飲食業は、ほかの業界と比べると料理や接客など、客側から良い面も悪い面も評価をされるケースが多い。客優位な関係が根底にあるためか、迷惑客が後を絶たない。特に居酒屋の場合はお酒も入り、“お金を払うのならばこれくらい大丈夫”という気持ちが芽生えるのかもしれない。
都内で和風居酒屋を夫婦で営む藤本哲郎さん(45歳・仮名)は、「これから年末にかけては忘年会のシーズン。コロナ禍で大人数での会食は減ったものの、お酒が入るとお客さんの気が大きくなると思うと憂うつです」と語る。哲郎さんがこれまで遭遇した忘れられない客は、どのようなことを行ったのだろうか。 ◆目の前でクチコミサイトに悪い評価を投稿するカップル
哲郎さんの父は洋食屋のシェフだったが、彼は大学卒業後に焼き鳥のチェーン系居酒屋に就職をした。そこでは経営ノウハウや料理を学び、実家の店を継いだのちは和風居酒屋としてリニューアルした。
高齢の父に代わって、今は哲郎さんと、4歳年下の妻で家族経営をしている。
「40代で自分の店を持てたのは良かったのですが、個人経営の店だからかお客さんも態度が横柄な人が来ることも多くて……。地元客がほとんどなので、何かあってもあまり事を荒立てたくないと思って。お客さんの要望を受け入れてしまうこともあるんです」 哲郎さんは「最近は、SNSやクチコミサイトでの書き込みをわざとわかるように目の前でするんですよね」と困惑する。
◆スマホをいじりだすカップル
ある時、若いカップルが店先をうろちょろしていた。通りすがりのようで、店内に客がいるのを確認して入ってきたという。
「平日のランチタイムは、近所のサラリーマンやママ友たちなど、地元の常連客が多い。ちょうどテーブル席がほぼ常連客で埋まった状態の中に、カップルが入ってきたんです。そんな中、常連客が “お父さんは元気?”って聞いてきました。
常連を優先していたわけではなかったのですが、父が夏に熱中症で倒れてから店の手伝いを休んでいるのを心配してくれていたので、ちょっと雑談をしていた。それが気に食わなかったのか、目の前でカップル客がスマホをいじりはじめ、『Googleマップ』のクチコミに悪いコメントを投稿していたんです」
◆店側はクチコミが気になる
個人経営の飲食店は、あまりにも評価が低いと客入りに影響するため『食べログ』や『Googleマップ』の評価が気になるようだ。
「あまりに悪質なレビューだと消すこともできる(削除の依頼もできる)のですが、“お客は多く見えたが身内だけだった”とか、“店内のテレビが小さくて見づらい”というコメントだと、微妙に嘘ではないので消すに消せず……。投稿するお客さんは、こちらをチラ見しながら熱心にスマホをいじりだすので、コメントを書いているのもわかるんですよね」 ◆記念日用のスイーツプレートにワガママを言う女性客
今はSNSで簡単に悪評も拡散されてしまうため、多少の迷惑な行為には目をつぶり、丁寧に対応しなければならないそうだ。
「じつはお客さんの中で、“この日が記念日だ”という予約の電話を年に何度もしてくる女性がいるんです……。うちの店にはお祝い用にプチスイーツの盛り合わせのプレートがあるのですが、そこに盛り付けるスイーツを“それは前に食べたから違うのがいい”と指定してくるんですよ……。何回、記念日があるんだよって思いながら対応していますけどね」 肝が据わった客がいるものだと驚かされるが、店側に金額以上のサービスを求めるツワモノも後を絶たない。
◆割引券目当てにイチャモンをつける客も
「うちは焼き鳥を一本から注文できますが、“わざと”焼き鳥を一本ずつ注文するお客さんがいます。一本ずつだと逆に手間がかかり、それを“料理の提供が遅い”と言って、アイス無料券などを欲しがる。最初に“焼き物は時間がかかります”と伝えてあるのに……。うちの店が嫌なのかと思ったら、なぜかまた店に来るんですよね。
あと、意外に多いのが、帰り際にレジで“味が薄かった”、“焼き鳥が冷めていた”など、確認ができないような文句を言う客。“なにかサービスしてくれるならいいよ”という感じで次回に使える割引券を欲しがるんですよ。もう一回来ると思うと、クーポン券の類は本音としては渡したくないんですけれど」
コロナ禍で縮小傾向でも、年末年始はなにかと飲み会が増える。お酒の席では、店側に傍若無人なふるまいはしないように気をつけたいものだ。
<取材・文/池守りぜね>
―[店員が語る困ったモンスター客]―