人混みを歩くと驚かれてしまう・・・ 名古屋の大須商店街。サブカルチャーの聖地としても知られるこの場所は週末になると多くの若者で賑わう。 【写真を見る】15秒に1回“大きな声が出てしまう”ウーバーイーツの配達員 トゥレット症と闘う若者たちが激白 「美容院とか地獄ですよね」 10月の終わり、商店街に大きな黒いバッグを背負って歩く男性がいた。男性が通ると、周りの人は驚いて振り向く。 「ごめんなさい」その目は伏し目がちで、どこか申し訳なさそうにしている。 名古屋市中区に住むウーバー配達員の松怜音(あべまつ・れおん)さん28歳だ。自分の意思に反して突然、声や手足が動いてしまう“チック”。その症状が重い「トゥレット症」という難病と闘っている。

私が怜音さんと出会ったきっかけは今年2月、仕事終わりに頼んだウーバーイーツ。料理を運んでくれたのが怜音さんだった。怜音さんは、約15秒に1回、突然大きな声が出てしまう。配達の商品を受け取る際は迷惑にならないよう、なるべく店の外で待つようにしているのだ。 (怜音さん) 「ピンポーン。ウーバーです」 怜音さんには“マイルール”がある。 (ウーバー配達員・怜音さん)「ただでさえ、声で迷惑をかけてしまっているので、商品をお渡しする際は怖がらせないように腰を落として、笑顔で手渡しするようにしています」 配達の際はできるかぎり丁寧に。不快な思いをさせないよう怜音さんなりの気遣いだ。注文したお客さんは、怜音さんのことをどう思っているのだろうか。 (記者)「Q声は聞こえてきましたか?」 (注文した客)「ちょっと声は響いて聞こえてきましたけど、“事前のお知らせ”があったので『あ~』となったぐらいです」 (怜音さん)「ありがとうございます。頑張ります」 イヤホンのワケは「悪口を聞きたくないから」(怜音さん) 「なんだお前!と言ってくる人もいるので、そういう時は”イヤホン”で蓋をして聞かないようにする。目は伏し目がちで歩くようにしている」 イヤホンをしていても、冷たい視線は避けられない。取材中、怜音さんを見て笑う人やモノマネをする人にも出くわした。 (怜音さん)「よくあることです。1日に1回は声を真似されますから…。でも、これが”僕”なのでしょうがないです」 自分の体を殴ってしまう女性「普通に生きるのに困ります」 私は10月下旬、怜音さんも参加するトゥレット症の当事者が悩みや情報を共有する交流会に足を運んだ。 交流会には怜音さんと同じで声が出てしまう男性や、話をしている最中に突然飛び上がるような動きを見せる女性も。 同じトゥレット症でもそれぞれ、異なる症状に悩まされている。もう20年近く、症状と闘うののかさん(20代)はこう話す。 (ののかさん)「(Q.どんな症状があらわれますか?)今は、自分のことを殴るのと、手足がビクビクなったり『ひゃー』という変な声が出てしまいます」 特に症状がひどかったというのが中高生の頃。16歳の時、治療のために訪れたアメリカで撮影したという映像には、突然大きな声が出たり首が動いてしまったりと、じっとしていられない様子が記録されていた。 ののかさんに、日常生活で困っていることはあるか尋ねてみた。(記者)「Q.日常生活で困ったことはありますか?」 (ののかさん)「普通に生きるのに困ります。電車の中や飛行機がしんどかったり、美容院も地獄ですよね。動けないじゃないですか」 公共交通機関を利用するのも、髪を切るのも、”日常”では何気ないシーンだ。その「当たり前」で悩んでいる人がいるなんて…。 テレビ画面を割らないように自分の手を”縛る”男性「手術の効果はなかった」 交流会で私が気になったのが身体の前でバッグを抱えるようにして持つ男性(30)だ。重い症状に悩んでいるというが、バッグを手離さないのには理由があるのだろうか? (男性)「迷惑をかけないように手を縛っています。手が出てしまわないように…」 一緒に来ていた男性の母親が説明する。 (男性の母)「手が出ちゃうから。(バッグの)ベルトで縛って手が出ないように”固定”しているんです。車でもガラスを叩いて割ってしまわないように、シートベルトを巻きつけています」 手が動いてしまうのを抑えられないため、バッグのベルトを巻き付けている男性。自宅のテレビやガラスを割ってしまうこともあるという。 (母親)「治らないので中国に渡り、医療をして針も打ちましたし、漢方も飲みました。それで最終的に良くならなかったので(韓国で)DBSの手術をしました」 DBS(脳深部刺激療法)は、脳に電極を植え込み、刺激を与えることで症状の軽減を図る手術。しかし効果はあまり感じられなかったという。 (男性の母親)「ここ(胸)に電池があるんですけど、3年で止まるんですが、今は止まった状態です。再手術をするよりもそのままの方が体に負担が少ないから」 トゥレットと闘う若者 一番の壁は「仕事」 彼らの大きな壁は社会で働くこと。