すでに交通渋滞が 2025年開園沖縄テーマパーク「JUNGLIA」 現地から聞こえる「期待と不安」

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コロナ禍がひと段落し、日本のインバウンド需要が本格的な回復基調にある。そんななか訪日外国人の旅行先として人気を集める沖縄県で、新たな大型テーマパークが2025年に開園予定だ。それが、沖縄北部の名護市と今帰仁村にまたがる『JUNGLIA(ジャングリア)』である。世界自然遺産『やんばる』と世界最大級の水槽がある『沖縄美ら海水族館』の中間地点に位置する。これまでの北部観光は那覇市などからの日帰り旅行が定番とされてきたが、同園の開業は従来の旅行プランを打破する起爆剤として県内でも期待されている。フリーライターの加藤慶氏が現況を知るため、沖縄で現地取材した。
【写真】地元民が太鼓判を捺す ジャングリアの絶景ロケーション
* * * ジャングリアは大自然と最新テクノロジーを融合させたテーマパークで、「都会にはない興奮と贅沢のテーマパーク」と謳っている。アトラクションも数十種類が揃えられる予定で、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のジュラシック・パークを想起させる、恐竜から逃げる乗り物やジャングルの上を飛ぶジップラインなどのアトラクションが計画されている。敷地面積はUSJよりも一回り大きい60haにも及ぶという。
「ジャングリアを構想したのは、USJの経営を立て直した森岡毅氏です。2015年、USJは沖縄にテーマパーク建設を検討し、菅義偉官房長官(当時)が『政府としてはできる限り支援したい』と表明するなど政府とも意思疎通が取れていた。ところがその翌年にUSJの親会社が難色を示して頓挫、白紙に戻った。すると同社のマーケティング担当だった森岡氏はUSJを退社して『刀』というマーケティングとエンターテイメントに特化した会社を起業して構想を継続。昨年11月末、満を持してジャングリアの発表となったのです」(全国紙記者)
すでに地元民からの期待も大きい。
「沖縄では大々的にテレビで報道されて知らない人はいないぐらい。私の周りでも好意的に見てますよ」
こう話すのは那覇市在住の40代男性だ。ジャングリアが建設される場所は、もともとは地元ビール「オリオン」を製造するオリオンビール株式会社が所有していたゴルフ場「オリオン嵐山ゴルフ倶楽部」の跡地。地元の人からも馴染み深い場所だ。
「オリオンの前は西武グループが所有していた。ただ、立地が難点と当時から言われていて、堤(義明)さんが『なんでこんな場所にゴルフ場を作ったんだ』と嘆いたと言われるほど、山間にある。沖縄らしい環境となると、やはり海沿いのゴルフ場が好まれるからね。だからこそ、その跡地にテーマパークを作るのは良いアイデアだと思うよ」(60代男性)
現地取材を重ねると、沖縄の風土を活用したテーマパークに県内でも歓迎の声が大半だった。だが、同時に誰もが口にする懸念が一つある。それが交通アクセスの悪さだ。
訪沖した観光客が那覇空港のある南部からジャングリアのある北部まで足を伸ばすとなるとレンタカーを借りるか、シャトルバスで最寄りまで移動後、タクシーに乗車しなければならない。有料の沖縄自動車道を使っても車で1時間30分以上かかる距離だ。
「空港発のテーマパークまで直行するシャトルバスがあれば便利ですよね」
こう語るのは、東京から沖縄観光に訪れていた20代女性だ。開園を迎える頃には、おそらくジャングリア発着の空港バスは運行するだろう。問題はジャングリアからの移動だ。北部の別の観光地やホテルに移動するとなると車は必須だが、レンタカーはハイシーズンとなると、争奪戦がおき、毎年のように価格高騰がニュースになるほど。
沖縄では東京や大阪と同様に、慢性的なタクシーの台数不足に悩まされている。那覇市では深夜の時間帯となると、タクシーを捕まえるのは至難の業だ。
「電話で呼んでも、たまたま近くに空車のタクシーがあれば良いですけど、ほとんどが遠くから迎えに行くので待ち時間も相当あります。流しのタクシー? 1時間待っても来ませんよ(笑)。田舎だから台数が少ないから」(地元タクシー運転手)
そうしたなか懸念されるのは開園後の渋滞だ。那覇空港のある沖縄県南部や中部からジャングリアに向かうとなると、ナビで示されるルートは2つ。先に示された道順は名護東道路「世富慶IC」から国道505号線で向かうルートで、この道順を選択するとパイナップル畑が広がる、道幅が狭い農道を通ることに。もう一つは、世富慶ICから美ら海水族館方向の県道84号線を上るルート。
ジャングリアの来園者は年間300万人から500万人と推計され、果たしてこの交通環境で混雑を避けられるかどうか、疑問符がつく。USJの年間来園者数は1235万人(2022年)、東京ディズニーランドは1200万人(同)。2つの人気テーマパークの3~4割もの来園者を2本の道路で回せるのだろうか。
ジャングリアから車で約5分の場所にある唯一の集落、名護市中山在住の40代女性はこう言う。
「農道のほうにバイパスが通ると聞いてますよ。だから、目の前の県道84号線はそんなに混まないのでは? 渋滞がなければ日常生活に支障ありませんからね。この辺りも高齢化が著しくて、商売気もないですから、外から来た方が飲食店だったり、お土産屋さんをするんじゃないでしょうか。恩恵が少しでもあれば歓迎する人も増えるんじゃないですかね(笑)」
その一方で、近隣の飲食店店主はバイパスについて疑問を呈す。
「バイパスの構想なんて15年前からありますよ。でも、いまだにできてないんだから、今更できるとは思えませんけどね。農道に観光バスが走るなんて考えられないから、こっちの県道(84号線)がメインになるんじゃないんですか」
2025年開園に向けて、現在急ピッチで建設が進められている。ただでさえ、土日になると84号線は渋滞で交通麻痺しがちだが、工事車両が増えたことで生活道路を大型車両が駆け抜けていく。住宅街からジャングリアまで繋がる市道の道幅も生活道を過ぎると途端に狭くなる。一本道で車両がすれ違うのも困難で、それほど山間に位置する。
「年寄りが起きる日の出から、もうトラックが走ってますから。朝早くから深夜遅くまで工事をやってますよ。私たちにも説明はほとんどなかったです。『何のテーマパークをするのか、まだ決まっていない』と言って、関係者は教えてくれなかった。私たちも報道で知ったぐらいです」(前出の40代女性)
今回の取材では交通渋滞への不安が多く聞こえた。しかし、それ以上にどの住民も「この地の魅力を知ってもらいたい」と期待している声があがっていたのも事実だ。
「海の側じゃないから沖縄のゴルフ場の良さがないと言われたけど、実は凄く絶景だったんですよ。山の上にあるから屋我地島や古宇利島が望めて、そりゃ綺麗です。場所として抜群ですよ」(80代の男性)
建設が進むジャングリア近くの嵐山展望台から望む光景は、美らブルーの海辺に沖縄の島々が浮かぶ。山深い頂に建設されるジャングリアからも、この絶景が展望できるかもしれない。
開園により、北部観光に大きな期待が寄せられているのは紛れもない事実だ。交通網の整備という喫緊の課題を行政はどう解決に導くのか。事業者ともにその手腕が問われている。
■取材・文・写真/加藤慶(フリーライター)

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