使わなかった手錠と拳銃が誇り、27年間地域を見守り続けた「駐在さん」引退へ

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27年間、愛知県警設楽署管内の駐在所に勤務した三輪駐在所の巡査部長、山本勝巳さん(65)が3月末、引退する。
同じ署の管内で「駐在さん」として勤めた期間は、県警で歴代3番目の長さになる。「誰とでも本音で付き合う」を信念に、住民一人一人に向き合い、「やまちゃん」と親しまれてきた山本さんは、使うことのないまま手錠と拳銃を返却する駐在生活に誇りを感じている。(成田沙季)
警察官になったのは、1977年6月。配属された警察署の地域課員として、交番やパトカーでの勤務に汗を流した。元々、人と話すことが好きで、社交的な性格と自認していた。より地域住民に密着した仕事がしたいと思い、住み込みの駐在所勤務を希望した。
念願がかなったのは、拝命から20年後のことだった。97年に東栄町の振草駐在所(2010年に廃止)に異動、駐在生活が始まった。午前7時には登校する児童らを横断歩道で見守り、その後はパトロールへ出掛ける日々だった。
非番の日には地域の野球やソフトボールの試合に参加。「スポーツをすると、人となりがよくわかる」。心身ともに警察官の制服を脱ぎ、等身大の自分を伝えることで交流を深めていった。
高齢者を狙った押し売りの被害相談などを受けるようになり、クーリングオフの手続きを手伝うなどするようになったのは、1年ほどたった頃からだった。住民らからの信頼を実感するようになった。いつの間にか愛称の「やまちゃん」も定着していた。
大きな事件事故に遭遇せず、一般的に想像されるような警察官としての活躍はない。ただ、地域で大きな事件が発生しなかったことに「少しはお役に立てたのかも」と自負する。
その中でも、印象的な出来事が一つある。迷い人の捜索中で見つけた男性のことだ。その男性は、山中の木に登り、首をつろうとしていた。「大丈夫だから、動かないで待ってて」。男性に声をかけ、木に登り、助けが来るまでの約1時間、男性を支えながら待ったという。「自分も落ちないように必死だったが、大切な命を救えてよかった」と振り返る。
子育てに合わせ05年、同町内の三輪駐在所に異動した。四半世紀にわたる駐在生活では、妻・礼子さん(64)の支えも大きかったという。東日本大震災での救助活動などのため、1か月ほど駐在所を留守にすることもあったが、礼子さんが設楽署と連絡を取りながら来所者に対応。「大変なことも多かったと思うが、よくやってくれた」と口にする。
「地域の安全と安心の醸成に大きく貢献されました」。15日午後に設楽署で、地区の住民で結成するパトロール隊の夏目懋(つとむ)さん(80)から感謝状が手渡された。感謝状の宛名は、山本さんの名前に並んで、礼子さんの名前もあった。

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