CBCテレビが行ったアンケートでは、18歳以上のトゥレット症当事者15人のうち13人が”仕事に関して困ったことがある”と答えた。 中には、・接客中に顔をしかめてしまう症状が出てしまい、お客さんに怒られた・ひとり言がうるさいと言われた・職場でいじめを受けて、辞めることにしたと回答する人も。 怜音さんの友人、酒井隆成さん(23)は「就職」で悩む一人だ。 (怜音さんの友人・酒井さん)「就職活動のとき面接があると思うんですけど、その最中でも体が動くし、日本の仕事は静かにできることを前提にされている場合が多くて、『静かにできないならちょっと…』という対応をされてしまうこともある」 手が震えて箸が折れてしまう男性 日常生活での苦悩 神奈川県内でひとり暮らしをする酒井さん。3月に大学を卒業したが、就職はできていない。趣味はパソコンでイラストを描くことだというが…。 (酒井さん)「まずは準備運動から始めていきます」 そう話し、腕にグッと力を入れた酒井さん。だが、いざペンを持つと…手が震えてしまい、なかなか思うように進まない。 (酒井さん)「なかなか体が動いちゃうので鎮めながら。かけるときにかけるタイミングで書くようにしているんですけど…。趣味をするのにも一苦労といった感じです」 1本3500円のペンは2年間で30本以上が壊れてしまったという。 身体が勝手に動いてしまう悩みは食事をするときにも…。 (酒井さん)「おっとっと危ない」 茶碗を落としそうになる場面や、 (酒井さん)「あ、箸が折れちゃいましたね」 箸が折れてしまうことも。食器は、落としても割らないようにとプラスチック製のものを使うようにしている。特に、包丁は自分の身体を切ってしまう恐れもあるため、なるべく使わないように心がけているという。酒井さんに症状が出始めたのは、小学2年生の頃。いじめやからかいの対象になったこともあったという。 (酒井さん)「先生に静かにみんな授業を受けたいから静かにしてもらえないかなと。当たり前のことではあるんですけど、できないのがもどかしいし悔しい」 大学で学んだ心理学を仕事でも活かそうと、医療や福祉業界を目指して就職活動を続ける酒井さん。エントリーシートをパソコンで打ち込もうとするが、パソコンや自分の身体を叩いてしまいどうしても時間がかかってしまう。 (履歴書を読み上げる酒井さん)「身体が勝手に動いたり、声が出てしまう症状があります。人に危害を加えたり、物を破損することはありません。周りの人を驚かせてしまうので、同じ部署で働く方々に病気の周知とデスク位置の調整をしていただきたいです」「できるだけ相手にマイナスな印象を与えないようにするけども、細かく伝えようとすると不安をあおるような感じになってしまうので、どこまで伝えられるかが難しくて…」 仕事を求めてハローワークへ「負けられない闘い」 リクルートスーツに身を固めた酒井さん。11月上旬、ハローワークに向かった。(酒井さん)「前回の面接の結果が届いていないんですけど、次の仕事、どんなのがあるのか探しにいこうと思っています。前例がないって言われて しまうんですよね。同じ 病気を持った人でどんな人が働いていますか?って聞いても。全部手探り状態です」 仕事は見つかるのだろうか。30分ほどして酒井さんがハローワークから出てきた。 (記者)「Q.お疲れ様でした」 (酒井さん)「今回はあんまり良い求人が見つからなかったですね。はぁ…」 (記者)「Q.大分疲れていますね」(酒井さん)「忙しくてなかなかね。こたえますね。毎日、動き回って就職活動なりをやっていますけど…まだ始まったばっかとはいえ、成果が出ずなので、こたえていますね」 この日は、仕事を紹介してもらえず。それでも酒井さんが諦めないのには理由がある。 (酒井さん)「後続に道を作る意味でも絶対に成功させて内定をもらわなきゃなて。負けられない。“絶対に負けられない闘い”ですね」 自分の店を出したい… 配達員の怜音さんは夢のために”修行中” 同じくウーバー配達員の怜音さんも負けられない闘いの真っ只中。10月末、営業終わりの日本料理店にその姿があった。 お客さんのいない店内で1人黙々と皿洗いにまな板の手入れをする怜音さん。 (怜音さん)「お客さんの前に出るのは良くないなということで”締め作業だけ”やらせてもらっています。やっぱり飲食店をやりたいなら飲食業に関わっていないといけないと思うので、お片付けだけでもいいし、携われることに意味があるのかなと思っている」 目の前には難しい現実が。それでも“同じ病気に悩む人が気軽に楽しめる店をつくりたい”少しずつでも前に進もうとする怜音さんだ。 (怜音さん)「日本のみんながチック症・トゥレット症を認知してもらうことが自分のゴールです」 「少しでも社会がトゥレット症を受け入れてくれるなら…」 今回取材をした多くのトゥレット症の当事者が、名前を出してカメラの前で話してくれた。