「夏の遺体は2日で腐敗」遺品整理・特殊清掃のプロが見た年々増加している“孤独死”の現状

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今年5月、警察庁が独居状態で亡くなった65歳以上の高齢者数を初めて発表した。その数は3か月で1万7034人(2024年1~3月・暫定値)。年間にすると約6万8千人に上ると推計され、自宅などで誰にも看取られることなく息を引き取る高齢者の多さは衝撃を与えた。
【写真】74歳男性の終のすみかは“空虚”な部屋だった
「年々、孤独死が増えているというデータも出ています」
そう話すのは、遺品整理や特殊清掃(遺体の発見が遅れた部屋等の原状回復を行う)などに携わり、数々の孤独死の現場に立ち会ってきた山村秀炯さん。依頼が来る事案の多くが、地域や家族と交流がなく、経済的にも困窮した60~70代だと話す。賃貸アパートが大半を占め、家賃滞納のまま亡くなって保証会社から依頼を受けることも少なくない。
「“ゴミ屋敷”状態の単身用アパートの部屋で人知れず亡くなっている方も少なくありません。室内を見ると、高齢ゆえに部屋の片付けや物の管理が難しくなり、周りの人とのコミュニケーションも億劫になっていったのかなと感じます」(山村さん、以下同)
とりわけ孤独死に関する依頼が増えるのは、夏。熱中症や脱水など室内でも死の引き金になる状況が起きやすいこともあるが、発見されやすいことも理由の一つだ。
「夏は高温多湿により2日ほどで遺体の腐敗が起こります。ニオイや虫が発生し、周囲が孤独死に気づきやすいのです」
腐敗していく遺体をすみかに、大量のハエが生まれては死んでを繰り返し、部屋中が真っ黒になることも。
「通報を受けて駆けつけた警察官や救急隊員さえも顔を背けたり、気分が悪くなってしまう現場はあります。そんななか、ご遺体はブルーシートで覆われて運び出されますが、まさかこんな形で最期を迎えるとは思わなかっただろうと、やるせない気持ちになります」
アパートやマンションの場合、なるべく周囲にニオイや虫を拡散させたくない貸主から、窓を閉め切った状態で部屋の清掃を依頼されることも多い。“慣れれば問題ない”とは言うものの、特に夏の特殊清掃は過酷を極める。腐敗が進み、体内にとどまれず流れ出た血液や体液が床などに染み込むと、それが他の部屋へ影響する場合もある。
「照明器具付近から悪臭のする液体が垂れてくるという連絡を受けて調べたら、真上の階の住人がトイレで亡くなっており、その体液が階下まで漏れ出ていたということもありました。
実は、トイレや玄関で亡くなられる方は多いんです。苦しくなりトイレに駆け込むか、外へ助けを求めるのかと。吐瀉物や血のついた手の跡など、もがき苦しんだ痕跡を見るのはつらいです」
逆に、ひっそりと亡くなり、発見まで時間を要した事案も。
「70代後半の姉妹のおふたり暮らしの一軒家でした。資産家の老姉妹で、住まいが立派な邸宅ゆえに外からは異変に気づきづらかったと思いますが、一歩中に入ると例に漏れず足の踏み場がないほどゴミであふれた状態。そんななか、おふたりとも寝室で亡くなっていました」
死後1か月以上。かなり腐敗し、生前の姿はわからないほど。約10年ぶりにこの家を訪れたという依頼者の弟さんはもちろん、誰からも亡くなったことに気づいてもらえず、ゴミに囲まれて朽ち果てたことは残念でしかない。
「遺品の整理を進めると、家じゅうのあちこちから現金の束が出てきました。ゴミに紛れて散在していたので、一緒に捨ててしまってもおかしくないほど。お金に不自由はしていなかったものの、部屋を片付ける気力も体力もなく、周囲からも完全に孤立していたのだろうと」
さらに、1年以上もの間、放置されていたケースも。そこには大量のハエの死骸とカラカラに乾いた遺体があった。
「時間がたちすぎるとニオイもかなり薄れるんです。生の痕跡がなくなるというか。早く見つけてもらいたかっただろうと思います」
遺体が放置された現場で不憫さを感じなかったことは一度もないと言い切る山村さん。
「冷蔵庫の中に“このあと食べようと思っていたんだろうな”と思える料理がそのまま残っていることも少なくありません。ある日突然、それまでの日常が途絶えるだけでもつらいのに、そのまま気づかれず、故人の意思なく処理されていくのは悲しすぎます」
旅行が趣味で乗車した列車の切符を大切に保管していた人、釣りの道具を並べていた人。そこに残るそれぞれの住人の生きた証しを見ると、無念さが強まると山村さん。なかには、十数万円で買い取りとなった立派な鉄道模型が残されていたこともあった。
お金に替えられるものがあれば買い取りに回し、保証会社への支払いに充てるなどできるが、それは稀なケース。ほとんどの遺品は引き取り手がなければゴミとして処分される。
「他人から見たらガラクタでも、本人にとっては宝物。生きる糧だったかもしれません。家族のものとおぼしき遺骨の骨壷が出てくることもありますが、こちらも“荷物”扱いされて処分対象。
さすがに、ゴミとしては扱えないので、お寺で合葬をしていただきますが、ちゃんと弔いたかっただろうなと思います」
一方、女性の部屋で多く見られるのは、大量の食品遺物。
「生活保護を受けていた76歳女性の部屋には、いたるところにレトルトカレーや即席のみそ汁、カップラーメンなど未開封の食品が山積みにされていました。どう考えてもひとりで食べ切れないような量で、すでに賞味期限が切れているものも。食べ物に囲まれることで安心感を得ていたのかもしれません」
逆に、物がなさすぎる“空虚”な部屋もあった。74歳男性の終のすみかには、最低限のものしかなかった。
「衣類は3着ほど、靴は2足。家具はテレビと小さな机くらい。何を楽しみに生きていたのだろうと、胸が詰まりました」
それでも、山村さんは孤独死につながるひとり暮らしを否定しているわけではない。
「“おひとりさま”を楽しむようなライフスタイルは、今の時代は特別なことではありません。ただ、孤独死の可能性を想定する必要があると思うのです」
自分が倒れたときに早く見つけてもらう、もし亡くなっても気づかれず放置されるのを防ぐため、コミュニティーを持つことが重要だと訴える。
「近所の人とあいさつをする程度でもいいので顔見知りになること。また、高齢の親のひとり暮らしの家の場合、室内にゴミが放置されていないか、外出はつっかけのような履き物だけで済ませていないか確認をしてください。
これらは、来客もなく、身なりを気にしなくなってきてもいる兆候なので、孤立した生活になっていないかどうかのバロメーターなのです」
取材・文/河端直子 画像提供/グッドサービス

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