《決起した7人の医師》“臨床の女子医大”「救急外来を閉鎖する事態も予想」「医療の質量を下げざるを得ない」医師や看護師ら賛同者400人が“女帝”に突きつけた質問書の全容 から続く
高度医療で知られる東京女子医科大学病院(東京・新宿区)で、臓器移植をめぐる経営陣の発言が大きな波紋を呼んでいる。
【画像】任期にズレがあるA特任教授の辞令と退職願
集中治療科の医師が一斉退職してICU(集中治療室)が崩壊するなど、危機的状況の打開策について、7人の教授らが経営陣に質問書を送付した。これを受けて急遽開かれた説明会で、板橋道朗病院長が次のように述べたのである。
「心臓移植、肝臓移植は、今後の医療提供を再考する時期」──。
これは経営優先の判断なのか。動揺が広がる患者家族と臓器移植をめぐる現実を取材した。
◆◆◆
今年7月、外傷性くも膜下出血で長崎大学病院に入院していた、6歳未満の女児が脳死と判定された。臓器提供に家族が承諾したことから、女児の心臓は遠く離れた東京女子医大病院に運ばれる。そして、心臓血管外科の移植チームによって10歳未満の男児に移植され、命が引き継がれた。
翌月には、岡山の津山中央病院で脳死と判定された男性(50歳代)の心臓が、再び東京女子医大病院で40歳代の女性に移植されている。
末期の心不全患者にとって、命を繋ぐ最後の選択肢が心臓移植だ。難易度が高く、外科医を中心に経験と実績を積んだ専門スタッフが揃う高度な病院にしか実施が許されていない。現在、国内で心臓移植が可能な病院は、女子医大を含めて11施設のみだ。
1997年に臓器移植法が施行されてから、女子医大は国内トップレベルの移植施設として、多くの患者の命を救ってきた。最新の統計(2020年)でも、腎臓移植の年間手術件数149例は国内1位だ。
生体腎移植のためドナーから腎臓を摘出する腹腔鏡下手術(東京女子医科大学120周年記念誌より)*一部加工
また、脳死、および心停止ドナーの移植施設として、心臓、肝臓、膵臓、腎臓の4つで指定を受けている。これだけ多くの臓器で指定を受けている大学病院は数少ない。
肝臓移植の第一人者である古川博之医師(旭川医科大学・副学長)は、臓器移植の現実をこう語る。
「脳死ドナーから摘出された心臓は4時間以内、肝臓は12時間以内に血流を再開させなければなりません。東京での心臓移植は、女子医大と東京大学のみです(*国立成育医療研究センターは登録時11歳未満のみ移植可能)。
手術は、脳死ドナーから摘出するチームと、レシピエント(患者)に移植するチームが必要で、医師は10人前後、看護師やコーディネーターを含めると、20人以上のスタッフが関わります。移植医療は、病院にとって持ち出し(赤字)になりますが、患者の命を救う特別な医療です」
病院にとって、移植医療はハイレベルな医療機関としての証でもあり、若手医師たちを集める魅力でもある。だが、女子医大は移植医療から撤退する可能性が出ているのだ。
9月22日午後3時、女子医大のキャンパスにある弥生記念講堂(約800人収容)には、立ち見が出るほどの医師や看護師などが集まった。混迷を深める経営陣の対応について、7人の教授と講師が質問書を提出したが、400人を超える職員が賛同の署名をしたという。(#8を読む)
“症例数が少なくコストも高い心臓と肝臓の移植からは撤退を検討” この質問書を受けて、経営陣が回答することになったのだが、板橋病院長の発言に職員たちは耳を疑った。「これまでの症例数や治療成績を客観的に評価して、今後、女子医大として施行すべきか、否かを検討する時期にきた。臓器移植もその対象。『心臓移植』、『肝臓移植』は、症例数がさほど多くない病態・疾患であるものの、極めて高度な治療で、長期間の集中治療や多くの人的資源を必要とする。本学の位置付け、そして役割を検証して、今後の医療提供を再考する時期」 要約すると”症例数が少なくコストも高い心臓と肝臓の移植からは撤退を検討”。 移植医療は不採算部門だが、善意の上に成り立つ医療であり、社会貢献としての責務でもある。また、心臓や肝臓の移植を受けるには、病院で事前に登録することが必要条件だ。現在、多くの患者が女子医大に登録しているが、その存在を経営陣は認識しているのだろうか。「命を諦めなければいけない患者が出るのは確実」 かつて女子医大で心臓移植を受けるため、入院生活を送っていた患者の家族に、板橋病院長の発言を伝えると、驚きと憤りを隠さなかった。