在宅時ねらう「関東連続強盗」家庭での最強対策

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住人が在宅しているにもかかわらず侵入する「押し入り強盗」が多発しています(写真:Graphs/PIXTA)
昨年末から東京や千葉、埼玉など、都内と近郊5県で連続している強盗・窃盗事件。店舗のみならず、住宅も狙われており、1月19日に東京都狛江市の住宅で5人家族の90歳の女性が一人でいるところを押し入られ、殺害される事件も発生している。
空き巣ではなく、わざわざ人がいるところを狙う異様な手口。これは、手っ取り早く住人から現金や貴金属の在り処を聞き出し、確実に金品を奪うことが目的とされ、一般家庭でも防犯の対策が必要だ。具体的にどのような対策が有効かをお伝えする前に、一連の事件を振り返ってみたい。
狛江市の事件は、別の事件の犯人も関与していたと見られている。昨年12月5日に東京都中野区の住宅が狙われた強盗致傷事件の犯人である石川県の男、そして今年1月12日に千葉県大網白里市のリサイクル店で起きた強盗致傷事件の犯人とされる元自衛官の男、両名のスマートフォンに襲撃を示唆する内容が残されていた。
つまり、これらの事件の犯人も捕まらなければ狛江市の一件にも参加する予定で、一連の事件はつながっていたということだ。
中野区の事件の犯人のスマホには、他に足立区の住所も残されており、警視庁は該当住宅の住民を避難させて周囲を警戒。安全を確保し、事件を未然に防ぐことができた。
また、昨年12月16日の未明に起きた、東京都渋谷区の貴金属店での窃盗事件。1月17日~18日に19歳の男が3人逮捕されたが、千葉県市川市、栃木県足利市、さいたま市西区、茨城県龍ケ崎市、茨城県つくば市の事件(いずれも1月9日~14日に発生)にも関与したとされる。
一連の事件には関連があり、大きく「狛江組」と「渋谷組」に分かれていたと考えられる。指示役がそれぞれSNSなどの交流サイトで実行犯を募り、メンバーを入れ替えながら犯行を重ねていたようだ。
これは、2000年代から多発していた「オレオレ詐欺」と同様の構図で、「闇サイト」の募集で集まってきた連中が犯行を重ねているケースだ。闇サイト自体も当時から存在し、2007年に愛知県名古屋市で起きた女性会社員強盗殺人事件(通称「闇サイト殺人事件」)でも使用され、その存在が大きく知られるようになった。
闇サイトは、当時は通常のブラウザではアクセスできない「ダークウェブ」が主流だったが、今は一般にもアクセスしやすいインスタグラムなどのSNSにその場所を移し、より犯罪者の層を広げている。渋谷区の事件の犯人も「インスタで闇サイトに応募した」という供述をしていた。
SNSなどで応募してきた実行犯たちは、「テレグラム」というメッセージアプリに誘導され、それを使って指示役から犯行指示を受けていたようだ。
テレグラムは、一般に使用されるLINEなどよりも秘匿性に優れ、高度な暗号化機能でメッセージの内容を見られないようにすることができる。また、一定の時間が経過すると自動で履歴が削除されたり、自分が送信したメッセージを相手の端末から削除したりすることができるツールだ。
数年前から特殊詐欺や強盗などの犯罪グループが悪用しているケースが見られ、全国の警察でも警戒していた。しかし、法規制などは難しく、犯罪の温床となっているのが現状だ。
元々テレグラムを利用してオレオレ詐欺などを働いていた人間が、全国の詐欺撲滅の啓蒙活動によってこうした詐欺では稼げなくなり、今回のような荒っぽい犯罪にまで手を伸ばしてきたといえるだろう。
さらに今回の事件で悪用されたツールとして、資産家や単身高齢者などが列挙された「闇リスト」が挙げられる。狛江市の事件でも、5人家族という、家族の在宅・帰宅の可能性がきわめて高い家庭が狙われており、家族構成などの個人情報が漏れていた。この情報をもとに念入りに下見をしていたはずだ。
このことからも、各地の資産家を特定した名簿「闇リスト」が出回っており、犯行に用いられていることがわかる。
昨年11月、東京都の野方消防署に所属する消防士が、同署に保管されている単身世帯の高齢者の名簿を持ち出し、特殊詐欺に利用していたことが判明している。今回も、警察では闇リストの入手経緯や作成された経緯を調べるとともに、そのリストに掲載されている人が判明した場合には注意喚起をしていくことになる。
