サービス停止「ねこホーダイ」が見落とした大問題

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SNSを中心に愛猫家から批判の声が上がった「ねこホーダイ」。何が問題か検証しました(写真:YOSHI/PIXTA)
野良猫に関する事業を行う、のら猫バンク(東京都千代田区)の会員制サービス「ねこホーダイ」に対して、SNSを中心に愛猫家から批判の声が上がりました。このサービスは月額380円の会員制サービスで、会員になると提携シェルターの猫を「面倒な審査やトライアルなし」「不妊手術の費用負担なし」など無料で譲り受けることができ、もし飼えなくなった場合には提携シェルターが無料で引き取ってくれるというもの。
このサービスの公式Webサイトには、「『猫を飼うなら一生責任を持って面倒を見る』これは当たり前のことですが、それだと高齢者や単身者は中々飼うことができません。それならその『責任』を誰かが代わりに負えばいいのではないか、そんな思いで作られた『人と猫をつなぐプラットフォーム』それが会員制サービス『ねこホーダイ』です」と、サービスの概要について記載されています。
しかし、サービス開始後に「猫をモノとして見ている」「命を軽視しすぎだ」などの批判とともに、著名人や政治家からも疑問の声が上がりました。その結果、開始からわずか2週間で停止に追い込まれました。現在(1月10日)はホームページこそあるものの、「現在サービスを停止しています」と掲示されています。
多くの動物愛護団体では、保護猫や保護犬の譲渡にあたって終生飼養の条件付加はもちろんのこと、保護主の審査があります。高齢者や単身者は終生飼養が難しいと、譲渡対象外としている団体も多く見かけます。
それらをすべて度外視した「ねこホーダイ」には多くの批判の声が上がりましたが、その一方で「苦肉の策」など擁護する声もありました。その理由には、困窮する保護活動の現実があります。問題解決には感情論だけでなく、現在の状況を正しく知り、どうすればよいのか考え、議論していくことが大切です。
環境省は令和2年度(令和2年4月1日~令和3年3月31日)に全国の保健所などで殺処分された猫や犬は、昭和49年以降で最小である2万3764匹(猫が1万9705匹、犬が4059匹)と公表しています。2019年の改正動物愛護法により、飼い主や動物取扱業者にも終生飼養の義務を課し、正当な理由がない猫や犬の引き取りを拒否できる措置を設けたため、殺処分は年々減少傾向にありますが、猫は犬と比べて5倍とまだまだ多い状態です。
全国の犬・猫の引取り数の推移環境省:統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」より
その理由は引き取られる猫の個体数が多いことです。そのなかでも幼齢の子猫の殺処分率が全体の66%と高く、離乳前の子猫の譲渡の難しさが関連しています。
無責任な餌やりにより栄養状態の良い野良猫が頻繁に繁殖する、また飼い主が不妊手術を怠り繁殖するなどで、それらの子猫が持ち込まれることが主な要因です。
また近年は、「世話ができなくなった」という高齢者による持ち込みも増えています。多頭飼育崩壊になるケースが目立ち、この場合は一度に多くの猫を保護する必要があるため、収容スペース不足が要因で殺処分になることも増えています。それ以外にも、飼い主が亡くなり、その家族が「飼い続けるのは難しい」と持ち込むケースもあります。
保護された猫や犬を殺処分から救うために、動物愛護団体や個人のボランティアが必死に自治体の保護施設から引き取っています。「殺処分ゼロ」達成のために、提携する動物愛護団体にすべて引き渡している自治体もあるようです。引き取ってもまた収容される。まさに「いたちごっこ」の状態なのです。
多頭飼育崩壊や虐待による保護、自治体からの引き取り、野良猫や野犬の保護などで、すでに多くの動物愛護団体がキャパシティを超えた状態にあります。しかも、ここ数年は法改正に伴う基準省令による数値規制が影響し、繁殖を引退した猫や犬が動物愛護団体などに保護されることも多く、さらに逼迫した状況になっているのです。
本来なら、業者(第一種動物取扱業者)自身が責任を持って猫や犬の譲渡先を探すのが筋です。まれに業者の関係者が動物愛護団体を設立して譲渡しているケースもありますが、動物愛護団体に責任を負わすのは本末転倒な行為だと考えます。
