「お小遣いほしさ」Z世代の所得税不正還付が横行…代行業者がSNSで指南

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虚偽の内容を記した申告書を税務署に提出し、所得税の還付を不正に受ける事案が横行している。
「Z世代」の若者らが指南役の業者とSNSでやりとりして安易に申告するケースが目立つ。国税庁によると、追徴課税した不正還付は昨年6月までの1年間で、全国で約200件に上り、国税当局は不正に関与した人物を告訴するなど警察と連携を強化している。(牛島康太)
■410万円追徴課税
福岡県の接客業女性(20歳代)は、架空の源泉徴収税額を記載した還付申告書を税務署に提出し、2020年までの4年間で、所得税約305万円の還付を請求。仮装・隠蔽(いんぺい)にあたるとして、福岡国税局から重加算税を含め約410万円を追徴課税された。
関係者によると、女性は、友人から聞いた指南役となる代行業者に連絡し、電子申告・納税システム「e―Tax(イータックス)」での申請に必要なIDやパスワード、振込口座などの情報を提供。実在する企業から報酬を受け取り、源泉徴収されたと装った女性名義の還付申告書を業者が作成し、税務署に提出した。女性は調査に対し、「お小遣いほしさにやった」などと説明していたという。
女性は代行業者と会うことなく、やりとりは無料通話アプリで行った。業者への手数料は還付金の2~3割の約束だったが、税務署が申告内容の不審な点に気付き、還付されなかった。
■手数料25万円
「『合法』とのうたい文句で、友人もやっていたので問題ないと思った」。熊本国税局から不正還付を指摘された会社員の男性(20歳代)は調査に、そう語ったという。男性は友人から聞いた所得税の還付が簡単に受けられるというインターネット広告を見つけ、代行業者にSNSで連絡。業者が作成した還付申告書を受け取り、税務署に郵送で提出した。
申告は架空の副業で約1000万円の赤字が出たことにする内容で、自身の給与所得と合算して所得を圧縮。実際に納めた源泉徴収税額の一部を還付請求した。
20年までの5年間で約129万円を請求。一部還付され、男性は業者に手数料として約25万円を支払った。仮装・隠蔽にあたる行為と判断され、昨年、重加算税を含め約174万円を追徴課税された。業者は、同様の手口で多数の不正に関与しているとみられている。
■捜査機関と連携
国税庁によると、昨年6月までの1年間で所得税の不正還付申告で追徴課税されたのは全国で191件で、追徴税額は前年比約1・7倍の約2億700万円。うち、福岡国税局管内では福岡、佐賀、長崎各県の会社員やアルバイトなどの11件で、追徴税額は前年比約3倍の約735万円に上る。
不正還付を指南や代行する業者は複数確認されており、簡単に還付金が得られるよう誘うケースが目立つ。SNSを通じたやりとりで、1990年代半ば頃から2010年頃までに生まれた「Z世代」の若者などが依頼するケースが多いという。
相次ぐ不正申告を受け、国税庁は昨年11月、「不正還付申告書を的確に把握するため、厳格な対応を引き続き行う」などとする国税当局の指針を初めてホームページで発表した。福岡国税局も不正還付に関与した人物を警察当局に告訴するなどして、捜査機関との連携を図っている。
還付申告は年間約1330万件に上る。国税庁の担当者は「不正還付は国庫金の詐取。悪質な納税者については厳正な調査を行い、法令に基づき刑事責任を追及し、厳格に対処する」としている。
◆所得税=所得に応じて国に納める税金。会社員であれば、年収から必要経費として給与所得控除を引いたうえで、配偶者控除などを差し引いた額に一定の税率をかけて納税額が決まる。医療費控除があるなどして、源泉徴収された税金が納め過ぎている場合、確定申告で還付される。

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