【名医に聞く 骨粗鬆症性椎体骨折】女性は男性の約3倍も椎体骨折の頻度が。「骨にはカルシウム」だけじゃない。閉経によるホルモン分泌量低下なども原因に

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人に打ち明けられない不調や悩み。日々医療は進歩し、治療法が開発されていることも。大切な自身や家族の健康は、ぜひ医師に相談してみてください。女性に多い病気を中心に、症状、原因、治療、予防の4つの観点でご紹介します。第24回は、「骨粗鬆症性椎体骨折」です。(取材・文/松井宏夫 医学ジャーナリスト)
【図】80代後半では6割に迫る!骨折の頻度* * * * * * *〈症状〉激しい痛みや姿勢の変化。神経症状が出ることも骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は「骨強度が低下し、骨折のリスクが増大した状態」と定義されています。骨折を起こしやすい場所は、椎体(背骨)、大腿骨、橈骨(前腕の骨)などがありますが、今回は骨粗鬆症による椎体骨折を取り上げましょう。

主な症状は、急性腰痛や背部痛。歩行や寝返りもできないほど強い痛みが出ます。小さな骨折であれば、「少し痛い」という程度のことも。複数ある背骨が2つ3つと折れると、姿勢が前屈みになり、杖なしでは歩けなくなるのも特徴。背骨が変形して内臓が圧迫され、深呼吸ができない、食事がのどを通りにくい、食べた物が逆流するなどの症状も起こります。骨が神経を圧迫した場合、難治性のしびれ・痛みや下肢の麻痺などの神経症状が残ることも。歩行困難や寝たきりにも結びつくのです。〈原因〉原因は2タイプ。加齢にともなうものが一般的骨粗鬆症には「続発性」と「原発性」の2つのタイプがあります。続発性は骨を弱くする原因となる基礎疾患のある場合で、ステロイドの長期使用や人工透析、ホルモン低下療法などを受けているケースです。これに対し、原発性は加齢にともない骨密度が低下し起こるもの。高齢者で一般に見られるのは後者のタイプです。骨形成と骨破壊の新陳代謝バランスが崩れ、壊れる骨が多くなると骨密度が低下します。骨粗鬆症の人の数は1280万人(1998年)で、現在は1300万人という推測も。そして、女性は男性の約3倍も椎体骨折の頻度が高いといわれています。原発性の具体的な原因としては、若年期の不十分な骨量、閉経によるエストロゲンの分泌量の低下、カルシウムやビタミンD、ビタミンKの摂取不足のほか、筋力低下や運動量の減少によって骨への刺激が低下することなどが考えられます。椎体骨折は、手足の骨のようにポキッと折れるのではなく、つぶれる骨折。最近では「いつのまにか骨折」ともいわれる〈治療〉まずはコルセット。さらには骨の形成手術を治療の基本は「保存的治療」です。その目的は痛みをとり、骨折が進行して骨が変形するのを防ぐこと。まずはMRI画像を撮って状態を調べ、患者にあったコルセットを作ります。コルセットで固定することで、約80%は骨がくっつき、それ以上つぶれるのを防ぐことができるのです。保存的治療がうまくいかない残りの約20%の場合でも、骨が完全につぶれる前であれば「BKP(バルーン椎体形成術)」を行うことができます。レントゲン透視下で、骨折した椎体にバルーン(特殊な風船)を挿入。風船を膨らませてつぶれた骨を元に戻し、再骨折しないよう専用の骨セメントを入れます。30分ほどで終了する手術で、安全性も高く、椎体骨折にはとても有効です。2011年より保険適用になったものの、基準を満たした施設でしか行うことができません。つぶれた骨が神経を圧迫し、神経症状(遅発性神経麻痺)が出現すると、治療は極めて難しくなります。金属で背骨を固定する施術をするのですが、骨が弱っているので、うまくいかない場合も。「骨折かもしれない」と思ったら、早めに専門の医療機関を受診してください。骨のつぶれた部分をバルーンで膨らませて施術〈予防〉骨密度のチェックが第一歩。食事と運動で予防して骨折しない丈夫な骨を維持するためには、予防が最も重要です。みなさんは、自分の骨密度をご存じでしょうか? 知らないという方、閉経を迎えた女性、70代以上の男性は、健康診断の時に骨密度も測定してもらうとよいでしょう。そして骨粗鬆症予防の基本は「食事」、「運動」、「薬の服用」です。バランスのいい食事をとるよう心がけてください。「骨にはカルシウム」と思いがちですが、タンパク質、ビタミンD、ビタミンKなど、骨を作る栄養素はさまざま。これらを十分に摂る必要があります。カルシウムは小魚や乳製品に、ビタミンDは魚類や干しきのこ(椎茸、キクラゲ)に、ビタミンKは納豆や小松菜などに多く含まれています。《転ばない》丈夫な足腰を作ることも大切です。スクワットや定期的な散歩など、日々の生活のなかで体を動かす習慣をつけてください。日光に当たることでビタミンDが活性化されることもわかっています。薬の服用については、主治医の先生によく相談してください。さまざまな作用の薬があります。自分の病態や生活スタイルにあった薬を処方してもらいましょう。亀田総合病院発行『ちょっとためになる骨粗鬆症と椎体骨折の話』より