「いま、女子医大が心臓移植を止めてしまったら、命を諦めなければいけない患者が出るのは確実です。それを思うと本当に腹が立ちます。心臓移植チームが一生懸命に努力して命を救っている現場を、経営の方々は見るべきではないでしょうか」 心臓移植が必要な拡張型心筋症の患者の場合、補助人工心臓を使いながら、移植ができるまで長い期間を待つ。また、子供の場合は入院が必要となるが、子供用の補助人工心臓は全国で30数台しか稼働していないため、常に埋まっている状態だ。女子医大が心臓移植から撤退することは、心臓移植を待つ患者を見殺しにするに等しい、という声もある。 それだけではない。 臓器移植を受けた患者は、免疫抑制剤の服用が一生続く。新型コロナウイルスなどの感染症にはハイリスクであり、定期的なフォローアップが必要となる。これまで女子医大で移植手術を受けた多くの患者は、移植チームが消滅すると行き場を失うのだ。心臓と肝臓の移植からの撤退示唆は2人の教授に対する牽制か? 女子医大で1例目の肝臓移植に関わった外科医の本田宏氏(元女子医大・腎臓病総合医療センター)はこう述べる。「移植手術後の患者には、拒絶反応や感染症など様々な合併症に対する専門的な医療が必要で、一般病院での対応は困難です。女子医大が移植医療から撤退することは、患者さんに対する責任放棄という倫理的問題が看過できませんし、大学病院としてレベルダウンします」 女子医大の経営陣が、心臓と肝臓の移植からの撤退を示唆した理由として、こんな憶測もある。「質問書」に名を連ねた7人の中で、リーダー格である心臓血管外科・新浪博教授と、消化器・肝胆膵外科の本田五郎教授は、それぞれ心臓と肝臓の移植手術を担当する診療科の医師なのだ。つまり、2人の教授に対する牽制だったのではないか――。 22日に行われた説明会に、2人の教授の姿はなかったという。その理由を知る関係者はこう述べた。「新浪教授は他院で手術を行う外勤日でした。岩本理事長に面と向かって矛盾を指摘した本田五郎教授は海外出張だったそうです。お二人の予定を経営側が知らないはずがありません。当日朝に説明会を通知したのは”奇襲攻撃”のつもりでしょうか」(女子医大関係者)6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職 女子医大で深刻な危機が始まった原点は、小児ICUの“事実上の閉鎖”にある。 2021年7月から運用がスタートした小児ICUは、重症の小児患者の命を次々と救っていたが、リーダーの前特任教授をはじめ、6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職した。この経緯について経営陣の回答を要約すると、次のとおりだ。「A前特任教授の赴任前、給与額について岩本理事長の同意があったと報道されているが、その事実はない。人事の決裁は丸義朗学長である」「A前特任教授に規定の給与を支払ったが、それでは退職するしかない、という意向だった」「丸学長らが勤務を継続していただきたいと慰留交渉を行った」 この回答は、関係者の証言と多くの点で矛盾する。辞令は令和5年3月末までの2年間だったが「任期は1年」通告で退職 まず、A前特任教授は、カナダの大学で小児集中治療の専門医として活躍していたが、一時帰国して、岩本理事長と面会している。その際、具体的な報酬額の約束を取り付けたことを、複数の同席者が証言した。待遇も分からずに、カナダから帰国するのは不自然だろう。 規定の給与を支払ったと主張しているが、岩本理事長の専属運転手(岩本氏の甥)が得ていた月額66万円の半分以下だ。手当もボーナスも社会保険もない。女子医大の医師給与は、一般病院の約5~7割と低いため、大半の医師が週2回程度の外勤(他院でのアルバイト)をしている。しかし、小児ICUは24時間体制の勤務で、外勤が難しい。それで規定の割増給与を事前に約束してもらったという。だが、女子医大はこの約束を守らなかった。 前特任教授の辞令は、令和3年4月から令和5年3月末までの2年間だった。(※掲載画像を参照)しかし、退職願には「人事より任期は1年であると連絡を受けたため」と記されている。 これは、”特任教授の任期は1年、今年度の契約更新はしない”と丸学長から通告されたからだ、とA前特任教授は周囲に語っていた。責任転嫁、論点ずらしの回答でも、教授は「私たちには大きな意味があった」 説明会の終わりに、挨拶に立った岩本絹子理事長は、こんな事を口にした。