大熊町で津波から逃げた6歳の少女、茨城で警察官に…危険冒し人命救助の警官が目に焼き付き

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13年前の3月11日、福島県大熊町で被災した6歳の女の子は今年1月に茨城県警察学校を卒業し、先月から交番勤務の警察官として歩み始めた。
石岡駅前交番(石岡市)の中野風夏巡査(19)。東日本大震災で人命救助に奔走し、幼かった自分を励ましてくれた警察官に憧れた。経験を胸に「市民に頼られる大きな存在になりたい」と誓う。(久保田夢)
「お散歩には行かれますか?」「暗い時間に出かける時は反射材をつけてくださいね」
2月19日、中野巡査は市内の高齢者宅を訪れ、夫婦にそう呼びかけた。女性は「孫みたい。来てくれてうれしい」と笑みを浮かべた。中野巡査はこうした「巡回連絡」で高齢者宅を訪問して防犯の啓発を行うほか、管内をパトロールしたり、事件事故で現場に駆け付けたりして日々地域の安全を守っている。
■祖父に連れられ、着の身着のまま内陸へ
あの日、幼稚園の年長だった中野巡査は、福島県大熊町の祖父母宅にいた。昼寝をしていると、突然、祖父が自分を連れて外に出た。「ガガガガ」。大きな音が聞こえ、家に戻ると食器棚が倒れていた。「津波が来る。逃げるぞ」。祖父に連れられ、着の身着のまま車で内陸へ逃げた。
襲い来る津波から必死に逃げる道すがら、自分たちとは逆方向に走る人の姿が見えた。「逃げて!」。ヘルメット姿の警察官が必死に呼びかけていた。「人の命を救うってかっこいい」。危険を冒しながらも人命救助に奔走する姿が目に焼き付いた。
津波は祖父母宅の隣まで迫ったが、祖父母や同じ町内の自宅で暮らす両親や兄、姉は全員無事だった。ただ、東京電力福島第一原発事故の影響で、自宅に戻れなくなった。
不安いっぱいの中、始まった避難生活。そんなある日、避難所で女性警察官に「怖いよね」と声をかけられたことを覚えている。しゃがんで目線を合わせてくれた警察官の優しい声色に励まされ、安心感を覚えた。「災害が起きた時、私も助けてあげたい」。いつしか警察官を志すようになった。
避難先の福島県会津若松市から小学4年生の時に茨城に移り住んだ。進学した県内の高校では、1年生の進路面談ですでに「警察官になりたい」と口にしていた。
■帰還困難区域にある幼稚園訪れ、古里の復興願う
福島に行く機会は少なくなったが、先月、大熊町が帰還困難区域にある幼稚園を当時の園児らに開放した機会に、幼稚園や当時の自宅に足を運んだ。幼い頃に大熊町を離れたため、当時の記憶はあまりないが、「ちょっとずつ良い方向に進んでほしい」と古里の復興を願う。
交番勤務を始めて約1か月、少しずつ仕事にも慣れてきた。「意識が高く、自分から吸収する姿勢がある」と上司の落合洋平警部補(44)も目を細める。「震災の経験を生かし、苦しんでいる人に寄り添ってあげられるようになりたい」。あの時の警察官の姿を目指し、中野巡査は日々奮闘する。

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