菅前首相が“あの男”を異例の批判…「菅さんの不満と焦り」があらわれた提言が「感動モノのブーメラン」なワケ

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菅義偉前首相が月刊誌『文藝春秋』(2023年2月号)のインタビューで岸田首相批判をしているのが話題です。
【画像】菅前首相が異例の批判をした「あの男」『菅“決起”』(夕刊フジ)、『岸田降ろし』(日刊ゲンダイ)、『ポスト岸田 菅氏動く?』(毎日新聞)など紙面に踊る。マスコミもちょっとザワザワしています。 というわけで、どんな内容なのか実際に『文藝春秋』を読んでみました。菅氏は「目覚めよ!日本 101の提言」という企画のトップバッターとして登場していた。タイトルは「派閥政治と決別せよ」。

菅前首相の提言は「感動モノのブーメラン」だった文藝春秋 これが冒頭の言葉から感動モノなので紹介したい。《皆さんの中には、国民の声が政治に届きにくいと感じている方も多いと思います。》(by菅義偉) 素晴らしい! その通り! 首相当時あれだけ説明不足と言われた人が1年ちょっとでこんなことを言うのだから感動です。菅氏と言えば「19年9月に就任した菅義偉前首相は、新型コロナウイルス対応や東京五輪開催を巡る説明軽視の姿勢に批判が集まり、1年で退陣に追い込まれた」(東京新聞2022年12月26日)という“実績”がある。それだけではない。日本学術会議の任命拒否6名の理由についても未だ説明していない。「お答えを差し控える」という言葉が大好きだった菅さん。そんな方が岸田首相の説明不足を指摘するなんてやっぱり感動です。 菅氏は国民の声が政治に届きにくい理由の1つの要因に派閥の存在があると指摘している。岸田首相は派閥とうまく付き合いながら人事を決めていたりしているが、そういう姿勢が「国民にどう見えるかを意識する必要があります」と。まったく同感だ。 ただ、「派閥問題」でいうと昨年気になった案件があった。旧統一教会と関係が濃いのは何派? 旧統一教会問題で教団と関係の濃い議員が注目されたが、その名前をみるとある特徴にも気づくのだ。岸信介以来、教団と濃い関係があるという安倍派の議員が多いのはわかるが、実は「菅氏の子分や近い人たち」も教団との関係が目立つのである。教団の取材をずっと続けてきた鈴木エイト氏の著作『自民党の統一教会汚染』では実質「菅グループ」の国会議員は50人を超えると紹介し、菅原一秀、河井克行、山本ともひろのように菅氏と近くて統一教会と関係の深い議員にも注目している。 つまり「無派閥」を名乗る菅氏だが、自分が目をかける人間には派閥の長そのままに票につながりそうなものを差配する「派閥活動」の様子も見えてくるのだ。それが旧統一教会問題ではあぶり出された。これこそ菅氏の言う「派閥」の弊害ではないか?「昭和の怨念政治」を思い出した 菅氏の派閥批判は正論のようで自分へのツッコミにも見えてしまう。ベテラン記者に今回のインタビューの感想を聞いたら「菅さんの不満と焦りがあらわれた内容と感じた」という。さらに「前の首相が今の首相を批判するなんて異例すぎる」とも。「三木降ろし」とか「40日抗争」とか昭和の怨念政治を思い出したという。なんのことはない、派閥政治を批判している菅氏自身が昭和の派閥政治みたいなことを今の時代にやったということか。菅さん、今は昭和ではなく令和ですよ。ご自分で発表したじゃないですか。 そもそもそんなに岸田氏が嫌いならあの総裁選のときにちゃんと岸田氏と戦えばよかった。なのに戦う前にギブアップしてしまった。しかし菅氏は今回のインタビューで次のように言っている。《私は追い込まれたというより、コロナ対策に全力で取り組む中で、現職の総理として総裁選には出るべきではないと自分で判断しました。》 ではあの当時の記事をおさらいしよう。『「菅離れ」一気、方策行き詰まる…解散・人事など延命策が裏目に』(読売新聞オンライン2021年9月4日)《菅首相が3日、自民党総裁選への不出馬を表明したのは、党役員人事や衆院解散、総裁選先送りなど、自らの方策がことごとく行き詰まったためだ。》 