ビッグモーター「不当解雇」訴訟で大ピンチ 原告男性が語る「いきなりクビ宣告」の歪な企業風土

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保険金の水増し請求や顧客への暴言、街路樹への除草剤散布など相次ぐ問題の発覚を受け、「破綻」の瀬戸際にあると伝えられる中古車販売大手「ビッグモーター」。実はいま、元従業員から起こされた訴訟でも「窮地」に立たされ、裁判所から“最後通牒”を突き付けられているという。
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【写真を見る】「さすがにデカすぎ」成金趣味全開な“20億円の自宅”には茶室に噴水、滝まで… 兼重氏が住む約500坪の大豪邸と、別荘2棟の全容をみる 9月から全店舗で営業時間を短縮したビッグモーターは、その理由をノルマや利益至上主義に象徴される「労務環境を見直すため」と表明。しかし国交省は「具体的な行政処分の検討に入っている真っ最中」(全国紙社会部記者)といい、同社を取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。

どの店舗も閑散 一連の不祥事によって7月に引責辞任した同社の兼重宏行・前社長は、最後の会見で組織的関与を否定し、現場の社員などにすべての責任を転嫁。真摯に問題と向き合わず、反論や言い逃れに終始する姿勢は、自身も「被告」となっている訴訟でもまったく同じだった――。 茨城県内のビッグモーター店に勤務していた30代の車両整備士が「正当な理由もなく、上司の個人的な感情で解雇された」として、ビッグモーターに約450万円の損害賠償を求め、水戸地裁に提訴したのは2021年10月。 訴状によると、原告男性は15年11月、同社と労働契約を締結。期間の定めはなく、月額賃金35万円で雇用され、整備士として車検や納車整備、修理工程の管理などを担当していたという。 男性は「成績優秀者」として何度か表彰を受けるなど、工場内での人望も高かったとされるが、21年3月、関東ブロックのエリアマネージャーに突然呼ばれ、一方的に「クビ」を告げられた。いったい何があったのか。「君がいると楽しくない」 “予兆”として解雇に至る前、男性はマネージャーから「身に覚えのない」勤務態度のことで何度か注意を受けていたという。「他の従業員に自分の仕事を手伝わせている」や「車検の台車を勝手に制限している」などの指摘だったが、男性は“従業員への聞き取りや実際に現場に来てもらえれば事実無根とわかる”と訴えた。しかしマネージャーは「じゃあいいや」と言って、まともに取り合わなかったという。 実はマネージャーに“男性の勤務態度に問題がある”と報告していたのは、男性の店舗に新しく着任した工場長だった。着任当初、工場長は「現場のことを一番把握している」人物として店長から男性を紹介され、その言葉に従って車検・点検などの工程作成を男性に任せていた。 しかし、しばらく経つと工場長から男性に対し、愚痴とも妬みともつかない言葉が向けられるように。訴状には具体的にこんな言葉が記されている。〈他の同僚と仲良くしているのが気に食わない〉〈原告が職場にいると仕事していても楽しくない〉―― また〈他の従業員が原告の指示に従って動いており、(自分は)工場長としての職責を果たせていない〉との思いから、男性に「工場長をやってくれないか」と打診。しかし男性が「現場で整備の仕事に携わっていたい」との理由で断ると、工場長は〈周りのスタッフからの支持がなく仕事をしていても辛い。こんなに辛いのは原告が工場長を引き受けないことが原因だ〉と洩らしたという。 男性がマネージャーから勤務態度に関する注意を受けるようになったのは、これ以降のことだった。「判決は全部不服」 マネージャーから「クビで」と告げられた際、男性が解雇の理由を訊ねると、「勤務態度が悪いとの報告がある」と言うのみだった。続けてマネージャーは「これ書いて」と、男性に退職届を書くよう促したが、“クビだ”と言われて自分で退職届を書くのはおかしいと考えた男性は提出を拒否。当日も業務を続けようとしたが、「帰るよう」言われたためやむなく退社し、以降、出勤しなかったという。 男性の提訴はそれからおよそ半年後のことだが、今年2月8日、水戸地裁は男性の訴えを認めて「不当解雇」と認定し、ビッグモーターに請求通りの賠償を命じた。