子どもの睡眠不足は「一生のハンデ」 問題行動の引き金に?忙しすぎて寝足りない日本、警鐘を鳴らす専門家

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

世界平均と比べると少ないことで知られる日本の睡眠時間。実はそれは、子ども時代から始まっている悪循環だと、警鐘を鳴らす専門家がいます。ただの睡眠と侮り、夜更かしさせることなかれ。「一生のハンデ」になりうる子どもの睡眠不足は避けられるのでしょうか。
【写真を見る】睡眠不足は脳にも影響…一目で分かる「海馬」と睡眠時間の関係
日本人の睡眠が、世界と比べて短いことはデータ(※)が示しています。OECD(経済協力開発機構)加盟国33カ国の平均睡眠時間を比べると、一番寝ている中国が9時間2分、33か国の平均が8時間28分ですが、日本は7時間22分とはるかに少ない状況です。
睡眠時間が少なくても特に困ることはないと感じるかもしれません。中には「そんなに遅くまで働いてたの、すごいね」「夜中まで勉強を頑張っているね」などと、睡眠を削って何かをすることに対して、ともすると根性がある、努力家だといった印象を持つ人もいるはずです。
筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史さんは、世界的に有名な睡眠のスペシャリストで、これまで何度もノーベル賞候補として注目されてきました。そんな睡眠の権威は、日本での睡眠の価値が軽んじられていることに危機感を抱き、子どもへの影響を懸念しています。
──睡眠不足が続くことによって、子どもにどんな影響が起こりうるのでしょうか?
柳沢正史さん(睡眠学者)「アメリカの9~10歳の小学生を対象にした調査で、睡眠不足の子どもは、そうでない子どもに比べてメンタル関連の指標が全て悪かったです。問題行動も多く、そして何よりも認知能力が低下してしまっていました。
この研究では、同じ子どもを2年間フォローアップしているんですが、2年後にも同じ傾向が続いています。だから、子どもの時の睡眠不足は、恒久的な影響を及ぼしてしまうかもしれません。脅すような言い方をすると、一生のハンデを背負う第一歩になるかも、ということです」
──日本の子どもが睡眠不足と言うことは、知らないうちにハンデを背負っているかもしれないということですか?
「日本の調査で、睡眠不足の子どもは、『イライラしてることが多い』という質問に『うん』と答える傾向にありました。感情的にも不安定でイライラを募らせている。それから、睡眠不足の子どもで、特に就寝時刻が遅いと、それだけで自己肯定感が低いという調査結果もあります」
──なぜここまで悪影響があるのでしょうか?
「5歳から18歳の子どもを対象にした東北大学の研究があります。MRIを使い、脳の中にある『海馬』という構造の大きさを画像から計算しています。
海馬はいわゆる『記憶の座』。例えば、アルツハイマー病で最初に障害が起きるのが海馬とされています。研究結果を見ると、睡眠時間と海馬の大きさには明らかな相関があります。よく眠ってる子どもの方は海馬が大きく、寝不足気味の子どもは海馬が小さいという傾向です」
──大きい方が良いんですか?
「記憶に関与する重要な構造ですので、海馬が小さいというのは、どう見ても良くないですね。
この研究は海馬に注目した論文でしたが、その後の調査や研究で、海馬だけでなく色々な部位の構造に影響すると(分かりました)。慢性的な睡眠不足というのは、脳の重要な構造の正常な発達に影響しうるという論文がかなりの数出ています」
──日本の子どもの睡眠時間が短いのはなぜなのでしょうか?
「朝は同じぐらいの時刻に各国で起きているので、睡眠が短い要因のほとんどは、就寝時刻が遅いことによると思います。では、なぜ日本は就寝が遅くなってしまうのかですが、色々な要因があります。
まず一つは光の問題です。夜は、家全体をあまり明るくしないようにして、できるだけリラックスできる環境にすることが大切です。しかし、日本の住宅は夜も光が明るすぎる傾向にあります。このことは、体内時計からすると『まだ昼だよ』ってシグナルになるんです。
加えて、子どもがどこで寝ているかという点です。私はアメリカでの生活が長いのですが、アメリカでは基本的に赤ちゃんの時から子ども部屋にベッドを置いて、親とは別に寝ます。その方が子どもの適切な睡眠のリズムを保ちやすいです。
しかし、日本は親と子どもが同じ部屋で寝ることが多いです。そうなると、どうしても親の生活リズムに子供が引きずられがちになります。
さらに、日本の子どもは忙しすぎます。学校と塾の二重生活になってしまっています。本当は学校から帰ってきて、学校の宿題や予習だけやって、後は睡眠時間を確保できるはずが、塾のために2~3時間とられるので、早く寝るということはやっぱり大変です」
──日本特有の睡眠の考え方も関係する?
「日本人は、睡眠を重視しません。仕事が忙しくて、やることがたくさんあって、自分の時間も取りたくて、その残りの時間で睡眠をとりましょう、という文化になってしまっている。睡眠を後回しにする生活習慣が根付き、その人々の子どもも睡眠不足になりがちに。悪循環はもう世代を超えて続いてしまっているんじゃないでしょうか」
──悪循環を断ち切るために理想的な社会は?
「『ここからここまでは睡眠の時間』と言って、『何時だから、寝る』と言って寝ることができるのが、普通の社会だと思います。まずとにかく、自分にとって必要な睡眠量はもう1日のうちから抜いて考えると。他にすべきと思うことがあっても、睡眠時間はもう置いておいて、手をつけないと。そういう根本的な考え方を変えないとまずいと思います」
※:2021年の調査によると、OECD33か国の平均睡眠時間は以下の通り。中国9時間2分、アメリカ8時間51分、カナダ8時間40分、イギリス8時間28分、33か国平均8時間28分、ドイツ8時間18分、日本7時間22分
聞き手:TBSテレビ・デジタル編集部 久保田智子 構成:影山遼(2月8日放送・2月11日配信「SHARE」より)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。