「私個人的には、前病院長らの業務遂行があまり適切でなかったために、今般こういう問題が色々起きているというふうに感じております」 医療安全の要であるICUと小児ICUは、前病院長が中心となって設立した。一方、それを崩壊させたのは、岩本理事長や丸学長などの現経営陣であり、見えすいた責任転嫁だろう。経営陣の回答は論点ずらしが目立ち、質疑応答の時間も取らずに説明会は一方的に終了した。 それでも、今回の行動に意味はあると、質問書に名を連ねる教授は周囲に語っている。「400人を超える教職員が署名した『質問書』を岩本理事長に出した理由は、女子医大の中に危機感を抱く人間がいることを示すためです。だから、私たちには大きな意味があった。このままでは医療崩壊が完全に起きて、患者さんに迷惑がかかってしまいますので、次の手を打ちます」 女子医大の広報課には取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。 危機的な状況を、組織の中から立て直すことができるのか。新たに始まった現場からの動きを引き続き注視していきたい。(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))
この質問書を受けて、経営陣が回答することになったのだが、板橋病院長の発言に職員たちは耳を疑った。
「これまでの症例数や治療成績を客観的に評価して、今後、女子医大として施行すべきか、否かを検討する時期にきた。臓器移植もその対象。
『心臓移植』、『肝臓移植』は、症例数がさほど多くない病態・疾患であるものの、極めて高度な治療で、長期間の集中治療や多くの人的資源を必要とする。本学の位置付け、そして役割を検証して、今後の医療提供を再考する時期」
要約すると”症例数が少なくコストも高い心臓と肝臓の移植からは撤退を検討”。
移植医療は不採算部門だが、善意の上に成り立つ医療であり、社会貢献としての責務でもある。また、心臓や肝臓の移植を受けるには、病院で事前に登録することが必要条件だ。現在、多くの患者が女子医大に登録しているが、その存在を経営陣は認識しているのだろうか。
「命を諦めなければいけない患者が出るのは確実」 かつて女子医大で心臓移植を受けるため、入院生活を送っていた患者の家族に、板橋病院長の発言を伝えると、驚きと憤りを隠さなかった。「いま、女子医大が心臓移植を止めてしまったら、命を諦めなければいけない患者が出るのは確実です。それを思うと本当に腹が立ちます。心臓移植チームが一生懸命に努力して命を救っている現場を、経営の方々は見るべきではないでしょうか」 心臓移植が必要な拡張型心筋症の患者の場合、補助人工心臓を使いながら、移植ができるまで長い期間を待つ。また、子供の場合は入院が必要となるが、子供用の補助人工心臓は全国で30数台しか稼働していないため、常に埋まっている状態だ。女子医大が心臓移植から撤退することは、心臓移植を待つ患者を見殺しにするに等しい、という声もある。 それだけではない。 臓器移植を受けた患者は、免疫抑制剤の服用が一生続く。新型コロナウイルスなどの感染症にはハイリスクであり、定期的なフォローアップが必要となる。これまで女子医大で移植手術を受けた多くの患者は、移植チームが消滅すると行き場を失うのだ。心臓と肝臓の移植からの撤退示唆は2人の教授に対する牽制か? 女子医大で1例目の肝臓移植に関わった外科医の本田宏氏(元女子医大・腎臓病総合医療センター)はこう述べる。「移植手術後の患者には、拒絶反応や感染症など様々な合併症に対する専門的な医療が必要で、一般病院での対応は困難です。女子医大が移植医療から撤退することは、患者さんに対する責任放棄という倫理的問題が看過できませんし、大学病院としてレベルダウンします」 女子医大の経営陣が、心臓と肝臓の移植からの撤退を示唆した理由として、こんな憶測もある。「質問書」に名を連ねた7人の中で、リーダー格である心臓血管外科・新浪博教授と、消化器・肝胆膵外科の本田五郎教授は、それぞれ心臓と肝臓の移植手術を担当する診療科の医師なのだ。つまり、2人の教授に対する牽制だったのではないか――。 22日に行われた説明会に、2人の教授の姿はなかったという。その理由を知る関係者はこう述べた。「新浪教授は他院で手術を行う外勤日でした。岩本理事長に面と向かって矛盾を指摘した本田五郎教授は海外出張だったそうです。お二人の予定を経営側が知らないはずがありません。