ビッグモーター側は裁判で、工場長らが男性を「疎んでいた事実はなく、勤務態度の改善を促したに過ぎない」とし、さらに解雇ではなく、退職を申し出たのは男性側だと主張。 しかし判決文では、男性の勤務態度に問題があったことを裏付ける証拠はなく、裁判での工場長やマネージャーの証言は〈不自然、不合理〉であり、〈採用できない〉と却下。また男性は退職届けの提出を一貫して拒絶していたと認定し、〈本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、違法である〉と結論付けた。 原告側の“完全勝利”だったが、ビッグモーターは5日後に控訴。控訴状で〈判決は、全部不服であるから控訴を提起する〉とし、控訴理由書のなかで、そもそもマネージャーの「クビ」発言自体がなかったとして「(原告側の)請求そのものに理由がない」と主張するなど、強硬姿勢を崩さなかった。犠牲者は他にもいる 控訴審の舞台は東京高裁へと移ったが、8月23日に即日結審。裁判長は一審判決に沿う形で、ビッグモーターが男性側に一定金額を支払う内容の和解案を勧告した。両当事者は現在、対応を検討中だが、タイムリミットとなる次回期日は9月15日に迫っている。 そんななか原告男性が取材に応じ、こう想いを口にした。「突然“クビ”の宣告を受けて、経済面や精神面でも地獄でしたが、家族の支えなどもあって何とか乗り切ることができました。他の店舗や工場では、インセンティブなどの存在から、現場の社員同士で仕事の奪い合いや足の引っ張り合いが起きることも珍しくありませんでしたが、自分の働く工場ではそういうことはなくそうと努めていた。でも今回の解雇に至る過程でも痛感しましたが、現場の声が反映されることは決してない会社だった。上司だった工場長らも私たちの話に耳を傾けることなく、現場とは距離を置き、仕事は丸投げだったのが実態です。もともと“黒を白”と言えるような人間が出世していく企業風土がありましたが、そこに隠蔽体質や兼重社長らへの盲従が加わることで、歪な構造の会社へと変質していたように思います。私は闘う機会を得ましたが、不当解雇されながら声も上げられない元社員は他にも多くいて、私の裁判が彼らの希望になれば……という思いでやっています」 ビッグモーターや兼重親子らに“いま言いたいことは?”と訊ねると、「もう関わりたくはない、の一言です」と答えるのみだった。 ビッグモーター側の代理人弁護士にも取材を申し込んだが、「(控)訴状に記載されている通りです」 との回答だった。 対話や歩み寄りの姿勢も見せず、自省なき企業に再生の道などあるのか。デイリー新潮編集部
9月から全店舗で営業時間を短縮したビッグモーターは、その理由をノルマや利益至上主義に象徴される「労務環境を見直すため」と表明。しかし国交省は「具体的な行政処分の検討に入っている真っ最中」(全国紙社会部記者)といい、同社を取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。
一連の不祥事によって7月に引責辞任した同社の兼重宏行・前社長は、最後の会見で組織的関与を否定し、現場の社員などにすべての責任を転嫁。真摯に問題と向き合わず、反論や言い逃れに終始する姿勢は、自身も「被告」となっている訴訟でもまったく同じだった――。
茨城県内のビッグモーター店に勤務していた30代の車両整備士が「正当な理由もなく、上司の個人的な感情で解雇された」として、ビッグモーターに約450万円の損害賠償を求め、水戸地裁に提訴したのは2021年10月。
訴状によると、原告男性は15年11月、同社と労働契約を締結。期間の定めはなく、月額賃金35万円で雇用され、整備士として車検や納車整備、修理工程の管理などを担当していたという。
男性は「成績優秀者」として何度か表彰を受けるなど、工場内での人望も高かったとされるが、21年3月、関東ブロックのエリアマネージャーに突然呼ばれ、一方的に「クビ」を告げられた。いったい何があったのか。
“予兆”として解雇に至る前、男性はマネージャーから「身に覚えのない」勤務態度のことで何度か注意を受けていたという。「他の従業員に自分の仕事を手伝わせている」や「車検の台車を勝手に制限している」などの指摘だったが、男性は“従業員への聞き取りや実際に現場に来てもらえれば事実無根とわかる”と訴えた。しかしマネージャーは「じゃあいいや」と言って、まともに取り合わなかったという。
