税金や保険、駐車場といった固定費の高さから、マイカーの所有を「非合理的」と考える層が増えてきた。そうしたなか、新たなカーライフの形を提案するのが「カーシェア」のサービスである。
【画像】時速200km超の暴走行為を注意すると…個人間カーシェア利用者の“驚きの言い分” なかでも画期的な形態として利用者数を伸ばしているのが、アプリなどを通じて「貸したい側」と「借りたい側」をマッチングする「個人間カーシェア」のサービスである。貸す側は使っていない車を通じて収益化が見込め、借りる側は柔軟にエリアや車種を選べることが大きなメリットだ。

しかし気になるのは、赤の他人どうしが高額資産を貸し借りすることのリスクである。実際に、個人間カーシェアにおいて生じているトラブルにはどんなものがあるか。「貸す側」「借りる側」それぞれの立場で、トラブルに遭遇した人々に話を聞いた。※個人間カーシェアの契約形態は、レンタカーなどの「貸渡契約」とは異なり、車両の「共同使用契約」として定義づけられる。そのため定義上は「貸す・借りる」という言葉は適切ではないが、記事内では可読性の観点から、所有者と利用者の関係を「貸主・借主」として記載するドラレコに残された衝撃の映像 カーシェアを通じた貸出の機会が増えるほど、車が自身の管理下から離れる時間も増える。事故や故障のリスクはもちろんだが、そうした目立ったトラブルがなくとも、「自分だけが使うのと同じように維持できる」とは考えない方がよいだろう。iStock.com 利用者によるマナーに辟易し、貸出を止めたというAさんからは、次のような話が聞かれた。「車の扱いに慣れていない人も多いので、実際に事故が起きていなくても、いつのまにか小さな傷ができているんですよね。一つひとつは気にならなくても、トランクに何かを擦ったような跡とか、内装の小傷とかが溜まっていって、シェアをはじめてから半年くらいで『なんか古くなったなぁ』という印象がありました。 もちろん貸し出す以上、ある程度は覚悟していましたが、決定的だったのはドラレコに映っていた映像です。返却後に車内を掃除していて、やたらゴミが散らばっていたので、ふと『どんな使われ方をしたんだろう』と不安になって映像を確認してみたんですね。 すると、運転中の車間距離が常に近くて、ちょっと遅い車がいるとビタ付けで煽り続けていて。血の気が引いて、それからはもう貸し出すのをやめました」 車を貸し出すにあたって、あらかじめ「どんな人が借りに来るか」「どんな使われ方をするか」を見通すことは難しい。悪質な利用者への対策として、ユーザー間の評価システムを導入している運営会社もあるが、それだけでは抑止しえない状況も十分に考えられる。貸した車が時速200km超で爆走 利用料を払っているとはいえ、他人の車を扱う以上、借主側には然るべき配慮が求められる。けれども現実には、「他人の車なのだから好きに使ってやろう」と振る舞う利用者もいるようだ。 Bさんは、遠隔状態でも車両状態を確認したり、各種設定を変更したりできるアプリを貸出車両に搭載していたが、そこに表示された情報に度肝を抜かれてしまった。「貸出中、高速道路を時速200kmオーバーで走行しているデータが表示されたんです。驚いて、遠隔操作で最高速度を制限したのですが、その後も制限いっぱいの速度を出し続けていたようです。 気づいてすぐに該当区域の警察署には連絡を入れました。ですが、『オービスなどで実際に検挙されない限り、対処のしようがない』と回答されました。 その後、借主に対してもメッセージ上で速度違反をやめるよう注意したものの、まったく悪びれないどころか、速度の制限を外せという旨の返信が返ってきました」 利用中に借主との間で行われたやり取りを見ると、速度超過を控えるよう呼びかける貸主に対し、借主は「明日は広い公園で加速を試したいので速度制限を外してほしい」といった要求を繰り返している。さらに、「制限がかかるとは聞いていない」「話が違う」といった身勝手な主張も見られ、貸主の苦労が窺える文面となっている。 