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骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は「骨強度が低下し、骨折のリスクが増大した状態」と定義されています。骨折を起こしやすい場所は、椎体(背骨)、大腿骨、橈骨(前腕の骨)などがありますが、今回は骨粗鬆症による椎体骨折を取り上げましょう。
主な症状は、急性腰痛や背部痛。歩行や寝返りもできないほど強い痛みが出ます。小さな骨折であれば、「少し痛い」という程度のことも。
複数ある背骨が2つ3つと折れると、姿勢が前屈みになり、杖なしでは歩けなくなるのも特徴。背骨が変形して内臓が圧迫され、深呼吸ができない、食事がのどを通りにくい、食べた物が逆流するなどの症状も起こります。骨が神経を圧迫した場合、難治性のしびれ・痛みや下肢の麻痺などの神経症状が残ることも。歩行困難や寝たきりにも結びつくのです。
骨粗鬆症には「続発性」と「原発性」の2つのタイプがあります。続発性は骨を弱くする原因となる基礎疾患のある場合で、ステロイドの長期使用や人工透析、ホルモン低下療法などを受けているケースです。これに対し、原発性は加齢にともない骨密度が低下し起こるもの。高齢者で一般に見られるのは後者のタイプです。骨形成と骨破壊の新陳代謝バランスが崩れ、壊れる骨が多くなると骨密度が低下します。
骨粗鬆症の人の数は1280万人(1998年)で、現在は1300万人という推測も。そして、女性は男性の約3倍も椎体骨折の頻度が高いといわれています。
原発性の具体的な原因としては、若年期の不十分な骨量、閉経によるエストロゲンの分泌量の低下、カルシウムやビタミンD、ビタミンKの摂取不足のほか、筋力低下や運動量の減少によって骨への刺激が低下することなどが考えられます。
椎体骨折は、手足の骨のようにポキッと折れるのではなく、つぶれる骨折。最近では「いつのまにか骨折」ともいわれる
治療の基本は「保存的治療」です。その目的は痛みをとり、骨折が進行して骨が変形するのを防ぐこと。まずはMRI画像を撮って状態を調べ、患者にあったコルセットを作ります。コルセットで固定することで、約80%は骨がくっつき、それ以上つぶれるのを防ぐことができるのです。保存的治療がうまくいかない残りの約20%の場合でも、骨が完全につぶれる前であれば「BKP(バルーン椎体形成術)」を行うことができます。
レントゲン透視下で、骨折した椎体にバルーン(特殊な風船)を挿入。風船を膨らませてつぶれた骨を元に戻し、再骨折しないよう専用の骨セメントを入れます。30分ほどで終了する手術で、安全性も高く、椎体骨折にはとても有効です。2011年より保険適用になったものの、基準を満たした施設でしか行うことができません。
つぶれた骨が神経を圧迫し、神経症状(遅発性神経麻痺)が出現すると、治療は極めて難しくなります。金属で背骨を固定する施術をするのですが、骨が弱っているので、うまくいかない場合も。「骨折かもしれない」と思ったら、早めに専門の医療機関を受診してください。
骨のつぶれた部分をバルーンで膨らませて施術
骨折しない丈夫な骨を維持するためには、予防が最も重要です。みなさんは、自分の骨密度をご存じでしょうか? 知らないという方、閉経を迎えた女性、70代以上の男性は、健康診断の時に骨密度も測定してもらうとよいでしょう。
そして骨粗鬆症予防の基本は「食事」、「運動」、「薬の服用」です。バランスのいい食事をとるよう心がけてください。「骨にはカルシウム」と思いがちですが、タンパク質、ビタミンD、ビタミンKなど、骨を作る栄養素はさまざま。これらを十分に摂る必要があります。カルシウムは小魚や乳製品に、ビタミンDは魚類や干しきのこ(椎茸、キクラゲ)に、ビタミンKは納豆や小松菜などに多く含まれています。《転ばない》丈夫な足腰を作ることも大切です。スクワットや定期的な散歩など、日々の生活のなかで体を動かす習慣をつけてください。日光に当たることでビタミンDが活性化されることもわかっています。
薬の服用については、主治医の先生によく相談してください。さまざまな作用の薬があります。自分の病態や生活スタイルにあった薬を処方してもらいましょう。
亀田総合病院発行『ちょっとためになる骨粗鬆症と椎体骨折の話』より

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