私を「売れ残りおばさん」とSNSで叩いた“誹謗中傷の送り主”と会ってみた。彼の主張に正義はあるのか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

インフルエンサーにとってネットでの誹謗中傷はつきものだ。とくにX(Twitter)は、基本的には何を投稿しても「クソリプ」と呼ばれる説教まがいの侮辱に晒されることになる。元風俗嬢、元看護士の肩書を持つエッセイストでライターのyuzukaさん(@yuzuka_tecpizza)のもとには、ネットで大量の誹謗中傷や脅迫が送られてくるという。 今回、yuzukaさんはそんな誹謗中傷の嫌がらせの送り主に連絡を取ってみて、なぜネットでメッセージを発信し、誹謗中傷をするのか?を本人に直撃した。最後には誹謗中傷対策やインターネット問題に詳しい弁護士にも話を聞いた。その取材の模様をお届けする(以下、yuzuka寄稿)。
◆「生き遅れ風俗おばさん」という投稿
ある日、私がポストした「未成年の少女に手を出す成人男性はろくでもない」という内容のツイートが拡散され、徐々に炎上気味になっていった。その中に、やたらと攻撃性の高い書き込みを見つけた。後に取材することになる、Iさんが書き込んだものだった。
「生き遅れ風俗おばさん」「低賃金で整形しまくっている」「売れ残りおばさん」「未婚のくせに」「風俗嬢の脱税犯」という投稿だった。
そもそも私はとうに結婚して、息子もいて、それを公表しているが、Iさんはそれを知らないまま、完全な決めつけで誹謗中傷していることが分かる。いつもならスルーしているだろうが、その日はどうしても気になって、IさんにDMを送信することにした。
「開示請求をしようと思っていました。だけどもしも貴方が直接話してくださるのならこれ以上ことは荒立てません。どうしますか?」
答えは、「個人情報を隠せるのなら直接話してもいい」だった。後日、Iさんとオンラインでインタビューすることになった(Iさんは男性だった)。
◆「淫行条例」についての話題に強い反応
彼の過去の投稿をさかのぼってみると、強い反応を示していたのが、「淫行条例」についての話題だった。淫行条例とは「青少年保護育成条例」のことで、東京都の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」には、<何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない>という規定があり、違反した場合の罰則は、2年以下の懲役か100万円以下の罰金となる。
まずは、その話題をIさんに振ってみると、さまざまなデータを元にその法律がいかに“必要でないか”を早口で説明するのだ。
「未成年と成人の恋愛は、当事者間の問題です。実際、長野県の高校で『淫行条例に賛成ですか、反対ですか』というアンケートをとると、半数以上が反対だったんです。そこにも、当事者は反対しているという証拠がある。淫行条例について書かれている本(法整備に関する書籍)も読みました。18歳以下は未熟だから守るべきだと書いてあったが、18歳以下が未熟というエビデンスが全くなく、すべて感情論でしかない」
◆女性の不快感の表明がトレンド入りすることを懸念
今回のきっかけとなった私の投稿も、未成年に手を出す成人男性を批判するような内容だった。「どうして私のツイートに腹が立ったのか」と尋ねると、Iさんは「歳の差が一定以上ある女の子と付き合う男はクズだと断定するように書かれていたから。実際に、いろんな統計のデータを見ていくと、それは間違いだ」と答えた。
彼の真意はわからないが、気になるのはなぜこの問題にここまで執着するのかだ。実際に実生活に及んだ影響があるのかどうかを尋ねると、ポツリと「規制が激しくなることで、アニメやゲームに影響があった」と話した。
また彼は、女性の不快感の表明がトレンド入りすることも懸念しているようだった。

