ブラック企業の存在が問題視され、とりわけ悪質性の高い企業に対しては年々圧力が強まってきていると言えるだろう。ただ世間の監視の目をもってしても、いまだにブラック企業がはびこっている状態は続いている。
そしてそのブラックな体質は、社員にだけでなく、その企業と契約を結んで働く派遣スタッフにまで及ぶことも珍しくない。今回紹介する佐藤広樹さん(25歳・仮名)が大学卒業後に正社員として就職した人材派遣会社は、まさに派遣スタッフへの扱いが非道だったという。
その会社では工場系の現場に日雇いの労働者を派遣させていたらしいのだが、「会社は日雇い労働者の方を使い捨ての駒のように扱っていた」と佐藤さんが語るように、労働内容や労働者に対する態度が悪質極まりなかったそうだ。
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日雇い派遣というと、2012年の派遣法改正によって原則禁止になったが、60歳以上、昼間は学校に通い、夜間や休日に働く「昼間学生」、副業(本業収入が500万円以上ある場合に限る)、主たる生計者でない者(世帯収入が500万円以上ある場合に限る)の場合は、例外的に日雇い派遣で働くことが可能となっている。佐藤さんの働いていた派遣会社では、特に高齢者が多かったようであり、「60歳以上」の派遣スタッフを多く抱えていたとのことだ。いったいその人材派遣会社では何が起きていたのだろうか。今回は佐藤さんの話を聞きながら、ヤバすぎるブラック派遣会社の実態に迫っていく。「ホワイト企業」に見えたが佐藤さんは大学卒業後、今回紹介する人材派遣会社とは別の業界の企業に就職する予定だった。しかし、コロナ禍の影響で内定が取り消しとなり、慌てて見つけた就職先が、主に工場系の現場を紹介する人材派遣会社のA社。従業員が30人ほどの規模で、小ぎれいな都内のオフィスビルの1フロアを丸々借りていたそうだ。入社を決めた理由を、佐藤さんはこのように話してくれた。 「派遣会社というと胡散臭いイメージがありましたけど、雇用的にはホワイトな会社だったので、ここなら頑張れそうだと思って入社を決めました。住宅ローン、育休制度などの福利厚生はなかったものの、月の半分ぐらい有給休暇を取得して休む社員もいたぐらい休みは取りやすい環境でしたね。ただ、私は営業部署に配属されたのですが、すぐに社内の不穏な空気に気付いたんです。Photo by iStockとにかく人間関係がギスギスしていたんですよ。売上アップを強く課されるあまり、全員が自分の評価を上げることを最優先に仕事に臨んでいました。だから、自分の人事評価のためなら成績の悪い部下に怒号を浴びせることも少なくありませんでした。そして、極めつけは会社を“支配”している会長の存在。この人がかなりヒステリックで、成績の悪い社員に包丁を突き付けて、『誰のおかげでメシが食えると思ってるんだ!』と迫っていたこともありました……」休憩なし、水分補給なしの現場この時点で明らかにブラック企業と言えそうだが、佐藤さんいわく「社内の環境はまだまだマシだった」という。「派遣スタッフの労働者の方々への対応は本当に最悪でした。定年を過ぎた高齢者が多かったのですが、倫理的に考えてアウトな場面がいくつもあったんです……。とにかく人手を集めることには長けた会社でした。たとえば前日の17時ごろに突如取引先の現場から『明日の朝8時ぐらいに急遽人手が2、3人ほしい』と発注があっても、ほぼ確実に手配することができたんです。しかも驚くことに、そういった急な発注が2、3社から同時に来ても対応できていました。Photo by iStock そんな無茶な手配が可能だったのは、ふたつのやり方で派遣スタッフを集めていたから。ひとつめは、まだ働き始めて日の浅い労働者に対して現場の実態を知らせずに、『ここは楽な現場だ』とだけ伝えて行かせる方法。たいていは、かなりきつい労働に従事することになります。特に過酷な現場の場合、休憩なしは当たり前で仕事中に水も飲めない、さらにクーラーがないといった、現代とは思えないようなルールや設備環境の現場もあったようです」今の時代に休憩なし、水分補給なしなんて考えられないが、それを事前に労働者に伝えず、現場にも是正を求めないA社のような会社が、まかりとおっているというのが恐ろしい。借金を肩代わりしていることにつけ込んで「ふたつめの方法が、借金を抱えて生活が逼迫している労働者を半ば強制的に派遣するというもの。A社には借金持ちの訳アリ労働者が仕事を求めてくることもあり、会社がとりあえず借金を肩代わりしておいて、彼らの報酬から借金を天引きするというシステムがありました。お金を返さなくてはいけないという労働者の負い目に付け込んで、無理やりキツい仕事を押し付けるんです。