たまたまTVをつけて驚愕することとなる。 「深夜のニュースで“子供部屋おじさん”や“子供部屋おばさん” を報道していたんです。40歳以上で独身、定職につかず低所得で家にお金を入れておらず、子供部屋で暮らす人って……『え!僕じゃん!!』とビックリしました。自分にこんな名前がつけられていたなんて知るよしもありませんから」 ニュースでは“いつまでたっても自立できない” “交際相手には選んではいけない” “非常に恥ずかしい存在”などという表現がされていた。

◆両親は期待も心配もしていない
いまだかつて両親から「結婚して欲しい」「出ていけ」などと言われたこともないそうだ。 「姉2人が早く結婚して孫がいるからっていうのも大きいかもしれません。たまに母が近所の人に『正則くんはまだ実家にいるの? 誰かいい人いないの?』と、親切に見せかけた嫌味をいわれるみたいですが、『他人には関係ないよね』と笑って流しているみたいです」 両親は昔からあまり世間体を気にしないおおらかなタイプで、倉田さんの性格をよくわかっているのだとか。 「僕は勉強もスポーツも成績は普通でした。好きになった女の子もいるし、付き合ったこともありますが、恋愛にもそんなに興味がないです。30日働かないのは暇すぎるから、たまに働くというスタンスで困ってはいない。収入が少ないと感じたこともありません。趣味はゲームだけど、借金するほど課金はしない。親は期待も心配もしてないんだと思います」 子供部屋おじさんとはいえ、「恵まれている」という自覚もありながら、倉田さんは最後にこう語った。 「家族から迷惑がられることもなく、居心地よく暮らす人もいるということを知って欲しいですね。強制的に就職させられて家を出されていたら、ストレスで犯罪者になっていたかもしれません。もちろん、褒められた生き方ではないし、誰かにすすめることはしませんが、うまくいっているのはうちだけじゃないと思いますよ」 本人や家族がそれで幸せというならば、他人が口出しすることではないのかもしれない。
<取材・文/吉沢さりぃ>