リンゴ詰まらせ男児重体、元調理師2人が「退職に追い込まれた」と労基署に相談…愛媛・新居浜

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昨年5月、愛媛県新居浜市の認可保育園「新居浜上部のぞみ保育園」で生後8か月(当時)の男児が給食のリンゴを喉に詰まらせて重体になった事故に関連し、退職が決まった経緯に不服があるとして、元調理師の女性2人が新居浜労働基準監督署に相談していたことがわかった。
園側は「自己都合で辞めた」と説明するが、元調理師は「突然『出勤停止』を指示された後、退職に追い込まれた」と話しており、認識が食い違っている。(岩倉誠)
■「まるでトカゲのしっぽ切り」
元調理師は、フルタイムで働いていた60歳代女性と、パート勤務だった70歳代女性。退職は2人とも昨年6月末付だった。
元調理師2人によると、事故が起きた昨年5月16日以降も2人は出勤していたが、同25日、同園を運営する社会福祉法人「新居浜社会福祉事業協会」の事務局長から電話で「大変なことをしてくれた。しばらくの間、出勤停止が決まった」などと告げられた。
60歳代女性は6月23日、理事長や事務局長、顧問弁護士、園長との面談に呼ばれ、顧問弁護士から「多くの保護者に納得してもらうには体制の一新が大事。申し訳ないが、辞めてくれませんか」と言われたという。事務局長には「今は心労で休んでいることになっている」と説明されてショックを受け、女性はその場で退職願を書いた。
7月中旬に届いた離職票には、退職理由の欄に「自己都合」と記されていた。女性が園側に「出勤停止と言われたのだから会社都合ではないのか」と連絡すると、数日後、「会社都合」と記載した別の離職票が届いたという。
70歳代女性には6月2日、顧問弁護士から進退を尋ねる電話があり、「退職も考えている」と答えると、退職届を送るよう指示されたという。この頃、園の職員から「心労で休暇中と聞いた。大丈夫か」と聞かれて驚いたという。
◇ 社福法人などによると、男児は事故当日、20歳代の保育士から刻んだリンゴ(長さ7ミリ、幅2ミリ、厚さ3ミリ)二切れをスプーンで与えられた。すぐに泣き出して顔が青ざめ、心肺停止の状態で救急搬送された。
同園は年齢別に五つのクラスがある。昼食は各クラスを受け持つ保育士が毎朝、調理室にあるホワイトボードに提供人数を記入。栄養士とフルタイム調理師が主食と副食の調理、パートタイム調理師が果物の下準備を担当していた。
0歳児の給食は、成長度合いに合わせて調理方法を変えている。リンゴは初期がすりおろし、中期が切り刻み、後期がスティック状で、ホワイトボードに段階ごとの人数を書いて情報共有する仕組みになっていた。事故に遭った男児は「中期」に割り振られていたという。
◇ 元調理師2人は今年1月、新居浜労基署に相談。「保育士や栄養士の指示を受けて調理しただけなのに、調理師だけが退職に追い込まれた。まるでトカゲのしっぽ切りだ」と訴えた。
同労基署の小野尚生副署長は「相談があったかどうかも含め、個人の相談内容は答えられない」としながらも、「一般的には、事業者が従業員に対し、出勤停止期間を具体的に伝えるなどの丁寧な説明を繰り返すのが原則。労使間トラブルは、他の従業員の士気低下にもつながる恐れがあり、当事者が辞めたからといって解決するものではない」と指摘する。
読売新聞の取材に対し、社福法人の事務局長は「この事故に関しての退職者は調理師の2人だけ。いずれも事故の責任を感じて自己都合で辞めた」と話している。

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