なお、Bさんはその後、上述の行為を利用規約に対する違反として運営会社に報告するが、返ってきたのは「実際に検挙されていない以上、事実として認定することはできない」という主旨の返事だった。また借主に対する処分の有無についても、個人情報保護の観点から開示できないと返答され、相手にペナルティがあったのかはわからずに終わったという。 そもそもこのケースにおいて、Bさんが借主の常軌を逸した行動を把握できたのは、上述の車両管理アプリによるものである。そうした装置がなければ、警察の取り締まりを受けない限り、危険な運転を繰り返すドライバーが野放しにされかねないわけだ。身に覚えのない傷への賠償請求 個人間での取引に限らず、レンタカーやカーシェアにおいては「車のキズがもともとあったものか」をめぐるトラブルが生じやすい。事前に車両状態を確認するとはいっても、車のまわりを一周する程度で済ませることがほとんどだ。運営会社によっては、出発前にスマートフォンで車両の写真を撮影し、アプリ上に保存しておくシステムを採用している例もあるが、それでも細かい傷や目の届きにくい箇所の傷までチェックが及ばない可能性は十分に考えられる。 個人間カーシェアの場合はとくに、こうした確認の難しさが貸主・借主双方にとってのリスクとなるだろう。たとえば借りる側の立場として、Cさんは次のような体験をした。「車を返却してから1週間ほどして、オーナーから『貸し出す前にはなかったキズが見つかったので賠償してほしい』という連絡が来たことがあります。 添付された写真にはフロントバンパー裏の擦り傷が写っていたのですが、ちょうど借り受け時には撮影していなかった部分だったんです。 こちらとしてはまったく身に覚えがなかったので、『私の運転中にキズがついた事実をドライブレコーダーなどで立証してもらえない限り支払えない』と返信しました。そこからは何度か『人間性を疑う』といった罵倒じみたメッセージが送られてきましたが、内容証明などの具体的な話には進めてきませんでしたね」 カーシェアやレンタカーをめぐる同種のトラブルは、国民生活センターにも多く報告されており、同センターによる注意喚起も行われている。基本的に、賠償請求を行う際には「請求する側」が立証責任を負うことになるが、その傷が事前チェックで漏れていた場合など、請求される側にとって不利に事が運ぶ可能性は否定できない。そもそも、言いがかりを付けられた時点で相当なストレスにもなるだろう。「証拠隠滅」を図る借主 反対に、貸主側にとっては、「つけられた傷についてシラを切られる」というリスクがある。とくに個人間カーシェアにおいては、貸出・返却時に双方の対面を必要としないシステムが導入されているケースもあり、返却から車両状態の確認までにタイムラグが生じることもしばしばだ。 このシステムを介して車を貸し出していたDさんは、返却後に車両を確認した際、衝撃的な光景を目の当たりにする。「返却後、車の状態を確認する前に利用者の方からメッセージがあり、『実は借りている最中、駐車中に傷をつけられたようだ』と報告されました。 そのときは小さく擦っただけだろうと思ったのですが、実際に見てみると、助手席側の前から後ろまで長く深い傷がつけられていたんです。そのうえ、ドライブレコーダーからはSDカードが抜かれていました。後からわかったことですが、傷は運転中に擦ってできたもので、SDカードも抜いたうえでフォーマットされていました」 このように、車が傷ついたことを事後報告されるケースのほか、そもそも報告すらされないケースもある。このDさんの場合には、借主から報告があり、メッセージ上のやり取りが継続できたこと、さらにDさんの求めに応じて保険会社への届け出がなされたこと自体は幸いだった。全損扱いも、なかなか保険金が受け取れず…… しかし厄介なのが、カーシェアの貸出車両に対する保険である。運営会社は「300万円まで補償」など上限金額を打ち出したプランを用意しているが、当然これを請け負うのは一般的な損害保険会社だ。