「卵」も「フォアグラ」も不足し、白い恋人が品薄状態に…『鳥インフルエンザウイルス』はますます強力になっている『衝撃の実態』

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今年も鳥インフルエンザ(鳥インフル)の流行シーズンが到来した。
本稿を執筆している12月11日時点で、全国4ヵ所の養鶏場で鳥インフルの発生が確認され、累計約18万羽の鶏が殺処分の対象となっている。
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昨今流行している鳥インフルウィルスは「高病原性」と呼ばれるもので、感染した鶏はほぼ100%死に至る。そのため、養鶏場などで鳥インフルの発生が確認されると、周辺の農場などへの感染拡大を防ぐために、同じ農場で飼われている鶏などは原則、全羽殺処分される。そのため、我々の食料事情にも深刻な影響が及ぶのである。
多くの読者の方がこの影響を実感したのが、流行が過去最悪に及んだ昨冬のことだったのではないだろうか。
昨冬の流行では、2022年10月に岡山県の養鶏場で初めて確認されて以来、今年4月までに26道県の養鶏場などで発生が確認され、累計1771万羽の鶏などが殺処分された。このうち、ほとんどのケースは採卵鶏を育てる農場で、殺処分された採卵鶏の数は1600万羽を超えた。いまひとつピンとこないかもしれないが、この数字は日本で飼われている採卵鶏の約10%にあたる。
「10%でそこまで大きなダメージがあるのか」とお思いの方もいらっしゃるかもしれないが、実際に昨冬の日本は未曾有の「卵不足」に陥った。
北海道に暮らす筆者も、今年2月頃から春先にかけて、とにかく卵を入手することができなかった。近所のスーパーへ朝イチで駆け込んでも、卵の入荷自体がないことが多く、しばらくの間、卵売り場には何も商品が並んでいない状態が続いた。
北海道における「卵不足」の影響は、お菓子などの食品にも及んだ。北海道土産の定番「白い恋人」は今年1月から減産調整を開始し、札幌駅のデパ地下ではシュークリームなどの商品が品薄状態だった。
昨冬の卵不足の実態は、卵の卸売価格にもよく表れている。今年2月時点での平均的な卵の卸売価格(東京地区・Mサイズ)は、1キロあたり327円と、前年同月と比べて86%も値上がりした。ざっくり言えば、価格が約2倍に跳ね上がったのだ。
昨冬の鳥インフル流行で、深刻な打撃を受けたのは日本だけではない。米国でも殺処分の増加によって卵価格が大きく高騰し、あまりのインフレぶりに「エッグ」と「インフレーション」を掛け合わせた「エッグフレーション」なる造語が生まれる事態になった。
また、鳥インフルはその名の通り「鳥」の間で流行する感染症であるため、影響を受けるのは鶏だけにとどまらない。たとえばフランスでは、フォアグラ生産向けに飼われているガチョウなどの間で鳥インフルの流行が深刻になった。
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ご存じの方も多いと思うが、高級食材として知られるフォアグラは、ガチョウやアヒルの肝臓を加工した食品だ。もちろん、肝臓はオス・メス問わず、鳥の体内にあるものの、通常は肝臓が大きいオスのガチョウなどからフォアグラは生産される。
しかし、鳥インフルの流行によって殺処分が増えたことで、オスだけでは十分な量のフォアグラが生産できなくなり、フランスではフォアグラ向けにメスを育てるケースが増えてきているという。
「白い恋人」からフォアグラまで、幅広い食品に影響を及ぼす鳥インフルの流行だが、日本の状況だけでいうと、今シーズンの流行は咋シーズンほどの深刻さにはなっていない。
昨シーズンは12月9日の時点で全国32の養鶏場で発生が確認されていたものの、冒頭でも触れたように今シーズンの発生確認件数は4件にとどまっている。また、野鳥の死骸などから鳥インフルエンザウイルスが検出される件数も、昨シーズンと比べると少ない。昨シーズンは12月3日の時点で、野鳥などからの検出件数が100件を超えていたが、12月4日時点で今シーズンの検出件数は52件に抑えられている。
しかし、このことから「昨シーズンはたまたま流行がひどい年だった」と考えるのは、やや早計だ。というのも、鶏などが感染する鳥インフルエンザウイルスは、近年強力なものへと変異している可能性などが指摘されているためだ。
では、そもそも鳥インフルはなぜ流行するのか。そして、人間と同じように、ワクチンによって流行を止めることはできないのか。
後編記事『「鳥インフルエンザウイルス」がヒトに感染する…!?《ワクチンで対策できない》事情』では、これらの点をもう少し深掘りしていこう。

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