【小林 一哉】能登半島地震の被災地支援の会議欠席で川勝知事の「お粗末な言い訳」…出席した新年会の“大地震”への甘い認識に唖然

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1月1日午後4時10分、石川県の能登半島地方を襲った最大震度7の地震は、津波、火災などを引き起こし、その後も震度5強の地震が繰り返すなど現在も予断を許さない。
被災地では230人以上もの命が奪われ、安否不明者の捜索が続いている。1200人以上が重軽傷を負い、家屋の全壊、半壊など9千棟以上にも及び、約2万人が厳しい寒さの中、避難所生活を強いられる。
1月4日、能登半島地震の被災地支援を話し合う中部地方9県1市(静岡、石川、福井、富山、新潟、長野、愛知、岐阜、三重の9県、名古屋市)の知事、市長によるオンラインの連絡会議が開かれた。
川勝平太知事は、JR静岡駅前のホテルで開かれた静岡新聞社・静岡放送主催の新年会に出席したため、被災地支援連絡会議には黒田健嗣・県危機管理監が代理出席した。
他県市はすべてトップが出席した。その結果、新年会を優先した川勝知事に批判が集中した。
11日には静岡県議会最大会派の自民党県議団と公明党県議団が「極めて不適切」などと、被災地支援連絡会議の欠席に抗議する申入れを川勝知事に行った。
被災地支援連絡会議の欠席について話す川勝知事(静岡県庁、筆者撮影)
このため、15日の定例記者会見は、被災地支援連絡会議への川勝知事の欠席に記者たちの質問が集中した。
今回の会見は、2010年NHKで放送された『ハーバード白熱教室』で、米国ハーバード大学の政治哲学者マイケル・サンデル教授が「正義論」を講義した様子を彷彿させた。
早稲田大学政経学部元教授である、川勝知事が「被災地支援連絡会議を欠席したのは正しい行いであった」と、学生とも言える若い記者たちを前に、ときには怒気を交えながら、熱の入った主張をしたからである。
翌日の新聞各紙は『知事「支援に支障はなく問題だとは思わない」能登地震の連絡会議欠席』(産経)、『被災地支援会議欠席「問題ない」川勝知事』(日経)、『震災支援の連絡会議欠席 知事「一切支障なし」 石川知事に事前連絡』(朝日)などほぼ同じ見出し、内容で報道された。
つまり、川勝知事の「会議欠席は正しい行いだった」とする主張をそのままに各紙が掲載したことになる。
会見では、川勝知事の一方的な言い訳に、記者たちはさらなる疑問や、新たな検証を加えられなかった。
能登半島地震の被災地連絡会議を欠席した川勝知事のお粗末な言い訳の中身を紹介するとともに、同会議より優先した新年会のあいさつで見せた南海トラフ地震へのあまりにも甘い認識を明らかにする。
まず、当時の状況を振り返る。
1月4日の段階では、死者数73人などが判明しているだけで、能登半島地震の被害状況は不明な点が多かった。
新年会は午後4時半スタート、直後に川勝知事のあいさつが予定されていた。一方、被災地支援連絡会議は午後5時からだった。
川勝知事によると、午後3時半頃に、石川県の馳浩知事と直接、電話で話をして、能登空港の一部を静岡県の前線基地として使う許可を取った、という。
ただ電話連絡は3分、長くて5分以内だった、という。この短い時間からすれば、会議欠席を詫びるのが主たる目的だったことがわかる。
新年会の知事あいさつ直後に、車で5分程度の静岡県庁に戻ることができたはずだが、午後4時45分から5時15分まで生放送のインタビューがあったから、そのまま新年会に出席したとのことである。
15日の記者会見では、まず被災地支援連絡会議を代理出席で済ませた理由が問われた。
1月15日の知事記者会見の様子(静岡県庁、筆者撮影)
川勝知事は「本県の危機管理体制の最高トップは黒田危機管理監です。代理出席も可能ということであり、わたしが欠席しても支援に一切支障がなかった」と通り一遍の説明をした。