もし、それを断ろうものなら、『それならもう仕事を紹介しない』と脅していたんですよ」借金のある労働者を、心理的に逃げられないような状況へ追い詰めていたというわけだ。Photo by iStock 「当然労働者側と揉めることも多々あり、私にも怒りの電話がかかってきたことがありました。しかし会社側は、基本的にそういった労働者を相手にしないという方針。対応する社員は高圧的な態度で対応して当然という空気でした。ひどいときには、差別的な表現で労働者を罵倒する声が飛び交うこともありましたね…。それを聞いたときには、さすがに『この会社は絶対におかしい』と気づきました」――非人道的な日雇い労働者への対応を目にして、罪悪感にさいなまれていたと話す佐藤さん。自分の判断で就職したとはいえ、あまりの現実に戦慄したという。そんなA社のさらなる非道な内情については、【後編】『「お前、人間の心がないのかよ…」25歳会社員も驚愕した、血も涙もない上司の「衝撃の一言」』で明らかにしていきたい。また【後編】では、A社の対応に違法性がないのか、法律的な見地から弁護士の嶋崎量氏に解説してもらった。(取材・文=文月/A4studio)※登場された方のプライバシーに配慮し、実際の事例を一部変更、再構成しています。
日雇い派遣というと、2012年の派遣法改正によって原則禁止になったが、60歳以上、昼間は学校に通い、夜間や休日に働く「昼間学生」、副業(本業収入が500万円以上ある場合に限る)、主たる生計者でない者(世帯収入が500万円以上ある場合に限る)の場合は、例外的に日雇い派遣で働くことが可能となっている。
佐藤さんの働いていた派遣会社では、特に高齢者が多かったようであり、「60歳以上」の派遣スタッフを多く抱えていたとのことだ。
いったいその人材派遣会社では何が起きていたのだろうか。今回は佐藤さんの話を聞きながら、ヤバすぎるブラック派遣会社の実態に迫っていく。
佐藤さんは大学卒業後、今回紹介する人材派遣会社とは別の業界の企業に就職する予定だった。しかし、コロナ禍の影響で内定が取り消しとなり、慌てて見つけた就職先が、主に工場系の現場を紹介する人材派遣会社のA社。従業員が30人ほどの規模で、小ぎれいな都内のオフィスビルの1フロアを丸々借りていたそうだ。入社を決めた理由を、佐藤さんはこのように話してくれた。
「派遣会社というと胡散臭いイメージがありましたけど、雇用的にはホワイトな会社だったので、ここなら頑張れそうだと思って入社を決めました。住宅ローン、育休制度などの福利厚生はなかったものの、月の半分ぐらい有給休暇を取得して休む社員もいたぐらい休みは取りやすい環境でしたね。ただ、私は営業部署に配属されたのですが、すぐに社内の不穏な空気に気付いたんです。Photo by iStockとにかく人間関係がギスギスしていたんですよ。売上アップを強く課されるあまり、全員が自分の評価を上げることを最優先に仕事に臨んでいました。だから、自分の人事評価のためなら成績の悪い部下に怒号を浴びせることも少なくありませんでした。そして、極めつけは会社を“支配”している会長の存在。この人がかなりヒステリックで、成績の悪い社員に包丁を突き付けて、『誰のおかげでメシが食えると思ってるんだ!』と迫っていたこともありました……」休憩なし、水分補給なしの現場この時点で明らかにブラック企業と言えそうだが、佐藤さんいわく「社内の環境はまだまだマシだった」という。「派遣スタッフの労働者の方々への対応は本当に最悪でした。定年を過ぎた高齢者が多かったのですが、倫理的に考えてアウトな場面がいくつもあったんです……。とにかく人手を集めることには長けた会社でした。たとえば前日の17時ごろに突如取引先の現場から『明日の朝8時ぐらいに急遽人手が2、3人ほしい』と発注があっても、ほぼ確実に手配することができたんです。しかも驚くことに、そういった急な発注が2、3社から同時に来ても対応できていました。Photo by iStock そんな無茶な手配が可能だったのは、ふたつのやり方で派遣スタッフを集めていたから。ひとつめは、まだ働き始めて日の浅い労働者に対して現場の実態を知らせずに、『ここは楽な現場だ』とだけ伝えて行かせる方法。たいていは、かなりきつい労働に従事することになります。特に過酷な現場の場合、休憩なしは当たり前で仕事中に水も飲めない、さらにクーラーがないといった、現代とは思えないようなルールや設備環境の現場もあったようです」今の時代に休憩なし、水分補給なしなんて考えられないが、それを事前に労働者に伝えず、現場にも是正を求めないA社のような会社が、まかりとおっているというのが恐ろしい。