小学生を狙った“美容整形の宣伝”にア然。「手術が心の傷になることも」医師が警鐘

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いま「中高生や小学生をターゲットにした美容クリニックの宣伝・広告」が物議をかもしています。皆さんも、目にしたことがあるでしょうか。
2月には、高校生を対象に「たった3年の高校生活。1秒でも早くカワイイ私で過ごしたい。などと打ち出した二重整形の電車広告が炎上しました。そんな中、小5の女の子の二重整形ビフォーアフターをSNSで宣伝に使うクリニックまで登場。これには美容業界内からも批判の声があがっています。またYouTubeでは、9歳の娘に二重整形をさせて、その整形動画を公開した母親に「毒親」だと批判が殺到しました。
まだ物事の分別もつかない子どもが美容クリニックのターゲットにされている件について「医師の倫理観として、あってはならない」「悪だ」と強く警鐘を鳴らすのは、美容皮膚科医の上原恵理先生。前回に引き続き、医師としての見解を語ってもらいました。◆その整形手術は本当に「子どものため」?
――成熟していない幼い子どもに、健康上の問題以外で整形手術を受けさせるというのは、親のエゴではないかと思うのですが…。
上原恵理先生(以下、上原)「私は、研修医時代に精神科にもいたことがあるんです。精神科というのは、産まれてからいつどんな問題行動や出来事があったか、などの生育歴を全部詳しく調べるんですね。中にご両親との仲がものすごく悪かった患者さんがいて、その理由の1つとして、子どもの頃自分が望んでいないのにワキガの手術を受けさせられたという経験があったんです。親からすれば、子どものためになると思って手術を受けさせたつもりだと思うんですけど、その子にとっては非常にネガティブな出来事であって、大人になっても親を信頼できないんです。
このように、親が良かれと思ってしたことでも子どもの心に傷を与えるケースがあるので、未熟な年齢での整形手術も、精神の成長に悪影響を及ぼす可能性があると思います」
――しかもSNSやYouTubeで子どもの整形動画や写真を公開する親までいるなんて、後にトラウマになりそうです。
◆何を美しいと思うかは、文化や風土で大きく変わる
上原「そもそも、美しさって普遍的なものではないんです。日本だと一重より二重のほうがいいって感覚が広まっていますが海外だと逆。欧米では『なんで日本人って二重にしたがるの?』って言われたりします。また、日本人ってつり上がった目が嫌だからタレ目にしたい人という人が多いんですけど、欧米では、タレ目は老けた目だからと目を吊り上げる手術をしたりするんです。美醜って文化や風土で決まるものなんですよね」
――ところ変われば、日本と真逆の価値観がいくらでもあるのですね。
上原「私が興味深いなと思ったのは、娘がまだ8歳か9歳の頃の発言。うちの家系って片目が二重でもう片目が一重で生まれることが多いんです。ある日娘が『ねぇママ、こっちの目(一重)はまぶたがツルッとしていてきれいなのに、こっち(二重)はシワがあってガタガタになってるの』って言ってきて。『どう思うの?』って聞いたら『ガタガタになってるのが嫌だからツルッとしている方にあわせたい』って。
娘の当時の感覚では、一重だから目が小さいとか目つきが悪いという気持ちじゃなくて、二重の方のシワが嫌だって思っていたんです。だから、子どもってニュートラルな存在なんですよね。そんな子どもたちに、美醜の問題を植え付けて、健康には関係ない手術をするって、心の傷になるかもしれませんよね」 ◆もし自分の子どもが「整形したい」と言ったら?
――上原先生は、もし娘さんが整形手術をしたいと言ったらどうされますか?

――大人になるにつれ、コンプレックスと思っていたところが気にならなくなったり、自分の個性や魅力と思えたりもしますしね。
上原「私は、娘には子どもの頃にやっておかないと後遺症になる治療だけはしてあげています。ニキビの治療と歯の矯正です。ニキビはたくさんあると肌がボコボコになることがあるし、大人になってから治すのは大変なので。歯の矯正も、歯の形に伴って顎の形が変わってくるので、大人になってからより子どもの方が効果的なんです。一方で、娘は自分で除毛をしているのですが、脱毛レーザーはゆるしていません。健全で自立した精神、判断力を持って、自分で稼いだお金でやることに価値があると思うので」
◆「人としての倫理観、どうなんですか?」
――小学生を使った美容クリニックの整形の広告など、世の中には美醜などのコンプレックスを刺激するビジネスが溢れています。
上原「本当に悪だと思っています。小学生の二重手術の広告なんて、業界的に悪徳ですよね。二重の埋没の手術って高度なオペじゃないから、初心者ドクターがまず行う手術です。だから、クリニックが増えてきて競争が激しくなってきた。そこで新たなニーズを獲得しなければと、子どもにまで手を出してきたんです。ただの悪ですね」
――お金のためなら手段を選ばないという点に、恐ろしさを感じます。
上原「15歳未満の子を整形手術の広告にするって、普通におかしくないですか? デジタルタトゥーとして残る可能性があるし、物心がついて、なんらかの精神的な歪(ひず)みが生じるかもしれない。医師として、母として、子どもをビジネスの対象として広告にするなんて、もってのほかなんです。人としての倫理観、どうなんですか? って問いたい。
こういうことが許されている社会って不健全だと思うので、変えていきたいです。子どもは守られるべき存在ですし、心身ともに健康に育ってほしいと思っています」【上原恵理先生】形成外科認定専門医・美容外科医・美容皮膚科医として美容クリニック及び大学病院に勤務。正しい美容・医療の知識の情報をSNSで発信し、多くのフォロワーに支持されている。著書に『すっぴんクオリティを上げる さわらない美容』『医者が教える 人生が変わる美容大事典』(ともにKADOKAWA)。Twitter:@dr_uehara、instagram:@eri.uehara、YouTube「えりりんちゃんねる」
<取材・文/満知缶子>

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