年内解散できなかった岸田政権の運命はもう風前の灯火なのかもしれない

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岸田文雄首相は9日、「経済対策に取り組む。それ以外のことは考えていない」と述べて年内解散しないことを明らかにした。だが「しない」ではなく「できない」であることを誰もが知っている。
岸田氏が解散を「できない」のはこれで2度目だ。前回は通常国会終盤の6月。その時は筆者の元に旧知の官僚から、「明日解散。投票日は7/23」というガセ情報が寄せられたくらいだったから、状況はかなり緊迫していたと思う。
しかし今回は1週間前に、ある野党幹部から「まだクリスマス選挙(12/24投票)の線が消えてないんだよな」と半信半疑の様子で言われたくらいで、永田町はずっと静かだった。
と言うか1人の首相が解散風を吹かせた後に、「やっぱりしません」とわざわざ宣言することを短期間に2度もやったというのはあまり記憶にない。これはあまりカッコいい話ではない。
これで岸田氏のリーダーシップにかげりが出るのは当然だろう。評判の悪い所得税減税については引き続き批判されるし、本来やらないといけない防衛力強化のための増税や、少子化対策の財源としての社会保険料の引き上げの議論などは、袋叩きにされて支持率がさらに下がってしまうので、進まなくなるのではないか。
それにしても首相の後見人である麻生太郎自民党副総裁の義弟、鈴木俊一財務相の「税収増分はすでに使っている」発言や、首相のいとこ、宮沢洋一税調会長の「所得減税は当然一年限り」という発言はなぜ出てくるのか。
2人とも正しいことを言っているのだが、このタイミングで「身内」がわざわざ言わなくてもいい。特に宮沢氏の「当然一年限り」というワードは「反岸田」の人たちにとって実に癇に障ると思う。いくら正しいことを言っても政権がコケたらどうしようもないのに。
首相や閣僚の給与が上がる問題も、公務員の賃上げのために必要なのだからやるべき話なのだが、なぜ先に「私たちは返納します」と言わないのか。首相の年収が46万円上がったら何も知らない人は怒るし、野党やメディアは大喜びで突っ込んでくるくらいわかりそうなものだ。
笑ってしまったのは税金を担当する財務省の副大臣が「仕事が忙しくて税金を滞納していました」という話だ。これは悪い冗談かと思った。しかも辞任は否定した(10日現在)。これはヤバい。
つまり岸田政権は今やドツボにはまっている。何をやっても支持率は上がらない。逆に何か少しでも国民の気に障ることをやると支持率は下がる。野党もメディアもそれを待っている。
岸田氏が今後やるであろうことは、賃上げへの努力を続ける、ガソリン、電気代への補助金など家庭へのバラマキも盛大にやる。でも増税や社会保険料の値上げはできないし、歳出削減も必ず文句言う人がいるのでできない、つまり国債をひたすら出し続けるしかない。
そうやって来年9月の自民党総裁選までに支持率が上がって解散するチャンスをじっと待つのだ。6月に所得減税が実施され、支持率が上がれば解散という声もある。
幸い日本経済は上向きだ。インバウンドが戻りGDPギャップもプラスに転じたことで、これから供給側を強くすれば経済はさらに良くなる。株も高く、税収も今後数年は上振れるらしい。物価高も少し落ち着き始めた。来春には実質賃金がプラスになるとの予想もあり、そうなれば国民の気分はずいぶん変わるだろう。
だが岸田氏にもう解散する力は残ってないと思う。選挙の顔になるのはもう無理だからだ。あとはいかにポスト岸田を決めるかだ。しかし最有力とみられる茂木敏充幹事長は「令和の明智光秀にはならない」と述べ、不出馬を示唆している。
他の河野太郎、高市早苗、石破茂氏らは議員票を集めるのに苦労している。岸田氏がレームダックになりつつあるのに次を決められない。これでは先行きが読めない。
このままでは総裁選は岸田氏再選となるかもしれない。そのまま任期満了まで行って岸田氏かあるいは誰か弱い首相が衆参ダブル選挙をやり、もし与党が過半数割れになったら日本維新の会や国民民主党に連立入りしてもらう、先行きについては今のところそれくらいしか思いつかないのだ。【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

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