また強盗や窃盗だけでなく、昨年12月25日に埼玉県飯能市の住宅で起きた男女3人殺害事件のように、怨恨や性犯罪目的などによって突如、命の危険にさらされることもある。侵入者から身を守るためには、実際にどのような対策が有効なのか。
まず最初に、防犯カメラの設置、窓ガラスの強化対策は有効な手段だ。防犯カメラは犯罪者の特定だけでなく抑止力にもなる。窓ガラスを針金入りの強化ガラスにしたり、強化フィルムを貼ったりして割れにくくすることで、侵入者の行く手を阻むことになる。
たとえガラスが最終的に割られてしまったとしても、時間を稼ぐことができるし、ガラスを割る音が長時間することで近隣住民が気づいてくれる可能性も高くなる。
それでも侵入されてしまった場合はどうするか。宅配業者を装ってくることもあるだろうし、帰宅時に押し入られることもあるかもしれない。
その場合に有効なのが、「パニックルーム」の設置だ。2002年に同名のアメリカ映画が公開されたことから耳にしたことがある人も多いだろう。「セーフティルーム」とも呼ばれるが、犯罪の多い海外では一般家庭でも多く見られる。ベッドルームなど鍵付きの扉がある部屋を「逃げ込み、立てこもる用の部屋」として、設備を強化しておくのだ。
私は警視庁勤務時代に、在南アフリカ日本大使館に領事として3年間赴任したことがある。その際、自宅にはパニックルームが設けられていた。現地では銃器による犯罪が多いこともあるが、廊下とつながる扉には鉄格子と二重三重の鍵、外に面する窓には二重の鉄格子を設置していた。
2階建ての家の場合、上にあがる階段に鉄格子を設置し、2階全体をパニックルームにしてしまうこともある。災害時のシェルターとしての役割も果たすため、防弾、防火設備はもちろんのこと、内部にトイレや水道、食料庫などを設置する富裕層もいる。
日本でそこまでの対策は難しいかもしれないが、ベッドルームなど扉がしっかりとした部屋をパニックルームに指定し、鍵を二重三重に設置しておくのでも十分に意味がある。余裕があれば、外部からのこじ開けや破壊に耐えうる強化扉に変えてしまうのも手だ。
窓には先述した強化ガラスなどの対策をし、部屋の中には助けを呼ぶための外部との通信手段を用意する。立てこもったときのために水などの飲み物も置いておくのもいいだろう。
犯人と同じ家の中に立てこもるのは恐ろしいかもしれないが、玄関から逃げようとしても、見張り役の人間が待ち構えているケースもある。頑丈な部屋を用意しておき、まずはそこに逃げ込んでから外部に助けの連絡を取るのが安全だ。
ただし、犯人の侵入経路によっては、該当の部屋に逃げ込むのが難しい場合もあるだろう。また、部屋数が少ない家庭では、そういった部屋を設けること自体が難しいかもしれない。その場合は、トイレなど鍵をかけることができて、ある程度頑丈な部屋に逃げ込むことも有効だ。ドアを壊そうとするにも時間がかかるし、壊す際には大きな音も出る。
パニックルームに外部との通信手段があったとしても、状況によっては別の部屋に逃げ込む可能性も見込んで、スマホなどの通信機は家の中でも携帯しておくのがいいだろう。これは、侵入者対策だけでなく、高齢者が倒れた際にも有効なので、まずできることとして実行していただきたい。
何より大事なのは、「この部屋をパニックルームとし、何かあった際には逃げ込むように」「パニックルームが難しい場合は、トイレに逃げ込もう」などと家族間で共有しておくことだ。
家族間で当日の訪問者の共有をしておくことも大切だろう。特に高齢者や子どもがいる家庭では、「宅配便が何時頃に来るけど、それ以外は予定にない」などと伝えておき、むやみに訪問者を受け入れないこと。今はコロナ禍で宅配便の「置き配」が可能なこともあり、戸建てでも宅配ボックスを設置して、対面で受け取らないようにすることでも防げるだろう。
そしていちばんお伝えしたいのは、不審な人物、車両などを発見したら、「110」番や所定の警察署への連絡をためらわないでほしいということ。その通報によって、事件を未然に防ぐことができるかもしれない。
緊急時の「110」番にためらいがあるということであれば、警察相談専用電話「#9110」番を利用していただきたい。ここにかければ、地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながる。
資産を守ることも大切だが、何より自分と家族の命を守るため、各家庭での対策を強化していただくことをおすすめしたい。
(松丸 俊彦 : セキュリティコンサルタント)

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