「とじないカツ丼」なぜ急増したのか SNSでの“バズり飯”に賛否「分厚いだけ」「サラリーマンの小遣いでは行けない」

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定食屋から家庭の食卓まで、国民から広く愛されているカツ丼。カツ丼と言えば、トンカツをダシの利いた卵で包み込み、お米が盛られた丼にのせる料理をイメージするだろうが、近年、SNSを中心に「とじないカツ丼」というグルメが流行っている。
【写真】SNSでバズった「分厚すぎる」映えカツ丼。従来のイメージを覆す
とじないカツ丼は、とろとろの卵の上に揚げたてのトンカツを乗せ、ソースなどで調味するという、一風変わったスタイルのカツ丼。トンカツがブロック肉ほど分厚いのも特徴であり、従来のカツ丼とは味もイメージも異なる。
門前仲町に店舗を構える「とんかつ丸七」、渋谷神泉にある老舗「瑞兆」が、パイオニアとされ、2022年2月日本橋にオープンした「#カツ丼は人を幸せにする」をきっかけにSNSでバズり、人気に火が付いた。都内を中心に大阪、名古屋などの都市でも出店が続出し、“バズり飯”を求めて多くの消費者が店舗まで足を運んでいるそうだ。
ブームの最中にあるとじないカツ丼店だが、なぜここまで店舗数を増やしているのだろうか。また厚切りのブロック肉を使用するうえで、食中毒の危険性はないのか、という疑問の声も少なくない。ブームの背景について、フードアナリスト・重盛高雄氏が解説した。
とじないカツ丼は、外食気運が高まった近年の潮流に乗って、話題を集めることに成功したと重盛氏は考察する。
「アフターコロナで飲食業界は客足の回復が喫緊の課題となりました。そこで店舗に客を呼び込むべく、SNS映えを意識した派手なビジュアルの料理を提供する飲食店が増えてきたんです。とじないカツ丼は、分厚いトンカツの見た目のインパクトが抜群で、カツ丼なのに“とじない”という話題性もばっちり。X(旧Twitter)、InstagramなどSNSを経由して知った人が多く、一度食べようと多くの客が足を運んでいる印象です」(重盛氏、以下同)
SNSを意識した名物グルメを打ち出すことにより、客の来店動機を作る、という戦略だ。SNSを眺めていると、「ネタを山盛りにした海鮮丼」「サシの入った和牛を炙った肉寿司」などなど、グッと印象に残りやすいグルメがほかにも散見される。
「シンプルな戦略ですが、SNS映えするグルメの集客力はピカイチ。とじないカツ丼店では若者から50代ぐらいまでと客層は幅広く、男女問わず多くの客が訪れています。既存のカツ丼でもない、ましてやソースカツ丼のようなものとも違う、『ちょうどよい塩梅』を模索し実現したグルメと言えるでしょう」
ビジュアル面で印象的な厚切りのブロック肉だが衛生面での疑問の声も出ている。揚げる際に中まで火が通らない可能性があるという指摘だ。しかし、重盛氏は近年の「豚の品質向上」についてこう語る。
「近年では品種改良によりさまざまな品種の豚肉が増えました。豚肉はきちんと加熱処理を経ないと食中毒の危険性があったり、独特な臭みがあったりして苦手な人が多かったものの、品種改良を重ねて克服する事例も出てきました。
たとえば『SPFポーク』はその代表例。これは指定された病原体を持たないよう生産された豚肉で、より安全で美味しくいただけます。全体的にも豚肉の品質はアップしており、とじないカツ丼台頭の大きな要因になったでしょう」
急速な拡大を見せる「とじないカツ丼」だが、一方でジャンルとして定着するかは微妙なところ。懸念点はズバリ価格だ。たとえば、「とんかつ丸七」の「並」では1500円(税込、以下同)、「#カツ丼は人を幸せにする(神田店)」の「#とじないカツ丼」は1100円と決して安くはない。
「カツ丼というと、500~800円台が相場。一方でとじないカツ丼は、分厚く豚肉をカットして提供しているため、コストがかかり高価格になるのですが、消費者にとって許容範囲の価格帯になるかは怪しいところ。今は物珍しさで訪れる客が多いので、ブームがひと段落したら逆に縮小する可能性もあり得ます」
ネット上でも味に関しては好意的な意見が多い印象だが、反対に価格に関しては下記のように賛否両論だ。
《最初に言うと値段はしっかりするけどそれ以上の満足感と味を提供してくれる》《分厚さで有名な某店のとじないカツ丼食べたけど、分厚いだけで別に美味しくもなかった》《甘ダレで普通に美味しかったけど、値段が高いからサラリーのお小遣いでは行くことは無い ってか行けない》
「ハレの日のたまの贅沢に食べたい」というのが一般的な感覚なのだろうか。そうなると、少ない客の獲得を争うことになり、店ごとの競争が熾烈になる可能性もある。
「とじないカツ丼を提供する店は、まだそのほとんどで画一的な見た目、味をしていて、店ごとの魅力が明確になっていない状況です。『この店ならこの味』というオリジナリティを持ち、差別化を果たさなければ、そのうち飽きられてしまうこともあり得るかもしれません」
この先、はたしてブームに幕を“とじ”ることはあるのだろうか。
(取材・文=A4studio)

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