税理士ダイバー、富士山の忍野八海から硬貨3万5000枚回収…投げ銭はなくならず

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10月14日、世界文化遺産・富士山の構成資産で、観光客に人気の湧水池「忍野八海」(山梨県忍野村)の池の底では、光を反射するたくさんのコインが見えた。
東京都国立市の税理士・坂本新さん(56)が7人の仲間と交代でダイビングし、手作業でコインをネットに入れて拾い上げる。珍しそうに観光客が見る中、「当初よりは減ったかな」と笑顔をみせた。
坂本さんは、忍野八海の景観を守ろうと、池に投げ込まれた硬貨を2016年3月からボランティアで拾い続けている。これまでに計20回行い、記録がある日本円だけで、少なくとも3万5000枚を回収。南アフリカやパキスタン、ドミニカ共和国などの硬貨を回収したこともある。
忍野八海は国の天然記念物のため、清掃に機材が使えず、地道な手作業での回収が必要。坂本さんの活動に、忍野村も感謝する。
◇ 坂本さんが潜水のボランティアを始めたのは、11年の東日本大震災がきっかけだった。津波で小学生の娘が流された父親が海中に潜って捜すという話を聞いて、同年代だった長男が被害に遭ったらと思うと、いても立ってもいられなかった。
ダイビングが趣味で、潜水士の資格を持っていたため、その夏、宮城県石巻市の海で5回ほど遺体や遺品を捜す活動に参加。そこで「ダイバーにしかできないボランティアがある」と感じた。
硬貨の回収を思い立ったきっかけは16年。子どもの頃、澄み切った忍野八海に感動し、米国の友人にも見せようと連れて行ったが、大量のコインが沈む様子にがくぜんとした。
忍野村役場に「コインを回収したい」と直談判し、認められると、水を濁らせない技術を学ぶため、専門家を探し、沖縄県の海で練習を積んだ。高地では、関節痛などを引き起こす「減圧症」のリスクが高いとされる。潜水時間を短くするなどの対策を取って行ううちに、仲間も増えた。
◇ 村によると、イタリア・ローマの「トレビの泉」にコインを投げ入れ、幸運を願うのと同じ感覚なのか、投げ銭はなくならない。
坂本さんは忍野八海への投げ入れがなくなることを願い、こう語る。「富士山の伏流水が流れ込むこの池に心を打たれる人は多いと思う。子どもたちにきれいな池を残したい」

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