YouTube詐欺に引っ掛かった被害者2人の実例 共通点は中国語訛りの日本語を話す怪しげな人物

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最近、「何もしないで月50万円稼げる!」「SNSを見るだけで収入UP!」──といった類のネット広告をよく見かける。中には、世界的に有名な財界人の名前や顔写真を堂々と使って、「私がみんなにコレを本気でおすすめします!」といったコメントまで掲載されているモノもある。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】
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【写真】M資金詐欺の被害に遭っていた“大物俳優” YouTubeやSNSを楽しんでいると、かなりの確率でこの手の勧誘広告に出くわす機会が増えた。

これっていったい何なんだろうか? 本当に何もしないで月50万円も稼げたりするのだろうか? YouTubeは「クリエイター、視聴者、パートナーの皆様の安全を最優先事項」とし、「コミュニティを悪用するスパムや詐欺などの欺瞞行為」や「ユーザーを欺いて別のサイトに移動させることを主な目的とするコンテンツ」を禁止している。YouTube詐欺の実態とは SNSのほうも、「詐欺行為による金銭や個人の金融情報の取得、不正行為への参加を求めるアカウントの作成、メッセージの送信などは禁止」とのポリシーを掲げている。 こういったガイドラインに抵触し──俗に“BANされた”と言う──強制的なアカウント停止やコンテンツ削除などの制裁を受けたユーザーは少なくない。 YouTubeや大手SNSはコンプライアンスが徹底しているというイメージが根付いて久しい。 その結果、サイトへの安心感から「SNSを見るだけで収入がUPするからやりませんか?」といった勧誘広告を見ても、つい信じてしまう人が多いのだ。担当者は「ハシモト」 この手の勧誘広告に導かれるがままクリックしていくと、登録と称して、氏名、住所、携帯電話番号、メールアドレス、生年月日、クレジットカードの番号、銀行口座……といった個人情報を入力させられる。 ページのデザインや多言語対応の選択メニューを見ると、こうしたサイトが日本製ではないことがすぐに分かる。 必須項目への入力と暗証番号による本人確認が済むと、「これであなたも億万長者への扉が開かれました!」的な、夢のような演出が施されたスタートページへと移動。「すぐに担当者から連絡が来ます!」といったメッセージが表示されるのである。 実際、瞬く間に非通知で、「担当者」を名乗る人物からスマホに電話がかかってくる。 多くの場合、彼らは中国語訛りの日本語を話し、性別に男女の偏りはない。「ハシモト」とか「カナイ」といった日本名を名乗り、あくまでも自分は日本人であると主張した上でキャンペーンへの参加を勧めてくる。「どこの国の人なんですか?」「本当に日本人なんですか?」と質問してみたことがある。すると「ハーフです」とか「中国人です」「台湾人です」という答えが返ってくることが多かった。強調する“ポイントサービス”「なぜ日本名を名乗っているのか?」と質問したこともある。「ハーフ」と答えた担当者は「本名です」と説明した。外国籍であることを認めた担当者は「仕事上の名前です。本名は〇×△……です」と答えた。 とにかく、担当者が怪しげな人物であることは明らかだった。そして、彼らが勧めてくるキャンペーンの内容は、投資関係がほとんどだった。こんな具合だ。「今なら500ドルの投資で700ポイントになりますよ。普通はメンバーになっただけだと100ポイントのサービスで、100ドルごとに100ポイント加算されますが、今、500ドルを申し込んだらさらに100ポイント追加されて、合計700ポイントからスタートできますからとてもお得ですよ……」 早口で片言の日本語で説明する。投資対象は何なのか、株式なのか仮想通貨なのか、そんな説明は皆無で、とにかく“ポイントサービス”を強調してくることが特徴だ。 投資金額の単位はアメリカドルで100ドルということが多い。電話によるリモートコントロールを使い、ホームページ上で再度、暗証番号を入力させ、「投資金額入力ページ」にアクセスするよう熱心に誘導してくる。登録者から金をむしり取ろうと必死だ。ドイツからの着信 繰り返すが、彼らは何の商品説明も行わない。ひたすらポイントサービスであることを強調し、ネット上でクレジットカードを使わせようとする──こんなものがまともなセールス行為と言えるはずがない。 たいていの人も、この時点で怪しいと感じる。担当者とのやり取りを打ち切ろうとするのだが、本当の地獄はこれから始まる。