「マタニティマークがむかつく」ってどういうこと? YouTuberの発言からも考える、妊婦への思いやり問題

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マタニティマークは妊産婦の安全性と快適さを確保するための大切なマークだ。ところが、検索窓に「マタニティマーク」と入力すると、サジェストの上位に出てきたのは「マタニティマーク むかつく」だった。なぜ、妊婦を守るためのマタニティーマークに対して“むかつく”と思う人がいるのだろうか。
電車で席を譲ったが……先日、帰宅ラッシュで満員のJR山手線に乗っていた時のこと。渋谷駅で乗車した女性が筆者の近くに立った。彼女にふと目をやると、おなかこそ出ていないが、カバンにはマタニティマークがついている。 女性の前の座席では、大荷物を抱えた男性がうたた寝をしていたが、男性はマタニティマークを見るなり、とっさに立ち上がり、「どうぞ」と女性に声をかけた。だが女性は「すみません。大丈夫です」と座ることを断った。 男性はすでに席を立ってしまっていた。なんとなく席に戻るのも気まずくなったのか、男性は重い荷物を抱えて、少し場所を移動してしまった。 「マタニティマークをつけている人を見かけたら、絶対に席を譲らなければいけない」と漠然と考えていた筆者は、「なぜ女性は座らなかったのだろう……」と疑問に思った。何気なく、スマートフォンのGoogle検索で「マタニティマーク」と入れた。 すると、予想もしなかったサジェストが目に入った。検索窓に出てきたのは「マタニティマーク むかつく」だったのだ。
なぜ、マタニティマークが“むかつく”のかなぜ、マタニティマークに対して“むかつく”と思うのか。気になった筆者は、さまざまな人の意見をのぞいてみた。 SNS上にあったのは以下のような意見だ。 ・マタニティマークの人は優先したほうがいいと思うけど、優先されて当然みたいな空気で割り込まれるとむかつく・電車で自分の前に立っている女性に睨まれているな……と思ったらその人がマタニティマークをつけていた。なんか嫌な気分。ちなみに普通席・マタニティマークを付けた人が混んだ電車で優先席に荷物置いて、2席占領していた 中には、妊婦を“妊婦様”と揶揄(やゆ)する声も上がっている。 確かに、満員電車で2席占領している妊婦がいるところを想像してみると、ほかの優先席を必要としている人が座れない可能性もあり、イラっとしてしまう気持ちは分からなくもない。 てっきりマタニティマークをつけている妊婦に対して“むかつく”と思うのは、一部の心ない人の妊婦へのいやみな声ばかりだと思っていたが、妊婦側に問題があるケースもあるようだ。
妊娠を発表した人気YouTuberの発言からも考える先日、妊娠を発表した人気YouTuberのゆんさんが動画内で語った配達員への苦言エピソードが炎上騒動となった。 9月13日、「悲しかった話」としてアップされた動画で、ゆんさんは、マンションの共有部分に配達された大きな家具を「玄関まで運んでほしい」と2人の配達員に依頼したところ「そういうのやってないんで」と、断られてしまったエピソードを紹介した。「リビングに入って設置してと言ってるわけではないのに……」と振り返りながら、「悲しかった」と胸の内を語った。 しかし、この動画が公開されるやいなや、SNS上では賛否が勃発。同情の声も多く上がったものの、「玄関まで運び込むのはサービス外」「妊婦だから“やってもらって当たり前”と思っているのは間違い」などの批判的な声も多く上がった。
炎上を受け、ゆんさんは、15日にX(旧Twitter)で「配慮に欠けておりました」と謝罪した。さらに20日には「お騒がせしている件について」と謝罪文を投稿し、動画を非公開にしたことを発表した。
「優先されて当たり前」という感覚が炎上を生む?ゆんさんに対して、批判的な声を寄せる人と、前述の「マタニティマーク むかつく」と感じる人の心理は少し似ている。 ゆんさんに対し、配達員が強い口調で「そういうのやっていないんで」と言ってしまったことには問題があり、多くの人が指摘している。しかし、本来の配達サービスが、玄関での受け渡しまでだということを考えると、たとえ妊婦であったとしても、受け取る側が、事前に設置オプションなどを付け、問題なく受け取れるように準備する必要があった。 動画を見た視聴者から、「妊婦だから特別なサービスもやってもらって当たり前だと思っている」と、受け取られてしまったことも炎上の理由の1つに考えられる。それは前述したマタニティマークに対し「優先されて当然みたいな空気で割り込まれるとむかつく」と感じる心理と同様だ。
妊婦がマタニティマークをつけるのは「緊急時のため」立ち返って、マタニティマークは「何のため」にあるのだろうか。厚生労働省のホームページには「妊産婦さんにやさしい環境づくりを推進するもの」とある。
マタニティマークは「周囲にサポートしてもらうため」、例えば、満員電車などで席を譲ってもらうため、にあると筆者は思い込んでいたが、どうやらそれは違ったようだ。 ピジョン株式会社が2020年5月、子どもがいない20~50代の一般男女200人、そして20~30代の妊娠中or1才未満の子どもがいる女性400人を対象に実施した調査によると、一般男女が思うマタニティマークをつける理由の1位は「周囲の人にサポートしてほしいから(80%)」だった。 しかし、妊婦がマタニティマークをつける理由のトップは「緊急のときに、自分が妊婦だということが周囲にわかるから(83.1%)」で、「周囲の人にサポートしてほしいから」と回答した妊婦はわずか29.4%。一般男女の認識と約50%もの差があったのだ。
「思いやり」の心を持った行動を 「妊婦がマタニティマークをつけている理由は、(席を譲るなど)サポートしてほしいわけではなかったのか……」 自分の認識を反省しながら、筆者はふと、先ほどの電車の妊婦女性に目をやった。男性が譲った席にはすでに別の人が座っていて、女性は最後まで席に座ることはなかった。 一方、席を譲った男性は、女性から少し離れた入り口近くに大荷物を2つ抱えて立っていた。
電車が品川駅に停車し、女性が電車を降りようとしたその時。男性と女性の目線がぴたっと合った。そして、女性は電車を降りる際、男性に向かって小さく会釈をしたのだ。男性は大きな荷物を2つ抱えたまま、慌てて会釈を返していた。 「妊婦さんだ! 席を譲らなきゃ」と、とっさに席を譲った男性。大荷物を抱えた男性に席を譲ってもらい、心の中で「申し訳ない」と思っていた妊婦の女性。 互いの思いやりが、黙っていても分かり合えるような光景だった。

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