当日朝に説明会を通知したのは”奇襲攻撃”のつもりでしょうか」(女子医大関係者)6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職 女子医大で深刻な危機が始まった原点は、小児ICUの“事実上の閉鎖”にある。 2021年7月から運用がスタートした小児ICUは、重症の小児患者の命を次々と救っていたが、リーダーの前特任教授をはじめ、6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職した。この経緯について経営陣の回答を要約すると、次のとおりだ。「A前特任教授の赴任前、給与額について岩本理事長の同意があったと報道されているが、その事実はない。人事の決裁は丸義朗学長である」「A前特任教授に規定の給与を支払ったが、それでは退職するしかない、という意向だった」「丸学長らが勤務を継続していただきたいと慰留交渉を行った」 この回答は、関係者の証言と多くの点で矛盾する。辞令は令和5年3月末までの2年間だったが「任期は1年」通告で退職 まず、A前特任教授は、カナダの大学で小児集中治療の専門医として活躍していたが、一時帰国して、岩本理事長と面会している。その際、具体的な報酬額の約束を取り付けたことを、複数の同席者が証言した。待遇も分からずに、カナダから帰国するのは不自然だろう。 規定の給与を支払ったと主張しているが、岩本理事長の専属運転手(岩本氏の甥)が得ていた月額66万円の半分以下だ。手当もボーナスも社会保険もない。女子医大の医師給与は、一般病院の約5~7割と低いため、大半の医師が週2回程度の外勤(他院でのアルバイト)をしている。しかし、小児ICUは24時間体制の勤務で、外勤が難しい。それで規定の割増給与を事前に約束してもらったという。だが、女子医大はこの約束を守らなかった。 前特任教授の辞令は、令和3年4月から令和5年3月末までの2年間だった。(※掲載画像を参照)しかし、退職願には「人事より任期は1年であると連絡を受けたため」と記されている。 これは、”特任教授の任期は1年、今年度の契約更新はしない”と丸学長から通告されたからだ、とA前特任教授は周囲に語っていた。責任転嫁、論点ずらしの回答でも、教授は「私たちには大きな意味があった」 説明会の終わりに、挨拶に立った岩本絹子理事長は、こんな事を口にした。「私個人的には、前病院長らの業務遂行があまり適切でなかったために、今般こういう問題が色々起きているというふうに感じております」 医療安全の要であるICUと小児ICUは、前病院長が中心となって設立した。一方、それを崩壊させたのは、岩本理事長や丸学長などの現経営陣であり、見えすいた責任転嫁だろう。経営陣の回答は論点ずらしが目立ち、質疑応答の時間も取らずに説明会は一方的に終了した。 それでも、今回の行動に意味はあると、質問書に名を連ねる教授は周囲に語っている。「400人を超える教職員が署名した『質問書』を岩本理事長に出した理由は、女子医大の中に危機感を抱く人間がいることを示すためです。だから、私たちには大きな意味があった。このままでは医療崩壊が完全に起きて、患者さんに迷惑がかかってしまいますので、次の手を打ちます」 女子医大の広報課には取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。 危機的な状況を、組織の中から立て直すことができるのか。新たに始まった現場からの動きを引き続き注視していきたい。(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))
かつて女子医大で心臓移植を受けるため、入院生活を送っていた患者の家族に、板橋病院長の発言を伝えると、驚きと憤りを隠さなかった。
「いま、女子医大が心臓移植を止めてしまったら、命を諦めなければいけない患者が出るのは確実です。それを思うと本当に腹が立ちます。心臓移植チームが一生懸命に努力して命を救っている現場を、経営の方々は見るべきではないでしょうか」
心臓移植が必要な拡張型心筋症の患者の場合、補助人工心臓を使いながら、移植ができるまで長い期間を待つ。また、子供の場合は入院が必要となるが、子供用の補助人工心臓は全国で30数台しか稼働していないため、常に埋まっている状態だ。女子医大が心臓移植から撤退することは、心臓移植を待つ患者を見殺しにするに等しい、という声もある。
