【曽根 恵子】「あと1ヶ月半しかない」父親を亡くした50代女性が青ざめた…つい、うっかり見逃していた「締切」

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悲しくとも、避けられない親の死……残されたものが考えなければいけないのが相続の問題です。両親のどちらが先に亡くなってしまうかによっても、想定できるプロセスは大きく異なります。相続対策のサポートを専門とする会社・夢相続の曽根恵子さんが、父親が亡くなり、相談に来た50代女性Fさんのケースから、相続に関する疑問を紐解いていきます。
Fさん(50代、女性)は5年前に母親を亡くしており、そのときは弊社で相続の手続きをサポートしました。母親の財産は、自宅の土地の半分2000万円と預金500万円でしたので、基礎控除の範囲内で、相続税の申告は不要でした。母親の相続人は父親とFさんと姉で基礎控除は4800万円です。
母親が自宅の土地の半分を所有していたのは、父親からおしどり贈与を受けていたからで、父親の財産を減らすための相続対策でした。母親名義の土地は、敷地内に家を建てている姉(60代)が相続し、預金500万円は父親、姉、Fさんが法定割合で相続しました。Fさんは結婚して別のところに住んでいます。
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おしどり贈与とは、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、自宅など居宅用の不動産を贈与した際にかかる贈与税が2,000万円まで非課税になる制度で、配偶者の特例となっています。住んでいる自宅の土地、建物を贈与してもいいし、あるいは、新たに購入する自宅の購入資金を贈与してもいいとされています。
贈与税の基礎控除額である110万円も加算して2110万円まで贈与税がかからず、自宅を贈与できるようになります。
おしどり贈与には5つの要件があり、この要件をすべて満たす必要があります。
1つ目は婚姻期間20年以上であること。婚姻期間を満たしていなければ利用できません。事実婚など内縁の夫婦には使えない制度となります。
2つ目は贈与する不動産や資金が自宅として住むためのものであること。別荘などには使えません。
3つ目は日本国内の不動産であること。
4つ目は贈与を受けた年の翌年3月15日時点でその家に住んでいること。
5つ目は過去にその配偶者から贈与を受けていないこと。同じ配偶者からおしどり贈与ができるのは1回までと限定されています。
こうした要件を満たして贈与することができますが、贈与した翌年には確定申告が必要になります。また、贈与税は、2110万円までは無税ですが、不動産の名義替えの登録免許税がかかり、不動産取得税も課税されますので、注意が必要です。
Fさんの両親は同年代ですので、父親が先に亡くなり、母親が配偶者の特例を使って無税となるというイメージでいたようで、順番が変わってしまいました。父親の相続のときにどうなるかは、母親の相続手続きをしながら、改めて考えていきました。その際に、父親の財産についても弊社で確認させていただきました。
父親の財産は自宅の半分2000万円と建物300万円、駐車場にしている土地2500万円、預金5200万円、有価証券4000万円、生命保険2000万円で約1億6000万円ですが、生命保険の非課税枠が1000万円あり、課税される財産は1億5000万円となります。基礎控除4200万円は引けますが、残る1億800万円に課税され、相続税は2人で2140万円と試算されました。
相続プランを考える際には、自宅の登記簿、公図、測量図。固定資産税納付書など必要な書類は全部揃えてもらい、現地調査も行いました。
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父親の財産のうち、相続対策の対象と考えたいのは、駐車場の土地、預金、有価証券です。この3つを相続対策に活用すると相続税は減らすことができます。
たとえば駐車場の土地は売却して売れたお金で区分マンションを購入して賃貸する資産組替をします。預金と有価証券は解約して区分マンションを購入して賃貸します。これらの対策は不動産に変えて賃貸することで不動産評価となり、借地権、借家権を引くことができるので、評価が下げられるのです。
こうした対策を実行すると相続税は4分の1の500万円程度まで減らせるとアドバイスしていましたが、父親は毎日、証券会社に行くことが楽しみ、預金も使いたくない、駐車場からは収入が入るということで対策は進んでいませんでした。
Fさんと姉は父親の葬儀を済ませ、新盆も終えたころに「そろそろ不動産の名義替えをしないといけないのでは」と思い至ったようです。父親の家で不動産の権利証を探してみたが、財産のことは全部、父親が管理していて、見つからないのでどうすればいいかとFさんから連絡がありました。
父親が亡くなった日を確認すると、すでに8ヶ月以上も経過していて、申告期限まであと1ヶ月半という時期でした。父親名義の権利証は見つからなくても新たに相続人名義で作り直しますので、問題はないのですが、それよりも相続税の申告が必要になります。Fさんも姉も相続税に申告期限があることは知っていたけれど、強く意識はしていなかったといいます。
記事後編は「『まさかの不注意で…』8ヶ月前に父親を亡くした50代女性が愕然…遺産の半分以上を失う可能性も」から。

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