「もうこれ以上、値段を叩かないで」卵業界の苦境を伝える“卵ソムリエ”のツイートが話題…窮状を聞いた

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鳥インフルエンザの感染拡大を背景に、卵の価格が高騰している。JA全農たまごによると、Mサイズ1キロ当たりの大阪地区の平均卸売価格は、2月で332円。前年同月に当たる2022年の2月から158円値上がりし、公表している1993年以降では最高値となっている。こうした中、3月6日に“卵業界の苦境を伝えるツイート”が投稿され、3万1000以上リツイートされるなど、話題となっている(3月20日時点)。

ツイートをしたのは、卵に関する知識を正しく理解した人に与えられる卵のソムリエ資格「五ツ星タマリエ」として活動し、実家が山形県天童市に本社を構える鶏卵の卸「半澤鶏卵」だという、半澤清哉さんだ。半澤さんは、このツイートで「最近、お客様に『卵1パック200円代は高すぎ!ぼったくりすぎ!』と言われますが、 『もうこれ以上、値段を叩かないで下さい!泣(大声)』 1パック当たりの僕達の利益は大体2%位です」と、卵業界の苦しい現状を伝えている。また、鳥インフルエンザの影響については「鳥インフルが1羽でも発生したら周りの鶏も全て殺処分。売上は1年近くゼロ円です」だというのだ。このツイートには「1パック当たりの僕達の利益は大体2%位」「鳥インフルエンザが1羽でも発生したら売上は1年近くゼロ円」とあるが、それぞれ、どのような理由でこのような状況になるのか? また、高騰していると言われる「今の卵の価格」を卵業界はどのように受け止めているのか?半澤清哉さんに“卵業界の本音”を聞いた。「卵の存在価値を考えるきっかけになればと思った」――半澤さんは今、卵や卵業界とどのように関わっている?実家が山形県天童市に本社を構える、鶏卵の卸「株式会社半澤鶏卵」で、将来、3代目として継ぐ想定をしています。また、自身でも鶏卵業界の知識や経営力、発信力を付けていかなければということで、現在は、取得した「五ツ星タマリエ」としてのメディア露出や、地元・山形県のブランド米「つや姫」の観光大使としてのTKG(卵かけご飯)普及活動、関東マーケットへの卵の販売活動、SNSを活用したPR事業の経営を行っております。ただ、卵業界の課題として、業界の外に発信する力が、まだまだ不足していると感じております。自身の発信の信用度と、影響力を持ちたいと思い、去年7月、当時、日本には5~6人しかいなかった卵資格の最高峰である「五ツ星タマリエ」の資格を史上最年少で取得することができました。今後も業界を代表して、これからも生産者と消費者がお互いに歩み寄れるような情報発信をしていきたいと思っています。――卵業界の苦境を伝えるツイートをした理由は?30年前と比べ、養鶏場は5分の1以下まで減っています。ただでさえ厳しい経営状況が続いていたにもかかわらず、今期は鳥インフルエンザの感染拡大や、飼料、電気、資材などの高騰で、養鶏場にとっても過去に例が無いほどの危機的状況です。このままでは将来、日本の卵が安定的に供給されない状況が続くと思い、少しでも消費者の方々に現状を知ってもらい、卵の存在価値を改めて考えるきっかけになればと思い、今回のツイートをしました。――そもそも、卵はどのように価格を設定している?2つの方法があります。1つ目は「年間固定」です。主に鶏卵の生産コスト(飼料や水道光熱費、配送費など鶏卵の生産から販売までに掛かるコスト)から算出する方法です。2つ目は「相場連動」です。毎日、更新されているJA全農たまごさんが発表している鶏卵相場を使用し、それを元に算出する方法です。――卵が「物価の優等生」と言われ、価格にあまり変化がないのはなぜ?やはり、競争の原理による販売先のシェアの取り合いが一番の要因です。卵がスーパーに並んでいるのを見ると、きっと、「価格」を基準に買われる方は多いのではないかと思います。業界としても、それはある程度、認識していました。そのうえで商売ですから、自社の卵を広めようとした結果、値段のたたき合いが行われ、「卵=物価の優等生、特売の目玉品」という安いイメージが定着してしまったのではないかと思います。もちろん、それでは収支が合うわけがないので、差別化を目指した商品に向けた努力をしてきておりましたが、なかなか浸透しきっていないというのが現状です。安いイメージが定着した結果、「その価格でなければ売れない」という共通認識を作ってしまいました。