そのため、実際の補償上限は通常の車両保険と同様「車両の時価額」であり、全損事故や盗難被害に遭った場合に買い替え費用が賄えないケースも多い。 先のDさんのケースでも、修理費用の見積もりは100万円を超えたが、保険会社が認定する補償額は40万円程度だった。「はじめは修理を希望しましたが、費用が大幅に補償額をオーバーするため、車を買い替える方向で考えました。しかし問題だったのが、『実際に新しい車を買った領収書がないと、保険金が支払えない』と言われたことです。被害に遭ったこちらが先にお金を払わなければならず、『直せないし買い替えられない』という状態がしばらく続きました」 このような「経済的全損」のケースの場合、通常の車両保険であれば、買い替え・修理を問わず、認定された補償額が支払われる形が一般的である。しかし、Dさんが受けた説明では、ここで適用される「借用自動車の車両復旧費用特約」は、買い替えの事実を認定された後でないと保険金が支払われないのだという。「全損事故に遭ってから実感したことですが、カーシェア保険の被保険者は持ち主ではなく利用者なんです。貸主は愛車を傷つけられても、保険会社から『相手側』として扱われます。私の場合、保険会社から丁寧な説明などをしてもらえませんでした」 結局、保険の支払い条件に納得できず、また謝罪もなく開き直るような利用者の姿勢に対する憤りもあり、Dさんは弁護士に相談のうえ、利用者に対して少額訴訟を行った。提示した額での和解がなされたが、訴訟費用など諸々のコストを考えると、保険会社からの補償額とほとんど変わらない結果だったという。便利だが課題も山積みの個人間カーシェア事業 個人間カーシェアは、新しい時代のカーライフを支える画期的なサービスとして期待されている。貸主・借主双方に十分なメリットがあるほか、都心部の限られた駐車スペースや、資源の活用という社会的意義の面でも、大きな役割を担いうるサービスである。 とはいえやはり、個人が所有する車両を貸し出すには大きなリスクが伴う。もちろん、貸主・借主双方が、あらかじめリスクを入念に見通しておくことも重要ではあるだろう。しかし、個人間カーシェアのさらなる普及に向け、より多くの利用者がトラブルなく使えるシステムを構築するうえでは、運営会社による適切なプラットフォームの整備・管理が求められる。トラブル時のフォロー体制や、生じうるリスクについて、積極的に(小さな文字の約款ではなく)情報を開示していく必要がありそうだ。「普通に使っていれば大丈夫」と考えていると思わぬ事態に…無店舗型カーシェア利用に潜む“意外な落とし穴” へ続く(鹿間 羊市)
なかでも画期的な形態として利用者数を伸ばしているのが、アプリなどを通じて「貸したい側」と「借りたい側」をマッチングする「個人間カーシェア」のサービスである。貸す側は使っていない車を通じて収益化が見込め、借りる側は柔軟にエリアや車種を選べることが大きなメリットだ。
しかし気になるのは、赤の他人どうしが高額資産を貸し借りすることのリスクである。実際に、個人間カーシェアにおいて生じているトラブルにはどんなものがあるか。「貸す側」「借りる側」それぞれの立場で、トラブルに遭遇した人々に話を聞いた。
※個人間カーシェアの契約形態は、レンタカーなどの「貸渡契約」とは異なり、車両の「共同使用契約」として定義づけられる。そのため定義上は「貸す・借りる」という言葉は適切ではないが、記事内では可読性の観点から、所有者と利用者の関係を「貸主・借主」として記載する
カーシェアを通じた貸出の機会が増えるほど、車が自身の管理下から離れる時間も増える。事故や故障のリスクはもちろんだが、そうした目立ったトラブルがなくとも、「自分だけが使うのと同じように維持できる」とは考えない方がよいだろう。
iStock.com
利用者によるマナーに辟易し、貸出を止めたというAさんからは、次のような話が聞かれた。
「車の扱いに慣れていない人も多いので、実際に事故が起きていなくても、いつのまにか小さな傷ができているんですよね。一つひとつは気にならなくても、トランクに何かを擦ったような跡とか、内装の小傷とかが溜まっていって、シェアをはじめてから半年くらいで『なんか古くなったなぁ』という印象がありました。