その理由は皆同じだった。このうちの1人、酒井さんはこう話す。 「トゥレット症をみんなに知ってもらって、少しでも僕らに対する冷ややかな視線が和らげば嬉しいです。手が動いたり、声が出てしまう以外は僕も皆さんと同じなんですよ」 勇気を出して取材に応じてくれた彼らの“思い”に応えるためにも、私は取材を続けていきたい。CBCテレビ「チャント!」2022年11月9日放送 取材:CBCテレビ報道部柳瀬晴貴(25)福岡県出身 2019年法政大学経営学部卒業。CBCテレビに入社し、報道部で記者4年目。愛知県警担当や遊軍の記者として、殺人事件や不正車検の実態、ドン横キッズ問題などを追う。
名古屋の大須商店街。サブカルチャーの聖地としても知られるこの場所は週末になると多くの若者で賑わう。
【写真を見る】15秒に1回“大きな声が出てしまう”ウーバーイーツの配達員 トゥレット症と闘う若者たちが激白 「美容院とか地獄ですよね」 10月の終わり、商店街に大きな黒いバッグを背負って歩く男性がいた。男性が通ると、周りの人は驚いて振り向く。 「ごめんなさい」その目は伏し目がちで、どこか申し訳なさそうにしている。 名古屋市中区に住むウーバー配達員の松怜音(あべまつ・れおん)さん28歳だ。自分の意思に反して突然、声や手足が動いてしまう“チック”。その症状が重い「トゥレット症」という難病と闘っている。

私が怜音さんと出会ったきっかけは今年2月、仕事終わりに頼んだウーバーイーツ。料理を運んでくれたのが怜音さんだった。怜音さんは、約15秒に1回、突然大きな声が出てしまう。配達の商品を受け取る際は迷惑にならないよう、なるべく店の外で待つようにしているのだ。 (怜音さん) 「ピンポーン。ウーバーです」 怜音さんには“マイルール”がある。 (ウーバー配達員・怜音さん)「ただでさえ、声で迷惑をかけてしまっているので、商品をお渡しする際は怖がらせないように腰を落として、笑顔で手渡しするようにしています」 配達の際はできるかぎり丁寧に。不快な思いをさせないよう怜音さんなりの気遣いだ。注文したお客さんは、怜音さんのことをどう思っているのだろうか。 (記者)「Q声は聞こえてきましたか?」 (注文した客)「ちょっと声は響いて聞こえてきましたけど、“事前のお知らせ”があったので『あ~』となったぐらいです」 (怜音さん)「ありがとうございます。頑張ります」 イヤホンのワケは「悪口を聞きたくないから」(怜音さん) 「なんだお前!と言ってくる人もいるので、そういう時は”イヤホン”で蓋をして聞かないようにする。目は伏し目がちで歩くようにしている」 イヤホンをしていても、冷たい視線は避けられない。取材中、怜音さんを見て笑う人やモノマネをする人にも出くわした。 (怜音さん)「よくあることです。1日に1回は声を真似されますから…。でも、これが”僕”なのでしょうがないです」 自分の体を殴ってしまう女性「普通に生きるのに困ります」 私は10月下旬、怜音さんも参加するトゥレット症の当事者が悩みや情報を共有する交流会に足を運んだ。 交流会には怜音さんと同じで声が出てしまう男性や、話をしている最中に突然飛び上がるような動きを見せる女性も。 同じトゥレット症でもそれぞれ、異なる症状に悩まされている。もう20年近く、症状と闘うののかさん(20代)はこう話す。 (ののかさん)「(Q.どんな症状があらわれますか?)今は、自分のことを殴るのと、手足がビクビクなったり『ひゃー』という変な声が出てしまいます」 特に症状がひどかったというのが中高生の頃。16歳の時、治療のために訪れたアメリカで撮影したという映像には、突然大きな声が出たり首が動いてしまったりと、じっとしていられない様子が記録されていた。 ののかさんに、日常生活で困っていることはあるか尋ねてみた。(記者)「Q.日常生活で困ったことはありますか?」 (ののかさん)「普通に生きるのに困ります。電車の中や飛行機がしんどかったり、美容院も地獄ですよね。動けないじゃないですか」 公共交通機関を利用するのも、髪を切るのも、”日常”では何気ないシーンだ。その「当たり前」で悩んでいる人がいるなんて…。 テレビ画面を割らないように自分の手を”縛る”男性「手術の効果はなかった」 交流会で私が気になったのが身体の前でバッグを抱えるようにして持つ男性(30)だ。重い症状に悩んでいるというが、バッグを手離さないのには理由があるのだろうか? (男性)「迷惑をかけないように手を縛っています。手が出てしまわないように…」 一緒に来ていた男性の母親が説明する。 (男性の母)「手が出ちゃうから。(バッグの)ベルトで縛って手が出ないように”固定”しているんです。