年金330万円の60代父逝去→「親父は金持ちだからな」通帳を握りしめダッシュした“借金300万円の放蕩息子”が銀行で絶叫したワケ【FPが解説】

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資産の多い少ないにかかわらず、親子間でお金について早いうちから話し合っておくことは非常に重要です。順当にいくと親が先立つ可能性が高いなか、お金についての話し合いができていない家族は親の死後、後悔するケースが多いと、FP1級の川淵ゆかり氏はいいます。本記事では、AさんとBさんの2家族の事例とともに、家族間のお金の問題について解説します。
親が亡くなったり病気になったりすることで、急にまとまったお金が必要になることがあります。ですが、現在は本人確認がとても厳しくなっているので、通帳と印鑑があっても家族であっても簡単にお金を引き出すことはできない時代になりました。
Aさんは28歳の男性です。父親は地方では有名な名士でしたが、Aさんは中学時代から素行が悪く、高校卒業と同時に母親と2歳年下の妹を残して家を出ていってしまいました。
その後は数年に1度の頻度でお金がなくなるか借金ができるとお金をせびりに戻ってくる、といった息子に両親は頭を悩ませていました。両親は60代で年金暮らし(年約330万円の受給)でしたが、資産は8,000万円と余裕があったこともあり、一人息子に甘いのか、怖いのか、母親は帰ってくるたびにお金を渡してしまいます。
さて、Aさんが300万円という大きな借金を作ってしまい、どうしようか考えていたころ、突然の父親の死の知らせを耳にします。
「おやじは金持ちだからな。遺産相続が楽しみだ、とりあえず帰って500万円くらいは一時金としてもらってこようかな」と、葬儀にも顔を出さずに自分のことしか考えていないとんでもない男です。
妹はすでに嫁いでしまい、1人残された母親を脅して父親の通帳と印鑑と手に入れたAさんは通帳と印鑑を握りしめ、銀行にダッシュしていきました。ところが、「大変申し訳ありませんが、亡くなってしまった方の預金口座からの引き出しは認められません」と窓口で断られてしまいます。
すぐにお金の必要なAさんは納得がいかず、「俺は長男だぞ! 相続人だぞ! なんで引き出せないんだよ!」と窓口で大声を張り上げ叫んでも銀行側は相手にしません。
銀行側は名義人の死亡を知った時点で口座を凍結してしまうため、その後は家族であっても入出金は一切できなくなってしまう点に注意が必要です。そのため、たとえ生活費でお金が必要でも引き出すことはできなくなってしまいます。
預貯金があれば、それは亡くなった時点で遺産となります。つまり、遺産分割の協議・手続きが終了するまでは金融機関から引き出せないのです。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産のわけ方を話し合うことです。被相続人(亡くなった人)の遺産は、相続人全員の共有となります(民法898条)ので、遺産のわけ方を話し合わないといけません。
なお、遺産分割には特に法律上の期限はありませんが、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に相続税申告を行う必要があるため、それまでに遺産分割を完了しておく必要があります。
なかにはAさんのような息子には財産を渡したくない、と考える親御さんもいらっしゃるでしょう。その場合の対処法を2つご紹介します。
遺言書で相続人それぞれの財産の相続分を指定してしまうことです。Aさんのような性格だとどんなに多額な財産を渡してもムダ使いによりすぐになくなってしまうでしょう。ですから「相続分はゼロだ、相続はさせない」とはっきり記載しておきます。
しかし、相続財産には最低限の取り分(遺留分)というものがありますので、「遺留分侵害額請求」を起こされてしまうと、遺留分の財産は渡さないといけません。この金額は、法定相続分の割合の1/2となっています。
「相続廃除」という法的手続きを踏めば、特定の人から相続権を剥奪することができます。たとえば、以下のような人が該当します。
