【NHK「君の声が聴きたい」プロジェクト】「制服をなくしてほしい。生きてて一番つらかった」誰にも言えない10代のリアルな声

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「ありのまま生きよう」「多様性を認めよう」
テレビや雑誌で飛び交う言葉は、10代のリアルな目にはどう映っているのでしょうか。
2020年のユニセフによる「先進国の子どもの幸福度」の調査における「精神的幸福度」で日本は38カ国中37位という結果が発表されました。
この「精神的幸福度」の結果を受けて、NHKは2022年5月に「君の声が聴きたい」というプロジェクトを開始しました。番組で声を募集するにあたり、投げかけた質問はこの2つ。
「もしひとつだけ願いが叶うとしたら、あなたは何を願いますか?」
「大人や社会に対して、言いたいこと、お願いしたいこと、こうしてほしいと言うことはありますか?」
主要7カ国(G7)のうち日本だけが同性婚が法律的に認められていないことについて「これだけ声を上げている人がいるのに国が動かなければ、国が差別しているのと一緒ではないのだろうか」と語るのは15歳の女の子です。
将来自分の好きな人と結婚できない社会で、10代の子どもたちは何を感じ、何を話したいのか。
抜粋記事第3回は『君の声が聴きたい』(双葉社)からジェンダーについて、声を抜粋してお伝えします。
ありのままの自分を認めてもらいたい。
自分は多分トランスジェンダー男性(体は女性、心が男性)だと思います。でも、それを打ち明けたのは数人の大人だけで、友だちなどにはまだ話していません。もしバラされてしまったり、からかわれたりしたら嫌だし、理解してくれたとしてもその友だちは秘密を守らなければならないため、負担になってしまうのでは、といろいろ考えてしまうのです。
学校では「お前オカマかよw キモっww」とか、「俺ホモじゃないしww」「〇〇ってレズなの?w」などという声が当たり前のように聞こえます。だから余計に誰にも性別のことが話せません。いくら男性っぽく振る舞っても、いくら男子と仲良くしていても、他の男子とは違って、男性にはなれなくて、「俺」ではなく「私」を使うのが当たり前で、セーラー服を着て、習い事の関係で髪は長くて、女子として扱われ、性別を聞かれたら「女性」と答えなければいけない。
体以外は他の男子と何も変わらないのに、体の違いだけでこんなに区別されてしまう。どんなに努力しても自分は女性であることが変わることはなく、「男性になる」というたったひとつの大きな願いは叶うことはない。そう思うと、すべての努力が無駄に思えてきてしまいました。
なぜ、自分は多くの人は気にしていない性別のことをこんなに気にしなければいけないのか、ただ少数者だからという理由で区別され、「理解がある人」に気を使われなければならないのか。
ただ自分はトランスジェンダー男性ではなく、ひとりの普通の男性になりたいだけです。だから、胸を張って「自分は男性だ」と言える、そんなありのままの自分が認
められるようになってほしいと思います。
Leo( 14歳・無回答・静岡県)
制服をなくしてほしい。
女子はスカート、男子はズボンという縛りが、小学校で、生きてきて一番つらかったから。
猫野てた。( 11歳・不定性・山口県)
正しいジェンダー教育をしてほしい。
LGBTQ+とかが教科書に載るようになった。だけど生徒も先生も、どこか他人事として捉えている印象がある。LGBTQ+について単語だけ知っていても、アウティング(※)について知らなかったり、生まれつきも途中からもあるってことを知らなかったりする。教科書やテレビのなかだけで身近にはいないと思ってる人もいる。
この前、トランスジェンダーでオリンピック重量挙げに出た選手のことを、彼女ではなく彼と呼んだ先輩がいた。決して悪意があるわけではないと思うけど、その人の生き方と同時に自分の生き方まで否定された気がして苦しかった。
自分は女の子として生まれたけれど、女の子とは思われたくない。そう言うと他の人からは男の子になりたいの? と聞かれる。なんで女の子と男の子しか選択肢がないんだろう。それ以外の選択肢があるということを学校でもしっかりと教えてほしい。
先生たちも自分が今教えているこの教室にもいるかもしれない、ということを念頭に置いて授業をしてほしい。
T( 16歳・ノンバイナリー・神奈川県)
※アウティング:他人の性自認や性的指向を当事者の許可なく、第三者に言いふらすなどして暴露すること。暴露された当事者に差別の対象となる恐怖を抱かせるなど、その精神的苦痛は計り知れず、最悪の場合本人の命に関わる問題となる。
好きな人と結婚したい。
高校1年生の頃から付き合って3年目の彼女がいます。彼女自身はXジェンダーなのですが、身体的には女性のため、現在の日本の法律上では異性婚と同様の法律婚はできません。その現状には何が問題になるのか考えるために、高校3年生の1年間をかけて同性婚と法律について研究し、大学も法学部に進学します。
