入れ歯にすると「ご飯がおいしく食べられなくなる」→うそ? 本当? 歯科医師に“真偽”を聞いてみた

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「入れ歯はご飯がおいしく食べられない」「入れ歯にすると、食事の味を感じにくくなる」。このような話を聞いたことがありませんか。自分の歯で食べるのと、入れ歯で食べるのとでは、食べ物の味の感じ方が変わるといわれています。実際のところはどうなのでしょうか。つのだデンタルケアクリニック(福岡市博多区)院長で歯科医師の角田智之さんに聞きました。
Q.ずばり、「入れ歯にすると、ご飯の味をおいしく感じにくくなる」というのは事実ですか。
角田さん「一概に『おいしく感じにくくなる』とはいえません。味覚を感じるセンサーである『味蕾(みらい)』は舌に多く存在していますが、舌だけではなく、上顎の裏側や頬の内側にも存在しています。その部分を入れ歯で覆ってしまう場合、味を感じにくくなる可能性はあります。
ただ、味覚自体が主観的なものであり、他者からは捉えにくいこと、味を感じるには味蕾だけではなく嗅覚も関係すること、さらには食感、心理的要因、唾液量、食習慣などさまざまな要因も複雑に関係しているといえます。そのため、個人差が大きく、一概に『入れ歯だとおいしく感じにくくなる』とはいえないでしょう。
自分の歯で食べていたときは特に不自由を感じなくても、入れ歯になると食べやすいもの、食べにくいものなどの変化が生じてきます。それに伴い、食べ物の嗜好(しこう)も変化することが、『味を感じにくくなった』と解釈させているのかもしれません。
さらに、自分の歯と入れ歯の感覚の違いがあります。歯根の周囲には、歯応えや食感といった感覚情報を伝える『歯根膜(しこんまく)』という受容器がありますが、歯の喪失に伴い、これも失ってしまいます。食感も味を感じる要素といえるので、味の変化に影響すると考えられます。なお、義歯による歯の欠損回復の治療は簡単ではなく、入れ歯の不具合が味覚に大きく影響しているという研究報告もあります」
Q.部分入れ歯と総入れ歯とでは、味の感じ方に違いがあるのでしょうか。
角田さん「同じ部分入れ歯でも、大きさによって差があると思います。小さい部分入れ歯ではそれほど影響がないかもしれませんが、大きい部分入れ歯で、上顎の裏を覆う範囲が大きくなれば味を感じにくくなる可能性はあるでしょうし、舌感覚への影響もあるようです。
そのため、より大きい範囲を覆ってしまう総入れ歯(総義歯)は、味の感じ方がさらに変化するように思われますが、実際には部分入れ歯にしても総入れ歯にしても、良好なフィット感を得ている場合や、義歯の痛みがなく上手に使えている場合は、味を感じやすくなるようです。また、入れ歯を作ってから一定期間がたち、慣れてくるとより味を感じやすくなるということもあるでしょう」
Q.自分の歯を失い、入れ歯を使うことになった場合、ご飯をおいしく食べるためにできる工夫はありますか。
角田さん「お口の中の状況は個人差が大きく、一概にはいえませんが、やはりフィット感のある使いやすい入れ歯を手に入れることではないでしょうか。
入れ歯は人工装置なので、不具合がなくてもメンテナンスが必要です。『痛くないし、このままでいいや』ではなく、定期的なメンテナンスに通い、何でも相談できるかかりつけの歯科医を持つことが、安心につながり、食事をおいしく感じる心理的要因となるのかもしれません。

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