それだけではない。 臓器移植を受けた患者は、免疫抑制剤の服用が一生続く。新型コロナウイルスなどの感染症にはハイリスクであり、定期的なフォローアップが必要となる。これまで女子医大で移植手術を受けた多くの患者は、移植チームが消滅すると行き場を失うのだ。心臓と肝臓の移植からの撤退示唆は2人の教授に対する牽制か? 女子医大で1例目の肝臓移植に関わった外科医の本田宏氏(元女子医大・腎臓病総合医療センター)はこう述べる。「移植手術後の患者には、拒絶反応や感染症など様々な合併症に対する専門的な医療が必要で、一般病院での対応は困難です。女子医大が移植医療から撤退することは、患者さんに対する責任放棄という倫理的問題が看過できませんし、大学病院としてレベルダウンします」 女子医大の経営陣が、心臓と肝臓の移植からの撤退を示唆した理由として、こんな憶測もある。「質問書」に名を連ねた7人の中で、リーダー格である心臓血管外科・新浪博教授と、消化器・肝胆膵外科の本田五郎教授は、それぞれ心臓と肝臓の移植手術を担当する診療科の医師なのだ。つまり、2人の教授に対する牽制だったのではないか――。 22日に行われた説明会に、2人の教授の姿はなかったという。その理由を知る関係者はこう述べた。「新浪教授は他院で手術を行う外勤日でした。岩本理事長に面と向かって矛盾を指摘した本田五郎教授は海外出張だったそうです。お二人の予定を経営側が知らないはずがありません。当日朝に説明会を通知したのは”奇襲攻撃”のつもりでしょうか」(女子医大関係者)6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職 女子医大で深刻な危機が始まった原点は、小児ICUの“事実上の閉鎖”にある。 2021年7月から運用がスタートした小児ICUは、重症の小児患者の命を次々と救っていたが、リーダーの前特任教授をはじめ、6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職した。この経緯について経営陣の回答を要約すると、次のとおりだ。「A前特任教授の赴任前、給与額について岩本理事長の同意があったと報道されているが、その事実はない。人事の決裁は丸義朗学長である」「A前特任教授に規定の給与を支払ったが、それでは退職するしかない、という意向だった」「丸学長らが勤務を継続していただきたいと慰留交渉を行った」 この回答は、関係者の証言と多くの点で矛盾する。辞令は令和5年3月末までの2年間だったが「任期は1年」通告で退職 まず、A前特任教授は、カナダの大学で小児集中治療の専門医として活躍していたが、一時帰国して、岩本理事長と面会している。その際、具体的な報酬額の約束を取り付けたことを、複数の同席者が証言した。待遇も分からずに、カナダから帰国するのは不自然だろう。 規定の給与を支払ったと主張しているが、岩本理事長の専属運転手(岩本氏の甥)が得ていた月額66万円の半分以下だ。手当もボーナスも社会保険もない。女子医大の医師給与は、一般病院の約5~7割と低いため、大半の医師が週2回程度の外勤(他院でのアルバイト)をしている。しかし、小児ICUは24時間体制の勤務で、外勤が難しい。それで規定の割増給与を事前に約束してもらったという。だが、女子医大はこの約束を守らなかった。 前特任教授の辞令は、令和3年4月から令和5年3月末までの2年間だった。(※掲載画像を参照)しかし、退職願には「人事より任期は1年であると連絡を受けたため」と記されている。 これは、”特任教授の任期は1年、今年度の契約更新はしない”と丸学長から通告されたからだ、とA前特任教授は周囲に語っていた。責任転嫁、論点ずらしの回答でも、教授は「私たちには大きな意味があった」 説明会の終わりに、挨拶に立った岩本絹子理事長は、こんな事を口にした。「私個人的には、前病院長らの業務遂行があまり適切でなかったために、今般こういう問題が色々起きているというふうに感じております」 医療安全の要であるICUと小児ICUは、前病院長が中心となって設立した。一方、それを崩壊させたのは、岩本理事長や丸学長などの現経営陣であり、見えすいた責任転嫁だろう。経営陣の回答は論点ずらしが目立ち、質疑応答の時間も取らずに説明会は一方的に終了した。 それでも、今回の行動に意味はあると、質問書に名を連ねる教授は周囲に語っている。「400人を超える教職員が署名した『質問書』を岩本理事長に出した理由は、女子医大の中に危機感を抱く人間がいることを示すためです。だから、私たちには大きな意味があった。このままでは医療崩壊が完全に起きて、患者さんに迷惑がかかってしまいますので、次の手を打ちます」 女子医大の広報課には取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。 危機的な状況を、組織の中から立て直すことができるのか。新たに始まった現場からの動きを引き続き注視していきたい。(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))