策士、策に溺れたようにしか見えない。それなのに今はシレっとコロナ対策のために総裁選出馬をやめたと言っている。1人で歴史を改ざんしてる。間が悪すぎるベトナム訪問 そんな今回のインタビューの味わいどころは最後の3行にある。菅氏は「外交、安全保障、日本の将来のために、改革を進めていきたいと考えています」と言っているのだ。外交、安全保障ってまるで首相気分。まさに政局宣言ではないか。しかし菅さんはまだ“持っていない”と思えることがあった。先日のベトナム訪問である。『ベトナム訪問中の菅前首相、国家主席・首相らと会談…関係強化進める意向伝える』(読売新聞オンライン1月9日) このときベトナムでも菅氏は記者団の質問に答えて岸田批判をおこなった。『文藝春秋』発売に合わせたかのようなタイミングであり、外交の舞台で今も健在というアピールもできて一石二鳥のように見えた。 しかし! このあとすぐに菅氏が会談したベトナムの国家主席が辞任してしまうのである。『ベトナム国家主席が辞任 政府幹部の汚職で引責か』(テレビ朝日1月17日) えーーー。《今月9日にはベトナムを訪問した菅前総理大臣と会談したばかりでした。》 なんという間の悪さ。ここから見えるのは菅氏の焦りだ。存在をアピールしたいばかりに冷静な政治勘がはたらいていなかったのか? それとも今の菅氏には大事な情報が集まってこないのか。 菅さん、仕掛けるのはまだ早かったのでは? 共感を集めたいなら、まずご自分の首相時代の説明不足を振り返ったらいかがでしょうか。(プチ鹿島)
『菅“決起”』(夕刊フジ)、『岸田降ろし』(日刊ゲンダイ)、『ポスト岸田 菅氏動く?』(毎日新聞)など紙面に踊る。マスコミもちょっとザワザワしています。
というわけで、どんな内容なのか実際に『文藝春秋』を読んでみました。菅氏は「目覚めよ!日本 101の提言」という企画のトップバッターとして登場していた。タイトルは「派閥政治と決別せよ」。
文藝春秋
これが冒頭の言葉から感動モノなので紹介したい。
《皆さんの中には、国民の声が政治に届きにくいと感じている方も多いと思います。》(by菅義偉)
素晴らしい! その通り! 首相当時あれだけ説明不足と言われた人が1年ちょっとでこんなことを言うのだから感動です。菅氏と言えば「19年9月に就任した菅義偉前首相は、新型コロナウイルス対応や東京五輪開催を巡る説明軽視の姿勢に批判が集まり、1年で退陣に追い込まれた」(東京新聞2022年12月26日)という“実績”がある。それだけではない。日本学術会議の任命拒否6名の理由についても未だ説明していない。「お答えを差し控える」という言葉が大好きだった菅さん。そんな方が岸田首相の説明不足を指摘するなんてやっぱり感動です。
菅氏は国民の声が政治に届きにくい理由の1つの要因に派閥の存在があると指摘している。岸田首相は派閥とうまく付き合いながら人事を決めていたりしているが、そういう姿勢が「国民にどう見えるかを意識する必要があります」と。まったく同感だ。
ただ、「派閥問題」でいうと昨年気になった案件があった。
旧統一教会問題で教団と関係の濃い議員が注目されたが、その名前をみるとある特徴にも気づくのだ。岸信介以来、教団と濃い関係があるという安倍派の議員が多いのはわかるが、実は「菅氏の子分や近い人たち」も教団との関係が目立つのである。教団の取材をずっと続けてきた鈴木エイト氏の著作『自民党の統一教会汚染』では実質「菅グループ」の国会議員は50人を超えると紹介し、菅原一秀、河井克行、山本ともひろのように菅氏と近くて統一教会と関係の深い議員にも注目している。
つまり「無派閥」を名乗る菅氏だが、自分が目をかける人間には派閥の長そのままに票につながりそうなものを差配する「派閥活動」の様子も見えてくるのだ。それが旧統一教会問題ではあぶり出された。これこそ菅氏の言う「派閥」の弊害ではないか?