車でもガラスを叩いて割ってしまわないように、シートベルトを巻きつけています」 手が動いてしまうのを抑えられないため、バッグのベルトを巻き付けている男性。自宅のテレビやガラスを割ってしまうこともあるという。 (母親)「治らないので中国に渡り、医療をして針も打ちましたし、漢方も飲みました。それで最終的に良くならなかったので(韓国で)DBSの手術をしました」 DBS(脳深部刺激療法)は、脳に電極を植え込み、刺激を与えることで症状の軽減を図る手術。しかし効果はあまり感じられなかったという。 (男性の母親)「ここ(胸)に電池があるんですけど、3年で止まるんですが、今は止まった状態です。再手術をするよりもそのままの方が体に負担が少ないから」 トゥレットと闘う若者 一番の壁は「仕事」 彼らの大きな壁は社会で働くこと。CBCテレビが行ったアンケートでは、18歳以上のトゥレット症当事者15人のうち13人が”仕事に関して困ったことがある”と答えた。 中には、・接客中に顔をしかめてしまう症状が出てしまい、お客さんに怒られた・ひとり言がうるさいと言われた・職場でいじめを受けて、辞めることにしたと回答する人も。 怜音さんの友人、酒井隆成さん(23)は「就職」で悩む一人だ。 (怜音さんの友人・酒井さん)「就職活動のとき面接があると思うんですけど、その最中でも体が動くし、日本の仕事は静かにできることを前提にされている場合が多くて、『静かにできないならちょっと…』という対応をされてしまうこともある」 手が震えて箸が折れてしまう男性 日常生活での苦悩 神奈川県内でひとり暮らしをする酒井さん。3月に大学を卒業したが、就職はできていない。趣味はパソコンでイラストを描くことだというが…。 (酒井さん)「まずは準備運動から始めていきます」 そう話し、腕にグッと力を入れた酒井さん。だが、いざペンを持つと…手が震えてしまい、なかなか思うように進まない。 (酒井さん)「なかなか体が動いちゃうので鎮めながら。かけるときにかけるタイミングで書くようにしているんですけど…。趣味をするのにも一苦労といった感じです」 1本3500円のペンは2年間で30本以上が壊れてしまったという。 身体が勝手に動いてしまう悩みは食事をするときにも…。 (酒井さん)「おっとっと危ない」 茶碗を落としそうになる場面や、 (酒井さん)「あ、箸が折れちゃいましたね」 箸が折れてしまうことも。食器は、落としても割らないようにとプラスチック製のものを使うようにしている。特に、包丁は自分の身体を切ってしまう恐れもあるため、なるべく使わないように心がけているという。酒井さんに症状が出始めたのは、小学2年生の頃。いじめやからかいの対象になったこともあったという。 (酒井さん)「先生に静かにみんな授業を受けたいから静かにしてもらえないかなと。当たり前のことではあるんですけど、できないのがもどかしいし悔しい」 大学で学んだ心理学を仕事でも活かそうと、医療や福祉業界を目指して就職活動を続ける酒井さん。エントリーシートをパソコンで打ち込もうとするが、パソコンや自分の身体を叩いてしまいどうしても時間がかかってしまう。 (履歴書を読み上げる酒井さん)「身体が勝手に動いたり、声が出てしまう症状があります。人に危害を加えたり、物を破損することはありません。周りの人を驚かせてしまうので、同じ部署で働く方々に病気の周知とデスク位置の調整をしていただきたいです」「できるだけ相手にマイナスな印象を与えないようにするけども、細かく伝えようとすると不安をあおるような感じになってしまうので、どこまで伝えられるかが難しくて…」 仕事を求めてハローワークへ「負けられない闘い」 リクルートスーツに身を固めた酒井さん。11月上旬、ハローワークに向かった。(酒井さん)「前回の面接の結果が届いていないんですけど、次の仕事、どんなのがあるのか探しにいこうと思っています。前例がないって言われて しまうんですよね。同じ 病気を持った人でどんな人が働いていますか?って聞いても。全部手探り状態です」 仕事は見つかるのだろうか。30分ほどして酒井さんがハローワークから出てきた。 (記者)「Q.お疲れ様でした」 (酒井さん)「今回はあんまり良い求人が見つからなかったですね。はぁ…」 (記者)「Q.大分疲れていますね」(酒井さん)「忙しくてなかなかね。こたえますね。毎日、動き回って就職活動なりをやっていますけど…まだ始まったばっかとはいえ、成果が出ずなので、こたえていますね」 この日は、仕事を紹介してもらえず。それでも酒井さんが諦めないのには理由がある。 (酒井さん)「後続に道を作る意味でも絶対に成功させて内定をもらわなきゃなて。負けられない。“絶対に負けられない闘い”ですね」 自分の店を出したい… 配達員の怜音さんは夢のために”修行中” 同じくウーバー配達員の怜音さんも負けられない闘いの真っ只中。