【勇崎 賀雄】歩行がままならなかった100歳がジャンプできるように…なぜ「奇跡」は起こったのか

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昨年度のベストセラー書籍ナンバーワンとなった、精神科医和田秀樹さんの『80歳の壁』(幻冬舎新書)。実際にまだまだ80歳に時間がある人でも、親世代の姿を見ていると、80歳前後で急に歩き方が遅くなったり、姿勢が悪くなったり、からだの衰えがはっきりわかる人も多い。そこで「やっぱり80歳の壁はあるなあ」と実感する人も多いのではないか。
ではどうすればこの80歳の壁を突破できるのか?
「そのための最適解は足の親指のエクササイズです」と断言するのが、からだの専門家の勇賀雄さん。彼の話題の新刊『「80歳の壁」を越えたければ足の親指を鍛えなさい』。より抜粋してお届けする第2回。
2017年に『50歳からは「筋トレ」してはいけない 何歳でも動けるからだをつくる「骨呼吸エクササイズ」』という多少センセーショナルなタイトルの本を出しました。当時も今も「筋トレブーム」の渦中にある日本では何件かの反論とそれなりの理解者が現れました。
「歴史的に広く、深く、ものを考える」ことをモットーにして、身体哲学者を標榜している私としては、現在の「筋トレブーム」は、いずれからだの解明が進めば自然に是正されていく「現代の神話」のひとつと見なしていますので、ここではこの問題については多くを語りません。ただ世界的なジェロントロジー(老年学)の権威であるイタリア・サッサリ大学のジャンニ・ペスが長寿の島サルデーニャ島での20年にわたるフィールドワークを通して「長寿にいい運動は有酸素運動で、ウェイトトレーニング(筋トレ)は最悪です」と言っていることを紹介するだけに留めておきます。
さて、『50歳からは「筋トレ」してはいけない』を出版して間もなく、東京・練馬区でデイサービス「金のまり」を運営しているオーナー夫妻が私が主宰する湧氣塾に入塾してきました。
もともとオーナーのご両親が要介護になった際に、安心して預けられる施設がなかったので自分たちで開いた施設ですが、開設から十数年たち、オーナーのご主人は自身の仕事を辞め、本気で一から勉強して理想に近い介護施設を創ろうと苦労されてきたそうです。
photo by gettyimages
そんなオーナー夫妻にとり、近年の最大の問題は、高齢の利用者さんたちの歩行能力を何とか回復、改善できないかということでした。いままで理学療法士やスポーツトレーナーと契約して歩行能力回復のリハビリを試みてはいたものの、期待した効果が出ずに悩んでいたところ、たまたま私の書いた本を読み、効果があるのか、まずは自分たちで実践してみようとお二人で入塾されたのです。その後、私たちは金のまりの利用者さんの歩行回復プロジェクトに全面的に協力することになり、私の開発した「骨と呼吸の勇メソッド」で体操をしてもらうことになりました。体操嫌いの高齢者たちは、はじめは体操と聞いただけで嫌悪感をむき出しにしていましたが、1ヵ月、2ヵ月と成果が明らかに出るに従い、だんだん受け入れるようになりました。なにしろ体調が目に見えて改善されていくのです。そこでのポイントも足の指の骨の強化です。そのために私の開発した直径5センチの山桜で作った木の球(湧氣球と名付けました)に乗る訓練をしてもらいました。そうして半年後には、当初は歩行がままならなかった80歳から100歳(当時最高年齢の方が100歳だったのです)の利用者たちが奇跡のようにジャンプできるようになったのです。脳梗塞の後遺症も回復2022年夏には、金のまりの体操の時間は1時間になっています。5年前にはじめて湧氣塾の「骨と呼吸の勇メソッド」による体操を始めた時、利用者で体操を進んでやろうという人はほとんどいませんでした。88歳で長く和菓子屋さんを経営してきたSさん(女性)は「もう私は死んでいくしかないんだから。なんでいまさら体操なんかやらなきゃいけないのよ」と言い、最初は体操への参加を拒否していました。