すぐに日本が変わるとは思わないけど、先日の東京地裁の判決(※)のように着実に一歩ずつ進んでいるのは事実だと思います。だからこそ、私は今付き合っている彼女と結婚したいです。
はつねん( 18歳・女性・神奈川県)
※東京地裁の判決 2022年11月30日、東京地方裁判所は同性婚訴訟において、「現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法 条2項に違反する状態にある」とする判決を言い渡した。
1%でもいいから自分と血のつながった子どもをもてる可能性がほしい。
性別を変えるには「生殖腺の機能を永続的に欠く」必要があるという残酷な日本の法律のせいで、私は不本意に子宮と卵巣を摘出して完全に生殖能力を失ってしまったから。お金があって卵子凍結をできていれば0%ではなかった。
しかし私はつい最近まで未成年だったし、親にもそんなお金はなくできなかった。なので、私が遺伝上の子どもを育てられる可能性は、現在の技術のうえでは完全なゼロになってしまった。
私は他のトランス男性についての「たまたま子どもを産むことができた男性」という表現を見て、自分もそう生きればいいと思った。しかし、現実には日本の法がそれを阻んだ。
生産性( 18歳・トランス男性・東京都)
同性婚を国が認めて、生きやすい世の中にしてほしい。
これだけ声を上げている人がいるのに国が動かなければ、国が差別しているのと一緒ではないのだろうか。
いくらLGBTQという言葉が広がっても根本的なところを変えなければ誰もが安心して過ごせる世界にはならないと思う。
いつか好きなタイプを言うのと同じように、同性が好きであるということを普通に言える世の中になってほしい。男女の恋愛ドラマだけでなく、男性同士、女性同士の恋愛ドラマが普通に放送されるようになることを心の底から願っている。
ずっと一緒にいたいと願う人たちの幸せを国が阻害するような世の中にはならないでほしい。差別する心を変えられなくとも、法律は変えることができるから。
マミィ( 15歳・女性・兵庫県)
※LGBTQ:性的少数者であるレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クイア/クエスチョニングの頭文字。
NHKの「君の声が聴きたい」プロジェクトは、子どもの問題に関心をもつ一部の職員が集まったことがもとになっていますが、今はより広い範囲に浸透しつつあるように思います。
当初は「若い世代の精神的幸福度を改善するために大人にできることを考える」と言うテーマが重要視されていましたが、プロジェクトが進むにつれ、「子どもの声を聴く」と言う行為それ自体の大切さに共感が集まっていることを感じています。
番組を通して痛感したのは、「今の社会には子どもたちの声を聴く場所が圧倒的に足りない」ということでした。学校での人間関係や不登校など、子どもたちはさまざまな悩みを抱えていますが、取材を進めながら。もしも子どもたちのそばにいる保護者や先生たち、行政の人がしっかりと彼らの声を聴いて入れば、ここまで問題が深刻化せずに済んだのではないだろうか、と感じるケースも多々ありました。
本プロジェクトで個人的に印象に残っているエピソードがあります。
内村光良さんが出演されているコント番組「LIFE!」で「こども川柳」という企画がありました。全国の小中学生から募集した川柳を番組のなかで紹介したり、コント仕立てにして発表したりするというものだったのですが、川柳を採用された不登校の子が、この番組がきっかけで学校に行けるようになったということを、後日取材スタッフから聞いたのです。
自分の川柳が採用されたことが自信になったのかどうか、本人に聞いたわけではありません。その子が不登校になった理由はわかりませんし、根本的な解決には至ってないのかもしれません。けれど、自分の声が誰かにちゃんと届いたと思えることは、それくらい人を勇気づけることのできるものなのだ……と実感できた出来事でした。
たくさんの子どもたちが、番組を通して信頼して切実な声を届けてくれた。それはとてもすごいことだと思いますし、私たちにはその声に応えていく責任があると感じています。その自覚をもって、これからもこのプロジェクトを前に進めていきたいと思っています。
【2024年もプロジェクトは大きくキャンペーンを展開】
NHKでは、2024年5月1日~6日の6日間に渡って総合、Eテレ、FMの各放送波の特性を生かしながら若者たちのリアルな声に耳を傾けるキャンペーンを展開。親子を見つめ直すためのキーワードとして「アタッチメント(愛着)」を掲げ、1日の「あさイチ」、を皮切りに、3日の「LIFE!春 君の声が聴きたいSP」では、キャンペーンのプロジェクトメンバーである内村光良さんを中心に、子どもたちの声にコントで応える特別企画など、拡大版放送されます。
日本の若者が幸せを感じない理由は?NHK「君の声が聴きたい」に寄せられた声

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