岸田首相が突き進む「減税解散」 麻生副総裁と茂木幹事長が阻止に回り、与党内が大きく軋む可能性も

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つかみどころのない風向きの「解散風」が、永田町で吹き荒れだした。岸田文雄・首相は、唐突に「成長の成果である税収増を国民に適切に還元すべきだ」と、“減税”の経済対策を指示した。有権者に「減税」の餌を撒くことで解散に打って出ようとしているのだ。
岸田首相の減税解散を後押ししているのが、こちらも苦戦が予想されている公明党だ。苦戦は覚悟の上だが、岸田首相が減税を掲げるなら戦えると判断しているという。
だが、そんな解散前のめりの首相に「冷や水」を浴びせたのが後見人の麻生太郎・副総裁だ。
「公明党の一番動かなかった、がんだった」(9月24日の福岡講演)
昨年末の安保3文書の改定の際、自衛隊の敵基地攻撃能力保有について反対した公明党の山口代表、石井啓一・幹事長、北側一雄・副代表の3人を名指しで「がん」呼ばわりしたのである。
しかも発言が批判されると、「公明党が頑として反対だったのは間違いない。『がん』という言い方が不適切なら、名前を挙げた3人と創価学会が反対し、問題だったという意図だ」と開き直ってみせた。
この麻生発言に公明党側は反発し、岸田首相がまとめた自公の選挙協力に大きな亀裂が入った。
とくに公明側の怒りが向けられているのは麻生氏が北側氏の名前を挙げたことだ。
「北側副代表は大阪16区(次の総選挙では山本香苗参院議員が出馬予定)で維新とぶつかる。当選には自公の選挙協力が重要なのに、麻生さんの発言で自民票が逃げたらたいへんだ。麻生さんもそれを承知でわざと言ったとしか思えない。地方組織には“がん呼ばわりされながら自民党への選挙支援をしなければいけないのか”との不満が渦巻いている」(公明党関係者)
実は、その麻生氏は茂木敏充・幹事長とともに解散に反対の立場。講演でも「岸田首相が選挙をするという話は少なくともこの半年間、聞いたことがない。そんなに近いのかねえと正直、私は思っている」と牽制してきた。前財務相で財務省の守護神とも言われるだけに、岸田首相が公明党と組んで“減税解散”に突き進むのを快く思っていないとされる。
政治ジャーナリスト・藤本順一氏が語る。
「台湾有事を見据える麻生さんは、親中派の公明党の存在が岸田政権の足を引っ張ると危惧しており、総選挙後は自公に国民民主を加えた三党連立が望ましいと考えている。そのためには国民民主やその支援組織である連合との間に今後の予算編成や法案審議を通じた信頼関係醸成が不可欠で、現段階での解散は時期尚早との立場です。『がん』発言はその布石であり、準備不十分で解散総選挙に先走る公明党や首相にクギを刺すことで解散風を鎮めるメッセージでもあった」
一方の茂木幹事長も、「総選挙で自民党が議席を減らせば、真っ先に幹事長が責任を取らされる。茂木さんは岸田首相の暴走解散と心中する気は全くない」(側近議員)とされる。
首相がこのまま解散へと突っ走れば、麻生氏と茂木氏という政権の実力者2人が本気で阻止に回り、与党内が大きく軋む可能性が高い。
かつて海部俊樹・首相は「重大な決意」と一度は解散を口にしながら、当時自民党幹事長だった小沢一郎氏ら党幹部に阻止され、結局解散に踏み切ることができずに退陣へと追い込まれていった。
しきりに解散を匂わせる岸田首相もこの秋、2度目の断念に追い込まれれば、求心力を失って海部氏と同じ道を辿ることになるかもしれない。
解散・総選挙に踏み切れば大敗の可能性、解散断念なら野垂れ死にと、岸田首相にとってはまさに進むも地獄、退くも地獄なのである。
※週刊ポスト2023年10月20日号

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