そのSさんも私の一番弟子の森千恕(「からだの学校・湧氣塾」校長)が上手にすすめるといつの間にか体操をするようになり、それにつれてからだも元気になっていきました。また90歳のKさん(男性)はお医者さんでしたが、周りの人と一切口を利かずにいつも暗い顔をしていました。もちろん、最初は体操に参加しませんでした。それでも、森が「一緒に体操しましょう」と誘導すると、少しずつ体操をするようになりました。後で知ったのですが、脳梗塞を患った後、ろれつが回らなくなり思うようにしゃべれなくなっていたのです。それが体操を始めて数ヵ月すると、進んで体操に参加するようになりました。からだを動かすと、からだが元気になってくるのが自分でもわかります。高齢であれ、脳梗塞の後遺症であれ、毎日からだを上手に動かすと、段々回復していきます。からだには生きている限り自然治癒力、つまり自分でからだを治そうとする回復・改善力が備わっているのです。photo by gettyimages 半年ほどするとKさんはニコニコしながら体操をするようになり、最初は「うにゃうにゃ」というように何を言っているのかわからなかったのが、明瞭な発音で話すようになってきました。さらに驚いたことに、冗談を交えて盛んにおしゃべりをするようになりました。こうしたからだや心の回復を引き出す方法もまた、足の指の骨を強化することがベースになっているのです。歩行困難者の高齢者がなぜ心身共に元気になるか、それは常に足の指の骨を使わせる方法だからです。金のまりでも、他のデイサービスと同じように、利用者さんが椅子に坐って過ごす時間はかなり多いものでした。そのため、椅子に坐っている間もなるべく足を動かすように指導しています。例えばその典型は、足のタッピングといい、床を足の裏、正確には指の付け根でトントンとたたくのです。この時大切なのは、足の裏を下に向けて打ち下ろすのではなく、むしろ足の指の骨がバネになって跳ね上がるようにタッピングするのです。音でいえばドンドンというより軽快なトントンという感じです。足の裏の指の骨でトントンするタッピングと前述の湧氣球乗りで、足の指の骨はしっかり強化され、高齢者でも少し練習すれば、一切「筋トレ」はせずに誰でもジャンプができるよう元気が回復してくるのです。後編記事『年間1万人近くの高齢者が転倒事故で死亡…知っておきたい、人間の「垂直姿勢」のあやうさ』はこちら
そんなオーナー夫妻にとり、近年の最大の問題は、高齢の利用者さんたちの歩行能力を何とか回復、改善できないかということでした。いままで理学療法士やスポーツトレーナーと契約して歩行能力回復のリハビリを試みてはいたものの、期待した効果が出ずに悩んでいたところ、たまたま私の書いた本を読み、効果があるのか、まずは自分たちで実践してみようとお二人で入塾されたのです。
その後、私たちは金のまりの利用者さんの歩行回復プロジェクトに全面的に協力することになり、私の開発した「骨と呼吸の勇メソッド」で体操をしてもらうことになりました。
体操嫌いの高齢者たちは、はじめは体操と聞いただけで嫌悪感をむき出しにしていましたが、1ヵ月、2ヵ月と成果が明らかに出るに従い、だんだん受け入れるようになりました。なにしろ体調が目に見えて改善されていくのです。
そこでのポイントも足の指の骨の強化です。そのために私の開発した直径5センチの山桜で作った木の球(湧氣球と名付けました)に乗る訓練をしてもらいました。そうして半年後には、当初は歩行がままならなかった80歳から100歳(当時最高年齢の方が100歳だったのです)の利用者たちが奇跡のようにジャンプできるようになったのです。
2022年夏には、金のまりの体操の時間は1時間になっています。5年前にはじめて湧氣塾の「骨と呼吸の勇メソッド」による体操を始めた時、利用者で体操を進んでやろうという人はほとんどいませんでした。