それだけではない。
臓器移植を受けた患者は、免疫抑制剤の服用が一生続く。新型コロナウイルスなどの感染症にはハイリスクであり、定期的なフォローアップが必要となる。これまで女子医大で移植手術を受けた多くの患者は、移植チームが消滅すると行き場を失うのだ。
女子医大で1例目の肝臓移植に関わった外科医の本田宏氏(元女子医大・腎臓病総合医療センター)はこう述べる。
「移植手術後の患者には、拒絶反応や感染症など様々な合併症に対する専門的な医療が必要で、一般病院での対応は困難です。女子医大が移植医療から撤退することは、患者さんに対する責任放棄という倫理的問題が看過できませんし、大学病院としてレベルダウンします」
女子医大の経営陣が、心臓と肝臓の移植からの撤退を示唆した理由として、こんな憶測もある。「質問書」に名を連ねた7人の中で、リーダー格である心臓血管外科・新浪博教授と、消化器・肝胆膵外科の本田五郎教授は、それぞれ心臓と肝臓の移植手術を担当する診療科の医師なのだ。つまり、2人の教授に対する牽制だったのではないか――。
22日に行われた説明会に、2人の教授の姿はなかったという。その理由を知る関係者はこう述べた。
「新浪教授は他院で手術を行う外勤日でした。岩本理事長に面と向かって矛盾を指摘した本田五郎教授は海外出張だったそうです。お二人の予定を経営側が知らないはずがありません。当日朝に説明会を通知したのは”奇襲攻撃”のつもりでしょうか」(女子医大関係者)
6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職 女子医大で深刻な危機が始まった原点は、小児ICUの“事実上の閉鎖”にある。 2021年7月から運用がスタートした小児ICUは、重症の小児患者の命を次々と救っていたが、リーダーの前特任教授をはじめ、6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職した。この経緯について経営陣の回答を要約すると、次のとおりだ。「A前特任教授の赴任前、給与額について岩本理事長の同意があったと報道されているが、その事実はない。人事の決裁は丸義朗学長である」「A前特任教授に規定の給与を支払ったが、それでは退職するしかない、という意向だった」「丸学長らが勤務を継続していただきたいと慰留交渉を行った」 この回答は、関係者の証言と多くの点で矛盾する。辞令は令和5年3月末までの2年間だったが「任期は1年」通告で退職 まず、A前特任教授は、カナダの大学で小児集中治療の専門医として活躍していたが、一時帰国して、岩本理事長と面会している。その際、具体的な報酬額の約束を取り付けたことを、複数の同席者が証言した。待遇も分からずに、カナダから帰国するのは不自然だろう。 規定の給与を支払ったと主張しているが、岩本理事長の専属運転手(岩本氏の甥)が得ていた月額66万円の半分以下だ。手当もボーナスも社会保険もない。女子医大の医師給与は、一般病院の約5~7割と低いため、大半の医師が週2回程度の外勤(他院でのアルバイト)をしている。しかし、小児ICUは24時間体制の勤務で、外勤が難しい。それで規定の割増給与を事前に約束してもらったという。だが、女子医大はこの約束を守らなかった。 前特任教授の辞令は、令和3年4月から令和5年3月末までの2年間だった。(※掲載画像を参照)しかし、退職願には「人事より任期は1年であると連絡を受けたため」と記されている。 これは、”特任教授の任期は1年、今年度の契約更新はしない”と丸学長から通告されたからだ、とA前特任教授は周囲に語っていた。責任転嫁、論点ずらしの回答でも、教授は「私たちには大きな意味があった」 説明会の終わりに、挨拶に立った岩本絹子理事長は、こんな事を口にした。