「わたしに死ねと?」家賃6.5万円の部屋の明け渡し訴訟を起こされた73歳・女性。司法書士「高齢者は本当に部屋を貸してもらえません」

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厚生労働省の発表によると、成年後見制度の利用者数は2022年末時点で約24.5万人とのこと。また、この利用者数は年々増加の傾向にあるようです。そのようななか「家族がいても『1億総おひとりさま時代』に生きていることを認識していますか?」と問いかけるのはOAG司法書士法人 代表司法書士の太田垣章子先生。太田垣先生は、「高齢者になると本当に部屋を貸してもらえません」と言っていて――。
【表】知っておきたい!高齢者住宅の種類や特徴一覧* * * * * * *ミズエさんのケース人生の最後をどこで迎えたいかはライフプランとも関係してきます。ミズエさん(仮名・73歳)が、家賃を滞納しているということで、家主から私のところに明け渡しの訴訟手続きを依頼されました。家主は毎月のように督促をしますが、のらりくらりとかわされてしまい、6万5000円の家賃なのに、既に20万円近く滞納になっているとのことでした。この話のポイントは、賃借人の年齢が73歳ということ。そして家賃が生活保護の受給レベルより高いということです。ミズエさんは、まだ働いていました。その理由はただひとつ。もらえる年金がほとんどないからです。ミズエさんは国民年金の対象で、さらにこれまで年金をほとんど払ってこなかったため、今働いて得る収入だけが頼りです。73歳の現時点で、働いていること自体がすごいとは思いますが、近い将来に働けなくなる時がきっときます。その時には、収入は途絶えます。そうなるとどうやって生きていくのでしょう……。あとは生活保護を受給するしかなくなります。でも生活保護を受給するためには、その受給ラインの家賃帯、つまり5万3000円以下(金額はエリアによって変わります)の物件に住んでいないといけません。生活保護の受給ラインより高額な家賃の部屋に住みながら、家賃補助は受給できません。最後のライフラインだからです。ミズエさんは、もっと早く今より家賃の安い物件に、引っ越しをしておかなければいけなかったのです。そうすれば家賃補助が受けられたはずです。でも人は、先のことをそうそう考えられません。少なくとも高齢になると、多角的に物事を考えるということが苦手になるようです。73歳という年齢で、ヘルパーとして働いているのは体力的にもかなりキツイと思います。仕事を終えて家に帰れば、ただもう何も考えずに体を休めて寝るだけになってしまうのでしょう。「他の部屋を借りられないし……」訴訟の手続きに入ると、ミズエさんは「わたしに死ねと言うのですか?」と連絡をしてきました。もちろんそんなことは、一言も言っていません。でも「契約を解除したので、退去してください」と書かれた訴状を読んで、ミズエさんは「もう生きてはいけない」と思ったのかもしれません。『あなたが独りで倒れて困ること30』(著:太田垣章子/ポプラ社)長年住み続けてきたのですから……。そう言いますが、賃貸物件の場合、家賃を払わない人に部屋を貸し続けることはできないのです。家主だって、ビジネスで賃貸経営をしているのですから、家賃を払ってもらえないなら、退去してもらってきちんと払ってくれる人に借りてもらいたい、そう考えるのは当然のことです。ミズエさんは、法廷では、急に弱気になって「他の部屋を借りられないし……」と言い出しました。裁判官も同情的にはなりますが、払えない以上仕方がありません。たまたまミズエさんの住んでいるエリアは、低所得の方々への居住支援を手厚く行っている地域でした。そういうエリアは、明け渡しの判決書を持って行政の窓口へ相談に行くと、緊急性があるということで担当者も頑張ってくれることが多いのです。ミズエさんにもその旨をしっかりお伝えして、窓口へ行ってもらいました。結果として、空いている公営住宅に入居することができました。長期的な人生設計を民間の賃貸物件は、今現在、高齢者になると本当に部屋を貸してもらえません。この先は日本の人口がどんどん減り、高齢者が増えてくるので状況も変わるかもしれませんが、劇的に変化するとは私には思えません。