これに対して、読売新聞記者が「別の予定があったのか」と尋ねると、川勝知事は「各界の代表が集まる賀詞交歓会があったので、そちらを優先した」と回答した。
その後も、川勝知事は「賀詞交歓会」を何度も繰り返した。
実際には、静岡新聞社・静岡放送の招待状には、「賀詞交歓会」ではなく、「新春祝賀会」と記されている。また翌日の静岡新聞は「新年のつどい」とする記事を掲載した。
同イベントに招待者以外は入場できないから、「各界の代表」(川勝知事)が初めて顔を合わせることはほぼない。
名刺交換を行ってあいさつを交わす「賀詞交歓会」ではなく、アルコールの入った飲食接待を伴い、乾杯などで盛り上がる「新年会」の色彩が濃いイベントである。全員招待だから、会費などはない。
川勝知事が「賀詞交歓会」としたのは、新春祝賀会といった派手な飲食パーティーではなく、業務の延長というイメージを与えたかったのだろう。読売新聞などは、川勝知事の思惑通りに「賀詞交歓会」を使った。
読売記者は「オンラインなのだから、どうして被災地連絡会議とも両立して出席する判断をしなかったのか」と追及したが、川勝知事は「わたしが仮に倒れても、副知事以下、危機管理監が代理をすることが決められており、それに従った」などと回答をはぐらかしてしまった。
また別の記者が「4日の3時半に馳知事と電話で話したということだが、5時からオンライン会議があったのだから、その場で馳知事にお願いすることもできたのでは」と聞いた。
川勝知事と電話連絡した馳知事(石川県庁HPから)
これに川勝知事は「何を言っているんですか。死に掛けている人がいるわけですよ。生き埋めになっている人が。一刻も争うわけです」とびっくりするような強い調子で反発した。
そのあと、「1月1日4時10分に起こったわけだから、その4日目、もう4時10分で72時間なわけです。何事もすぐに動かなくてはいけない。なるべく早い方がいい、というのが、するべき態度、とるべき態度ですね」とまるで自身が救援救助の現場に向かうような回答を行ったため、その迫力に質問者は黙らざるを得なかった。
これでは、連絡会議そのものが悠長であると批判の対象にしているようなものである。しかし、馳知事とは、たった3分程度の電話連絡であり、一刻を争うような話し合いの中身が何だったのか疑問は大きい。
テレビ静岡記者は「他の首長が全員出席している被災地支援連絡会議よりも賀詞交歓会に出るほうを優先すべきなのか」と知事の社会常識をただした。
川勝知事は「役割分担です。ぼくと黒田危機管理監は実質一体です。わたしが倒れれば彼が立つわけです。もともと代理出席可ということで、実務的なことについては、黒田管理監が全部統括している。むしろそういう方が出たほうがよかった」などとやはり、質問の趣旨をはぐらかして逃げた。
そんな中で、川勝知事は「黒田危機管理監の発言がなかったのはちょっと悔やまれる」、「(静岡県の担当する)穴水町に集中して、すぐ近くの輪島や能登町に広げていく方針を決めていて、そのことを黒田危機管理監が言わなかったので、何か何もしていないかのごとくに受け取られたのは本当に残念だ」などと黒田危機管理監への不満を漏らした。
実際に、9県1市の被災地支援連絡会議で、唯一発言しなかったのは、静岡県の黒田危機管理監のみだった。つまり、同会議での静岡県の存在感はゼロに等しかったと川勝知事が認めてしまったのだ。
だから、中日新聞記者が「他県は知事が出席している中で、1人だけ代理で、発言するのも難しかった状況もあったのでは」と、遠回しに欠席した川勝知事の責任を指摘した。
川勝知事は「その場における状況判断でそうされた。黒田危機管理監を全く責めるつもりはない」と何とも不思議な回答で、論点をずらした。
いちばん問題なのは、行政組織上は、知事を代理するのは副知事であり、危機管理監はその下に位置する。今回、2人の副知事は、川勝知事とともに同じ新年会に出席していた。