10月末、営業終わりの日本料理店にその姿があった。 お客さんのいない店内で1人黙々と皿洗いにまな板の手入れをする怜音さん。 (怜音さん)「お客さんの前に出るのは良くないなということで”締め作業だけ”やらせてもらっています。やっぱり飲食店をやりたいなら飲食業に関わっていないといけないと思うので、お片付けだけでもいいし、携われることに意味があるのかなと思っている」 目の前には難しい現実が。それでも“同じ病気に悩む人が気軽に楽しめる店をつくりたい”少しずつでも前に進もうとする怜音さんだ。 (怜音さん)「日本のみんながチック症・トゥレット症を認知してもらうことが自分のゴールです」 「少しでも社会がトゥレット症を受け入れてくれるなら…」 今回取材をした多くのトゥレット症の当事者が、名前を出してカメラの前で話してくれた。その理由は皆同じだった。このうちの1人、酒井さんはこう話す。 「トゥレット症をみんなに知ってもらって、少しでも僕らに対する冷ややかな視線が和らげば嬉しいです。手が動いたり、声が出てしまう以外は僕も皆さんと同じなんですよ」 勇気を出して取材に応じてくれた彼らの“思い”に応えるためにも、私は取材を続けていきたい。CBCテレビ「チャント!」2022年11月9日放送 取材:CBCテレビ報道部柳瀬晴貴(25)福岡県出身 2019年法政大学経営学部卒業。CBCテレビに入社し、報道部で記者4年目。愛知県警担当や遊軍の記者として、殺人事件や不正車検の実態、ドン横キッズ問題などを追う。
10月の終わり、商店街に大きな黒いバッグを背負って歩く男性がいた。男性が通ると、周りの人は驚いて振り向く。
「ごめんなさい」
その目は伏し目がちで、どこか申し訳なさそうにしている。
名古屋市中区に住むウーバー配達員の松怜音(あべまつ・れおん)さん28歳だ。自分の意思に反して突然、声や手足が動いてしまう“チック”。その症状が重い「トゥレット症」という難病と闘っている。
私が怜音さんと出会ったきっかけは今年2月、仕事終わりに頼んだウーバーイーツ。料理を運んでくれたのが怜音さんだった。
怜音さんは、約15秒に1回、突然大きな声が出てしまう。配達の商品を受け取る際は迷惑にならないよう、なるべく店の外で待つようにしているのだ。
(怜音さん) 「ピンポーン。ウーバーです」
怜音さんには“マイルール”がある。
(ウーバー配達員・怜音さん)「ただでさえ、声で迷惑をかけてしまっているので、商品をお渡しする際は怖がらせないように腰を落として、笑顔で手渡しするようにしています」
配達の際はできるかぎり丁寧に。不快な思いをさせないよう怜音さんなりの気遣いだ。注文したお客さんは、怜音さんのことをどう思っているのだろうか。
(記者)「Q声は聞こえてきましたか?」
(注文した客)「ちょっと声は響いて聞こえてきましたけど、“事前のお知らせ”があったので『あ~』となったぐらいです」
(怜音さん)「ありがとうございます。頑張ります」
「なんだお前!と言ってくる人もいるので、そういう時は”イヤホン”で蓋をして聞かないようにする。目は伏し目がちで歩くようにしている」
イヤホンをしていても、冷たい視線は避けられない。取材中、怜音さんを見て笑う人やモノマネをする人にも出くわした。
(怜音さん)「よくあることです。1日に1回は声を真似されますから…。でも、これが”僕”なのでしょうがないです」
私は10月下旬、怜音さんも参加するトゥレット症の当事者が悩みや情報を共有する交流会に足を運んだ。
交流会には怜音さんと同じで声が出てしまう男性や、話をしている最中に突然飛び上がるような動きを見せる女性も。
同じトゥレット症でもそれぞれ、異なる症状に悩まされている。もう20年近く、症状と闘うののかさん(20代)はこう話す。
(ののかさん)「(Q.どんな症状があらわれますか?)今は、自分のことを殴るのと、手足がビクビクなったり『ひゃー』という変な声が出てしまいます」
特に症状がひどかったというのが中高生の頃。16歳の時、治療のために訪れたアメリカで撮影したという映像には、突然大きな声が出たり首が動いてしまったりと、じっとしていられない様子が記録されていた。
ののかさんに、日常生活で困っていることはあるか尋ねてみた。
(記者)「Q.日常生活で困ったことはありますか?」
(ののかさん)「普通に生きるのに困ります。電車の中や飛行機がしんどかったり、美容院も地獄ですよね。動けないじゃないですか」
公共交通機関を利用するのも、髪を切るのも、”日常”では何気ないシーンだ。その「当たり前」で悩んでいる人がいるなんて…。
交流会で私が気になったのが身体の前でバッグを抱えるようにして持つ男性(30)だ。重い症状に悩んでいるというが、バッグを手離さないのには理由があるのだろうか?
