【宝塚パワハラ騒動】和解発表も劇団側と遺族との間には“認識の乖離” 頑なにパワハラを認めず、謝罪もしない上級生の心情

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いまから9年前、憧れの舞台で大輪の花を咲かせようと音楽学校の門をくぐった少女が、努力の末にたどり着いたステージに絶望し、夢半ばで命を絶ってから約半年。伝統ある歌劇団の根幹を揺さぶった騒動も一応の決着を見たが、当事者の中にはその結末に納得いかない者もいるようだ──。
【写真】有愛きいさんが亡くなる前に母親に送ったLINE、謝罪する宝塚の村上浩爾理事長ら
《いくら指導という言葉に置き換えようとしても、置き換えられない行為。それがパワハラです》《姉が受けた行為は、パワハラ以外の何ものでもありません。宝塚は治外法権の場所ではありません。宝塚だから許される事など一つもないのです》
今年2月、自身も現役タカラジェンヌである遺族が発していた決意の言葉。こうした悲痛な叫びが、“治外法権”と化していた劇団の体制にメスを入れることになった。
3月28日、宝塚歌劇団と運営会社の阪急電鉄、そして親会社である阪急阪神ホールディングスは、昨年9月に亡くなった元タカラジェンヌの有愛きいさん(享年25)の遺族に対し、劇団内でのパワハラを認め謝罪し、和解したと発表した。
全国紙社会部記者が解説する。
「宙組に所属していた有愛さんは、上級生たちからの“指導”と称するパワハラと長時間労働を苦に、公演期間中に自殺しました。
これまで有愛さんの遺族側は劇団内での15のパワハラ行為の存在を主張。過重労働とパワハラによって精神的に追い詰められていたとして、劇団に補償と謝罪を求めていました。
一方の劇団側は過重労働の存在や安全配慮義務違反については早期に認めていましたが、パワハラの存在は頑なに否定。昨年11月に公表した調査報告書でも『パワハラの存在はなかった』と結論づけたのです」
こうした劇団側の姿勢に、遺族は強硬に反発。
遺族側と劇団側の話し合いは平行線をたどり、和解は暗礁に乗り上げたかにみえたが急転直下、年度末を前に劇団側が歩み寄る姿勢をみせた。背景には劇団の抱える事情があったという。
「2024年は劇団の110周年という節目の年なのですが、有愛さんが所属していた宙組の公演再開のめどが立たないことや、宝塚音楽学校の志望者が激減したことなど、劇団の運営に影響が出ていたのです」(前出・社会部記者)
宝塚音楽学校の今年度の入学試験の倍率は12倍で、2000年以降最小を記録。さらに、一連の対応をめぐっては内外から批判が噴出し、劇団の母体である阪急阪神グループのイメージも毀損するという懸念もあったようだ。
和解に際しては、有愛さんへのパワハラの当事者とされる10人のうち6人から、遺族側に謝罪の手紙が送られたという。
「遺族側の代理人である弁護士は会見を開き、この日には間に合わなかったが、手紙での謝罪の意思を示している上級生がもう1人いると明かしました。
これはパワハラの当事者7人が謝罪したともとれるが、裏を返せば3人は手紙での謝罪を拒否したとも言えます」(別の社会部記者)
実際、宙組の上級生の中には、最後まで自身の言動は“指導”であり、断じてパワハラではないと主張する者もいた。
「謝罪を拒否した3人の内訳は、幹部上級生2人と上級生1人というところまでは会見で明かされました。
3人の中には生前の有愛さんを『マインドが足りない』『下級生の失敗は、すべてあんたのせいや』と激しく叱責していた幹部らが含まれるというのが、もっぱらの評判です」(前出・別の社会部記者)
一方で、パワハラを頑なに認めない上級生たちの心情を解説するのは、ある宝塚歌劇団のOGだ。
「長い伝統を誇る宝塚には厳しい上下関係が存在しますが、組ごとに雰囲気は違う。有愛さんが所属していた宙組が、下級生に対し必要以上に厳しく指導するようになったのは、実はここ5~6年のことなんです。
宙組の気質が変化した背景には、あるOGの存在があります。彼女は人気と実力を兼ね揃えたスターでしたが、音楽学校時代から下級生への当たりが厳しいことで知られていました」
そんな先輩のもとで鍛えられてきたのが、現在の宙組幹部たちだ。
「彼女たちからしてみれば、自分たちも経験してきた“当然の指導”が、有愛さんの死をきっかけにパワハラと認定された。これまで指導だと信じてきたことをパワハラだと受け入れるのは、自らの努力や経験を否定することにもつながり、耐えがたいものがあるのでしょう。それゆえに、最後までパワハラを否定し、『私は謝らない』と遺族への謝罪も拒否しているのです」(前出・宝塚OG)
組織として有愛さんへのパワハラを認めた劇団だが、個人の処分はしない方針だ。
「この点について、遺族側の弁護士は『個々のパワハラ行為の責任を減ずる側面もある』と語り、強い懸念を示していました。
一方で、阪急阪神ホールディングスの社長は会見で『悪意をもった行為ではないが、いまの世の中ではパワハラにあたる』という趣旨の話をするなど、和解しても両者のパワハラに対する認識にはいまだ乖離があることがうかがえました」(前出・社会部記者)
約半年の協議の末、事件にひとつの区切りをつけた有愛さんの母は、「訴え」と題したコメントを発表した。
《今更ながら、2年半前にヘアアイロンによる火傷があった時に泣き寝入りせず、声を上げれば良かった、昨年2月に劇団がヘアアイロンによる火傷の事実を「事実無根」と発表した時に抗議すれば良かったと、後悔してもしきれません。(中略)娘は決して弱かったわけでも、我慢が足りなかったわけでもありません。過酷な労働環境と、酷いパワハラの中でも、全力で、笑顔で舞台に立っていました。強く生きていました。私たちはそんな娘を誇りに思っています》
遺族にとって和解は免罪符ではない。宝塚歌劇団が組織風土の改善に本気で取り組むのかどうか、遺族の厳しい視線は注がれ続ける。
※女性セブン2024年4月18日号

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