法廷から 「酒は栄養ドリンクのようなもの」男性をはね死亡させた被告は、こう語った…

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「行ってきます」-。
いつも通り家を出た男性は、そのまま帰らぬ人となった。令和3年、酒を飲んで車を運転し警備員の男性をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)罪に問われた男の裁判員裁判。弁護側は車の誤作動があったとして無罪を主張したが、東京地裁は6日、危険運転致死を認定し懲役10年(求刑懲役11年)の判決を言い渡した。現場で何があったのか。
酒は栄養ドリンク
判決などによると、事故があったのは3年9月30日夜。東京都豊島区の店舗駐車場に入ろうとした浅野猛被告(56)が運転する乗用車が、入り口のゲート機に衝突し、その後に車が急後退。交通整理に当たっていた警備員の男性=当時(66)=をはねた。
男性は付近のブロック塀との間に挟まれ、搬送先の病院で死亡。被告の呼気からは、基準値の5倍を超える1リットルあたり0・76ミリグラムのアルコールが検知された。
「酒は疲れた時にやる気を継続するための、栄養ドリンクのようなものだった」。被告は法廷でこう話し、以前から飲酒運転を繰り返していたことを明かした。当日も埼玉県内の自宅から車で出発後、事故前に立ち寄った別の駐車場の車内で「白ワインのボトルをラッパ飲みするような感じで1、2口ほど飲んだ」と飲酒を認めた。
操作していない
その上で争点となったのは、車が急後退した原因だった。弁護側は防犯カメラやドライブレコーダーの映像などから、車が後退する際、被告は右手で駐車券を取り左手でハンドルを握った状態で「車を後退させる操作はしていない」と説明。車が誤作動で急後退した可能性があると主張した。飲酒の影響についても、正常な運転が困難になる程ではなかったとした。
ただ、事故車両を調べた警察官や車のメーカーの技術者は、故障など安全上の問題はなかったと証言。検察側は、急後退の操作は被告自身が行ったもので、飲酒した上での「危険、悪質な運転」だと指弾した。
孫娘の成長楽しみ
「事故ではなく、殺されたと思っている」。公判では、被害者の妻ら遺族の供述調書が検察官によって読み上げられた。
調書によると、男性は20代で結婚。2人の子供に恵まれ、システムエンジニアとして多忙な日々を送っていたが、平成20年のリーマン・ショックで離職し、その後はさまざまな仕事で家計を支えた。警備員の夜勤はきつかったが、9カ月になる孫娘の成長を楽しみにしていたという。
事故当日、出勤前に自宅に遊びに来た孫娘がハイハイする姿に「すごいなぁ」と目を細めていたという。「事故がなければ、当たり前のように帰ってきていたはず」。調書には遺族の怒りと悔しさがにじんだ。
判決理由で、佐伯恒治裁判長は、車の誤作動はなかったとした技術者らの証言は「合理的」と説明、飲酒の運転への影響が「相当強くうかがわれる」とした。被告は法廷で「車を止められなかった」として遺族への謝罪も口にしたが、佐伯裁判長は「不合理な弁解に終始し、自分の罪に真摯(しんし)に向き合う姿勢はみられない」と断じた。(緒方優子)

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