「30年ぶりに症状がなくなった」 花粉症対策「最終兵器」の商品名は? 研究論文が効果を証明

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今年の花粉飛散量は例年の10倍以上ともいわれ、あまたの花粉症患者を絶望させている。舌下免疫療法や、保険適用になった重症患者用治療薬など、対策の選択肢は広がっているが、「最終兵器」となる可能性を秘めた薬が市販されていることはあまり知られていない。
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【写真を見る】花粉症対策の「最終兵器」 値段は高いが効果抜群な商品とは? 花粉症対策の「最終兵器」が薬局やドラッグストアで買える? そう聞いても、花粉症との付き合いが長い人ほど、眉に唾を付けるに違いない。花粉症との付き合いが長いという事実はすなわち、「戦いの歴史」も長いことを示している。病院を転々としてさまざまな薬を試し、効くと聞けばその食べ物、飲み物、サプリメントを買いに走る……。もちろん、いずれかの対策が劇的に効いて、すでに「戦い」を終えたという方も中にはいるかもしれない。しかし、ほとんどの人は未だに「戦い」の真っ最中なのではないか。東京都在住の40代の男性会社員もそんな一人だった。

今年の花粉飛散量は例年の10倍以上ともいわれる「最初に花粉症の症状が出たのがいつだったか、正確には思い出せないくらい花粉症歴は長い。大学生の時にすでに症状に苦しめられていたのは間違いないので、短くとももう20年以上ということになります」 この会社員はそう話す。「もちろん病院にはずっと通っており、医者と相談しながら飲み薬の種類をいろいろ変えてきました。アレグラ、アレジオン、ザイザル、ルパフィンといったあたりで何とかごまかしていたのですが、やはり風の強い日や花粉の飛散量が多い日には症状がひどくなる。点鼻薬はずいぶん前に処方してもらったことがありますが、効かないような気がしたのでそのうちやめてしまいました」サプリや食べ物は「気休め程度」 花粉症に効く、と巷でいわれている飲み物や食べ物、サプリメントも一通りトライした。「ヨーグルトは毎日取っていますが特に症状に変化はないし、甜茶(てんちゃ)なども効いている感じがしない。少し前にはやった柑橘類『じゃばら』の果汁やサプリメントは少し効果があった気がしますが、気休め程度。ビタミンDとラクトフェリンのサプリメントを組み合わせて飲むといいと聞いて試したこともありますが、効きませんでした」(同) 結局、この会社員の花粉症対策の“最終形態”となっていたのは、「アレロックという薬を朝2錠、夜2錠の最大量。加えて、目薬も処方してもらっています。外出時はマスクとゴーグルで物理的に花粉の侵入を防ぐ。それだけではなく、鼻の中に直接入れるフィルターで、花粉を99%カットしてくれる、という触れ込みの『ノーズマスクピット』も欠かすことはできません」(同)半信半疑で試した点鼻薬が… しかし、今年の花粉飛散量は例年の10倍以上ともいわれ、多くの花粉症患者が“過酷な戦い”を強いられている。無論、この会社員も例外ではない。「まだ花粉の飛散量がピークに至っていない頃から、薬を飲んでもくしゃみや鼻水、鼻づまりの症状が治まらず、“ピーク時にはどうなるのか”と絶望していました。夜中も必ずくしゃみや鼻水で起きてしまうので、寝不足になりますし……」 そんな折、「ステロイド点鼻薬」が効くと知り合いから聞き、半信半疑でドラッグストアに走った。「知り合いからは、市販されている点鼻薬には血管収縮薬が入っているものと入っていないものがあり、入っていないステロイド点鼻薬がいい、と教えられていました。何でも、血管収縮薬の入っている点鼻薬は使うと速やかに鼻づまりが改善するものの、使い続けるとかえって粘膜が腫れて鼻づまり症状を起こす恐れがあるというのです」 確かに、600円前後の安い点鼻薬には、血管収縮薬のナファゾリン塩酸塩などが入っているものが多い。一方、血管収縮薬が入っていないステロイド点鼻薬には、「ナザールαAR0.1%」「エージーアレルカットEXc」といった商品があり、いずれも有効成分は「ベクロメタゾンプロピオン酸エステル」。