もちろん貸し出す以上、ある程度は覚悟していましたが、決定的だったのはドラレコに映っていた映像です。返却後に車内を掃除していて、やたらゴミが散らばっていたので、ふと『どんな使われ方をしたんだろう』と不安になって映像を確認してみたんですね。
すると、運転中の車間距離が常に近くて、ちょっと遅い車がいるとビタ付けで煽り続けていて。血の気が引いて、それからはもう貸し出すのをやめました」
車を貸し出すにあたって、あらかじめ「どんな人が借りに来るか」「どんな使われ方をするか」を見通すことは難しい。悪質な利用者への対策として、ユーザー間の評価システムを導入している運営会社もあるが、それだけでは抑止しえない状況も十分に考えられる。
利用料を払っているとはいえ、他人の車を扱う以上、借主側には然るべき配慮が求められる。けれども現実には、「他人の車なのだから好きに使ってやろう」と振る舞う利用者もいるようだ。
Bさんは、遠隔状態でも車両状態を確認したり、各種設定を変更したりできるアプリを貸出車両に搭載していたが、そこに表示された情報に度肝を抜かれてしまった。
「貸出中、高速道路を時速200kmオーバーで走行しているデータが表示されたんです。驚いて、遠隔操作で最高速度を制限したのですが、その後も制限いっぱいの速度を出し続けていたようです。
気づいてすぐに該当区域の警察署には連絡を入れました。ですが、『オービスなどで実際に検挙されない限り、対処のしようがない』と回答されました。
その後、借主に対してもメッセージ上で速度違反をやめるよう注意したものの、まったく悪びれないどころか、速度の制限を外せという旨の返信が返ってきました」
利用中に借主との間で行われたやり取りを見ると、速度超過を控えるよう呼びかける貸主に対し、借主は「明日は広い公園で加速を試したいので速度制限を外してほしい」といった要求を繰り返している。さらに、「制限がかかるとは聞いていない」「話が違う」といった身勝手な主張も見られ、貸主の苦労が窺える文面となっている。
なお、Bさんはその後、上述の行為を利用規約に対する違反として運営会社に報告するが、返ってきたのは「実際に検挙されていない以上、事実として認定することはできない」という主旨の返事だった。また借主に対する処分の有無についても、個人情報保護の観点から開示できないと返答され、相手にペナルティがあったのかはわからずに終わったという。 そもそもこのケースにおいて、Bさんが借主の常軌を逸した行動を把握できたのは、上述の車両管理アプリによるものである。そうした装置がなければ、警察の取り締まりを受けない限り、危険な運転を繰り返すドライバーが野放しにされかねないわけだ。身に覚えのない傷への賠償請求 個人間での取引に限らず、レンタカーやカーシェアにおいては「車のキズがもともとあったものか」をめぐるトラブルが生じやすい。事前に車両状態を確認するとはいっても、車のまわりを一周する程度で済ませることがほとんどだ。運営会社によっては、出発前にスマートフォンで車両の写真を撮影し、アプリ上に保存しておくシステムを採用している例もあるが、それでも細かい傷や目の届きにくい箇所の傷までチェックが及ばない可能性は十分に考えられる。 個人間カーシェアの場合はとくに、こうした確認の難しさが貸主・借主双方にとってのリスクとなるだろう。たとえば借りる側の立場として、Cさんは次のような体験をした。「車を返却してから1週間ほどして、オーナーから『貸し出す前にはなかったキズが見つかったので賠償してほしい』という連絡が来たことがあります。 添付された写真にはフロントバンパー裏の擦り傷が写っていたのですが、ちょうど借り受け時には撮影していなかった部分だったんです。 こちらとしてはまったく身に覚えがなかったので、『私の運転中にキズがついた事実をドライブレコーダーなどで立証してもらえない限り支払えない』と返信しました。