だから目先のことだけでなく、この家賃を自分は死ぬまで払い続けることができるのか、ということを考えて欲しいのです。働いている間は払えても、いつか体力的にも働けなくなる時がきます。賃金だって下がることはあっても、高齢者になって上がることは、普通はほとんどないと思います。長期的に人生設計をすることは、本当に重要なことだと思っています。先日も50歳前後の夫婦が、家賃を滞納しているということで家主からご相談を受けました。二人の収入内で生活ができず、消費者金融からもお金を借りていました。連帯保証人になっている80歳近いお父さんが代わりに払ってこられましたが、「もう援助を続けるのは無理だ……」となり、訴訟手続きになったのです。50歳前後の夫婦が家賃を50万円も滞納しているということは、貯金を隠しもっていたら話は別ですが、基本はお金がないということ。この年代で貯金がないというのは、本当に将来が厳しいことでしょう。早くから把握しておく「老後2000万円問題」ではないですが、ある程度の貯金がないと、最終的には生活保護しか生きる術はなくなってしまいます。もちろん最後のライフラインですから、頑張った末に仕方がなければ胸をはって受給して欲しいとは思いますが、それまでにも家賃が払えないなら安い物件に移転する、収入を増やす、などの努力はして欲しいなと思うのです。お金に追い詰められると、視野が30センチになってしまいます。そうなると、今日の「今」のことしか考えられなくなるのも仕方がありません。それは高齢者になっても、同じことです。だからこそクリアな考えができるうちに、しっかりと今後をどうしたいのか、そのために何をすれば良いのか、考えて欲しいのです。高齢者向けの住宅も、いろいろな種類があります。有料老人ホームから、グループホーム、サービス付き高齢者住宅等々、たくさんあります。それらを早くから把握しておくのも良いかもしれません。実際に入所を考える時期に選んでと言われても、よく理解できないからです。どのような種類があって、どのようなメリット・デメリットがあって、自分はどうしたいのかを考え、先に見学しておくのも悪くないと思います。そしてまずは、今住んでいる家の家賃を最後まで払い続けられるかどうか、現状を把握することをお勧めします。まとめ自分が家賃を払い続けられるかどうか持ち金も含め把握しよう※本稿は、『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
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人生の最後をどこで迎えたいかはライフプランとも関係してきます。
ミズエさん(仮名・73歳)が、家賃を滞納しているということで、家主から私のところに明け渡しの訴訟手続きを依頼されました。
家主は毎月のように督促をしますが、のらりくらりとかわされてしまい、6万5000円の家賃なのに、既に20万円近く滞納になっているとのことでした。
この話のポイントは、賃借人の年齢が73歳ということ。そして家賃が生活保護の受給レベルより高いということです。
ミズエさんは、まだ働いていました。その理由はただひとつ。もらえる年金がほとんどないからです。ミズエさんは国民年金の対象で、さらにこれまで年金をほとんど払ってこなかったため、今働いて得る収入だけが頼りです。
73歳の現時点で、働いていること自体がすごいとは思いますが、近い将来に働けなくなる時がきっときます。その時には、収入は途絶えます。そうなるとどうやって生きていくのでしょう……。
あとは生活保護を受給するしかなくなります。でも生活保護を受給するためには、その受給ラインの家賃帯、つまり5万3000円以下(金額はエリアによって変わります)の物件に住んでいないといけません。
生活保護の受給ラインより高額な家賃の部屋に住みながら、家賃補助は受給できません。最後のライフラインだからです。
ミズエさんは、もっと早く今より家賃の安い物件に、引っ越しをしておかなければいけなかったのです。そうすれば家賃補助が受けられたはずです。
でも人は、先のことをそうそう考えられません。少なくとも高齢になると、多角的に物事を考えるということが苦手になるようです。
