夫が双極性障害になり、自分もうつに 「死にたい」「消えたい」…2人の育児に追われながら妻が考えたこと

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「双極性障害(そううつ病)」になった夫を看病しながら、2人の子どもの育児に追われ、自分も心の病に――。
コミックエッセー「夫婦で心を病みました―優しい夫が双極性障害を発症したあの日から」(KADOKAWA)は、家族が病気に振り回された日々を描いた作品です。作者の彩原ゆずさんに、当時の心境などについて話を聞きました。(メディア局編集部 利根川昌紀)
■仕事に追われ、やせ細り…
――ご主人の異変に気づいたきっかけは?
休みの日にも会社の上司から電話がかかってくるなど、常に気が休まらない状態でした。ため息が多くなり、もともと好きだった買い物もしなくなりました。夜中もよく目が覚め、食事も残し、やせていきました。着替えていて、あばら骨が見えた時、「まずいな」と思い、医療機関への受診を促しました。
当初はうつ病と診断されました。病名がついた時は不安もありましたが、薬も処方されたことで、これ以上悪い方向にはいかないだろうと、どこか楽天的に考えていました。
――育児も大変だった時ではないでしょうか。
長男は4~5歳、長女は1~2歳でした。夫はもともと子煩悩でしたが、子どもをかわいがれなくなりました。私は、家事や育児に追われてイライラが募りました。
夫は3か月間、休職しましたが、その時は無理やり子どもの面倒を見ようとしてくれました。でも、体調的に難しくてなかなかできず、引け目を感じていた様子でした。私への申し訳なさや、自信の喪失もあったと思います。
――ご主人の休職中は、どのような思いで過ごしていましたか。
夫が平日も自宅にいることは特に気にしませんでした。ただ、夫が心の病であることを周囲に話すと、気を使わせてしまいそうで、最初はママ友には話していませんでした。
自宅に籠もりっぱなしだと私がつらかったので、子どもたちと近くの公園によく行っていました。子どもには外で楽しい思い出を作ってほしいという思いもありました。そこで出会うほかのお母さんたちの姿を見ていると、「どうして自分だけイライラしているんだろう」と感じ、夜になって、寝ている子どもの姿を見ては申し訳ないという気持ちでいっぱいになりました。
■ベランダから下を見ると吸い込まれそうに
――作品の中で、ご主人の財布の中から風俗店のポイントカードを見つける場面があります。
夫の休職期間が終わり、しばらくたってからの出来事です。家族でハンバーガーショップに出かけ、夫に手渡された財布の中から見つけました。夫のことをものすごく心配していただけに、怒りが湧いて悲しくなり、そして絶望的な気持ちになりました。「私が独りで子育てを頑張っている時に、そういうところに行く人だったのか」。信頼は崩れ、夫の人格に対して否定的な気持ちになりました。同時に「私には魅力がないんだな」と落ち込みました。
――つらかったですね。
外出して信号待ちをしている時も、「赤」なのに渡ってしまいそうになったり、自宅のベランダや歩道橋など、高いところから下を眺めていると吸い込まれそうになったり。「死にたい」「消えたい」と思い、スマートフォンにこの言葉を入力し、よく検索していました。そこで出てきた地域の相談窓口に連絡し、メンタルクリニックを受診して薬を処方してもらいました。
――ご主人が「うつ病ではないかも」と考えるようになったのは、ご自身の受診がきっかけだったそうですね。
自分の主治医に夫の話をしてみたら、双極性障害かもしれないと言われました。夫は別の医療機関で治療を受けていましたが、その後、私も診察について行きました。風俗店に通っていたことだけでなく、その頃は浪費も目立つようになりました。もともと穏やかな人なのに、私に手を上げるようにもなっていました。そうしたことを話したら、双極性障害と診断されました。
――その時、どんなお気持ちでしたか。
双極性障害の症状の一つに「性的逸脱」というのがあります。夫が風俗店に通ったのが病気のせいだと分かって、ほっとしました。今考えてみれば、風俗店のカードが入った財布を、無警戒に妻に渡すってこともないですもんね。夫はその後、約1年間、再び休職しました。
――うつ病と双極性障害では、治療薬も異なります。もっと早く診断がついていれば、という思いはありますか。
夫が最初に受診した時はうつ状態でしたので仕方がないと思っています。風俗に通ったり浪費したりしていることを、本人は主治医の先生に言いづらかったのでしょう。私は双極性障害という病気があることを知らなかったのですが、家族として、夫の様子をもっと早く主治医に伝えることができていれば良かったなと感じています。
■社会には働く環境を整えてほしい
――この病気について、どのような思いを抱いていますか。
患った本人はもちろん、家族にとっても様々な困難がある病気だと思っています。優しい夫のことは大好きですが、そう状態だった時に感じた悲しみは、今も完全に消えたわけではありません。当時のことを思い出すと、今でも怒りが湧いてくる時があります。病気や当時の環境があの状態にさせてしまったのだという思いもあります。
――作品を通じて、どのようなことを訴えたいと思っていますか。
夫は忙しさによるストレスなどがきっかけで病気になりました。そういう状況に追い込まれることがないように、社会には働く環境を整えてほしいと思います。また、私自身、様々な方の体験談を読んで、「私だけじゃないんだな」と孤独感が和らぎ、参考にさせていただいたこともありました。今回の作品を読んだ方に、少しでも救われたと思っていただけたらありがたいです。

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