そこからは何度か『人間性を疑う』といった罵倒じみたメッセージが送られてきましたが、内容証明などの具体的な話には進めてきませんでしたね」 カーシェアやレンタカーをめぐる同種のトラブルは、国民生活センターにも多く報告されており、同センターによる注意喚起も行われている。基本的に、賠償請求を行う際には「請求する側」が立証責任を負うことになるが、その傷が事前チェックで漏れていた場合など、請求される側にとって不利に事が運ぶ可能性は否定できない。そもそも、言いがかりを付けられた時点で相当なストレスにもなるだろう。「証拠隠滅」を図る借主 反対に、貸主側にとっては、「つけられた傷についてシラを切られる」というリスクがある。とくに個人間カーシェアにおいては、貸出・返却時に双方の対面を必要としないシステムが導入されているケースもあり、返却から車両状態の確認までにタイムラグが生じることもしばしばだ。 このシステムを介して車を貸し出していたDさんは、返却後に車両を確認した際、衝撃的な光景を目の当たりにする。「返却後、車の状態を確認する前に利用者の方からメッセージがあり、『実は借りている最中、駐車中に傷をつけられたようだ』と報告されました。 そのときは小さく擦っただけだろうと思ったのですが、実際に見てみると、助手席側の前から後ろまで長く深い傷がつけられていたんです。そのうえ、ドライブレコーダーからはSDカードが抜かれていました。後からわかったことですが、傷は運転中に擦ってできたもので、SDカードも抜いたうえでフォーマットされていました」 このように、車が傷ついたことを事後報告されるケースのほか、そもそも報告すらされないケースもある。このDさんの場合には、借主から報告があり、メッセージ上のやり取りが継続できたこと、さらにDさんの求めに応じて保険会社への届け出がなされたこと自体は幸いだった。全損扱いも、なかなか保険金が受け取れず…… しかし厄介なのが、カーシェアの貸出車両に対する保険である。運営会社は「300万円まで補償」など上限金額を打ち出したプランを用意しているが、当然これを請け負うのは一般的な損害保険会社だ。そのため、実際の補償上限は通常の車両保険と同様「車両の時価額」であり、全損事故や盗難被害に遭った場合に買い替え費用が賄えないケースも多い。 先のDさんのケースでも、修理費用の見積もりは100万円を超えたが、保険会社が認定する補償額は40万円程度だった。「はじめは修理を希望しましたが、費用が大幅に補償額をオーバーするため、車を買い替える方向で考えました。しかし問題だったのが、『実際に新しい車を買った領収書がないと、保険金が支払えない』と言われたことです。被害に遭ったこちらが先にお金を払わなければならず、『直せないし買い替えられない』という状態がしばらく続きました」 このような「経済的全損」のケースの場合、通常の車両保険であれば、買い替え・修理を問わず、認定された補償額が支払われる形が一般的である。しかし、Dさんが受けた説明では、ここで適用される「借用自動車の車両復旧費用特約」は、買い替えの事実を認定された後でないと保険金が支払われないのだという。「全損事故に遭ってから実感したことですが、カーシェア保険の被保険者は持ち主ではなく利用者なんです。貸主は愛車を傷つけられても、保険会社から『相手側』として扱われます。私の場合、保険会社から丁寧な説明などをしてもらえませんでした」 結局、保険の支払い条件に納得できず、また謝罪もなく開き直るような利用者の姿勢に対する憤りもあり、Dさんは弁護士に相談のうえ、利用者に対して少額訴訟を行った。提示した額での和解がなされたが、訴訟費用など諸々のコストを考えると、保険会社からの補償額とほとんど変わらない結果だったという。便利だが課題も山積みの個人間カーシェア事業 個人間カーシェアは、新しい時代のカーライフを支える画期的なサービスとして期待されている。貸主・借主双方に十分なメリットがあるほか、都心部の限られた駐車スペースや、資源の活用という社会的意義の面でも、大きな役割を担いうるサービスである。 