出生率が低下するなか、「子どものいない夫婦」も増加傾向。その割合は全体の7~8%だといわれています。悠々自適で経済的にも余裕がある……ということから、妬みの対象になりやすい彼らではありますが、子どもがいないことで、老後、直面するかもしれない問題も。みていきましょう。
厚生労働省によると、2019年の平均初婚年齢は、男性が31.2歳、女性が29.6歳。女性の初産年齢も30.9歳まで上昇しています。晩婚化の進行もあり、最初から「子どもを持たない」という選択をする夫婦も増えています。
国立社会保障・人口問題研究所『出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)』では、子どもを追加する予定がほぼない結婚持続期間15~19年の夫婦の平均出生子ども数を「完結出生子ども数」と定義し、さらに2021年の第16回調査では、妻の年 齢が55歳未満の夫婦について集計。これとは別に妻が45~49歳の夫婦について「妻45~49歳夫婦の出生子ども数」を公表しています。
それによると、結婚持続期間15~19年の夫婦の完結出生子ども数は、2002年調査までは2.2人前後で安定的に推移していたものの、その後低下し、2021年は1.90人と最低値を更新。その内訳をみていくと、「子ども1人」が19.7%、「子ども2人」が50.8%、「子ども3人」が18.6%、「子ども4人以上」が3.2%。そして「子ども0人」は7.7%。2000年に入るまでは3%台で推移していましたが、「2005年」に5.6%→「2010年」6.4%→「2015年」6.2%→「2021年」7.7%と、上昇傾向にあります。
子どものいない夫婦のなかには「DINKs世帯」といわれる人たちがいます。これは意識的に子どもを持たない夫婦で、基本的に共働きの夫婦を指します。子どもの養育費や教育費はかからず、夫婦共働きですから、家計に余裕があることが多く、趣味に生きたり、キャリアアップに邁進したりと、羨望の眼差しを向けられることも多い存在です。
一方で「少子化に拍車をかける」とか「孫の顔を見せないなんて親不孝」とか、批判の対象になることも。ただ「それって嫉妬では」というのが大多数。また「残念ながら子を授からなかった」という夫婦も「DINKs」に含めることもあり、そこまでイメージできれば、「子どものいない夫婦」への批判はなくなるでしょう。
ときに嫉妬の対象となりやすい「子どものいない夫婦」ですが、その根底にあるのはやはり経済的な余裕。前出のように結婚持続期間15~19年の夫婦ということで、40代後半の「子どものいない夫婦」(共働き)について考えてみましょう。
まず夫婦ともに正社員とすると、男性の給与(所定内給与額)は平均月39.0万円で、手取りにすると月30万円。年収は推定642万円ほどになります。女性の給与は平均月29.2万円で、手取りにすると月23万円。年収は推定464万円になります。単純計算、月60万円ほどで、夫婦2人が暮らしていくイメージです(厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より算出)。
また夫は正社員、妻は非正社員というパターンだと、女性の給与は平均20.9万円、手取りは月16万円。年収は推定266万円ほどとなり、夫婦2人の生活費は月46万円ほど。それでも十分すぎる金額です。
平均値でみると、どのようなパターンにせよ、余裕のある暮らしが想像できる「子どものいない夫婦」。ただ将来、特に老後を不安視する人は少なくありません。
多くの人が心配する老後資金に関しては、「子どものいない夫婦」は経済的余裕があるので、きちんと資産形成を進めていけば、心配はなさそうです。不安なのは、介護が必要となったときのこと。介護を必要とする人の割合は、加齢とともに増加し、70代前半では5.8%、70代後半では12.7%、80代前半では26.4%、85歳以上で59.8%にのぼります。また認知症の有病率も同様で、70代後半では13.6%だったのが、80代前半では21.8%、80代後半では41.4%と年齢と共に右肩上がり。40代後半の子なし共働き夫婦でも、その30年後くらいから、グンと介護や認知症のリスクが高まります。
このような高齢者を誰が介護するのかというと、配偶者が最も多く23.8%。続くのが「同居する子ども」で20.7%。「同居する子の配偶者」が7.5%(厚生労働省『2019年国民生活基礎調査』より)。「子どもがいない夫婦」ははじめから、通常であれば全体の28%強が頼りにしている「子ども+α」の存在が最初からいないということ。最悪の場合、夫婦ともに介護生活、夫婦ともに認知症、というのもありえる話。そのような状態になっても、頼りにする身内がいない……そんな事態に陥るかもしれないのです。
さらにどちらか一方が亡くなり、相続が発生した時に厄介なことが起きる場合も珍しくありません。死亡した人の配偶者は常に相続人となり、それ以外に遺産相続される第1位順位は子ども。その子どもがいなければ、第2順位である両親、さらにいなければ第3順位の兄弟姉妹や甥・姪が相続人となります。
お金のこととなると、仲の良い家族でもトラブルになるもの。また日ごろから親交があればまだいいのですが、甥や姪となると疎遠の場合も多く、そんな人とお金が関わる込み入った話をするわけですから大変です。子がいない夫婦の相続には、トラブルはつきものです。
このような問題に直面しないよう、介護あれば外部に頼ることを含め検討しておいたり、相続であれば遺言書を用意しておいたりと、普段から万が一のことをふたりで話し合っておくことが大切です。ほかにも子どもがいないことで困難に直面するシーンはありますが、成年後見人や死後委任契約サービス、身内保証サービスなど、活用できるサービス、制度はいろいろ。専門家に相談するのも、ひとつの選択肢です。