「助けられたかも…」事件直後に通り過ぎた目撃者の後悔 京都精華大生刺殺16年

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平成19年に京都市左京区の路上で、京都精華大マンガ学部1年の千葉大作さん=当時(20)=が刺殺された事件は15日、発生から16年を迎える。
いまだ解決を見ていない事件の数少ない目撃者の一人として、長年後悔にさいなまれてきた男性がいる。「人の役に立ちたい」。事件後、苦い記憶を糧に、大規模災害時などに招集される予備自衛官となり、来月には出動機会が増す即応予備自衛官に採用されることが決まった。決意を新たにするとともに事件解決を願っている。
「ずっと後悔している。助けることができたかもしれないのに」。万葉集関連の著作などがある京都市の作家、佐々木良さん(38)は自責の念を口にする。佐々木さんは当時、千葉さんと同じ京都精華大の芸術学部3年。事件発生直後の午後7時50分ごろ、夜食を買おうと大学からスーパーへ自転車で向かう途中、左側の畑から歩道へはい上がる人影を見かけた。
周囲は街灯もなく、様子ははっきりとは分からなかった。「新年会の時期だし酔っ払いかな」。深く考えずに自転車で真横を通り過ぎた。スーパーから大学への帰り、人影を見た周辺の様子は一変。ものものしい警察の規制線が張られていた。
それでも、あの人影が事件に関係しているとは思ってもみなかった。その日夜遅くに帰宅しニュースを見てすぐに警察に連絡した。佐々木さんが目撃した人影は犯人に襲われた直後の千葉さんだったとみられる。
「思い出すことはないか」「怪しい人物はいなかったか」。警察には約1カ月にわたり何度も当時の状況を尋ねられた。学内では佐々木さんの噂が広まり、「お前が犯人だろ」と周囲から冗談交じりにかけられた言葉に心を痛め、精神がすり減る思いだった。
それでも「犯人逮捕に時間はかからないだろう」と当初はどこか楽観的な気持ちもあったが、事件は未解決のまま。千葉さんと面識はなかったが、自分があの時立ち止まって救助を要請していたら-。時間がたつにつれ、「助けることができなかった自分のせいのような感覚が増していった」と明かす。
「誰かの役に立つ」 即応予備自衛官の道へ
今でも当時を思い出し、眠れない日もある。何もできなかった自分に悔しさが募る一方で、「誰かの役に立ちたい」との気持ちが大きくなっていった。
そこで人命救助に携わるため、予備自衛官に応募し31年2月に任用された。佐々木さんはさらに訓練を重ね、今年2月からは大規模災害時などに常備自衛官と同様の任務に就き、即戦力としての働きが期待される即応予備自衛官への任用も決まっている。
「自分の自衛官としての活動で事件が解決するわけではないが、あの時できなかった一歩を踏み出せる人間になりたい」。今月、現場を訪れて手を合わせた佐々木さんはこう語り、千葉さんへの思いをかみしめた。(鈴木文也)
京都精華大生刺殺事件 平成19年1月15日午後7時45分ごろ京都市左京区の路上で、京都精華大マンガ学部1年の千葉大作さんが男に胸や腹など十数カ所を刺され、死亡した。男が「ママチャリ」型の自転車に乗っていたことから、京都府警は現場付近に生活圏があるとみて捜査を進めてきたが、有力な手掛かりは得られていない。男は当時20代で身長175センチ程度、28~29センチの靴を履いていたとみられる。

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