「私個人的には、前病院長らの業務遂行があまり適切でなかったために、今般こういう問題が色々起きているというふうに感じております」 医療安全の要であるICUと小児ICUは、前病院長が中心となって設立した。一方、それを崩壊させたのは、岩本理事長や丸学長などの現経営陣であり、見えすいた責任転嫁だろう。経営陣の回答は論点ずらしが目立ち、質疑応答の時間も取らずに説明会は一方的に終了した。 それでも、今回の行動に意味はあると、質問書に名を連ねる教授は周囲に語っている。「400人を超える教職員が署名した『質問書』を岩本理事長に出した理由は、女子医大の中に危機感を抱く人間がいることを示すためです。だから、私たちには大きな意味があった。このままでは医療崩壊が完全に起きて、患者さんに迷惑がかかってしまいますので、次の手を打ちます」 女子医大の広報課には取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。 危機的な状況を、組織の中から立て直すことができるのか。新たに始まった現場からの動きを引き続き注視していきたい。(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))
女子医大で深刻な危機が始まった原点は、小児ICUの“事実上の閉鎖”にある。
2021年7月から運用がスタートした小児ICUは、重症の小児患者の命を次々と救っていたが、リーダーの前特任教授をはじめ、6人の小児集中治療専門医が今年3月末までに全員辞職した。この経緯について経営陣の回答を要約すると、次のとおりだ。
「A前特任教授の赴任前、給与額について岩本理事長の同意があったと報道されているが、その事実はない。人事の決裁は丸義朗学長である」「A前特任教授に規定の給与を支払ったが、それでは退職するしかない、という意向だった」「丸学長らが勤務を継続していただきたいと慰留交渉を行った」 この回答は、関係者の証言と多くの点で矛盾する。辞令は令和5年3月末までの2年間だったが「任期は1年」通告で退職 まず、A前特任教授は、カナダの大学で小児集中治療の専門医として活躍していたが、一時帰国して、岩本理事長と面会している。その際、具体的な報酬額の約束を取り付けたことを、複数の同席者が証言した。待遇も分からずに、カナダから帰国するのは不自然だろう。 規定の給与を支払ったと主張しているが、岩本理事長の専属運転手(岩本氏の甥)が得ていた月額66万円の半分以下だ。手当もボーナスも社会保険もない。女子医大の医師給与は、一般病院の約5~7割と低いため、大半の医師が週2回程度の外勤(他院でのアルバイト)をしている。しかし、小児ICUは24時間体制の勤務で、外勤が難しい。それで規定の割増給与を事前に約束してもらったという。だが、女子医大はこの約束を守らなかった。 前特任教授の辞令は、令和3年4月から令和5年3月末までの2年間だった。(※掲載画像を参照)しかし、退職願には「人事より任期は1年であると連絡を受けたため」と記されている。 これは、”特任教授の任期は1年、今年度の契約更新はしない”と丸学長から通告されたからだ、とA前特任教授は周囲に語っていた。責任転嫁、論点ずらしの回答でも、教授は「私たちには大きな意味があった」 説明会の終わりに、挨拶に立った岩本絹子理事長は、こんな事を口にした。「私個人的には、前病院長らの業務遂行があまり適切でなかったために、今般こういう問題が色々起きているというふうに感じております」 医療安全の要であるICUと小児ICUは、前病院長が中心となって設立した。一方、それを崩壊させたのは、岩本理事長や丸学長などの現経営陣であり、見えすいた責任転嫁だろう。経営陣の回答は論点ずらしが目立ち、質疑応答の時間も取らずに説明会は一方的に終了した。 それでも、今回の行動に意味はあると、質問書に名を連ねる教授は周囲に語っている。「400人を超える教職員が署名した『質問書』を岩本理事長に出した理由は、女子医大の中に危機感を抱く人間がいることを示すためです。だから、私たちには大きな意味があった。このままでは医療崩壊が完全に起きて、患者さんに迷惑がかかってしまいますので、次の手を打ちます」 女子医大の広報課には取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。 危機的な状況を、組織の中から立て直すことができるのか。新たに始まった現場からの動きを引き続き注視していきたい。(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))