とはいえやはり、個人が所有する車両を貸し出すには大きなリスクが伴う。もちろん、貸主・借主双方が、あらかじめリスクを入念に見通しておくことも重要ではあるだろう。しかし、個人間カーシェアのさらなる普及に向け、より多くの利用者がトラブルなく使えるシステムを構築するうえでは、運営会社による適切なプラットフォームの整備・管理が求められる。トラブル時のフォロー体制や、生じうるリスクについて、積極的に(小さな文字の約款ではなく)情報を開示していく必要がありそうだ。「普通に使っていれば大丈夫」と考えていると思わぬ事態に…無店舗型カーシェア利用に潜む“意外な落とし穴” へ続く(鹿間 羊市)
なお、Bさんはその後、上述の行為を利用規約に対する違反として運営会社に報告するが、返ってきたのは「実際に検挙されていない以上、事実として認定することはできない」という主旨の返事だった。また借主に対する処分の有無についても、個人情報保護の観点から開示できないと返答され、相手にペナルティがあったのかはわからずに終わったという。
そもそもこのケースにおいて、Bさんが借主の常軌を逸した行動を把握できたのは、上述の車両管理アプリによるものである。そうした装置がなければ、警察の取り締まりを受けない限り、危険な運転を繰り返すドライバーが野放しにされかねないわけだ。
個人間での取引に限らず、レンタカーやカーシェアにおいては「車のキズがもともとあったものか」をめぐるトラブルが生じやすい。事前に車両状態を確認するとはいっても、車のまわりを一周する程度で済ませることがほとんどだ。運営会社によっては、出発前にスマートフォンで車両の写真を撮影し、アプリ上に保存しておくシステムを採用している例もあるが、それでも細かい傷や目の届きにくい箇所の傷までチェックが及ばない可能性は十分に考えられる。
個人間カーシェアの場合はとくに、こうした確認の難しさが貸主・借主双方にとってのリスクとなるだろう。たとえば借りる側の立場として、Cさんは次のような体験をした。
「車を返却してから1週間ほどして、オーナーから『貸し出す前にはなかったキズが見つかったので賠償してほしい』という連絡が来たことがあります。
添付された写真にはフロントバンパー裏の擦り傷が写っていたのですが、ちょうど借り受け時には撮影していなかった部分だったんです。
こちらとしてはまったく身に覚えがなかったので、『私の運転中にキズがついた事実をドライブレコーダーなどで立証してもらえない限り支払えない』と返信しました。そこからは何度か『人間性を疑う』といった罵倒じみたメッセージが送られてきましたが、内容証明などの具体的な話には進めてきませんでしたね」 カーシェアやレンタカーをめぐる同種のトラブルは、国民生活センターにも多く報告されており、同センターによる注意喚起も行われている。基本的に、賠償請求を行う際には「請求する側」が立証責任を負うことになるが、その傷が事前チェックで漏れていた場合など、請求される側にとって不利に事が運ぶ可能性は否定できない。そもそも、言いがかりを付けられた時点で相当なストレスにもなるだろう。「証拠隠滅」を図る借主 反対に、貸主側にとっては、「つけられた傷についてシラを切られる」というリスクがある。とくに個人間カーシェアにおいては、貸出・返却時に双方の対面を必要としないシステムが導入されているケースもあり、返却から車両状態の確認までにタイムラグが生じることもしばしばだ。 このシステムを介して車を貸し出していたDさんは、返却後に車両を確認した際、衝撃的な光景を目の当たりにする。「返却後、車の状態を確認する前に利用者の方からメッセージがあり、『実は借りている最中、駐車中に傷をつけられたようだ』と報告されました。 そのときは小さく擦っただけだろうと思ったのですが、実際に見てみると、助手席側の前から後ろまで長く深い傷がつけられていたんです。そのうえ、ドライブレコーダーからはSDカードが抜かれていました。