【藤野 博】発達障害の子の会話は、なぜすれ違ってしまうのか…話し方の特徴を知れば、理由がわかる!

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いつの時代も、会話によるコミュニケーションは重要です。しかし、コミュニケーションに困難を抱え、学校でうまく会話ができずに悩んでいる発達障害の子がたくさんいます。相手の受け答えを聞かずに熱弁をふるってしまったり、相手の話を最後まで聞けなかったり……。
発達障害の子は、ほかの多くの子とは異なる、ユニークなコミュニケーションのスタイルをとっています。彼らに合った場面で、同じ波長の仲間となら、気持ちよく話ができることもあります。ですから、「うまく話すことより、楽しく話すこと」を目標にしてサポートしたいものです。
ここでは、『発達障害の子の「会話力」を楽しく育てる本』(藤野博監修、講談社刊)のエッセンスを、全8回にわたって紹介。発達科学の知見に基づきながら、発達障害の子が楽しく会話力を伸ばしていくためのヒントを探っていきましょう。今回は、発達障害の子の会話がなぜすれ違ってしまうのかを、会話の特徴と困難の背景からお伝えします。
発達障害の子の「会話力」を楽しく育てる 第3回
会話の研究者たちが一つひとつの言葉を分析し、会話には一定の型があることを明らかにしています。その研究をもとにして、発達障害の子が会話のどの部分を苦手にしているか、みていきましょう。
●自閉スペクトラム症の子の場合自閉スペクトラム症(ASD)の子は、自分の話したいことを語り続けるのは得意です。しかし、一方的になりがちで、会話のキャッチボールが苦手な傾向があります。相手に話しかけるタイミングがつかめない子もいます。また、「説明力」「解像度」「語用論」「協調性」「丁寧さ」など、さまざまな面にも特徴が現れます。
●注意欠如・多動症の子の場合注意欠如・多動症(ADHD) の子は、相手が初対面の人でも気安く話しかけ、言いたいことを気ままに語る傾向があります。しかし、相手と交互に話したり、話の内容を途中で確認したりするのが苦手で、そのため「説明力」がなかなか身につきません。
●学習障害の子の場合学習障害(LD) の子は、自分の考えを言葉や文章でうまく表現することが苦手な傾向があります。会話が全般的にゆっくりと進みますが、なかでも話しはじめることや、話を掘り下げることが苦手で「説明力」が弱くなりがちです。
自閉スペクトラム症(ASD)の子の会話は、「相手とのキャッチボールにならない」とよく言われます。言葉を一方的に投げかけるばかりで、相手の言葉を受けとらない印象があるのです。というのも、ASDの子には、自分の興味ややり方を優先しやすいという特徴があるからです。相手の話を無視しているのではなく、それ以上に自分の話に意識が向いているのです。
また、言葉の意味や話の内容にこだわる傾向があるため、テーマや目的のない雑談に応じることがとくに苦手です。したがって、雑談のなかで会話力を育てていくのは難しいでしょう。それよりも、趣味のグループなどに参加し、共通の話題があるなかで会話をくり返すほうが、よい経験になります。
【ASDの子の特徴】
●急に話しはじめる相手に突然話しかけることがある。また、その内容が相手への質問攻めだったり、趣味のマニアックな解説だったりして、会話のはじめ方としては不自然になる。
●一方的に話す相手が興味を示していなくても、おかまいなしに語り続ける。本で読んだような話をそのまま解説し続け、長い演説のようになることもある。
●相手の言葉をスルー
話しているときに相手が言葉をはさんでもスルーしたり、その発言をさえぎったりする。語ることに夢中になってしまう。
●話を元に戻せない相手の話と関係のないことを語り出したときに、自分でそのことに気づいたり、話を元に戻したりするのが難しい。
【ASDの子のすれ違いの背景】
〇相手の話をとり入れられない会話のなかで相手の発言を受け、その話をふくらませるような応答がうまくできない。
〇相槌を打つなどの反応が乏しい相手の話に「そうだね」「すごいね」などと適切な反応を返すことが少ない。
注意欠如・多動症(ADHD)の子は、会話の最中でもほかのことに気をとられると、急に話題を変えたり、会話に集中できなくなったりする傾向があります。そのため話がなかなかまとまりません。まわりの人が会話を「修復」する意識をもって、説明や理解を補うようにすると、話の乱れは減り、会話が成立しやすくなります。
学習障害(LD)の子の場合、受け答えにずれはなく、会話がキャッチボールとして成立しているようにみえても、本人が自分の気持ちをうまく表現できていないことがあります。
子どもが話を「継続」していけるように、まわりの人のほうから少し質問をして、じっくり話を聞くようにすると、本人が思いのたけを言えるようになります。
【ADHDの子の特徴】
●話が分散していく思いつきで話題を次々に変えていくことがある。話が広がっていくいっぽうで、なかなかまとまらない。そのため、まわりの子が会話についていけない。
●説明が中途半端になる会話の途中でほかのことに気をとられる。話が中途半端になり、伝えることも聞くことも十分にできない。
【ADHDの子のすれ違いの背景】
〇話を整理できないもっとも苦手なのは会話の「修復」で、話が乱れたときに元に戻すことができない。話の順番を待てないのも特徴のひとつ。
【LDの子の特徴】
●聞きもらしがある言葉や文章をスムーズに聞きとるのが苦手な子もいる。話の一部を聞きもらしたり、聞いてはいても理解できていなかったりする。
●言葉がうまく出てこない言いたいことはあっても、それを言葉や文章ですぐに表すことが苦手。
【LDの子のすれ違いの背景】
〇話を組み立てられない言葉や文章を扱うことに苦労しているため、会話分析でいう「継続」に困難が出る。言葉を重ねて、言いたいことをくわしく説明するのが苦手。
発達障害の子は、説明が苦手な傾向があります。ASD、ADHD、LDのいずれにも共通する困難で、多くの子が悩んでいます。
本人はいろいろとがんばって説明しているのに、その内容が家族や先生、友達にうまく伝わりません。要は、話がわかりにくいのですが、その様子は子どもによってさまざまです。話がいったりきたりする子、感情的で断片的になる子、説明をはしょる子など、いろいろな子がいます。なかには事実と空想をまぜて語る子もいます。
いずれの場合も、話の流れを整えるサポートが有効です。
【全タイプに共通する特徴】
●話に筋道がない物語や出来事を人に伝えるとき、筋道を立てて話すことがうまくできない。いきなり結末を語ったりする。
●感情的な説明にトラブルなどを説明させると「怒られた」「相手が悪い」といった感情的な話になり、事実がみえてこない。
【全タイプに共通するすれ違いの背景】
〇元の話を覚えていない物語や出来事の全体像を覚えていない。興味をもった部分を中心に覚えている。話が微妙に変わってしまうこともある。
〇状況を理解できていない物語や出来事を一度目にしたが、その状況を理解できていない。あとから振り返って説明するのが難しい。
〇過去といまがつながりにくい以前にあった出来事とその後の経過をつなげて考えるのが難しい。関連に気づきにくい子、流れを整理できない子がいる。
会話力を育てるには、トラブルの対処法を理解しておくのもポイントです。そこで次回は、『発達障害の子の「会話力」を楽しく育てる本』(藤野 博 監修)から、おもに自閉スペクトラム症の子が直面している困難と、その対処法をご説明します。
次回記事『会話になっているようで、話がかみ合わない。自閉スペクトラム症の子が直面している困難と、対処法』はこちらから。
会話になっているようで、話がかみ合わない…自閉スペクトラム症の子が直面している困難と、対処法

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