◆女性優位に感じる実生活が「誹謗中傷」に?
さらに話していくうちに、別の理由も見えてきた。ただし私としてはこちらの主張のほうがより本心に近いように感じた。
1つ目は、彼の会社で行われた女性の昇進を促す改革。その改革の結果、実力よりも性別重視で、女性が役職に昇進するようになったらしく、彼はそれを理不尽に感じているようだった。
2つ目に、私生活で体の関係を持った女性にお金を貸した彼が、その子に返金を求めた際、突然「無理矢理犯されました」と警察に通報される事件に巻き込まれたという。彼がいくら事情を説明し、事実無根だと話しても、警察は女性の言い分しか聞かず、訴えは無視されたそうだ。
女性優位に感じる実生活での出来事。いくら正しいことを訴えても、聞いてもらえない虚無感と絶望。彼は「直接の原因」とは言わないが、私にはそれらが女性嫌悪に繋がり、誹謗中傷という結果に現れたように思えた。そして今回はその矛先が、私だったのではないだろうか。
◆結局、最後まで謝罪の言葉は…
彼の説明全てに、共感ができないわけではない。しかし、それなら誹謗中傷ではなく、きちんと説明するべきではないか。
「本質に行きつかなくても良かったんです。とにかく、キモい男を叩く女性を見て喜ぶ人たちを止めたかっただけ」「やりすぎているなと思ったけど、返さないで黙ると『自分が言い負かしたんだ』って向こうが勢いづくだろうし。だから止められなかった」
そう彼は繰り返し、「これ以上の賛同が増えることさえ避けられれば良かったのだ」と語る。
最後に「ああいった言葉を書いて、私が傷つくとは思わなかった?」と聞くと、彼は「誹謗中傷は他にも来ているし、僕だけじゃないので。あんまり気にしていないだろうなと思いました」と言った。結局、最後まで謝罪の言葉はなかった。
◆誹謗中傷対策に詳しい弁護士に聞いた
彼に同情の気持ちがないわけではない。しかし、「整形しまくっている」「売れ残りおばさん」「未婚のくせに」「風俗嬢の脱税犯」などの誹謗中傷は、立派な犯罪行為のはず。
しかし、彼は「きわどいと思うが、訴えられないギリギリを狙っている」と、少し得意げに話す。確かに、本当にこれで訴えられるかどうかはわからない。私が風俗で働いていたり、整形をしたことは過去に自ら記事にもしたこともある紛れもない事実だ。
では実際に、彼の書き込みは誹謗中傷にあたらないのだろうか。後日、私は誹謗中傷対策やインターネット問題に詳しい弁護士法人ATBの藤吉修祟弁護士(@fujiyoshi_ben)に話を聞いた。開口一番、藤吉先生は「これは書き込みとしては完全にアウトですね」と笑った。
――どのような違法行為に当たるのでしょうか?
「今回の書き込みは侮辱としての程度が強いので、名誉感情侵害というものに当たると思います。例えば『売れ残りのおばさん』という言葉なんかは、名誉感情侵害としては充分ですね。脱税犯は名誉毀損ですね」(藤吉先生、以下同じ)
――名誉感情侵害とは、どのようなことをさしますか?
「簡単に言えば、プライドを傷つけられた、というところです」
――それだけで開示請求できるんですか?
「できますね」
◆少しでも事実があれば公益性を認められる?
――「殺す」「死ね」みたいな言葉がない限り、簡単には訴えられないと思っていました。ちなみに書き込んだ本人は「内容に少しでも事実があれば公益性を認められるのでは?」と話していたのですが、そのあたりはどうでしょうか。

――それでは「プライドを傷つけられた」と訴えれば、全てが違法行為にあたるのですか?
「そこは裁判所の判断になりますね。基準としては、裁判所の言葉で表せば、社会通念上の『受忍限度を超えたかどうか』です。簡単に言い変えれば、『我慢の限界をこえるか』です」
◆開示請求の費用「Xの場合は50万円」
――判断が難しそうですね。例えばどんな内容なら、受忍限度は超えない、と判断されるのでしょう。
「バカって言われて、バカって言い返したとなると、それは受忍限度を超えないよね、という判断になると思います」
――なるほど。時々、「ブス」などと書き込み、「表現の自由だ」と主張する人もいますよね。
「結構判断が難しいんですけど、例えば『クソブス』なら限度を超えたとなるでしょうね(笑)。裁判所によって判断が異なるんですよね。例えば『整形顔』だと、それが侮辱に当たるかの捉え方が難しい。整った顔だね、という意味にもとれる。ただ、今回、yuzukaさんにきた『売れ残りおばさん』は、ほぼ100%開示請求もできると思います」 ――実際に開示請求をしたいと思った場合、どれくらいの費用と期間がかかるのでしょうか。
「開示請求の費用はXの場合は50万円、他の掲示板だと、もう少し安くなります。期間は通常は2か月程度で開示できますが、そこもXが、ちょっとややこしい」
◆2022年10月にプロバイダ責任制限法が改正
ここで、そもそもの情報開示請求の仕組みについて補足すると、2022年10月施行された改正プロバイダ責任制限法によって、開示請求が1回のみの手続きでできるようになった。まずは運営会社に対してIPアドレスを開示するように申立て、IPが開示されると、次はそのIPから割り出したプロバイダへ、「発信者情報開示の申立て請求」を行う。
「5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)」などの掲示板であれば2か月くらいで開示できるが、藤吉先生曰く「なぜかXは開示まで6か月と長くなり、現在でも2回の手続きが必要になっている」という。
――どうやら他の掲示板と比べ、Xは申立てへの対応が特別遅いようですね。
「気をつけて欲しいのは、Xの場合は、スピードが勝負だということ。書き込まれてから2週間以内に申立てを行うようにしたい。早めに対応しなければ、プロバイダに請求する頃には情報が消えてしまっている場合もあります。大手携帯会社のプロバイダの通信記録は、約3か月なので。発信者を割り出すには、この記録が残っているうちに動く必要があります」
――書き込まれたらすぐにスクショをとって、相談したほうがいいですね。
「まずは日時が分かるようにスクショし、加えてアカウント名とIDが分かるようにスクショします。その際、アカウントやリプライを消されて証拠隠滅になってしまう恐れがあるので、訴えることは言わないほうが良いと思います。相手が証拠隠滅を図って書き込みを削除すると、いくらスクリーンショットが残っていてもサーバーの情報ごと削除されてしまっているケースもあるので」
◆「負けることはほとんどありません」
――本当に開示請求する場合って、黙って、粛々と手続きを進めたほうがいいんですね。そのあとには、裁判になるんですか?
「いえ、まずは示談の交渉になります。それまでにかかった弁護士費用と慰謝料の合算を請求します。それで相手が渋る場合、裁判という形になります」
――どれくらいの割合で裁判にもつれこみますか?