後からわかったことですが、傷は運転中に擦ってできたもので、SDカードも抜いたうえでフォーマットされていました」 このように、車が傷ついたことを事後報告されるケースのほか、そもそも報告すらされないケースもある。このDさんの場合には、借主から報告があり、メッセージ上のやり取りが継続できたこと、さらにDさんの求めに応じて保険会社への届け出がなされたこと自体は幸いだった。全損扱いも、なかなか保険金が受け取れず…… しかし厄介なのが、カーシェアの貸出車両に対する保険である。運営会社は「300万円まで補償」など上限金額を打ち出したプランを用意しているが、当然これを請け負うのは一般的な損害保険会社だ。そのため、実際の補償上限は通常の車両保険と同様「車両の時価額」であり、全損事故や盗難被害に遭った場合に買い替え費用が賄えないケースも多い。 先のDさんのケースでも、修理費用の見積もりは100万円を超えたが、保険会社が認定する補償額は40万円程度だった。「はじめは修理を希望しましたが、費用が大幅に補償額をオーバーするため、車を買い替える方向で考えました。しかし問題だったのが、『実際に新しい車を買った領収書がないと、保険金が支払えない』と言われたことです。被害に遭ったこちらが先にお金を払わなければならず、『直せないし買い替えられない』という状態がしばらく続きました」 このような「経済的全損」のケースの場合、通常の車両保険であれば、買い替え・修理を問わず、認定された補償額が支払われる形が一般的である。しかし、Dさんが受けた説明では、ここで適用される「借用自動車の車両復旧費用特約」は、買い替えの事実を認定された後でないと保険金が支払われないのだという。「全損事故に遭ってから実感したことですが、カーシェア保険の被保険者は持ち主ではなく利用者なんです。貸主は愛車を傷つけられても、保険会社から『相手側』として扱われます。私の場合、保険会社から丁寧な説明などをしてもらえませんでした」 結局、保険の支払い条件に納得できず、また謝罪もなく開き直るような利用者の姿勢に対する憤りもあり、Dさんは弁護士に相談のうえ、利用者に対して少額訴訟を行った。提示した額での和解がなされたが、訴訟費用など諸々のコストを考えると、保険会社からの補償額とほとんど変わらない結果だったという。便利だが課題も山積みの個人間カーシェア事業 個人間カーシェアは、新しい時代のカーライフを支える画期的なサービスとして期待されている。貸主・借主双方に十分なメリットがあるほか、都心部の限られた駐車スペースや、資源の活用という社会的意義の面でも、大きな役割を担いうるサービスである。 とはいえやはり、個人が所有する車両を貸し出すには大きなリスクが伴う。もちろん、貸主・借主双方が、あらかじめリスクを入念に見通しておくことも重要ではあるだろう。しかし、個人間カーシェアのさらなる普及に向け、より多くの利用者がトラブルなく使えるシステムを構築するうえでは、運営会社による適切なプラットフォームの整備・管理が求められる。トラブル時のフォロー体制や、生じうるリスクについて、積極的に(小さな文字の約款ではなく)情報を開示していく必要がありそうだ。「普通に使っていれば大丈夫」と考えていると思わぬ事態に…無店舗型カーシェア利用に潜む“意外な落とし穴” へ続く(鹿間 羊市)
こちらとしてはまったく身に覚えがなかったので、『私の運転中にキズがついた事実をドライブレコーダーなどで立証してもらえない限り支払えない』と返信しました。そこからは何度か『人間性を疑う』といった罵倒じみたメッセージが送られてきましたが、内容証明などの具体的な話には進めてきませんでしたね」
カーシェアやレンタカーをめぐる同種のトラブルは、国民生活センターにも多く報告されており、同センターによる注意喚起も行われている。基本的に、賠償請求を行う際には「請求する側」が立証責任を負うことになるが、その傷が事前チェックで漏れていた場合など、請求される側にとって不利に事が運ぶ可能性は否定できない。そもそも、言いがかりを付けられた時点で相当なストレスにもなるだろう。
