東京屈指の高級住宅地で、まるでバブル期のような荒っぽい手口の地上げトラブルがあった。
「バンザイ」 「持久戦」 「卵育て中」
ブルーシートで覆われた建物には、スプレーで落書きがなされ、天井からが生魚が吊るされている。周囲には異臭が漂い、住人の大多数がすでに引っ越しをしているというから、穏やかではない。
「ここまで露骨なのは久しぶりに見ました。ただ、不動産業界は都心に限っていえば価格がものすごい勢いで上昇していますし、建築資材の高騰もあって業界内では過当競争が起きているという見方もできる。それに伴い、“悪しき慣習”が表面化し始めている」(不動産業者)
この不動産業者が問題視するのは、建物そのものの問題だ。特に近年、目立って増えてきたのが、住宅メーカーと購入者との間のトラブル。訴訟も頻発しているのだという。
◆新築なのに床下はカビだらけ。それでも非を認めない会社
たとえば今、SNSで「炎上」しているのが、この10年間で驚異的な売り上げ伸び率を誇る、注文住宅メーカーのA工務店を巡るさまざまな「悪い噂」だ。筆者は実際にトラブルに遭った関係者などに接触。彼らのやり口に関する証言を得た。
かつて友人がA工務店との間でトラブルになったことがあり、相談に乗っていたというB氏の証言。
「A工務店は注文住宅の販売を中心に伸びてきた会社です。サラリーマンでも手を出しやすい価格帯が特徴で、私の友人は3000万円ほどの予算でA工務店に依頼したというのですが……」
数か月後、念願だった「夢の注文住宅」が完成。しかし、その出来上がりを見た友人は唖然とすることに。
「寝室の壁の下部にカビのようなものが見つかったのです。慌てて工務店側に診断を依頼したのですが拒否され、仕方なく自腹で専門家を雇って調査したところ、床下には、びっしりカビが生えていたそうで……。『新築なのになぜこんなことになるのか?』と、友人はすぐにA工務店に抗議しました。でも、当初はまともに取り合ってもらえなかったとか」
A工務店の担当者は当初、
「ウチの住宅は高気密、高断熱が売りなので湿気がこもりがち。建築中の天候などによってはカビが生えることもありえる」
と話したが、あくまで「不可抗力」と言い募り、非を認めようとしなかったという。B氏は続ける。
「交渉の末、工務店側がカビ除去の作業をすることで話がついたそうですが、完成から数か月たっても入居できない状態に。当然、その間の家賃もかさみます。そもそも大金をかけたマイホームが最初からカビだらけだなんて、いくら除去したといっても気分がいいものではないし、また発生したらどうしようと精神的に参っている」
◆カビの発生はグレーゾーン。「説明義務違反」の場合も
A工務店側に法的責任は生じないのか。不動産や住宅を巡るトラブルに詳しいタイラカ総合法律事務所弁護士の平山剛氏は言う。
「住宅関係の係争で非常に難しいものの1つにカビ問題があります。似たような事例に雨漏りがありますが、事象が一目瞭然のため、ほぼ100パーセント補償されます。しかしカビのトラブルは法的にグレーゾーン。仮に訴訟になった場合、裁判所はある程度は仕方ないという判断になりがちです。設計上、施工上で明らかなミスがあり、それが直接原因となってカビが発生したと証明できなければ、なかなか難しいものがあると思います」
しかし、業者側が施工前、施工中に「カビ発生の可能性」を把握していた場合、それを客に隠していると「説明義務違反」となり、業者側に責任問題が生じ得るとも平山氏は語る。

・契約を取りたいばかりに、営業マンが平気で嘘をつく。たとえばサービスでカーポートを設置すると言ってきたのに不実行。問い詰めると「そんな約束してねえだろ」とヤクザちっくな口調で脅された。・大手住宅メーカーから引き抜かれた社員が半数を占めると営業マンが言っていた。・設計前の打ち合わせで営業マンが明らかに建築をよくわかっていないことが判明。何度か図面の書き直しを依頼しているうちに、「またですか?」とこちらを責めるような言い方をしてきた。地盤が緩い土地なので補強工事を依頼したのに「予算オーバー」という理由で追加の契約金を要求された。・工事が長引き、会社にクレームを入れようと電話したが、「担当者は留守」の一点張り。
◆モラルなき営業部隊が原因。顧客データの持ち出し疑惑も
こうしたトラブルの背景には何があるのか。前出の不動産業者はこう語る。
「注文住宅の購入において一番大切なのは、どのような家にするかという事前の打ち合わせです。真っ当な業者の場合、設計士が直接客と話し合って、詳細を詰めていくのですが、この業者さん場合、営業マンがこれらの作業をすべてやっているのでしょう。上っ面の知識しかなく、きちんと対応できていない様子がうかがえます。注文住宅なのに客の注文をことごとく『予算的に無理』などと言い訳して、やろうとしないのは典型ですね」
別の住宅メーカーの社員にも話を聞くと、A工務店の体質についてこう語った。
「A工務店の強引な営業手法は業界でも有名です。そもそも営業マンは中途採用が多く、条件のいい歩合をちらつかせて、他社から社員を引き抜いた人員が主。売り上げ至上主義なので、建った後のことよりも目先の数字を優先するのでしょうね。また、退社した会社の顧客情報などを持ち出させたりもしていると、A工務店の関係者に聞いたことがあります」
この話が本当なら、法的にどうなるのか。前出の平山弁護士の見解。
「持ち出した情報が企業の機密情報に当たるかどうかがひとつのポイントになります。厳重なセキュリティ管理のもとで保護された情報を持ち出せば、その人間は不正競争防止法違反となり、刑事罰の対象になる。また仮にA工務店側が引き抜き予定の他社の社員に持ち出しを要求していたとしたら、工務店側も共犯として罰せられる可能性が高い。さらに実際にそのデータを使用したら、それも罰せられます」
こうした「疑惑」にたいしてA工務店側に見解を聞いたが、取材期限までに返答はなかった。 ◆急激な成長の裏で……
調べてみると、サラリーマンから独立起業したという触れ込みの創業者が、各大手住宅メーカーが注文住宅事業を縮小する中で、創業10年余りで売上数百億円の企業に育て上げたという業歴は驚愕するばかり。
だが、こうした急激な成長の裏ではかならず歪みが生じる。A工務店の営業マンがやたらとネット上で叩かれているのは強引な引き抜きを重ねた“即席組織”による弊害ではないか。
これだけの売上を誇り、住宅業界でも異質な風雲児といわれる同社だが、創業者が表に出てくることはなく、取材対応も拒否とあっては、同社の謎は深まるばかり。
マイホームの購入とは、庶民にとって「一生の買い物」。注文住宅となればなおさらだろう。それを踏みにじるようなA工務店のやり口はけっして許されることではない。