「A前特任教授の赴任前、給与額について岩本理事長の同意があったと報道されているが、その事実はない。人事の決裁は丸義朗学長である」
「A前特任教授に規定の給与を支払ったが、それでは退職するしかない、という意向だった」
「丸学長らが勤務を継続していただきたいと慰留交渉を行った」
この回答は、関係者の証言と多くの点で矛盾する。
まず、A前特任教授は、カナダの大学で小児集中治療の専門医として活躍していたが、一時帰国して、岩本理事長と面会している。その際、具体的な報酬額の約束を取り付けたことを、複数の同席者が証言した。待遇も分からずに、カナダから帰国するのは不自然だろう。
規定の給与を支払ったと主張しているが、岩本理事長の専属運転手(岩本氏の甥)が得ていた月額66万円の半分以下だ。手当もボーナスも社会保険もない。女子医大の医師給与は、一般病院の約5~7割と低いため、大半の医師が週2回程度の外勤(他院でのアルバイト)をしている。しかし、小児ICUは24時間体制の勤務で、外勤が難しい。それで規定の割増給与を事前に約束してもらったという。だが、女子医大はこの約束を守らなかった。
前特任教授の辞令は、令和3年4月から令和5年3月末までの2年間だった。(※掲載画像を参照)しかし、退職願には「人事より任期は1年であると連絡を受けたため」と記されている。
これは、”特任教授の任期は1年、今年度の契約更新はしない”と丸学長から通告されたからだ、とA前特任教授は周囲に語っていた。
責任転嫁、論点ずらしの回答でも、教授は「私たちには大きな意味があった」 説明会の終わりに、挨拶に立った岩本絹子理事長は、こんな事を口にした。「私個人的には、前病院長らの業務遂行があまり適切でなかったために、今般こういう問題が色々起きているというふうに感じております」 医療安全の要であるICUと小児ICUは、前病院長が中心となって設立した。一方、それを崩壊させたのは、岩本理事長や丸学長などの現経営陣であり、見えすいた責任転嫁だろう。経営陣の回答は論点ずらしが目立ち、質疑応答の時間も取らずに説明会は一方的に終了した。 それでも、今回の行動に意味はあると、質問書に名を連ねる教授は周囲に語っている。「400人を超える教職員が署名した『質問書』を岩本理事長に出した理由は、女子医大の中に危機感を抱く人間がいることを示すためです。だから、私たちには大きな意味があった。このままでは医療崩壊が完全に起きて、患者さんに迷惑がかかってしまいますので、次の手を打ちます」 女子医大の広報課には取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。 危機的な状況を、組織の中から立て直すことができるのか。新たに始まった現場からの動きを引き続き注視していきたい。(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))
説明会の終わりに、挨拶に立った岩本絹子理事長は、こんな事を口にした。
「私個人的には、前病院長らの業務遂行があまり適切でなかったために、今般こういう問題が色々起きているというふうに感じております」
医療安全の要であるICUと小児ICUは、前病院長が中心となって設立した。一方、それを崩壊させたのは、岩本理事長や丸学長などの現経営陣であり、見えすいた責任転嫁だろう。経営陣の回答は論点ずらしが目立ち、質疑応答の時間も取らずに説明会は一方的に終了した。
それでも、今回の行動に意味はあると、質問書に名を連ねる教授は周囲に語っている。
「400人を超える教職員が署名した『質問書』を岩本理事長に出した理由は、女子医大の中に危機感を抱く人間がいることを示すためです。だから、私たちには大きな意味があった。このままでは医療崩壊が完全に起きて、患者さんに迷惑がかかってしまいますので、次の手を打ちます」
女子医大の広報課には取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。
危機的な状況を、組織の中から立て直すことができるのか。新たに始まった現場からの動きを引き続き注視していきたい。
(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))