反対に、貸主側にとっては、「つけられた傷についてシラを切られる」というリスクがある。とくに個人間カーシェアにおいては、貸出・返却時に双方の対面を必要としないシステムが導入されているケースもあり、返却から車両状態の確認までにタイムラグが生じることもしばしばだ。
このシステムを介して車を貸し出していたDさんは、返却後に車両を確認した際、衝撃的な光景を目の当たりにする。
「返却後、車の状態を確認する前に利用者の方からメッセージがあり、『実は借りている最中、駐車中に傷をつけられたようだ』と報告されました。
そのときは小さく擦っただけだろうと思ったのですが、実際に見てみると、助手席側の前から後ろまで長く深い傷がつけられていたんです。そのうえ、ドライブレコーダーからはSDカードが抜かれていました。後からわかったことですが、傷は運転中に擦ってできたもので、SDカードも抜いたうえでフォーマットされていました」
このように、車が傷ついたことを事後報告されるケースのほか、そもそも報告すらされないケースもある。このDさんの場合には、借主から報告があり、メッセージ上のやり取りが継続できたこと、さらにDさんの求めに応じて保険会社への届け出がなされたこと自体は幸いだった。
しかし厄介なのが、カーシェアの貸出車両に対する保険である。運営会社は「300万円まで補償」など上限金額を打ち出したプランを用意しているが、当然これを請け負うのは一般的な損害保険会社だ。そのため、実際の補償上限は通常の車両保険と同様「車両の時価額」であり、全損事故や盗難被害に遭った場合に買い替え費用が賄えないケースも多い。
先のDさんのケースでも、修理費用の見積もりは100万円を超えたが、保険会社が認定する補償額は40万円程度だった。
「はじめは修理を希望しましたが、費用が大幅に補償額をオーバーするため、車を買い替える方向で考えました。しかし問題だったのが、『実際に新しい車を買った領収書がないと、保険金が支払えない』と言われたことです。被害に遭ったこちらが先にお金を払わなければならず、『直せないし買い替えられない』という状態がしばらく続きました」
このような「経済的全損」のケースの場合、通常の車両保険であれば、買い替え・修理を問わず、認定された補償額が支払われる形が一般的である。しかし、Dさんが受けた説明では、ここで適用される「借用自動車の車両復旧費用特約」は、買い替えの事実を認定された後でないと保険金が支払われないのだという。
「全損事故に遭ってから実感したことですが、カーシェア保険の被保険者は持ち主ではなく利用者なんです。貸主は愛車を傷つけられても、保険会社から『相手側』として扱われます。私の場合、保険会社から丁寧な説明などをしてもらえませんでした」
結局、保険の支払い条件に納得できず、また謝罪もなく開き直るような利用者の姿勢に対する憤りもあり、Dさんは弁護士に相談のうえ、利用者に対して少額訴訟を行った。提示した額での和解がなされたが、訴訟費用など諸々のコストを考えると、保険会社からの補償額とほとんど変わらない結果だったという。
個人間カーシェアは、新しい時代のカーライフを支える画期的なサービスとして期待されている。貸主・借主双方に十分なメリットがあるほか、都心部の限られた駐車スペースや、資源の活用という社会的意義の面でも、大きな役割を担いうるサービスである。
とはいえやはり、個人が所有する車両を貸し出すには大きなリスクが伴う。もちろん、貸主・借主双方が、あらかじめリスクを入念に見通しておくことも重要ではあるだろう。しかし、個人間カーシェアのさらなる普及に向け、より多くの利用者がトラブルなく使えるシステムを構築するうえでは、運営会社による適切なプラットフォームの整備・管理が求められる。トラブル時のフォロー体制や、生じうるリスクについて、積極的に(小さな文字の約款ではなく)情報を開示していく必要がありそうだ。
「普通に使っていれば大丈夫」と考えていると思わぬ事態に…無店舗型カーシェア利用に潜む“意外な落とし穴” へ続く
(鹿間 羊市)