1パック当たりの利益が2%ぐらいの理由――ツイートには「1パック当たりの僕達の利益は大体2%位」とあるが、この理由は?スーパーで販売している卵の場合、掛かってくるコストは…・生産農場:鶏舎やその設備の償却費、設備更新費、雛代、飼料代、ワクチン代、検査費用、水道代、ガス代、電気代、配送費、人件費など・パッキング工場:洗卵選別&パッキングの設備償却費、設備更新費、資材費、検査費用、水道代、ガス代、電気代、配送費、人件費・その他:販管費、営業経費、建物償却、水道代、ガス代、電気代、人件費などこれだけ多くのコストが掛かっています。仮にスーパーで、200円で卵が販売されていた場合、スーパーの利益が15%と仮定し、「センターフィ」という物流センターから店舗への配送コストを5%と仮定すると、私たちが卸す価格は200円の内の80%程度ですので、160円/p(卵1パック当たり160円)ほどです。そこから上記に記載したコストがかかると、むしろ2%ほど残れば良いほう、というのが現状です。――ツイートには「鳥インフルエンザが発生した場合、売上が1年近くゼロ円になる」とあるが、これはなぜ?鳥インフルエンザが1羽でも発生した場合、その周りで飼っている鶏は全て殺処分となります。「新しいひなを入れればいいじゃないか」という声もありますが、ひなは生き物ですから、手配したら、すぐに仕入れられるものではありません。どこの生産者さんも、年間スケジュールを組んで、ひな屋さんには1年以上前から予約しておりますので、すぐに手に入りません。また、鳥インフルエンザの発生後は、消毒と検査を繰り返し、30羽ほど鶏を入れて、異常が無いかのテストを含め、最低3カ月は設けなければならず、ひなを導入後も、製品として出荷できる卵を生み始めるまでには、早くても200日近くはひなを育てなければなりません。ひなの導入が先延ばしになれば、1年近くは卵を出荷できない状態が続きます。「卵の価格上昇は大変ありがたい」――鳥インフルエンザの感染拡大を受け、卵業界は今、どのような状況?30年前と比べ、養鶏場が5分の1以下まで減っている現状が物語っています。ただでさえ薄利多売の商売で、各生産者さんにおいては厳しい経営状況が続いていたにもかかわらず、今期は鳥インフルエンザの感染拡大や、飼料、電気、資材等の高騰で、養鶏場にとっても、過去に例が無いほどの危機的状況です。競争の原理が働いてしまうと、売り場のシェアの取り合いで価格競争が生まれてしまい、「安いイメージ」がついてしまっている卵は、より安い卵が一番売れるようになってしまっているため、「小規模~中規模の生産者さん」と「大手の生産者さん」では、やはり、大手の生産者さんのほうが有利です。「小規模~中規模の生産者さん」にとっては、それでは収支が合わずに辞めていかれるケースが多くなっております。鳥インフルエンザの感染拡大は、その生産者さんに対しての負担は計り知れないものがあり、精神的にも経営的にも追い詰めるほどで、価格を改定しても、供給量が圧倒的に足りていない状況です。――卵業界では、卵の価格上昇をどのように受け止めている?卵の価格上昇は、正直、生産者にとっては大変ありがたい状況です。むしろ、これまでの価格帯での販売では、大手の生産者さんでさえも、コストが全く合わない状況だったため、卵を1つ作るために掛かる労力やコスト、鳥インフルエンザのリスクを考えると、これから卵を作る方が本当にいなくなるぐらい、深刻な状況でした。ひな代、飼料代、水道光熱費、資材費、設備更新費、人件費など、全てのコストが上がっている状況で、さらに鳥インフルエンザ発生のリスクを伴っているため、安価で売り続けるのは、すでに限界をこえております。養鶏場がこれだけ減っている状況を踏まえ、これからは生産者側も最大限の努力をした上で、それでも補えない部分を価格改定に反映させることができるよう、発信してまいります。――卵や卵業界について、消費者に知っておいてほしいことは?卵は1個でも、生命が誕生できるほどの栄養が詰まっている完全栄養食品ですので、できるだけ無駄にはしてほしくありません。特にお伝えしたいことは「賞味期限が過ぎた卵を捨てないで」ということです。卵の賞味期限は「安全に生食できる期間」のことを指します。賞味期限が過ぎでも、しっかり加熱することで、食べられる期間がのびます。ただし、割った後に明らかに異常があるものが見つかったら、食べるのは控えてください。消費者としては卵の価格高騰を嘆きたくなるが、卵の価格の決め方や卵業界の実情を知ると、「今の価格でも安いのでは」と感じるようになった。卵業界の実情を知り、今の価格に納得して購入することが、苦境に立たされている卵業界の救済につながるのかもしれない。