メーカー希望小売価格は安い点鼻薬の約3倍近い、1800円~2千円ほどである。「症状がほぼ出ない」「何となく商品名に聞き覚えがあった「ナザールα」を購入して使い始めてみたのですが……」 と語るこの会社員は目下、久方ぶりに花粉症の症状がほとんど出ない春を謳歌している。「朝夕1日2回使うだけでくしゃみも鼻水も鼻づまりも全くなくなり、夜中に途中で起きなくて済むので睡眠不足も解消。今までの“過酷な戦い”はいったい何だったのか、というくらいあっけなく改善してしまったのです。目のかゆみはまだありますが、以前よりはましになっているような気がします。飲み薬のアレロックも1日1錠まで減らしました」(同) 都内在住の50代の会社役員は花粉症の季節だけではなく、1年を通じてアレルギー性鼻炎の症状に悩まされてきた。そのため、飲み薬だけではなく、点鼻薬も常用してきたが、それは血管収縮薬入りの安いものだった。「これまで使ってきた点鼻薬は使うと一旦は鼻が通るものの、しばらくするとまた症状が出てくる。そのため、ひどい時は1時間に6回も7回も鼻にシュッシュッとやって、周りの人から“そんなに連続で使ったら体に悪い”と心配されることもありました」 会社役員はそう語る。「そこでこの春は、値段が3倍もする『ナザールα』に変えてみたのです。すると今のところ、鼻水が出なくなり、鼻づまりもかなり軽減されました。夜寝る時の息苦しさも改善し、しっかり眠れるようになった。30年以上前に花粉症になって以来、初めて症状がほぼ出ないという状態になっています」炎症を強力に鎮める ステロイド点鼻薬にこれほどの効き目があることをすでに把握している一般人はどれくらいいるのだろうか。「ナザールα」を販売している佐藤製薬は、「今年2~3月は前年同月比約300%近い売り上げとなっております」 と言うから、その“実力”はじわじわと知れ渡りつつあるのかもしれない。 では、ステロイド点鼻薬はどのようなメカニズムで花粉症の症状を抑え込むのか。それを説明するためには、花粉症そのものの仕組みに触れておく必要がある。 医薬情報研究所/(株)SICの医薬情報部門の責任者で薬剤師の堀美智子さんが言う。「花粉が鼻などから入り込み、異物だと認識されると、IgE抗体が作り出され、肥満細胞に付着します。そして、IgE抗体が付着した肥満細胞が増加し、一定レベルに達すると『感作(かんさ)』が成立。さらに花粉が入ってくるとIgE抗体と結びつき、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。これらの物質が鼻水やくしゃみ、鼻づまりといった花粉症の症状を引き起こすのです」 そのヒスタミンが放出されるのを抑えたり、働きを抑制するのが抗ヒスタミン薬と呼ばれる飲み薬。先に紹介した会社員の証言に出てくる飲み薬はいずれも現在主流となっている第2世代抗ヒスタミン薬だ。一方のステロイド点鼻薬は、「IgE抗体や肥満細胞の働きを抑えつつ、鼻の粘膜で起こる炎症を強力に鎮めたり、炎症を誘発する細胞が集まるのを防ぐなどの相乗的な作用によって、持続的に高い効果を発揮します」(佐藤製薬)全身性の副作用が起こりにくい理由「ナザールα」の有効成分が医療用と同量の0.1%になったのは2016年。「それより前、ステロイド点鼻薬は“重症者に使う薬”と位置付けられていましたが、16年から『鼻アレルギー診療ガイドライン』で発症初期、軽症の段階でも使用が推奨されるようになりました」 と、先の堀さんが話す。「花粉症では、鼻水やくしゃみなどの症状が出る前から炎症(最小持続炎症)が起こっており、それを抑えると花粉症の症状が出ることやひどくなることの予防につながることが分かってきました。ステロイド点鼻薬には、この最小持続炎症を抑制する効果があるのです。また、心配するような副作用の発現は少ないとされています」 また、「ナザールα」や「エージーアレルカットEXc」は、鼻粘膜などで効いた後は速やかに分解される「アンテドラッグ」のメカニズムにより、全身性の副作用は起こりにくい。