・長年家庭内暴力を振るっていた。・多額の借金を肩代わりさせた、親の預金を勝手に使い込んだ。・重大な罪を犯して周りに迷惑をかけた。このように、著しい非行等があった者は、家庭裁判所への申し立てと審判を経て、相続廃除することができます。相続廃除は、生前に家庭裁判所へ申し立てを行う方法と、遺言書により書き残しておき亡くなったあとに遺言執行者によって申し立てを行う方法があります。ですが、いずれも生前に準備しておく必要がありますし、簡単にできるものでもありません。どうしても財産を渡したくない親族がいる場合は、弁護士などの専門家に早めに相談しておきましょう。Aさんの両親は上記のような手段をとっておくことこともできましたが、どちらにせよ、遺されたAさんの母親は今後もAさんとお金のトラブルが絶えないでしょう。場合によっては、老後の資金計画を脅かされる事態にもなり得ます。お金の管理については家族間で前々から双方が納得できるようしっかりと話し合いをしておくことが重要です。父親が亡くなり、葬儀費用が必要になったBさんだが…親の死後の口座の注意点について、もうひとつ事例をあげて紹介しておきます。Bさんの父親は肺の病気で入院をしていましたが、85歳という高齢ということもあり、容態が急変して突然病院で亡くなってしまいました。その後、葬儀や病院の支払いなどまとまったお金が必要になり、Bさんは実家のタンスの引き出しから父親の通帳と印鑑を持ち出し、銀行へと向かいました。ですが、前述のとおり故人の口座は凍結され、原則1円も引き出すことはできません。近ごろは価格の低い家族葬が増えてきたとはいえ、通夜・告別式・火葬までで十数万~規模によっては数百万円のお金がかかります。さらにお墓を建てるとなれば、100万~数百万円が追加で必要になります。また、故人の収入で世帯の家計を支えていた場合、当面の遺族の生活費も確保しなくてはいけませんし、故人の入院代や老人ホームの支払いが必要な場合もあります。Bさんの家庭はお子さんが私立大学に通っていますし住宅ローンの返済もあり、決して余裕があるわけではありませんから、父親の口座凍結は大変厳しいものでした。葬儀代等の支払いが可能になる「預貯金の仮払い制度」さて、Bさんのようなケースは決して少なくはありません。そこで、2019年の相続法の改正により「預貯金の仮払い制度」が新設されました。これにより、遺産分割の前でも故人の口座から預貯金の一部を相続人の1人が引き出すことが可能となりました。金融機関の窓口で相談していただければ、「相続開始時の預貯金残高×1/3×法定相続分」という上限額(金融機関ごとに150万円まで)を受け取ることが可能になります。なお、この仮払い制度を利用して受け取った金額については、仮払いをした相続人が遺産の一部を受け取ったものとみなされますので、後日、遺産分割の協議をする際は仮払いをしたことの報告が必要です。ただし、被相続人がまだ支払っていなかったローンやクレジット等の残高、税金、入院費といった費用などのほかに、お通夜やお葬式の費用も「債務控除」といって、相続財産の価額から差し引くことができます。葬式費用として控除できる主な費用は次のとおりです。・お通夜、本葬にかかった費用・火葬料、埋葬料、納骨料・遺体や遺骨の搬送料・お布施、戒名料・会葬御礼の費用なお、香典返しの費用や初七日・四十九日などの法要に係る費用は、相続財産から控除できません。遺産分割協議の場では、被相続人が死亡したあとにいくら引き出し、なににいくら使ったかを明確に示せるように準備しておきましょう。川淵 ゆかり川淵ゆかり事務所代表
・多額の借金を肩代わりさせた、親の預金を勝手に使い込んだ。
・重大な罪を犯して周りに迷惑をかけた。
このように、著しい非行等があった者は、家庭裁判所への申し立てと審判を経て、相続廃除することができます。
相続廃除は、生前に家庭裁判所へ申し立てを行う方法と、遺言書により書き残しておき亡くなったあとに遺言執行者によって申し立てを行う方法があります。ですが、いずれも生前に準備しておく必要がありますし、簡単にできるものでもありません。どうしても財産を渡したくない親族がいる場合は、弁護士などの専門家に早めに相談しておきましょう。
Aさんの両親は上記のような手段をとっておくことこともできましたが、どちらにせよ、遺されたAさんの母親は今後もAさんとお金のトラブルが絶えないでしょう。場合によっては、老後の資金計画を脅かされる事態にもなり得ます。お金の管理については家族間で前々から双方が納得できるようしっかりと話し合いをしておくことが重要です。
父親が亡くなり、葬儀費用が必要になったBさんだが…親の死後の口座の注意点について、もうひとつ事例をあげて紹介しておきます。Bさんの父親は肺の病気で入院をしていましたが、85歳という高齢ということもあり、容態が急変して突然病院で亡くなってしまいました。その後、葬儀や病院の支払いなどまとまったお金が必要になり、Bさんは実家のタンスの引き出しから父親の通帳と印鑑を持ち出し、銀行へと向かいました。ですが、前述のとおり故人の口座は凍結され、原則1円も引き出すことはできません。近ごろは価格の低い家族葬が増えてきたとはいえ、通夜・告別式・火葬までで十数万~規模によっては数百万円のお金がかかります。さらにお墓を建てるとなれば、100万~数百万円が追加で必要になります。