少なくとも担当の副知事が、被災地支援連絡会議に出席することができたはずである。
どういうわけか、知事の指示で、最初から黒田危機管理監が代理となることを決めていた。つまり、知事、副知事はそろって静岡新聞社・静岡放送の新年会を優先したのである。
知事、副知事2人が出席しなければならないほど、新年会がそれほど重要だった理由を全く説明していないのだ。
新年会のあいさつを見れば、あまり重要なイベントでなかったこともわかる。
翌日の静岡新聞記事に、川勝知事のあいさつは『「本県も人ごとではない。かけがえのない友人の力になりたい」と被災地支援に全力を挙げる考えを示し、「浜名湖花博2024を起爆剤にして、被災している人たちを元気づけ、新しい時代を切り開いていく」と強調した。』とある。
浜名湖花博2024は、来年度の静岡県の最大のイベントなのだろう。
浜松市の浜名湖ガーデンパーク、はままつフラワーパークで開かれ、浜名湖ガーデンパークでは4月6日から6月2日まで開催、集客目標は55万人。
浜名湖ガーデンパークは2004年開催のしずおか国際園芸博の会場として、浜名湖の突端にある浜松市村櫛町の56ヘクタールという広大な埋め立て地を造成した。半年間で500万人以上の集客を目標とする会場だった。
浜名湖ガーデンパークの位置を示す地図(浜名湖花博2024のHPから)
しかし、場所が場所である。
もし、震度7の南海トラフ地震が起きた場合、浜名湖ガーデンパークは埋め立て造成された地域だから、広範囲にわたる液状化の恐れが非常に高い。
さらに、心配されるのは大津波の被害である。
村櫛町に残る古文書では、明応7年(1498年)8月25日の東海地域を襲った明応の巨大地震で浜名湖が切れて、海と通じたという記述とともに、村櫛地域を大津波が襲い、ほとんどの人が亡くなったと記されている。
南海トラフ地震の発生確率は、この30年以内に70~80%だと予測される。さらに、南海トラフ地震では「いきなり大きな津波襲来のリスク」が大きいとされる。
いくら地震対策が万全だとしても、大津波で浜名湖ガーデンパークがひと飲みされる可能性を否定できない。
もし万が一、4月から6月の間に、南海トラフ地震が起きれば、「能登半島地震で被災している人を元気づける」どころか、そのまま被災者になってしまうだろう。
観光客でごったがえす浜名湖ガーデンパークが一転して、悲惨な地獄絵図に変わってしまうことが予測される。
「本県も人ごとではない」とあいさつした川勝知事だが、南海トラフ地震は遠い世界の話であり、あまりにも甘い認識しかないことがわかる。
だから、各界の代表を前に「浜名湖花博2024を起爆剤にして、被災している人たちを元気づけ、新しい時代を切り開いていく」などと無責任な発言をしたのだろう。
筆者は長年、静岡県のリニア問題を取材しているが、リニア問題に当たる川勝知事がそのような認識しかないことが不思議でならない。
「静岡県の水が引っ張られる懸念があるから、山梨県の調査ボーリングをやめろ」に象徴されるように、リニア問題で、川勝知事のJR東海への言い掛かりの根拠となるのは毎回、「懸念がある」の一語につきる。
約360万の大規模なツバクロ残土置き場について、1千年から2千年に一度の「深層崩壊」が起きることを懸念して、川勝知事は「不適格だ」と主張している。
「山梨県の調査ボーリング」や「深層崩壊」に比べれば、近い将来どころか、いつ起きてもおかしくない南海トラフ地震への「懸念」の緊急度は比べものにならない。
黒田危機管理監から南海トラフ地震への「懸念」の説明を受ければ、すぐにでも川勝知事は浜名湖花博2024の中止を指示するのだろうか。
少なくとも、悠長に新年会に出席している場合ではない。

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