一般的なステロイド点鼻薬に含まれる有効成分は3種ある。「ナザールα」に入っているベクロメタゾンプロピオン酸エステルの他、「ロートアルガードクリアノーズ」のフルニソリド、「フルナーゼ点鼻薬」のフルチカゾンプロピオン酸エステルだ。医学的なデータも「この3種のステロイド成分の効き目には大きな差はないと考えています。それよりも大事なのは、抗ヒスタミンの飲み薬よりもステロイド点鼻薬の方が効くことがさまざまな研究によって裏付けられていることです」 そう語るのは、『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の著者で薬剤師の久里建人氏だ。「例えば、3種のステロイド成分のうち『フルチカゾン』の点鼻薬と、セチリジンという成分を含む飲み薬を比較した1997年の論文があります。237名を二つのグループに分けてそれぞれの薬を投与し、総合的な鼻の症状の改善度を比較したところ、『フルチカゾン』の方が改善度が高く、無症状で済んだ日数も多かったことが報告されています」 無論、一つの論文だけで効果が証明されたというのは無理があるが、「医学、薬学の世界ではこうした実験を行った論文を集めて統計学的な処理をして再評価する論文があります。そうした論文でも、抗ヒスタミンの飲み薬よりステロイド点鼻薬の方が効果が高いと評価されています。医学の知見は年月を経て変わることもあるのですが、この知見はここ二十数年変わっていないので堅牢なものだといえます」(同)「広まっていない理由」 飲み薬同様、ステロイド点鼻薬も初期から使うことでピーク時の症状を和らげることが分かっている。「ただし、症状がすでに出ている人が今からステロイド点鼻薬を使っても遅くはなく、それで症状が改善する人も多いはずです。もし今から使ってダメでも、来年は症状が出始めたところで試してみて下さい。今年よりも快適に過ごせる可能性は高いと思います」(同) 花粉症に詳しい日本医科大学大学院医学研究科教授の大久保公裕氏も言う。「ステロイド点鼻薬が日本であまり広まっていない理由としては、まず日本人が薬=飲み薬と考えていることが挙げられるでしょう。また、ステロイド点鼻薬は継続して使用することで効果が得られるのですが、1、2回試して効かないからとやめてしまう人がいます。使用する際は継続して使うようにして下さい」“最終兵器”を使うことにより、どれくらいの人が「戦い」を終結に導けるか。「週刊新潮」2023年4月6日号 掲載
花粉症対策の「最終兵器」が薬局やドラッグストアで買える? そう聞いても、花粉症との付き合いが長い人ほど、眉に唾を付けるに違いない。花粉症との付き合いが長いという事実はすなわち、「戦いの歴史」も長いことを示している。病院を転々としてさまざまな薬を試し、効くと聞けばその食べ物、飲み物、サプリメントを買いに走る……。もちろん、いずれかの対策が劇的に効いて、すでに「戦い」を終えたという方も中にはいるかもしれない。しかし、ほとんどの人は未だに「戦い」の真っ最中なのではないか。東京都在住の40代の男性会社員もそんな一人だった。
「最初に花粉症の症状が出たのがいつだったか、正確には思い出せないくらい花粉症歴は長い。大学生の時にすでに症状に苦しめられていたのは間違いないので、短くとももう20年以上ということになります」
この会社員はそう話す。
「もちろん病院にはずっと通っており、医者と相談しながら飲み薬の種類をいろいろ変えてきました。アレグラ、アレジオン、ザイザル、ルパフィンといったあたりで何とかごまかしていたのですが、やはり風の強い日や花粉の飛散量が多い日には症状がひどくなる。点鼻薬はずいぶん前に処方してもらったことがありますが、効かないような気がしたのでそのうちやめてしまいました」
花粉症に効く、と巷でいわれている飲み物や食べ物、サプリメントも一通りトライした。
「ヨーグルトは毎日取っていますが特に症状に変化はないし、甜茶(てんちゃ)なども効いている感じがしない。少し前にはやった柑橘類『じゃばら』の果汁やサプリメントは少し効果があった気がしますが、気休め程度。ビタミンDとラクトフェリンのサプリメントを組み合わせて飲むといいと聞いて試したこともありますが、効きませんでした」(同)
