「硫酸は危険と知らず、ヒリヒリするだけ」白金高輪駅“硫酸”襲撃 被告の“言い訳”に法廷衝撃 精神鑑定医「また事件を・・・」

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「硫酸が危険だとは聞いたことがなかった」。硫酸事件の被告人質問が今月18日、東京地裁で行われ、耳を疑うような言葉が花森弘卓被告(26)の口から出てきた。
花森被告は2つの罪で起訴されている。1つ目は、去年4月、大学の部室において、後輩の男性(以下「Aさん」)の両腕をつかんで転倒させ、顔面を拳で1回殴った暴行罪。2つ目は、白金高輪駅の構内で、Aさんとは別の後輩の男性(以下「Bさん」)に硫酸をかけて、全治3カ月のけがをさせた傷害罪で、花森被告は起訴内容を認めている。
「改めて反省しています」と述べてから始まった被告人質問。花森被告の口から語られたことを綴っていきたい。
花森被告は琉球大学に進学し、2年生のときに映画研究会のサークルに入った。そこでAさんやBさんと出会った。学年としては1つ下になる2人の印象を聞かれた花森被告は次のように答えた。
花森被告:AもBも口先がうまく嘘をつく。Aは子どもっぽい。Bは表面上優等生タイプ。自己顕示欲が強い。陰から人を操っていて、隙を見せると人をおとしめる。2人ともとても怖い。何をされるか分からない怖い存在。
基本的に花森被告の声は小さく、早口でとても聞き取りづらい。裁判長から何度も「大きく、ゆっくり話すように」と注意されていたほどだ。しかし、AさんやBさんの印象、されて嫌だったことなどについてはハキハキと話し、止まらないことから弁護人からも「もう大丈夫」と遮られていた。
そんな2人に殺されそうになったと花森被告は主張した。Aさんについては、車に乗っていたときにトラブルになり、降りて歩いていたら後ろから迫ってきて轢かれそうになった。Bさんについては、一緒に岬へ行った際、崖から突き落とされそうになったとしている。
本当にあった出来事なのか、思い込みなのかは争いがあるが、この出来事によって2人への不信感が高まっていったという。その後しばらくして花森被告は沖縄にいるのが嫌になり地元の静岡に戻った。
静岡に戻った花森被告はAさんやBさんのことも気にならず1年ほど穏やかに過ごしていた。しかし、家の片付けをせず、ガレージも開けっぱなしで生活していたころ、叔父から「不審者に入ってこられる」と注意されると、不審者をAさんやBさんと結びつけ、恐怖を抱くようになり、2人に家に来ていないか確認したいと考えるようになったという。
弁護人:2021年2月頃、硫酸を作り始めた?花森被告:はい弁護人:理由は?花森被告:襲ってきた時の防衛手段として作った弁護人:どうして硫酸だった?花森被告:人を殺すことはないけれど、不快感を与えるようなものだと思った弁護人:硫酸はどういうものだと思っていた?花森被告:かけられるとヒリヒリしたり腫れたり、不快を感じるもの
「ヒリヒリしたり腫れたりする程度」硫酸をそう表現した花森被告。この件については検察官や裁判長からも質問が相次いだ。
検察官:硫酸は劇薬の一つだが知っている?花森被告:そこまでは知らなかった。検察官:やけどを負うことは?花森被告:分かっていなかった検察官:犯行時手袋をしていたが、危ないと分かっていたのではないか?花森被告:作り方を解説していたYouTubeの動画で手袋をしていたので検察官:理系なのに硫酸に対する認識が甘いのでは?花森被告:使う実験はしていないので
裁判長:硫酸については学校の理科の時間で教えてもらうが記憶にない?花森被告:使った覚えはない裁判長:教わった覚えは?花森被告:授業では出てきた覚えはあるが、よく分からない裁判長:危険な物質であることは?花森被告:硫酸が危険とかは聞いたことがなかった
「硫酸が危険だと聞いたことがなかった」と述べた花森被告。しかし、検察官はパソコンから「アシッドアタック」「濃硫酸・希硫酸 違い」「硫酸 顔」といった検索履歴が見つかったと指摘。それでも花森被告は「詳しくは覚えていない」と答えた。硫酸事件当日についても質問が相次いだ。
弁護人:事件当日、静岡から東京に向かった理由は?花森被告:今日でBと縁を切って関わらないようにしたいと思った弁護人:持参した物は?花森被告:硫酸と着替えと財布など弁護人:硫酸は使わない選択肢もあった?花森被告:話し合いだけで済む可能性もあった弁護人:Bさんの職場近くで数時間待っている間、何を考えていた?花森被告:特に何も考えていない。ぼーっとしていた弁護人:硫酸を使うか使わないかどう考えていた?花森被告:最初は話そうかと考えたが、B本人を見ると過去のことを思い出してパニックになった
弁護人:硫酸をかけたときの心境は?花森被告:もう二度と関わらないでほしいという警告の思いだった検察官:どうしてあの場所で硫酸をかけた?花森被告:特に理由はないです検察官:どうしてあのタイミングでかけた?花森被告:それもちょっと分からないです検察官:顔のあたりを狙った理由は?花森被告:特に理由はないです検察官:失明の可能性もあったが?花森被告:分からなかったです
硫酸に関する質問には「よく覚えていない」という答えが多かった花森被告。本当のことを知りたいと願っていた被害者の願いが叶ったとは言えない状態だった。
20日には花森被告の精神鑑定を担当した医師が証言した。医師は「花森被告に刑事責任能力に問題はない」と判断している。そのうえで犯行当時、自閉スペクトラム症とPTSDを有していたと診断。
これらの影響で一つのことに固執する傾向があり、ため込んだ感情を爆発することがあるという。花森被告の場合は「AさんやBさんが家に来たのか確認したい」という思いにとりつかれたことになる。
またPTSDにより、過去に殺されそうになったAさんやBさんへの“おびえ”が強い状態だったという。そのような状態で、Bさんに直接会った花森被告は、「家に来たかどうか」を確認したが、Bさんが「しらばっくれた態度を取った」と誤解。
その結果、「何かされるかもしれない」という思いが高まり、こうした“おびえ”を排除するために、硫酸事件を起こしたと指摘した。
また、「今は落ち着いているが、AさんやBさんへのおびえが癒えているか分からない。誰かサポートする人がいないと、同じような事件や社会問題を引き起こしかねない」とも証言した。花森被告にはどのような刑罰が相当なのか、来年1月に論告求刑裁判が行われる予定だ。
(フジテレビ社会部・司法クラブ 高沢一輝)

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