【白紙 緑】20年間も刑務所にいた男性が独白する「出所後の生き地獄」

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「とある罪を重ねてしまい、20年間刑務所に入っていました。出所したのは2022年の12月。30代で逮捕されて今はもう50代です」 こう語るのは赤川太郎さん(仮名)だ。かつて、傷害、強盗など前科11犯がついて懲役20年が求刑された。そんな彼が出所してから感じたのは「再出発の難しさ」だと言う。満期で出所した彼が、元受刑者には見えない壁について話してくれた。
「人生の半分を刑務所や少年院で過ごした私としては、人生と言えば塀の中です。20年前に裁判官に言われた『貴方の罪は20年では軽すぎるけれど、無期だと長すぎるんですよ』という言葉が、今も身に沁みています。
心機一転、これからは真面目に生きようと考え、出所して生まれ故郷の東京に戻ってきました。まずは住む場所を探したのですが、部屋を借りられません。どうやら収入がなければ部屋を借りることはできないのです。
出所してすぐなので、定職にはついていません。両親は既に他界しているので、実家もないです。銀行口座もないので、携帯電話やその他、なにもかもが契約できないのです。口座を作るにも収入の証明が必要と言われ、手も足も出なかったです」
photo by Gettyimages
部屋を借りようにも賃貸契約は無職ではできない。働き口を探そうにも、部屋を借りられなければ雇ってくれない。
出所後いきなり困難に直面したが、幸いにも赤川さんは兄がいて、兄名義で部屋を借りることができた。そのほかにも携帯回線等も兄の名義で契約をすることができたそうだ。長期の懲役で、出所した後に身内がいなければ、どうにもならない状況だったという。
「このまま兄の世話になろうとも思いましたが、服役中でもずっと小遣いを渡してくれていた兄には頭が上がらないし、これ以上迷惑をかけたくはないです。だったら働くしかないと思って、バイトの面接を受けることにしたのですが、一向に受かる気配がありません。
家の近所のコンビニ、富士そば、ラブホテルの清掃員、駐車場の管理人。自分勝手で申し訳ないですが、比較的受かりやすそうな場所を狙って申し込みました。しかし、箸にも棒にも掛かりません」
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出所してから数ヵ月、15件以上のバイトを申し込んだが、全て面接で落とされている。もちろん本人にも自覚はあるようで、このような前科がある人間、刑務所から出所してきたばかりの人間を易々と雇う場所はないだろうと覚悟はしていた。
ある店の面接では「おたく、なんで落ちたかわかるよね? 少しは考えてよ。厄介者を雇う余裕はないよ」とまで言われてしまう。こちらも前科はある前提で申し込んでいるのだが、「そんな言い方をする必要はないだろう」と赤川さんは嘆息する。
「薄々わかっていましたが、ここまでだとは思いませんでした。罪を犯したのは私なので仕方ありませんが、刑期は務めたので罪は償ったと思いたいです」
店によっては気の毒そうに、親身に相談しつつ話を聞いてくれたのだが、それでも雇ってはくれなかった。店の言い分である「厄介な人を雇いたくない」という主張は理解できるが、このままでは生活が破綻してしまう。
もともと赤川さん自身も就職活動は困難だろうと考えていたが、想像をはるかに超えて犯罪者に対しての目線は厳しいものだった。
「まっとうに生活するのが、難しいと考えていましたが、まさかここまでだとは……。自分のせいなんですが、八方塞がりです」
どこまでも赤川さんの名前に付いてくるのは犯罪歴。今でも名前で検索すると、当時のニュースが出てきてしまう。赤川さんが何をしたのかがバレてしまうのは仕方ないが、これではなにもできない。
そこで考えついた結論が、名前を変更することだった。市役所に連絡をすると、「裁判所で手続きを行えば名前を変えることは可能」と教えてくれた。
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「ただ、裁判所の担当者からは『今すぐ名前の変更はできません』と突き返されました。更正委員会の方とお話することになったのですが、どうやっても変更は無理と言われます。お金が必要なのに、名前を変えないと働けないので八方ふさがりでした」
法的に名前を変えるには、まず自分で新しい名前を作り、一般の人に5年以上(最低でも3年間)認知をさせる必要があるという。一定期間を要する背景には、「名前を変えて再犯をする人がいる」などといった様々な理由がある。 「この条件だと時間がかかり過ぎます。今は刑務所で働いて得た金がありますが、半年もすれば無くなってしまう。このままだとホームレス一直線。ルールだから仕方ないのかもしれませんが、結局のところ、今の名前を使って生活をするしかないです」
20年間も刑務所にいたので、数ヵ月生活するだけの資金はある。しかし、このままだと確実に金が尽きてしまう。赤川さんは更正委員会の担当者に「働かないと家賃も払えなくなります」とまで伝えたが、「規則なので」と一蹴された。その後、日を改めて、また裁判所に行ったが結果は同じ。どうやっても名前は変えられそうにない。
金は無くなる一方、貯金は残り約70万円。赤川さんは、「行政のお世話になるしかない」と考え、生活保護の申請をすることにした。
「生活保護を受けるには身分証明書と住所が必要です。私はなんとかなりましたが、いきなりシャバに出ても生活保護を受けることはできないだろうと思いました。しかし、ここでも厄介なことがあったんです」 生活保護を受けた場合は、市役所の人と今後どうするのかを話し合わなければならない。要は働く意思を見せるために就職活動の実績を報告する必要がある。
「ハローワークで仕事を探すのですが、私の経歴を見て職員は顔をしかめます。前科と20年の空白です。市役所でも私の経歴は話したんですが、『頑張って社会復帰を目指しましょう』と言われるだけです。
ハローワークと市役所をたらい回しにされている感があり、市役所がやっていることと、ハローワークがしていることのちぐはぐ感がありました」
ハローワークで仕事を探しても見つからない。どんな仕事でもいいと職員に伝えているのだが、それでも赤川さんのような経歴の人を雇ってくれる会社はない。ハローワークで起きたことを市役所に報告しても、事務的に処理をして、「就職活動をしてください」と淡々と説明されるだけだ。
「こんなことを繰り返していると、刑務所時代に再犯で戻ってきた人を思い出しました。あいつらはこんな気持ちになりながら、シャバで暮らしていたのかと。社会に出て、誰も受け入れてくれないなら、まだ刑務所の方が生きやすいと思いましたよ」
衣食住が全て揃っていて孤独感もない。刑務所の規則は厳しいが、それさえ守っていれば、不自由なく暮らしていける。働くために必要な物が手に入らないとなれば、また犯罪に手を染めてしまうのも頷ける。
結局赤川さんは、刑務所の中で知り合った人を頼り仕事を探すことにした。赤川さんよりも先に出所して働いている人からの紹介で、アルバイトとして、8月からデリバリーヘルスの受付として働くこととなっている。
正規の手順よりも、シャバの苦しさを知っている仲間の方が、親身になって相談に乗ってくれるそうだ。赤川さんのように、真っ当に更生しようとする人間でも、一度罪を犯してしまうと、そのあとの再出発はかなり厳しいのが現実となっている。

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