結局、この会社員の花粉症対策の“最終形態”となっていたのは、
「アレロックという薬を朝2錠、夜2錠の最大量。加えて、目薬も処方してもらっています。外出時はマスクとゴーグルで物理的に花粉の侵入を防ぐ。それだけではなく、鼻の中に直接入れるフィルターで、花粉を99%カットしてくれる、という触れ込みの『ノーズマスクピット』も欠かすことはできません」(同)
しかし、今年の花粉飛散量は例年の10倍以上ともいわれ、多くの花粉症患者が“過酷な戦い”を強いられている。無論、この会社員も例外ではない。
「まだ花粉の飛散量がピークに至っていない頃から、薬を飲んでもくしゃみや鼻水、鼻づまりの症状が治まらず、“ピーク時にはどうなるのか”と絶望していました。夜中も必ずくしゃみや鼻水で起きてしまうので、寝不足になりますし……」
そんな折、「ステロイド点鼻薬」が効くと知り合いから聞き、半信半疑でドラッグストアに走った。
「知り合いからは、市販されている点鼻薬には血管収縮薬が入っているものと入っていないものがあり、入っていないステロイド点鼻薬がいい、と教えられていました。何でも、血管収縮薬の入っている点鼻薬は使うと速やかに鼻づまりが改善するものの、使い続けるとかえって粘膜が腫れて鼻づまり症状を起こす恐れがあるというのです」
確かに、600円前後の安い点鼻薬には、血管収縮薬のナファゾリン塩酸塩などが入っているものが多い。一方、血管収縮薬が入っていないステロイド点鼻薬には、「ナザールαAR0.1%」「エージーアレルカットEXc」といった商品があり、いずれも有効成分は「ベクロメタゾンプロピオン酸エステル」。メーカー希望小売価格は安い点鼻薬の約3倍近い、1800円~2千円ほどである。
「何となく商品名に聞き覚えがあった「ナザールα」を購入して使い始めてみたのですが……」
と語るこの会社員は目下、久方ぶりに花粉症の症状がほとんど出ない春を謳歌している。
「朝夕1日2回使うだけでくしゃみも鼻水も鼻づまりも全くなくなり、夜中に途中で起きなくて済むので睡眠不足も解消。今までの“過酷な戦い”はいったい何だったのか、というくらいあっけなく改善してしまったのです。目のかゆみはまだありますが、以前よりはましになっているような気がします。飲み薬のアレロックも1日1錠まで減らしました」(同)
都内在住の50代の会社役員は花粉症の季節だけではなく、1年を通じてアレルギー性鼻炎の症状に悩まされてきた。そのため、飲み薬だけではなく、点鼻薬も常用してきたが、それは血管収縮薬入りの安いものだった。
「これまで使ってきた点鼻薬は使うと一旦は鼻が通るものの、しばらくするとまた症状が出てくる。そのため、ひどい時は1時間に6回も7回も鼻にシュッシュッとやって、周りの人から“そんなに連続で使ったら体に悪い”と心配されることもありました」
会社役員はそう語る。
「そこでこの春は、値段が3倍もする『ナザールα』に変えてみたのです。すると今のところ、鼻水が出なくなり、鼻づまりもかなり軽減されました。夜寝る時の息苦しさも改善し、しっかり眠れるようになった。30年以上前に花粉症になって以来、初めて症状がほぼ出ないという状態になっています」
ステロイド点鼻薬にこれほどの効き目があることをすでに把握している一般人はどれくらいいるのだろうか。「ナザールα」を販売している佐藤製薬は、
「今年2~3月は前年同月比約300%近い売り上げとなっております」
と言うから、その“実力”はじわじわと知れ渡りつつあるのかもしれない。
では、ステロイド点鼻薬はどのようなメカニズムで花粉症の症状を抑え込むのか。それを説明するためには、花粉症そのものの仕組みに触れておく必要がある。
医薬情報研究所/(株)SICの医薬情報部門の責任者で薬剤師の堀美智子さんが言う。
「花粉が鼻などから入り込み、異物だと認識されると、IgE抗体が作り出され、肥満細胞に付着します。そして、IgE抗体が付着した肥満細胞が増加し、一定レベルに達すると『感作(かんさ)』が成立。さらに花粉が入ってくるとIgE抗体と結びつき、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。これらの物質が鼻水やくしゃみ、鼻づまりといった花粉症の症状を引き起こすのです」