鳥インフルエンザの感染拡大を背景に、卵の価格が高騰している。
JA全農たまごによると、Mサイズ1キロ当たりの大阪地区の平均卸売価格は、2月で332円。前年同月に当たる2022年の2月から158円値上がりし、公表している1993年以降では最高値となっている。
こうした中、3月6日に“卵業界の苦境を伝えるツイート”が投稿され、3万1000以上リツイートされるなど、話題となっている(3月20日時点)。
ツイートをしたのは、卵に関する知識を正しく理解した人に与えられる卵のソムリエ資格「五ツ星タマリエ」として活動し、実家が山形県天童市に本社を構える鶏卵の卸「半澤鶏卵」だという、半澤清哉さんだ。
半澤さんは、このツイートで「最近、お客様に『卵1パック200円代は高すぎ!ぼったくりすぎ!』と言われますが、 『もうこれ以上、値段を叩かないで下さい!泣(大声)』 1パック当たりの僕達の利益は大体2%位です」と、卵業界の苦しい現状を伝えている。
また、鳥インフルエンザの影響については「鳥インフルが1羽でも発生したら周りの鶏も全て殺処分。売上は1年近くゼロ円です」だというのだ。
このツイートには「1パック当たりの僕達の利益は大体2%位」「鳥インフルエンザが1羽でも発生したら売上は1年近くゼロ円」とあるが、それぞれ、どのような理由でこのような状況になるのか? また、高騰していると言われる「今の卵の価格」を卵業界はどのように受け止めているのか?
半澤清哉さんに“卵業界の本音”を聞いた。
――半澤さんは今、卵や卵業界とどのように関わっている?
実家が山形県天童市に本社を構える、鶏卵の卸「株式会社半澤鶏卵」で、将来、3代目として継ぐ想定をしています。
また、自身でも鶏卵業界の知識や経営力、発信力を付けていかなければということで、現在は、取得した「五ツ星タマリエ」としてのメディア露出や、地元・山形県のブランド米「つや姫」の観光大使としてのTKG(卵かけご飯)普及活動、関東マーケットへの卵の販売活動、SNSを活用したPR事業の経営を行っております。
ただ、卵業界の課題として、業界の外に発信する力が、まだまだ不足していると感じております。自身の発信の信用度と、影響力を持ちたいと思い、去年7月、当時、日本には5~6人しかいなかった卵資格の最高峰である「五ツ星タマリエ」の資格を史上最年少で取得することができました。
今後も業界を代表して、これからも生産者と消費者がお互いに歩み寄れるような情報発信をしていきたいと思っています。
――卵業界の苦境を伝えるツイートをした理由は?
30年前と比べ、養鶏場は5分の1以下まで減っています。ただでさえ厳しい経営状況が続いていたにもかかわらず、今期は鳥インフルエンザの感染拡大や、飼料、電気、資材などの高騰で、養鶏場にとっても過去に例が無いほどの危機的状況です。
このままでは将来、日本の卵が安定的に供給されない状況が続くと思い、少しでも消費者の方々に現状を知ってもらい、卵の存在価値を改めて考えるきっかけになればと思い、今回のツイートをしました。
――そもそも、卵はどのように価格を設定している?
2つの方法があります。
1つ目は「年間固定」です。主に鶏卵の生産コスト(飼料や水道光熱費、配送費など鶏卵の生産から販売までに掛かるコスト)から算出する方法です。
2つ目は「相場連動」です。毎日、更新されているJA全農たまごさんが発表している鶏卵相場を使用し、それを元に算出する方法です。
――卵が「物価の優等生」と言われ、価格にあまり変化がないのはなぜ?
やはり、競争の原理による販売先のシェアの取り合いが一番の要因です。卵がスーパーに並んでいるのを見ると、きっと、「価格」を基準に買われる方は多いのではないかと思います。
業界としても、それはある程度、認識していました。
そのうえで商売ですから、自社の卵を広めようとした結果、値段のたたき合いが行われ、「卵=物価の優等生、特売の目玉品」という安いイメージが定着してしまったのではないかと思います。
もちろん、それでは収支が合うわけがないので、差別化を目指した商品に向けた努力をしてきておりましたが、なかなか浸透しきっていないというのが現状です。安いイメージが定着した結果、「その価格でなければ売れない」という共通認識を作ってしまいました。
――ツイートには「1パック当たりの僕達の利益は大体2%位」とあるが、この理由は?