また、故人の収入で世帯の家計を支えていた場合、当面の遺族の生活費も確保しなくてはいけませんし、故人の入院代や老人ホームの支払いが必要な場合もあります。Bさんの家庭はお子さんが私立大学に通っていますし住宅ローンの返済もあり、決して余裕があるわけではありませんから、父親の口座凍結は大変厳しいものでした。葬儀代等の支払いが可能になる「預貯金の仮払い制度」さて、Bさんのようなケースは決して少なくはありません。そこで、2019年の相続法の改正により「預貯金の仮払い制度」が新設されました。これにより、遺産分割の前でも故人の口座から預貯金の一部を相続人の1人が引き出すことが可能となりました。金融機関の窓口で相談していただければ、「相続開始時の預貯金残高×1/3×法定相続分」という上限額(金融機関ごとに150万円まで)を受け取ることが可能になります。なお、この仮払い制度を利用して受け取った金額については、仮払いをした相続人が遺産の一部を受け取ったものとみなされますので、後日、遺産分割の協議をする際は仮払いをしたことの報告が必要です。ただし、被相続人がまだ支払っていなかったローンやクレジット等の残高、税金、入院費といった費用などのほかに、お通夜やお葬式の費用も「債務控除」といって、相続財産の価額から差し引くことができます。葬式費用として控除できる主な費用は次のとおりです。・お通夜、本葬にかかった費用・火葬料、埋葬料、納骨料・遺体や遺骨の搬送料・お布施、戒名料・会葬御礼の費用なお、香典返しの費用や初七日・四十九日などの法要に係る費用は、相続財産から控除できません。遺産分割協議の場では、被相続人が死亡したあとにいくら引き出し、なににいくら使ったかを明確に示せるように準備しておきましょう。川淵 ゆかり川淵ゆかり事務所代表
親の死後の口座の注意点について、もうひとつ事例をあげて紹介しておきます。
Bさんの父親は肺の病気で入院をしていましたが、85歳という高齢ということもあり、容態が急変して突然病院で亡くなってしまいました。
その後、葬儀や病院の支払いなどまとまったお金が必要になり、Bさんは実家のタンスの引き出しから父親の通帳と印鑑を持ち出し、銀行へと向かいました。ですが、前述のとおり故人の口座は凍結され、原則1円も引き出すことはできません。
近ごろは価格の低い家族葬が増えてきたとはいえ、通夜・告別式・火葬までで十数万~規模によっては数百万円のお金がかかります。さらにお墓を建てるとなれば、100万~数百万円が追加で必要になります。
また、故人の収入で世帯の家計を支えていた場合、当面の遺族の生活費も確保しなくてはいけませんし、故人の入院代や老人ホームの支払いが必要な場合もあります。Bさんの家庭はお子さんが私立大学に通っていますし住宅ローンの返済もあり、決して余裕があるわけではありませんから、父親の口座凍結は大変厳しいものでした。
さて、Bさんのようなケースは決して少なくはありません。そこで、2019年の相続法の改正により「預貯金の仮払い制度」が新設されました。これにより、遺産分割の前でも故人の口座から預貯金の一部を相続人の1人が引き出すことが可能となりました。
金融機関の窓口で相談していただければ、「相続開始時の預貯金残高×1/3×法定相続分」という上限額(金融機関ごとに150万円まで)を受け取ることが可能になります。
なお、この仮払い制度を利用して受け取った金額については、仮払いをした相続人が遺産の一部を受け取ったものとみなされますので、後日、遺産分割の協議をする際は仮払いをしたことの報告が必要です。
ただし、被相続人がまだ支払っていなかったローンやクレジット等の残高、税金、入院費といった費用などのほかに、お通夜やお葬式の費用も「債務控除」といって、相続財産の価額から差し引くことができます。
葬式費用として控除できる主な費用は次のとおりです。
・お通夜、本葬にかかった費用・火葬料、埋葬料、納骨料・遺体や遺骨の搬送料・お布施、戒名料・会葬御礼の費用なお、香典返しの費用や初七日・四十九日などの法要に係る費用は、相続財産から控除できません。遺産分割協議の場では、被相続人が死亡したあとにいくら引き出し、なににいくら使ったかを明確に示せるように準備しておきましょう。川淵 ゆかり川淵ゆかり事務所代表
・火葬料、埋葬料、納骨料・遺体や遺骨の搬送料
・お布施、戒名料・会葬御礼の費用
なお、香典返しの費用や初七日・四十九日などの法要に係る費用は、相続財産から控除できません。遺産分割協議の場では、被相続人が死亡したあとにいくら引き出し、なににいくら使ったかを明確に示せるように準備しておきましょう。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表

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