担当者との接触を断つのは、決して簡単なことではない。 例えばAさんの場合、「何もしないで月50万円稼げる!」という広告に関心を持ち、ホームページでの登録が完了するまでは期待に胸を膨らませていた。 ところが、その後に連絡してきた担当者の怪しさに嫌気がさし、「もうやりません」と告げた。しかし翌日からは、非通知だけでなく番号を通知した状態でも、Aさんのスマホに電話がひっきりなしにかかってきた。 表示された番号は、ドイツやスペインといった国番号だったという。ただし、スマホの場合、ドイツの国番号である「49」が表示されても、本当にドイツから発信されているとは限らない。 ドイツで登録されたスマホだと、別の国から発信してもドイツの国番号が表示されてしまうのだ。よって、実際にどこから電話をかけているかは不明である。鳴り続ける電話 電話に出ると、同じように片言の日本語で日本名を名乗る人物が、「あなたの担当者になりました」と話し始める。再びポイントサービスを強調した営業トークで投資金額の入力を迫って来るのだった。 Aさんが「やりません。興味もありません」と断ると、担当者は「分かりました」と言ってすぐに電話を終えた。意外とアッサリとしたものだった。 しかし、その数分後には、別の番号で、別の担当者から「私があなたの担当者になりました。よろしくお願います」と再び電話による勧誘を仕掛けてくるのだ。 もう話しても無駄だと悟ったAさんは、電話が鳴っても出なくなった。すると、何度も連続して電話がかかってくる。 1日に20回以上、繰り返しスマホは鳴り続けた。時間帯は主に昼か夕方だった。それが延々と毎日続く。 着信拒否設定を考えたが、自分の番号を相手は把握している。別のスマホから電話をかけてくるのは明らかで、着信拒否にしても意味がない。 Aさんは1日に20回以上鳴るスマホに耐え続けた。3週間も過ぎると、精神的にかなりのダメージを受けてしまった。刑法の観点から考えると、脅迫罪やストーカー規制法などに抵触しても全くおかしくない被害だろう。実態は「恐喝グループ」 Aさんは「確か、『500ドルを申し込んだら、さらに100ポイント追加され、合計700ポイントからスタートできます』と言っていた……。500ドルは、日本円で約6万5000円。それさえ払えば、この電話地獄が終わる……」と考えるようになった。 そしてAさんは「ヨコヤマ」を名乗る担当者の電話に出た。言われるがまま、ネット上で自分のクレジットカードから500ドルを引き落とさせた──。 その後、「キャンペーンが終了しました」という通知が届いた。もちろんAさんが月に50万円を稼げることはなく、500ドルを失って終わった。 オレオレ詐欺にも同じ傾向が認められるのだが、電話を悪用した詐欺の詳細を見ると、詐欺師が言葉巧みに金銭を騙し取ったという被害事例ばかりではない。 毎日続く電話攻撃から逃れるため、その対価として金銭を支払ったという被害者もかなりの数に上るのだ。 ネット上で詐欺を働くような組織は、騙すテクニックばかりではなく、ターゲットに精神的な被害を与えて金を奪い取るテクニックも熟知している。 詐欺師の粘り勝ちと言えるのかもしれないが、明らかに強要や恐喝に該当するのは言うまでもない。 ネットにはびこる怪しい広告の裏には、詐欺組織が潜んでいるというより、「悪質な恐喝グループ」が登場するケースも多いと心得ていたほうがよさそうだ。自称「投資のスペシャリスト」 Bさんも「スマホを見るだけで収入がUPし、億万長者になれる」という広告を信じた一人だ。スマホに電話をかけてきた「イシハラ」という女性に勧められるまま、ポイントを買い漁ってしまった。 イシハラはBさんに「未公開コインに投資してください」と説明した。「未公開コイン」とは新種の仮想通貨のことである。 実はBさん、過去に某仮想通貨が上昇したおかげで、1000万円以上の利益を得た経験があった。2度目のチャンス到来と信じ込み、イシハラの話を疑うことはなかった。 投資を始めて約1カ月で、Bさんはイシハラが勧める未公開コイン銘柄の全てに投資した。その額は約700万円近くに達した。 Bさんはイシハラのことを完全に信じ込んでいた。LINEでも友達登録を行い、ビデオ通話も行った。 イシハラは自分のことを「台湾生まれの投資スペシャリスト」と説明した。未公開コインが専門であり、仮想通貨取引所で登録(上場公開)されると多額の利益が得られる。20代半ばだが、もう10億円以上は稼いだ──こんなことを豪語した。 時々、イシハラは「資産を日本に持ち込みたいが、どうすればいいか?」とBさんに相談した。毎日6万円の送金 Bさんは「日本で不動産を購入すればいい」と提案。いくつもの物件をLINEのビデオ動画で紹介した。 