JAの共済事業で職員の不適切な「自腹契約」が相次いでいる問題を巡り、農林水産省は7日に監督を強化する方針を打ち出した。現場の職員の間には「ようやく国が動いた」との期待の一方、「形だけに終わるのではないか」との懐疑的な見方もある。自腹契約の背景にある厳しい営業ノルマは顧客に対する不正営業にもつながっている。識者は「今回の改正で、金融事業に過度に依存するJAの体質まで改善できるのか注目したい」と話す。
農水省が公表した監督指針の改正案は、ノルマ達成のために上司が自腹契約を促す行為などを明確に不祥事と位置づける。福岡県のJA職員は「身の回りでも、同僚たちが不必要な自腹契約を強いられている。改正案に照らせば、多くのJAが監督対象に当てはまるのではないか」と話した。
九州の別の男性職員が所属するJAでは、共済担当ではない職員にも目標が課せられる。男性も共済担当ではなく、営業の知識や機会がないため、達成のためには毎年、自身や家族が加入するしかないという。
男性も含め、幼い子に不必要な医療共済を掛けたり、祖父母に高額な掛け金を負担してもらったりする行為が横行していると説明。家族分も合わせて毎月の負担が20万円に上る同僚もいるといい、「実質的に給料から掛け金が天引きされているような状態。ノルマによって働きがいが失われ、若手が次々に辞めている。職員を大切にするJAに変わってほしい」と語った。
岡山県のJAで勤務する職員は共済担当。上司から自腹契約を明確に指示されることはないものの「ノルマは支店単位でも課されているので、自分が足を引っ張るわけにはいかないと考え、暗黙の了解で自腹契約が行われている」と話す。
この職員は「地道な営業では間に合わないので、自腹契約をするか、無理を言ってでもなじみの顧客に追加で加入をお願いするしかない。自腹契約をなくすだけではなく、目標自体を適正な水準に見直してほしい」と訴えた。
農水省が本格的に監督強化に乗り出すのか疑問視する声も上がった。
職員らは「自腹契約の問題は長年の悪習として続いてきたので、農水省が知らなかったはずはない」と口をそろえる。農水省OBでキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「農水省とJAの関係は、政策を進める上で持ちつ持たれつの側面があり、問題が黙認されてきたのではないか。実効性のある監督が行われるか、注視し続ける必要がある」と指摘する。
実際の監督業務は都道府県が担うことになる。福岡県の担当者は「自腹契約は、職員が希望して加入したのか見極めが難しい。どう判断すべきなのか、国の考えを聞いて適切に対応したい」と話した。 (宮崎拓朗、小林稔子、竹次稔)
全国のJAが手がける共済事業を巡り、職員から「厳しいノルマで無理な営業を強いられた」といった証言が相次いでいる。利用者が金銭的被害を受けた架空契約や、職員が自ら加入する「自爆営業」が明るみに出たJAでは、第三者が入った調査でノルマが不正の原因だと指摘された。