今年6月からは動物愛護団体などが届け出する第二種動物取扱業者(非営利)の数値規制が段階的に始まります。2025年6月に完全施行となり、状況によっては、保護施設の改装やスタッフの増員が必要になります。それができない場合には収容数を減らさざるをえず、新しい飼い主を早急に探さなければなりません。
筆者は、保護ハウス「さかがみ家」を立ち上げた俳優の坂上忍さんを取材した際に、「寄付を募れば多少のお金は集まるが、それには波がある。自立運営という発想を持って行動していかなければ保護施設の継続は難しい」という話を聞きました。
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多くの保護施設は「寄付」「クラウドファンディング」「ボランティア」で運営され、寄付では資金が足りず、個人の貯金を切り崩したり、アルバイトをして得たお金を投入していたりということも耳にします。ボランティア頼りのため、慢性的な人手不足にもなっています。
その状態が長く続けば飼育環境が悪化するだけでなく、保護した猫や犬の健康も害することになります。世話をする人が疲弊し、保護施設自体が多頭飼育崩壊するケースも出てきています。猫や犬の命をつなぐためには、安定した保護施設の継続が必須です。そのためには波のある寄付に頼るのではなく、自立運営を模索し行動する必要があるのです。
今回の「ねこホーダイ」が前述した保護猫活動の困窮に対する苦肉の策だとしても、決して見落としてはならないことがあります。それは「保護猫は命ある生き物」であるということ。また、その扱いには「十分な配慮が必要」であるということ。サービスの名称からも、内容からもその部分を感じることはできませんでした。人間の有益だけが強調されていたと思います。
筆者は「ねこホーダイ」のサービス内容を目にしたとき、健全なブリーダーが20年以上前から愛情を持って行っていることが頭に浮かびました。彼らは猫や犬を譲渡する際は飼い主を厳選し、終生飼養を必須条件にしています。しかしそうはいっても、さまざまな事情で飼えなくなったり、飼い主自身にも万が一は起こります。その場合には、一緒に新しい飼い主を探す、あるいは自らが引き取って終生飼養しています。
猫のブリーダーのAさんは「譲渡した猫がつらい目に遭わないように、飼い主さんの選択はやはり必要だと思います。また、譲渡後は飼い主さんをサポートし、困ったときに力になることも大切です。問題が解決できれば、手放すことなど考えませんから。高齢者や単身者にも譲渡することがありますが、責任を持って万が一のことを考えてくれているので、私が引き取ることは滅多にありません。私は『最後の砦』ですね」と話します。
その関係性が築けるのは、譲渡にハードルを設け、愛情、責任、モラルのある飼い主を選択しているからこそ。そして、譲渡後のブリーダーの手厚いサポートがあるからこそ成り立つものだと考えます。
譲渡する側も譲渡される側も、猫や犬の生涯にわたって愛情と責任を持ち続ける必要があります。「最後の砦」はその先に存在するもので、「ねこホーダイ」がうたい文句にした「その『責任』を誰かが代わりに負えばいい」という無責任さが台頭してはならないのです。
そもそもペットショップの生体販売が批判される理由は、お金を払えば、何の審査もなく誰もが猫や犬を飼うことができる安易さにあります。そのため、実際に飼ってみたら「こんなはずじゃなかった」と手放す人もいます。動物愛護団体であれば、安易に飼えば、安易に手放すことにつながるということは熟知しているはずなのに、なぜ手軽さをアピールする「ねこホーダイ」と提携したのか。その団体の質も問われかねず、本当に残念な顛末だったと思います。
では、保護猫、保護犬問題を解決するには何が必要でしょうか。
まず、現状の保護猫・保護犬の数を減らすこと、そして保護猫・保護犬を出さないこと、です。猫や犬に関わる人がそれぞれの立場でできることを考え、愛情と責任を持ってその2つの行動を並行することが必須だと考えます。飼い主、ブリーダー、ペットショップ、動物愛護団体、自治体などが本気で考え、行動しなければ解決は困難でしょう。
解決の糸口は1つではありません。今回の「ねこホーダイ」に対して、SNSなどでもさまざまな意見が寄せられていました。保護猫・保護犬の問題をどう解決していくか。それぞれの立場ごとに真剣に考え行動する時期がきているのではないでしょうか。
(阪根 美果 : ペットジャーナリスト)

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