実はマネージャーに“男性の勤務態度に問題がある”と報告していたのは、男性の店舗に新しく着任した工場長だった。着任当初、工場長は「現場のことを一番把握している」人物として店長から男性を紹介され、その言葉に従って車検・点検などの工程作成を男性に任せていた。
しかし、しばらく経つと工場長から男性に対し、愚痴とも妬みともつかない言葉が向けられるように。訴状には具体的にこんな言葉が記されている。〈他の同僚と仲良くしているのが気に食わない〉〈原告が職場にいると仕事していても楽しくない〉――
また〈他の従業員が原告の指示に従って動いており、(自分は)工場長としての職責を果たせていない〉との思いから、男性に「工場長をやってくれないか」と打診。しかし男性が「現場で整備の仕事に携わっていたい」との理由で断ると、工場長は〈周りのスタッフからの支持がなく仕事をしていても辛い。こんなに辛いのは原告が工場長を引き受けないことが原因だ〉と洩らしたという。
男性がマネージャーから勤務態度に関する注意を受けるようになったのは、これ以降のことだった。
マネージャーから「クビで」と告げられた際、男性が解雇の理由を訊ねると、「勤務態度が悪いとの報告がある」と言うのみだった。続けてマネージャーは「これ書いて」と、男性に退職届を書くよう促したが、“クビだ”と言われて自分で退職届を書くのはおかしいと考えた男性は提出を拒否。当日も業務を続けようとしたが、「帰るよう」言われたためやむなく退社し、以降、出勤しなかったという。
男性の提訴はそれからおよそ半年後のことだが、今年2月8日、水戸地裁は男性の訴えを認めて「不当解雇」と認定し、ビッグモーターに請求通りの賠償を命じた。ビッグモーター側は裁判で、工場長らが男性を「疎んでいた事実はなく、勤務態度の改善を促したに過ぎない」とし、さらに解雇ではなく、退職を申し出たのは男性側だと主張。
しかし判決文では、男性の勤務態度に問題があったことを裏付ける証拠はなく、裁判での工場長やマネージャーの証言は〈不自然、不合理〉であり、〈採用できない〉と却下。また男性は退職届けの提出を一貫して拒絶していたと認定し、〈本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、違法である〉と結論付けた。
原告側の“完全勝利”だったが、ビッグモーターは5日後に控訴。控訴状で〈判決は、全部不服であるから控訴を提起する〉とし、控訴理由書のなかで、そもそもマネージャーの「クビ」発言自体がなかったとして「(原告側の)請求そのものに理由がない」と主張するなど、強硬姿勢を崩さなかった。
控訴審の舞台は東京高裁へと移ったが、8月23日に即日結審。裁判長は一審判決に沿う形で、ビッグモーターが男性側に一定金額を支払う内容の和解案を勧告した。両当事者は現在、対応を検討中だが、タイムリミットとなる次回期日は9月15日に迫っている。
そんななか原告男性が取材に応じ、こう想いを口にした。
「突然“クビ”の宣告を受けて、経済面や精神面でも地獄でしたが、家族の支えなどもあって何とか乗り切ることができました。他の店舗や工場では、インセンティブなどの存在から、現場の社員同士で仕事の奪い合いや足の引っ張り合いが起きることも珍しくありませんでしたが、自分の働く工場ではそういうことはなくそうと努めていた。でも今回の解雇に至る過程でも痛感しましたが、現場の声が反映されることは決してない会社だった。上司だった工場長らも私たちの話に耳を傾けることなく、現場とは距離を置き、仕事は丸投げだったのが実態です。もともと“黒を白”と言えるような人間が出世していく企業風土がありましたが、そこに隠蔽体質や兼重社長らへの盲従が加わることで、歪な構造の会社へと変質していたように思います。私は闘う機会を得ましたが、不当解雇されながら声も上げられない元社員は他にも多くいて、私の裁判が彼らの希望になれば……という思いでやっています」
ビッグモーターや兼重親子らに“いま言いたいことは?”と訊ねると、「もう関わりたくはない、の一言です」と答えるのみだった。
ビッグモーター側の代理人弁護士にも取材を申し込んだが、
「(控)訴状に記載されている通りです」
との回答だった。
対話や歩み寄りの姿勢も見せず、自省なき企業に再生の道などあるのか。
デイリー新潮編集部

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