――開示請求や裁判をしても、結局相手に支払い能力がない場合が多いため、時間の無駄だという意見もありますが。
「そんなことはありませんよ。僕たちも分割でも良いから払ってもらう努力はします。それから、とくに名誉毀損だと犯罪行為でもあるので、払わないと刑事告訴になる場合もあるんです。実際に僕のケースでも何度も刑事告訴したことがあり、実刑になったものもある。そういう背景もあって、払わない、というのはあまり通用しません」
――刑事告訴して、警察は動いてくれるものなんですか?
「一昔前までは名誉毀損で動いてくれなかったが、最近、検察も動いてくれるようになったと思います」
◆本人は「良いことをしていると思っている」
最後に、話す中で、どうしても気になったことを聞いてみた。
――加害者にはどんな人が多いですか?
「男女比は変わらないです。ただ、執拗に繰り返している人は女性のほうが多い印象があります。女性から女性に、ですね」
――どのような理由だと思いますか?
「共通するのは、他人に罰を与えたいという感覚でやっていること。本人は、良いことをしていると思っている。他人に制裁を与えたい欲求って、男女とももの凄く強いんです。ただ、女性はそのなかでもネットの罰という手段を選択しがちかと感じます」
――加害者たちは、実際に訴えられたらどのような反応を示しますか?
「開示請求された後でも『自分は正しいことをやった』と粘る人はほとんどいません。ビビっちゃう人が多いですね」
◆他人を殴れば傷害罪、名誉を傷つけるのも犯罪
――誹謗中傷はなくなると思いますか?
「なくならないでしょうね。他人を制裁したいという欲望って本能だから。減らすためには、罰則を強化するしかないでしょう。誹謗中傷の相談は泣き寝入りする人も多いです。被害に遭った人が大金と時間をかけなきゃいけないのは違和感があります」
――最後に、「俺にも理由がある」と話す加害者について、情状酌量の余地はあると思いますか?
「ないでしょうね。理由は関係ない。いくら自分が何か被害に遭っていても、全然関係ない人に被害を与える理由にならない。他人を殴れば傷害罪です。それと同じように、他人の名誉を傷つけても犯罪になる。現代には、身体となると分かるのに、名誉となると分からない人が多いなと感じます」 ==================
誰にだって、どうしようもない夜はある。世の中は不平等だから、そのアンフェアさに誰かを罵りたくなるときもあるだろう。だけどそんな時は思い出してほしい。言葉は、間接的に人を殴ることも、抱きしめることもできるのだ。
誹謗中傷は人をも殺すことがあるということを、私たちはいい加減、理解しなければならない。開示請求のハードルは、思った以上に低い。誰かを傷つける言葉は、相手のためにも、自分のためにも、胸にしまっておいたほうが良さそうだ。
<TEXT/yuzuka>
【藤吉修崇】弁護士法人ATB 代表弁護士。東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。インターネット上の誹謗中傷問題を多く扱い、これまで2000人以上の法律相談を受けてきた。登録者16万人を超える人気YouTube「二番煎じと言われても」も更新中

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。