借金を肩代わりしていることにつけ込んで「ふたつめの方法が、借金を抱えて生活が逼迫している労働者を半ば強制的に派遣するというもの。A社には借金持ちの訳アリ労働者が仕事を求めてくることもあり、会社がとりあえず借金を肩代わりしておいて、彼らの報酬から借金を天引きするというシステムがありました。お金を返さなくてはいけないという労働者の負い目に付け込んで、無理やりキツい仕事を押し付けるんです。もし、それを断ろうものなら、『それならもう仕事を紹介しない』と脅していたんですよ」借金のある労働者を、心理的に逃げられないような状況へ追い詰めていたというわけだ。Photo by iStock 「当然労働者側と揉めることも多々あり、私にも怒りの電話がかかってきたことがありました。しかし会社側は、基本的にそういった労働者を相手にしないという方針。対応する社員は高圧的な態度で対応して当然という空気でした。ひどいときには、差別的な表現で労働者を罵倒する声が飛び交うこともありましたね…。それを聞いたときには、さすがに『この会社は絶対におかしい』と気づきました」――非人道的な日雇い労働者への対応を目にして、罪悪感にさいなまれていたと話す佐藤さん。自分の判断で就職したとはいえ、あまりの現実に戦慄したという。そんなA社のさらなる非道な内情については、【後編】『「お前、人間の心がないのかよ…」25歳会社員も驚愕した、血も涙もない上司の「衝撃の一言」』で明らかにしていきたい。また【後編】では、A社の対応に違法性がないのか、法律的な見地から弁護士の嶋崎量氏に解説してもらった。(取材・文=文月/A4studio)※登場された方のプライバシーに配慮し、実際の事例を一部変更、再構成しています。
「派遣会社というと胡散臭いイメージがありましたけど、雇用的にはホワイトな会社だったので、ここなら頑張れそうだと思って入社を決めました。住宅ローン、育休制度などの福利厚生はなかったものの、月の半分ぐらい有給休暇を取得して休む社員もいたぐらい休みは取りやすい環境でしたね。ただ、私は営業部署に配属されたのですが、すぐに社内の不穏な空気に気付いたんです。
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とにかく人間関係がギスギスしていたんですよ。売上アップを強く課されるあまり、全員が自分の評価を上げることを最優先に仕事に臨んでいました。だから、自分の人事評価のためなら成績の悪い部下に怒号を浴びせることも少なくありませんでした。
そして、極めつけは会社を“支配”している会長の存在。この人がかなりヒステリックで、成績の悪い社員に包丁を突き付けて、『誰のおかげでメシが食えると思ってるんだ!』と迫っていたこともありました……」
この時点で明らかにブラック企業と言えそうだが、佐藤さんいわく「社内の環境はまだまだマシだった」という。
「派遣スタッフの労働者の方々への対応は本当に最悪でした。定年を過ぎた高齢者が多かったのですが、倫理的に考えてアウトな場面がいくつもあったんです……。とにかく人手を集めることには長けた会社でした。
たとえば前日の17時ごろに突如取引先の現場から『明日の朝8時ぐらいに急遽人手が2、3人ほしい』と発注があっても、ほぼ確実に手配することができたんです。しかも驚くことに、そういった急な発注が2、3社から同時に来ても対応できていました。
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そんな無茶な手配が可能だったのは、ふたつのやり方で派遣スタッフを集めていたから。ひとつめは、まだ働き始めて日の浅い労働者に対して現場の実態を知らせずに、『ここは楽な現場だ』とだけ伝えて行かせる方法。たいていは、かなりきつい労働に従事することになります。特に過酷な現場の場合、休憩なしは当たり前で仕事中に水も飲めない、さらにクーラーがないといった、現代とは思えないようなルールや設備環境の現場もあったようです」今の時代に休憩なし、水分補給なしなんて考えられないが、それを事前に労働者に伝えず、現場にも是正を求めないA社のような会社が、まかりとおっているというのが恐ろしい。借金を肩代わりしていることにつけ込んで「ふたつめの方法が、借金を抱えて生活が逼迫している労働者を半ば強制的に派遣するというもの。A社には借金持ちの訳アリ労働者が仕事を求めてくることもあり、会社がとりあえず借金を肩代わりしておいて、彼らの報酬から借金を天引きするというシステムがありました。お金を返さなくてはいけないという労働者の負い目に付け込んで、無理やりキツい仕事を押し付けるんです。