スーパーで販売している卵の場合、掛かってくるコストは…
・生産農場:鶏舎やその設備の償却費、設備更新費、雛代、飼料代、ワクチン代、検査費用、水道代、ガス代、電気代、配送費、人件費など
・パッキング工場:洗卵選別&パッキングの設備償却費、設備更新費、資材費、検査費用、水道代、ガス代、電気代、配送費、人件費
・その他:販管費、営業経費、建物償却、水道代、ガス代、電気代、人件費など
これだけ多くのコストが掛かっています。仮にスーパーで、200円で卵が販売されていた場合、スーパーの利益が15%と仮定し、「センターフィ」という物流センターから店舗への配送コストを5%と仮定すると、私たちが卸す価格は200円の内の80%程度ですので、160円/p(卵1パック当たり160円)ほどです。
そこから上記に記載したコストがかかると、むしろ2%ほど残れば良いほう、というのが現状です。
――ツイートには「鳥インフルエンザが発生した場合、売上が1年近くゼロ円になる」とあるが、これはなぜ?
鳥インフルエンザが1羽でも発生した場合、その周りで飼っている鶏は全て殺処分となります。「新しいひなを入れればいいじゃないか」という声もありますが、ひなは生き物ですから、手配したら、すぐに仕入れられるものではありません。
どこの生産者さんも、年間スケジュールを組んで、ひな屋さんには1年以上前から予約しておりますので、すぐに手に入りません。
また、鳥インフルエンザの発生後は、消毒と検査を繰り返し、30羽ほど鶏を入れて、異常が無いかのテストを含め、最低3カ月は設けなければならず、ひなを導入後も、製品として出荷できる卵を生み始めるまでには、早くても200日近くはひなを育てなければなりません。
ひなの導入が先延ばしになれば、1年近くは卵を出荷できない状態が続きます。
――鳥インフルエンザの感染拡大を受け、卵業界は今、どのような状況?
30年前と比べ、養鶏場が5分の1以下まで減っている現状が物語っています。
ただでさえ薄利多売の商売で、各生産者さんにおいては厳しい経営状況が続いていたにもかかわらず、今期は鳥インフルエンザの感染拡大や、飼料、電気、資材等の高騰で、養鶏場にとっても、過去に例が無いほどの危機的状況です。
競争の原理が働いてしまうと、売り場のシェアの取り合いで価格競争が生まれてしまい、「安いイメージ」がついてしまっている卵は、より安い卵が一番売れるようになってしまっているため、「小規模~中規模の生産者さん」と「大手の生産者さん」では、やはり、大手の生産者さんのほうが有利です。
「小規模~中規模の生産者さん」にとっては、それでは収支が合わずに辞めていかれるケースが多くなっております。
鳥インフルエンザの感染拡大は、その生産者さんに対しての負担は計り知れないものがあり、精神的にも経営的にも追い詰めるほどで、価格を改定しても、供給量が圧倒的に足りていない状況です。
――卵業界では、卵の価格上昇をどのように受け止めている?
卵の価格上昇は、正直、生産者にとっては大変ありがたい状況です。
むしろ、これまでの価格帯での販売では、大手の生産者さんでさえも、コストが全く合わない状況だったため、卵を1つ作るために掛かる労力やコスト、鳥インフルエンザのリスクを考えると、これから卵を作る方が本当にいなくなるぐらい、深刻な状況でした。
ひな代、飼料代、水道光熱費、資材費、設備更新費、人件費など、全てのコストが上がっている状況で、さらに鳥インフルエンザ発生のリスクを伴っているため、安価で売り続けるのは、すでに限界をこえております。
養鶏場がこれだけ減っている状況を踏まえ、これからは生産者側も最大限の努力をした上で、それでも補えない部分を価格改定に反映させることができるよう、発信してまいります。
――卵や卵業界について、消費者に知っておいてほしいことは?
卵は1個でも、生命が誕生できるほどの栄養が詰まっている完全栄養食品ですので、できるだけ無駄にはしてほしくありません。
消費者としては卵の価格高騰を嘆きたくなるが、卵の価格の決め方や卵業界の実情を知ると、「今の価格でも安いのでは」と感じるようになった。卵業界の実情を知り、今の価格に納得して購入することが、苦境に立たされている卵業界の救済につながるのかもしれない。

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