88歳で長く和菓子屋さんを経営してきたSさん(女性)は「もう私は死んでいくしかないんだから。なんでいまさら体操なんかやらなきゃいけないのよ」と言い、最初は体操への参加を拒否していました。そのSさんも私の一番弟子の森千恕(「からだの学校・湧氣塾」校長)が上手にすすめるといつの間にか体操をするようになり、それにつれてからだも元気になっていきました。
また90歳のKさん(男性)はお医者さんでしたが、周りの人と一切口を利かずにいつも暗い顔をしていました。もちろん、最初は体操に参加しませんでした。それでも、森が「一緒に体操しましょう」と誘導すると、少しずつ体操をするようになりました。後で知ったのですが、脳梗塞を患った後、ろれつが回らなくなり思うようにしゃべれなくなっていたのです。それが体操を始めて数ヵ月すると、進んで体操に参加するようになりました。
からだを動かすと、からだが元気になってくるのが自分でもわかります。高齢であれ、脳梗塞の後遺症であれ、毎日からだを上手に動かすと、段々回復していきます。からだには生きている限り自然治癒力、つまり自分でからだを治そうとする回復・改善力が備わっているのです。
photo by gettyimages
半年ほどするとKさんはニコニコしながら体操をするようになり、最初は「うにゃうにゃ」というように何を言っているのかわからなかったのが、明瞭な発音で話すようになってきました。さらに驚いたことに、冗談を交えて盛んにおしゃべりをするようになりました。こうしたからだや心の回復を引き出す方法もまた、足の指の骨を強化することがベースになっているのです。歩行困難者の高齢者がなぜ心身共に元気になるか、それは常に足の指の骨を使わせる方法だからです。金のまりでも、他のデイサービスと同じように、利用者さんが椅子に坐って過ごす時間はかなり多いものでした。そのため、椅子に坐っている間もなるべく足を動かすように指導しています。例えばその典型は、足のタッピングといい、床を足の裏、正確には指の付け根でトントンとたたくのです。この時大切なのは、足の裏を下に向けて打ち下ろすのではなく、むしろ足の指の骨がバネになって跳ね上がるようにタッピングするのです。音でいえばドンドンというより軽快なトントンという感じです。足の裏の指の骨でトントンするタッピングと前述の湧氣球乗りで、足の指の骨はしっかり強化され、高齢者でも少し練習すれば、一切「筋トレ」はせずに誰でもジャンプができるよう元気が回復してくるのです。後編記事『年間1万人近くの高齢者が転倒事故で死亡…知っておきたい、人間の「垂直姿勢」のあやうさ』はこちら
半年ほどするとKさんはニコニコしながら体操をするようになり、最初は「うにゃうにゃ」というように何を言っているのかわからなかったのが、明瞭な発音で話すようになってきました。さらに驚いたことに、冗談を交えて盛んにおしゃべりをするようになりました。こうしたからだや心の回復を引き出す方法もまた、足の指の骨を強化することがベースになっているのです。歩行困難者の高齢者がなぜ心身共に元気になるか、それは常に足の指の骨を使わせる方法だからです。
金のまりでも、他のデイサービスと同じように、利用者さんが椅子に坐って過ごす時間はかなり多いものでした。そのため、椅子に坐っている間もなるべく足を動かすように指導しています。
例えばその典型は、足のタッピングといい、床を足の裏、正確には指の付け根でトントンとたたくのです。この時大切なのは、足の裏を下に向けて打ち下ろすのではなく、むしろ足の指の骨がバネになって跳ね上がるようにタッピングするのです。音でいえばドンドンというより軽快なトントンという感じです。
足の裏の指の骨でトントンするタッピングと前述の湧氣球乗りで、足の指の骨はしっかり強化され、高齢者でも少し練習すれば、一切「筋トレ」はせずに誰でもジャンプができるよう元気が回復してくるのです。
後編記事『年間1万人近くの高齢者が転倒事故で死亡…知っておきたい、人間の「垂直姿勢」のあやうさ』はこちら

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