厚生労働省は、塩野義製薬の軽症者向け飲み薬「ゾコーバ」を医療現場で実用化するため、緊急承認制度を22日に初めて適用した。感染症の大流行時に迅速な実用化を可能とするため5月に創設されたばかりの制度だが、運用では課題も浮き彫りになった。
【写真で振り返るコロナ禍】防護服で抱擁、猫もマスク 緊急承認の適用の可否について審議を担ったのは厚労省の薬事分科会などの合同会議。ゾコーバを巡っての開催は7月に続いて2回目で、専門家32人が出席し、約2時間の議論はウェブサイトで公開された。

「合同会議は(緊急承認判断の)ゲートキーパー(門番)として果たすべき役割を果たしておらず、明らかに失敗だ」。会議を視聴した東京大の小野俊介准教授(薬学)は厳しい口調で語る。 緊急承認は、緊急時に他に承認されている薬がないなどの条件で、有効性が「推定」できた段階での医薬品の実用化を認めるもの。ただ、厚労省が新制度の運用開始時に策定した「考え方」では適用基準が抽象的だ。ゾコーバが要件を満たすかどうか、各委員がどのような観点で判断するかが注目された。 だが、審議は深まらなかった。実用化済みの米企業製の飲み薬を念頭に、委員の1人が「代替手段はある」などと述べる場面はあったが、厚労省の担当者が「重症化リスクのない患者にも投与できる治療薬は、既存のものではない」と反論した程度。代替薬があるか、必要性をどう考えるかといった観点で、他の委員の見解は示されなかった。 別の委員から「この薬を緊急承認することで、臨床現場で苦しむ感染者にどういったメリットが期待できるか」との問いかけもあった。だが、承認する場合としない場合の利益、不利益の検討もされなかった。 小野准教授は「今は本当に緊急時か、緊急時に期待される『有効性』とは何か、類似薬の状況はどうか、一つ一つ検証が必要だが、どの点も議論が尽くされていない」と指摘。「政府が緊急承認制度を使うということだけに固執した印象だ」として「運用の見直しを逃げずに議論すべきだ」と注文する。 感染症に詳しい大石和徳・富山県衛生研究所長も残された課題に言及する。ゾコーバへの緊急承認の適用は「順当な判断」としつつ、いわば「仮免許」と考えるべきだと指摘。緊急承認の期限である1年の間に、企業側にどのようなデータの追加提出を求めるべきか、合同会議で詰められていないとする。 特に、後遺症の予防効果や他の薬との併用制限のあり方などは、臨床現場で処方の判断をする際の重要な情報になるとして、「1年猶予があるのだから、厚労省としてしっかり準備し、企業と連携して新薬の可能性を探るべきだ」と語った。【横田愛】
緊急承認の適用の可否について審議を担ったのは厚労省の薬事分科会などの合同会議。ゾコーバを巡っての開催は7月に続いて2回目で、専門家32人が出席し、約2時間の議論はウェブサイトで公開された。
「合同会議は(緊急承認判断の)ゲートキーパー(門番)として果たすべき役割を果たしておらず、明らかに失敗だ」。会議を視聴した東京大の小野俊介准教授(薬学)は厳しい口調で語る。
緊急承認は、緊急時に他に承認されている薬がないなどの条件で、有効性が「推定」できた段階での医薬品の実用化を認めるもの。ただ、厚労省が新制度の運用開始時に策定した「考え方」では適用基準が抽象的だ。ゾコーバが要件を満たすかどうか、各委員がどのような観点で判断するかが注目された。
だが、審議は深まらなかった。実用化済みの米企業製の飲み薬を念頭に、委員の1人が「代替手段はある」などと述べる場面はあったが、厚労省の担当者が「重症化リスクのない患者にも投与できる治療薬は、既存のものではない」と反論した程度。代替薬があるか、必要性をどう考えるかといった観点で、他の委員の見解は示されなかった。
別の委員から「この薬を緊急承認することで、臨床現場で苦しむ感染者にどういったメリットが期待できるか」との問いかけもあった。だが、承認する場合としない場合の利益、不利益の検討もされなかった。
小野准教授は「今は本当に緊急時か、緊急時に期待される『有効性』とは何か、類似薬の状況はどうか、一つ一つ検証が必要だが、どの点も議論が尽くされていない」と指摘。「政府が緊急承認制度を使うということだけに固執した印象だ」として「運用の見直しを逃げずに議論すべきだ」と注文する。
感染症に詳しい大石和徳・富山県衛生研究所長も残された課題に言及する。ゾコーバへの緊急承認の適用は「順当な判断」としつつ、いわば「仮免許」と考えるべきだと指摘。緊急承認の期限である1年の間に、企業側にどのようなデータの追加提出を求めるべきか、合同会議で詰められていないとする。
特に、後遺症の予防効果や他の薬との併用制限のあり方などは、臨床現場で処方の判断をする際の重要な情報になるとして、「1年猶予があるのだから、厚労省としてしっかり準備し、企業と連携して新薬の可能性を探るべきだ」と語った。【横田愛】