(男性)「迷惑をかけないように手を縛っています。手が出てしまわないように…」
一緒に来ていた男性の母親が説明する。
(男性の母)「手が出ちゃうから。(バッグの)ベルトで縛って手が出ないように”固定”しているんです。車でもガラスを叩いて割ってしまわないように、シートベルトを巻きつけています」
手が動いてしまうのを抑えられないため、バッグのベルトを巻き付けている男性。自宅のテレビやガラスを割ってしまうこともあるという。
(母親)「治らないので中国に渡り、医療をして針も打ちましたし、漢方も飲みました。それで最終的に良くならなかったので(韓国で)DBSの手術をしました」
DBS(脳深部刺激療法)は、脳に電極を植え込み、刺激を与えることで症状の軽減を図る手術。しかし効果はあまり感じられなかったという。
(男性の母親)「ここ(胸)に電池があるんですけど、3年で止まるんですが、今は止まった状態です。再手術をするよりもそのままの方が体に負担が少ないから」
彼らの大きな壁は社会で働くこと。CBCテレビが行ったアンケートでは、18歳以上のトゥレット症当事者15人のうち13人が”仕事に関して困ったことがある”と答えた。
中には、・接客中に顔をしかめてしまう症状が出てしまい、お客さんに怒られた・ひとり言がうるさいと言われた・職場でいじめを受けて、辞めることにしたと回答する人も。
怜音さんの友人、酒井隆成さん(23)は「就職」で悩む一人だ。
(怜音さんの友人・酒井さん)「就職活動のとき面接があると思うんですけど、その最中でも体が動くし、日本の仕事は静かにできることを前提にされている場合が多くて、『静かにできないならちょっと…』という対応をされてしまうこともある」
神奈川県内でひとり暮らしをする酒井さん。3月に大学を卒業したが、就職はできていない。趣味はパソコンでイラストを描くことだというが…。
(酒井さん)「まずは準備運動から始めていきます」
そう話し、腕にグッと力を入れた酒井さん。だが、いざペンを持つと…手が震えてしまい、なかなか思うように進まない。
(酒井さん)「なかなか体が動いちゃうので鎮めながら。かけるときにかけるタイミングで書くようにしているんですけど…。趣味をするのにも一苦労といった感じです」
1本3500円のペンは2年間で30本以上が壊れてしまったという。
身体が勝手に動いてしまう悩みは食事をするときにも…。
(酒井さん)「おっとっと危ない」
茶碗を落としそうになる場面や、
(酒井さん)「あ、箸が折れちゃいましたね」
箸が折れてしまうことも。食器は、落としても割らないようにとプラスチック製のものを使うようにしている。特に、包丁は自分の身体を切ってしまう恐れもあるため、なるべく使わないように心がけているという。
酒井さんに症状が出始めたのは、小学2年生の頃。いじめやからかいの対象になったこともあったという。
(酒井さん)「先生に静かにみんな授業を受けたいから静かにしてもらえないかなと。当たり前のことではあるんですけど、できないのがもどかしいし悔しい」
大学で学んだ心理学を仕事でも活かそうと、医療や福祉業界を目指して就職活動を続ける酒井さん。
エントリーシートをパソコンで打ち込もうとするが、パソコンや自分の身体を叩いてしまいどうしても時間がかかってしまう。
(履歴書を読み上げる酒井さん)「身体が勝手に動いたり、声が出てしまう症状があります。人に危害を加えたり、物を破損することはありません。周りの人を驚かせてしまうので、同じ部署で働く方々に病気の周知とデスク位置の調整をしていただきたいです」「できるだけ相手にマイナスな印象を与えないようにするけども、細かく伝えようとすると不安をあおるような感じになってしまうので、どこまで伝えられるかが難しくて…」 仕事を求めてハローワークへ「負けられない闘い」 リクルートスーツに身を固めた酒井さん。11月上旬、ハローワークに向かった。(酒井さん)「前回の面接の結果が届いていないんですけど、次の仕事、どんなのがあるのか探しにいこうと思っています。前例がないって言われて しまうんですよね。同じ 病気を持った人でどんな人が働いていますか?って聞いても。全部手探り状態です」 仕事は見つかるのだろうか。30分ほどして酒井さんがハローワークから出てきた。 (記者)「Q.お疲れ様でした」 (酒井さん)「今回はあんまり良い求人が見つからなかったですね。はぁ…」 (記者)「Q.大分疲れていますね」(酒井さん)「忙しくてなかなかね。こたえますね。毎日、動き回って就職活動なりをやっていますけど…まだ始まったばっかとはいえ、成果が出ずなので、こたえていますね」 この日は、仕事を紹介してもらえず。それでも酒井さんが諦めないのには理由がある。 (酒井さん)「後続に道を作る意味でも絶対に成功させて内定をもらわなきゃなて。負けられない。“絶対に負けられない闘い”ですね」 自分の店を出したい… 配達員の怜音さんは夢のために”修行中” 同じくウーバー配達員の怜音さんも負けられない闘いの真っ只中。10月末、営業終わりの日本料理店にその姿があった。 お客さんのいない店内で1人黙々と皿洗いにまな板の手入れをする怜音さん。 (怜音さん)「お客さんの前に出るのは良くないなということで”締め作業だけ”やらせてもらっています。やっぱり飲食店をやりたいなら飲食業に関わっていないといけないと思うので、お片付けだけでもいいし、携われることに意味があるのかなと思っている」 目の前には難しい現実が。それでも“同じ病気に悩む人が気軽に楽しめる店をつくりたい”少しずつでも前に進もうとする怜音さんだ。 (怜音さん)「日本のみんながチック症・トゥレット症を認知してもらうことが自分のゴールです」 「少しでも社会がトゥレット症を受け入れてくれるなら…」 今回取材をした多くのトゥレット症の当事者が、名前を出してカメラの前で話してくれた。その理由は皆同じだった。このうちの1人、酒井さんはこう話す。 「トゥレット症をみんなに知ってもらって、少しでも僕らに対する冷ややかな視線が和らげば嬉しいです。手が動いたり、声が出てしまう以外は僕も皆さんと同じなんですよ」 勇気を出して取材に応じてくれた彼らの“思い”に応えるためにも、私は取材を続けていきたい。CBCテレビ「チャント!」2022年11月9日放送 取材:CBCテレビ報道部柳瀬晴貴(25)福岡県出身 2019年法政大学経営学部卒業。CBCテレビに入社し、報道部で記者4年目。愛知県警担当や遊軍の記者として、殺人事件や不正車検の実態、ドン横キッズ問題などを追う。
(履歴書を読み上げる酒井さん)「身体が勝手に動いたり、声が出てしまう症状があります。人に危害を加えたり、物を破損することはありません。周りの人を驚かせてしまうので、同じ部署で働く方々に病気の周知とデスク位置の調整をしていただきたいです」「できるだけ相手にマイナスな印象を与えないようにするけども、細かく伝えようとすると不安をあおるような感じになってしまうので、どこまで伝えられるかが難しくて…」 仕事を求めてハローワークへ「負けられない闘い」 リクルートスーツに身を固めた酒井さん。11月上旬、ハローワークに向かった。(酒井さん)「前回の面接の結果が届いていないんですけど、次の仕事、どんなのがあるのか探しにいこうと思っています。前例がないって言われて しまうんですよね。同じ 病気を持った人でどんな人が働いていますか?って聞いても。全部手探り状態です」 仕事は見つかるのだろうか。30分ほどして酒井さんがハローワークから出てきた。 (記者)「Q.お疲れ様でした」 (酒井さん)「今回はあんまり良い求人が見つからなかったですね。はぁ…」 (記者)「Q.大分疲れていますね」(酒井さん)「忙しくてなかなかね。こたえますね。毎日、動き回って就職活動なりをやっていますけど…まだ始まったばっかとはいえ、成果が出ずなので、こたえていますね」 この日は、仕事を紹介してもらえず。それでも酒井さんが諦めないのには理由がある。 (酒井さん)「後続に道を作る意味でも絶対に成功させて内定をもらわなきゃなて。負けられない。“絶対に負けられない闘い”ですね」 自分の店を出したい… 配達員の怜音さんは夢のために”修行中” 同じくウーバー配達員の怜音さんも負けられない闘いの真っ只中。10月末、営業終わりの日本料理店にその姿があった。 お客さんのいない店内で1人黙々と皿洗いにまな板の手入れをする怜音さん。 (怜音さん)「お客さんの前に出るのは良くないなということで”締め作業だけ”やらせてもらっています。