そのヒスタミンが放出されるのを抑えたり、働きを抑制するのが抗ヒスタミン薬と呼ばれる飲み薬。先に紹介した会社員の証言に出てくる飲み薬はいずれも現在主流となっている第2世代抗ヒスタミン薬だ。一方のステロイド点鼻薬は、
「IgE抗体や肥満細胞の働きを抑えつつ、鼻の粘膜で起こる炎症を強力に鎮めたり、炎症を誘発する細胞が集まるのを防ぐなどの相乗的な作用によって、持続的に高い効果を発揮します」(佐藤製薬)
「ナザールα」の有効成分が医療用と同量の0.1%になったのは2016年。
「それより前、ステロイド点鼻薬は“重症者に使う薬”と位置付けられていましたが、16年から『鼻アレルギー診療ガイドライン』で発症初期、軽症の段階でも使用が推奨されるようになりました」
と、先の堀さんが話す。
「花粉症では、鼻水やくしゃみなどの症状が出る前から炎症(最小持続炎症)が起こっており、それを抑えると花粉症の症状が出ることやひどくなることの予防につながることが分かってきました。ステロイド点鼻薬には、この最小持続炎症を抑制する効果があるのです。また、心配するような副作用の発現は少ないとされています」
また、「ナザールα」や「エージーアレルカットEXc」は、鼻粘膜などで効いた後は速やかに分解される「アンテドラッグ」のメカニズムにより、全身性の副作用は起こりにくい。一般的なステロイド点鼻薬に含まれる有効成分は3種ある。「ナザールα」に入っているベクロメタゾンプロピオン酸エステルの他、「ロートアルガードクリアノーズ」のフルニソリド、「フルナーゼ点鼻薬」のフルチカゾンプロピオン酸エステルだ。
「この3種のステロイド成分の効き目には大きな差はないと考えています。それよりも大事なのは、抗ヒスタミンの飲み薬よりもステロイド点鼻薬の方が効くことがさまざまな研究によって裏付けられていることです」
そう語るのは、『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の著者で薬剤師の久里建人氏だ。
「例えば、3種のステロイド成分のうち『フルチカゾン』の点鼻薬と、セチリジンという成分を含む飲み薬を比較した1997年の論文があります。237名を二つのグループに分けてそれぞれの薬を投与し、総合的な鼻の症状の改善度を比較したところ、『フルチカゾン』の方が改善度が高く、無症状で済んだ日数も多かったことが報告されています」
無論、一つの論文だけで効果が証明されたというのは無理があるが、
「医学、薬学の世界ではこうした実験を行った論文を集めて統計学的な処理をして再評価する論文があります。そうした論文でも、抗ヒスタミンの飲み薬よりステロイド点鼻薬の方が効果が高いと評価されています。医学の知見は年月を経て変わることもあるのですが、この知見はここ二十数年変わっていないので堅牢なものだといえます」(同)
飲み薬同様、ステロイド点鼻薬も初期から使うことでピーク時の症状を和らげることが分かっている。
「ただし、症状がすでに出ている人が今からステロイド点鼻薬を使っても遅くはなく、それで症状が改善する人も多いはずです。もし今から使ってダメでも、来年は症状が出始めたところで試してみて下さい。今年よりも快適に過ごせる可能性は高いと思います」(同)
花粉症に詳しい日本医科大学大学院医学研究科教授の大久保公裕氏も言う。
「ステロイド点鼻薬が日本であまり広まっていない理由としては、まず日本人が薬=飲み薬と考えていることが挙げられるでしょう。また、ステロイド点鼻薬は継続して使用することで効果が得られるのですが、1、2回試して効かないからとやめてしまう人がいます。使用する際は継続して使うようにして下さい」
“最終兵器”を使うことにより、どれくらいの人が「戦い」を終結に導けるか。
「週刊新潮」2023年4月6日号 掲載

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