73歳という年齢で、ヘルパーとして働いているのは体力的にもかなりキツイと思います。仕事を終えて家に帰れば、ただもう何も考えずに体を休めて寝るだけになってしまうのでしょう。
訴訟の手続きに入ると、ミズエさんは「わたしに死ねと言うのですか?」と連絡をしてきました。
もちろんそんなことは、一言も言っていません。でも「契約を解除したので、退去してください」と書かれた訴状を読んで、ミズエさんは「もう生きてはいけない」と思ったのかもしれません。
『あなたが独りで倒れて困ること30』(著:太田垣章子/ポプラ社)
長年住み続けてきたのですから……。そう言いますが、賃貸物件の場合、家賃を払わない人に部屋を貸し続けることはできないのです。
家主だって、ビジネスで賃貸経営をしているのですから、家賃を払ってもらえないなら、退去してもらってきちんと払ってくれる人に借りてもらいたい、そう考えるのは当然のことです。
ミズエさんは、法廷では、急に弱気になって「他の部屋を借りられないし……」と言い出しました。裁判官も同情的にはなりますが、払えない以上仕方がありません。
たまたまミズエさんの住んでいるエリアは、低所得の方々への居住支援を手厚く行っている地域でした。そういうエリアは、明け渡しの判決書を持って行政の窓口へ相談に行くと、緊急性があるということで担当者も頑張ってくれることが多いのです。
ミズエさんにもその旨をしっかりお伝えして、窓口へ行ってもらいました。結果として、空いている公営住宅に入居することができました。
民間の賃貸物件は、今現在、高齢者になると本当に部屋を貸してもらえません。この先は日本の人口がどんどん減り、高齢者が増えてくるので状況も変わるかもしれませんが、劇的に変化するとは私には思えません。
だから目先のことだけでなく、この家賃を自分は死ぬまで払い続けることができるのか、ということを考えて欲しいのです。
働いている間は払えても、いつか体力的にも働けなくなる時がきます。賃金だって下がることはあっても、高齢者になって上がることは、普通はほとんどないと思います。
長期的に人生設計をすることは、本当に重要なことだと思っています。
先日も50歳前後の夫婦が、家賃を滞納しているということで家主からご相談を受けました。二人の収入内で生活ができず、消費者金融からもお金を借りていました。
連帯保証人になっている80歳近いお父さんが代わりに払ってこられましたが、「もう援助を続けるのは無理だ……」となり、訴訟手続きになったのです。
50歳前後の夫婦が家賃を50万円も滞納しているということは、貯金を隠しもっていたら話は別ですが、基本はお金がないということ。この年代で貯金がないというのは、本当に将来が厳しいことでしょう。
「老後2000万円問題」ではないですが、ある程度の貯金がないと、最終的には生活保護しか生きる術はなくなってしまいます。
もちろん最後のライフラインですから、頑張った末に仕方がなければ胸をはって受給して欲しいとは思いますが、それまでにも家賃が払えないなら安い物件に移転する、収入を増やす、などの努力はして欲しいなと思うのです。
お金に追い詰められると、視野が30センチになってしまいます。そうなると、今日の「今」のことしか考えられなくなるのも仕方がありません。それは高齢者になっても、同じことです。
だからこそクリアな考えができるうちに、しっかりと今後をどうしたいのか、そのために何をすれば良いのか、考えて欲しいのです。
高齢者向けの住宅も、いろいろな種類があります。有料老人ホームから、グループホーム、サービス付き高齢者住宅等々、たくさんあります。それらを早くから把握しておくのも良いかもしれません。
実際に入所を考える時期に選んでと言われても、よく理解できないからです。
どのような種類があって、どのようなメリット・デメリットがあって、自分はどうしたいのかを考え、先に見学しておくのも悪くないと思います。
そしてまずは、今住んでいる家の家賃を最後まで払い続けられるかどうか、現状を把握することをお勧めします。
まとめ自分が家賃を払い続けられるかどうか持ち金も含め把握しよう
※本稿は、『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。

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