やっぱり飲食店をやりたいなら飲食業に関わっていないといけないと思うので、お片付けだけでもいいし、携われることに意味があるのかなと思っている」 目の前には難しい現実が。それでも“同じ病気に悩む人が気軽に楽しめる店をつくりたい”少しずつでも前に進もうとする怜音さんだ。 (怜音さん)「日本のみんながチック症・トゥレット症を認知してもらうことが自分のゴールです」 「少しでも社会がトゥレット症を受け入れてくれるなら…」 今回取材をした多くのトゥレット症の当事者が、名前を出してカメラの前で話してくれた。その理由は皆同じだった。このうちの1人、酒井さんはこう話す。 「トゥレット症をみんなに知ってもらって、少しでも僕らに対する冷ややかな視線が和らげば嬉しいです。手が動いたり、声が出てしまう以外は僕も皆さんと同じなんですよ」 勇気を出して取材に応じてくれた彼らの“思い”に応えるためにも、私は取材を続けていきたい。CBCテレビ「チャント!」2022年11月9日放送 取材:CBCテレビ報道部柳瀬晴貴(25)福岡県出身 2019年法政大学経営学部卒業。CBCテレビに入社し、報道部で記者4年目。愛知県警担当や遊軍の記者として、殺人事件や不正車検の実態、ドン横キッズ問題などを追う。
(履歴書を読み上げる酒井さん)「身体が勝手に動いたり、声が出てしまう症状があります。人に危害を加えたり、物を破損することはありません。周りの人を驚かせてしまうので、同じ部署で働く方々に病気の周知とデスク位置の調整をしていただきたいです」
「できるだけ相手にマイナスな印象を与えないようにするけども、細かく伝えようとすると不安をあおるような感じになってしまうので、どこまで伝えられるかが難しくて…」
リクルートスーツに身を固めた酒井さん。11月上旬、ハローワークに向かった。
(酒井さん)「前回の面接の結果が届いていないんですけど、次の仕事、どんなのがあるのか探しにいこうと思っています。前例がないって言われて しまうんですよね。同じ 病気を持った人でどんな人が働いていますか?って聞いても。全部手探り状態です」
仕事は見つかるのだろうか。30分ほどして酒井さんがハローワークから出てきた。
(記者)「Q.お疲れ様でした」
(酒井さん)「今回はあんまり良い求人が見つからなかったですね。はぁ…」
(記者)「Q.大分疲れていますね」
(酒井さん)「忙しくてなかなかね。こたえますね。毎日、動き回って就職活動なりをやっていますけど…まだ始まったばっかとはいえ、成果が出ずなので、こたえていますね」
この日は、仕事を紹介してもらえず。それでも酒井さんが諦めないのには理由がある。
(酒井さん)「後続に道を作る意味でも絶対に成功させて内定をもらわなきゃなて。負けられない。“絶対に負けられない闘い”ですね」
同じくウーバー配達員の怜音さんも負けられない闘いの真っ只中。10月末、営業終わりの日本料理店にその姿があった。
お客さんのいない店内で1人黙々と皿洗いにまな板の手入れをする怜音さん。
(怜音さん)「お客さんの前に出るのは良くないなということで”締め作業だけ”やらせてもらっています。やっぱり飲食店をやりたいなら飲食業に関わっていないといけないと思うので、お片付けだけでもいいし、携われることに意味があるのかなと思っている」
目の前には難しい現実が。それでも“同じ病気に悩む人が気軽に楽しめる店をつくりたい”少しずつでも前に進もうとする怜音さんだ。
(怜音さん)「日本のみんながチック症・トゥレット症を認知してもらうことが自分のゴールです」
今回取材をした多くのトゥレット症の当事者が、名前を出してカメラの前で話してくれた。その理由は皆同じだった。このうちの1人、酒井さんはこう話す。
「トゥレット症をみんなに知ってもらって、少しでも僕らに対する冷ややかな視線が和らげば嬉しいです。手が動いたり、声が出てしまう以外は僕も皆さんと同じなんですよ」
勇気を出して取材に応じてくれた彼らの“思い”に応えるためにも、私は取材を続けていきたい。
取材:CBCテレビ報道部柳瀬晴貴(25)福岡県出身 2019年法政大学経営学部卒業。CBCテレビに入社し、報道部で記者4年目。愛知県警担当や遊軍の記者として、殺人事件や不正車検の実態、ドン横キッズ問題などを追う。