もし、それを断ろうものなら、『それならもう仕事を紹介しない』と脅していたんですよ」借金のある労働者を、心理的に逃げられないような状況へ追い詰めていたというわけだ。Photo by iStock 「当然労働者側と揉めることも多々あり、私にも怒りの電話がかかってきたことがありました。しかし会社側は、基本的にそういった労働者を相手にしないという方針。対応する社員は高圧的な態度で対応して当然という空気でした。ひどいときには、差別的な表現で労働者を罵倒する声が飛び交うこともありましたね…。それを聞いたときには、さすがに『この会社は絶対におかしい』と気づきました」――非人道的な日雇い労働者への対応を目にして、罪悪感にさいなまれていたと話す佐藤さん。自分の判断で就職したとはいえ、あまりの現実に戦慄したという。そんなA社のさらなる非道な内情については、【後編】『「お前、人間の心がないのかよ…」25歳会社員も驚愕した、血も涙もない上司の「衝撃の一言」』で明らかにしていきたい。また【後編】では、A社の対応に違法性がないのか、法律的な見地から弁護士の嶋崎量氏に解説してもらった。(取材・文=文月/A4studio)※登場された方のプライバシーに配慮し、実際の事例を一部変更、再構成しています。
そんな無茶な手配が可能だったのは、ふたつのやり方で派遣スタッフを集めていたから。ひとつめは、まだ働き始めて日の浅い労働者に対して現場の実態を知らせずに、『ここは楽な現場だ』とだけ伝えて行かせる方法。たいていは、かなりきつい労働に従事することになります。
特に過酷な現場の場合、休憩なしは当たり前で仕事中に水も飲めない、さらにクーラーがないといった、現代とは思えないようなルールや設備環境の現場もあったようです」
今の時代に休憩なし、水分補給なしなんて考えられないが、それを事前に労働者に伝えず、現場にも是正を求めないA社のような会社が、まかりとおっているというのが恐ろしい。
「ふたつめの方法が、借金を抱えて生活が逼迫している労働者を半ば強制的に派遣するというもの。A社には借金持ちの訳アリ労働者が仕事を求めてくることもあり、会社がとりあえず借金を肩代わりしておいて、彼らの報酬から借金を天引きするというシステムがありました。
お金を返さなくてはいけないという労働者の負い目に付け込んで、無理やりキツい仕事を押し付けるんです。もし、それを断ろうものなら、『それならもう仕事を紹介しない』と脅していたんですよ」
借金のある労働者を、心理的に逃げられないような状況へ追い詰めていたというわけだ。
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「当然労働者側と揉めることも多々あり、私にも怒りの電話がかかってきたことがありました。しかし会社側は、基本的にそういった労働者を相手にしないという方針。対応する社員は高圧的な態度で対応して当然という空気でした。ひどいときには、差別的な表現で労働者を罵倒する声が飛び交うこともありましたね…。それを聞いたときには、さすがに『この会社は絶対におかしい』と気づきました」――非人道的な日雇い労働者への対応を目にして、罪悪感にさいなまれていたと話す佐藤さん。自分の判断で就職したとはいえ、あまりの現実に戦慄したという。そんなA社のさらなる非道な内情については、【後編】『「お前、人間の心がないのかよ…」25歳会社員も驚愕した、血も涙もない上司の「衝撃の一言」』で明らかにしていきたい。また【後編】では、A社の対応に違法性がないのか、法律的な見地から弁護士の嶋崎量氏に解説してもらった。(取材・文=文月/A4studio)※登場された方のプライバシーに配慮し、実際の事例を一部変更、再構成しています。
「当然労働者側と揉めることも多々あり、私にも怒りの電話がかかってきたことがありました。しかし会社側は、基本的にそういった労働者を相手にしないという方針。対応する社員は高圧的な態度で対応して当然という空気でした。
ひどいときには、差別的な表現で労働者を罵倒する声が飛び交うこともありましたね…。それを聞いたときには、さすがに『この会社は絶対におかしい』と気づきました」
――非人道的な日雇い労働者への対応を目にして、罪悪感にさいなまれていたと話す佐藤さん。自分の判断で就職したとはいえ、あまりの現実に戦慄したという。
そんなA社のさらなる非道な内情については、【後編】『「お前、人間の心がないのかよ…」25歳会社員も驚愕した、血も涙もない上司の「衝撃の一言」』で明らかにしていきたい。また【後編】では、A社の対応に違法性がないのか、法律的な見地から弁護士の嶋崎量氏に解説してもらった。
(取材・文=文月/A4studio)
※登場された方のプライバシーに配慮し、実際の事例を一部変更、再構成しています。