菅氏の派閥批判は正論のようで自分へのツッコミにも見えてしまう。ベテラン記者に今回のインタビューの感想を聞いたら「菅さんの不満と焦りがあらわれた内容と感じた」という。さらに「前の首相が今の首相を批判するなんて異例すぎる」とも。「三木降ろし」とか「40日抗争」とか昭和の怨念政治を思い出したという。なんのことはない、派閥政治を批判している菅氏自身が昭和の派閥政治みたいなことを今の時代にやったということか。菅さん、今は昭和ではなく令和ですよ。ご自分で発表したじゃないですか。 そもそもそんなに岸田氏が嫌いならあの総裁選のときにちゃんと岸田氏と戦えばよかった。なのに戦う前にギブアップしてしまった。しかし菅氏は今回のインタビューで次のように言っている。《私は追い込まれたというより、コロナ対策に全力で取り組む中で、現職の総理として総裁選には出るべきではないと自分で判断しました。》 ではあの当時の記事をおさらいしよう。『「菅離れ」一気、方策行き詰まる…解散・人事など延命策が裏目に』(読売新聞オンライン2021年9月4日)《菅首相が3日、自民党総裁選への不出馬を表明したのは、党役員人事や衆院解散、総裁選先送りなど、自らの方策がことごとく行き詰まったためだ。》 策士、策に溺れたようにしか見えない。それなのに今はシレっとコロナ対策のために総裁選出馬をやめたと言っている。1人で歴史を改ざんしてる。間が悪すぎるベトナム訪問 そんな今回のインタビューの味わいどころは最後の3行にある。菅氏は「外交、安全保障、日本の将来のために、改革を進めていきたいと考えています」と言っているのだ。外交、安全保障ってまるで首相気分。まさに政局宣言ではないか。しかし菅さんはまだ“持っていない”と思えることがあった。先日のベトナム訪問である。『ベトナム訪問中の菅前首相、国家主席・首相らと会談…関係強化進める意向伝える』(読売新聞オンライン1月9日) このときベトナムでも菅氏は記者団の質問に答えて岸田批判をおこなった。『文藝春秋』発売に合わせたかのようなタイミングであり、外交の舞台で今も健在というアピールもできて一石二鳥のように見えた。 しかし! このあとすぐに菅氏が会談したベトナムの国家主席が辞任してしまうのである。『ベトナム国家主席が辞任 政府幹部の汚職で引責か』(テレビ朝日1月17日) えーーー。《今月9日にはベトナムを訪問した菅前総理大臣と会談したばかりでした。》 なんという間の悪さ。ここから見えるのは菅氏の焦りだ。存在をアピールしたいばかりに冷静な政治勘がはたらいていなかったのか? それとも今の菅氏には大事な情報が集まってこないのか。 菅さん、仕掛けるのはまだ早かったのでは? 共感を集めたいなら、まずご自分の首相時代の説明不足を振り返ったらいかがでしょうか。(プチ鹿島)
菅氏の派閥批判は正論のようで自分へのツッコミにも見えてしまう。ベテラン記者に今回のインタビューの感想を聞いたら「菅さんの不満と焦りがあらわれた内容と感じた」という。さらに「前の首相が今の首相を批判するなんて異例すぎる」とも。「三木降ろし」とか「40日抗争」とか昭和の怨念政治を思い出したという。なんのことはない、派閥政治を批判している菅氏自身が昭和の派閥政治みたいなことを今の時代にやったということか。菅さん、今は昭和ではなく令和ですよ。ご自分で発表したじゃないですか。
そもそもそんなに岸田氏が嫌いならあの総裁選のときにちゃんと岸田氏と戦えばよかった。なのに戦う前にギブアップしてしまった。しかし菅氏は今回のインタビューで次のように言っている。
《私は追い込まれたというより、コロナ対策に全力で取り組む中で、現職の総理として総裁選には出るべきではないと自分で判断しました。》
ではあの当時の記事をおさらいしよう。
『「菅離れ」一気、方策行き詰まる…解散・人事など延命策が裏目に』(読売新聞オンライン2021年9月4日)
《菅首相が3日、自民党総裁選への不出馬を表明したのは、党役員人事や衆院解散、総裁選先送りなど、自らの方策がことごとく行き詰まったためだ。》
策士、策に溺れたようにしか見えない。それなのに今はシレっとコロナ対策のために総裁選出馬をやめたと言っている。1人で歴史を改ざんしてる。
そんな今回のインタビューの味わいどころは最後の3行にある。菅氏は「外交、安全保障、日本の将来のために、改革を進めていきたいと考えています」と言っているのだ。外交、安全保障ってまるで首相気分。まさに政局宣言ではないか。しかし菅さんはまだ“持っていない”と思えることがあった。先日のベトナム訪問である。
『ベトナム訪問中の菅前首相、国家主席・首相らと会談…関係強化進める意向伝える』(読売新聞オンライン1月9日)
このときベトナムでも菅氏は記者団の質問に答えて岸田批判をおこなった。『文藝春秋』発売に合わせたかのようなタイミングであり、外交の舞台で今も健在というアピールもできて一石二鳥のように見えた。
しかし!
このあとすぐに菅氏が会談したベトナムの国家主席が辞任してしまうのである。
『ベトナム国家主席が辞任 政府幹部の汚職で引責か』(テレビ朝日1月17日)
えーーー。
《今月9日にはベトナムを訪問した菅前総理大臣と会談したばかりでした。》
なんという間の悪さ。ここから見えるのは菅氏の焦りだ。存在をアピールしたいばかりに冷静な政治勘がはたらいていなかったのか? それとも今の菅氏には大事な情報が集まってこないのか。
菅さん、仕掛けるのはまだ早かったのでは? 共感を集めたいなら、まずご自分の首相時代の説明不足を振り返ったらいかがでしょうか。
(プチ鹿島)

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