SNSで自治体職員の「実名さらし」、偽アカウントで「バカすぎて滑稽」…フルネーム名札やめる動き

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各地の自治体で職員が身につける名札の表記をフルネームから名字のみに変更する動きがある。
SNSの普及で、嫌がらせ目的で名前をネットに書き込まれるなどの懸念からだ。実際に職員名をかたる偽アカウントで物議を醸す投稿をされ、役所に苦情が寄せられるケースも出ている。
■なりすまし
芸能人のスキャンダルを「バカすぎて滑稽」と評したり、政治家の不祥事に「在日を選ぶからこんな事になる」とコメントしたり。香川県観音寺市の実在する職員の名前を使ったX(旧ツイッター)のアカウントが、こんな投稿を続けている。
市が一連の投稿を把握したのは昨年10月頃。芸能界の性加害問題を巡り、第三者を傷つける内容が書き込まれ、投稿を見た人から「公務員がこんな書き込みをしていいのか」と市に苦情のメールが5件届いた。
市の調査に対し、本人はXでの発信を否定。同じ時期にこの職員の対応に苦情のメールがあったことや、同様のアカウントが複数つくられていたことから、市は第三者が嫌がらせのため、なりすまして投稿したと判断した。
市は昨年11月、ホームページで職員と無関係のアカウントであることを周知。さらに他の職員でもトラブルが起こる可能性があるとして、3月から約1100人の職員の名札表記をフルネームから名字のみに変更した。
■半数近く被害経験
全日本自治団体労働組合(自治労)が2020年に行った調査では、自治体職員の半数近くが過去3年間に住民から迷惑行為や悪質クレームを受けたと回答した。
このうち「SNSやネット上での誹謗(ひぼう)中傷」が9%。観音寺市のような、なりすましは異例だが、「SNSで事実と異なることを拡散された」「SNSであげると脅された」などの被害があったという。
こうした中、名札表記の変更が進んでいる。
岡山市は昨年10月、フルネームから名字のみに切り替えた。職員が窓口で応対した市民から「SNSで名前をさらすぞ」と言われたことがきっかけの一つだった。滋賀県長浜市は4月以降、部署名も外して名字のみにする。職員が「名前を覚えておくぞ」と脅されるケースがあり、職員から提案があったという。
■企業では廃止も
顧客が理不尽な要求やクレームを寄せる「カスタマーハラスメント」対策として、企業では名札を廃止したり、イニシャル表記に変更したりするケースもある。しかし、自治体では廃止までは難しいようだ。
観音寺市は、名札廃止ではなく、名字のみへの変更とした理由について「市役所を訪れる市民に安心感を持ってもらうために名札は必要」とし、「職員の安全確保との両立を図るために判断した」と説明する。
読売新聞が全国20政令市に取材したところ、いずれも名札を使用。ただし、フルネームにするかは判断が分かれており、神戸市など12市が名字のみ。仙台市のように60年前から名字だけの自治体もあった。

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