Bさんが登録したサイト上では、初期投資した約700万円が約2億円以上に膨らんでいた。あとは引き出し可能となる利益分配日さえ待てば、この利益分を引き出せるという仕組みだった。700万円が2億円になるのだから、とんでもない利益率だ。まさに億万長者の気分をBさんは味わっていた。 投資を開始してから約6ヵ月が過ぎた頃、Bさんに最初の利益分配日が訪れた。イシハラに確認すると、彼女は「あなたの銀行口座にカネを入れるけど、毎日6万円だけ入れます」と言った。「確かに利益分配日は到来したが、現在、上場が遅れており、投資した未公開コイン銘柄は未公開のままなので、未公開中にカネを引き出してしまうとコインの価値が下がってしまい、公開時の儲けが減ってしまいます。利益の全額を引き出すのは待って、毎日6万円だけにしてほしい」 Bさんが自分の銀行口座を確認すると、確かに6万円が振り込まれていた。Bさんはイシハラの話を信じた。 Bさんは、毎日送金されてくる6万円を毎日引き出した。他に投資していた未公開コインの利益分配日が訪れると、イシハラは再び「公開するまで待ってほしい」と言い、やはり6万円を口座に送金してきた。300万円の被害 Bさんの口座には毎日6万円から12万円、18万円と振り込まれた。小額ではあるが確かに現金が払われている。Bさんは「待ってさえいれば、そのうちに2億円以上の利益を手に入れられる」と笑っていた。 だが、1週間も経たないうちにイシハラは音信不通になった。口座への送金もストップ。Bさんは700万円を“投資”し、返ってきたのは約400万円。差し引き300万円を騙し取られたことになる。 詐欺組織からすれば、Bさん1人から約300万円の収益を上げたわけだ。ターゲットが10人いたとすれば、組織は7000万円を手に入れたにもかかわらず、4000万円を返金。最終的には3000万円しか騙し取れなかったことになる。 この“利益率”をどう思うかは人それぞれだろう。だが、ここで重要な点がある。イシハラが送金してくれている間、有頂天になったBさんは周りの知人に投資話を積極的に勧めていたのだ。 詐欺組織はBさんが“投資”した700万円の全額を騙し取ることもできた。だが、そうはしなかった。 これはBさんが投資話を周囲に勧めてくれるのなら、Bさんに戻した400万円は“宣伝費”と見なすことができるからだろう。詐欺組織からすればお安いものである。犯罪人引き渡し条約 実際、Bさんの誘いに乗ってCさんも投資してしまった。同じように担当者は音信不通になり、数百万円の損害を受けた。 やはりCさんも担当者から送金されている間、有頂天になって多くの人々に投資話を勧めていた。 こうした詐欺組織は海外に拠点を置いている。そのため、日本の司法組織が摘発することはとても難しい。 そもそも組織が拠点にしている国が、日本とは「犯罪人引渡し条約」を結んでいないケースが大半だ。 2020年の段階で日本と条約を結んだ国は、アメリカと韓国の2カ国しかない。ちなみにイギリスは115カ国、フランスは96カ国、韓国は25カ国と条約を締結している。 日本との条約締結国が少ないのは、日本が死刑存置国だからという説も根強い。いずれにしてもそんな背景から、海外の犯罪組織にとって日本は「稼ぎやすい国」だろう。 日本人にとっても「海外組織による犯罪被害は泣き寝入りせざるを得ない」という状況になっている。司法による摘発は期待できないのだから、被害に遭わないよう心がけるしかないのだ。藤原良(ふじわら・りょう)作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。2020年に『山口組対山口組』(太田出版)を、22年に『M資金 欲望の地下資産』(同)を上梓。デイリー新潮編集部
YouTubeやSNSを楽しんでいると、かなりの確率でこの手の勧誘広告に出くわす機会が増えた。
これっていったい何なんだろうか? 本当に何もしないで月50万円も稼げたりするのだろうか?
YouTubeは「クリエイター、視聴者、パートナーの皆様の安全を最優先事項」とし、「コミュニティを悪用するスパムや詐欺などの欺瞞行為」や「ユーザーを欺いて別のサイトに移動させることを主な目的とするコンテンツ」を禁止している。
SNSのほうも、「詐欺行為による金銭や個人の金融情報の取得、不正行為への参加を求めるアカウントの作成、メッセージの送信などは禁止」とのポリシーを掲げている。
こういったガイドラインに抵触し──俗に“BANされた”と言う──強制的なアカウント停止やコンテンツ削除などの制裁を受けたユーザーは少なくない。
YouTubeや大手SNSはコンプライアンスが徹底しているというイメージが根付いて久しい。
その結果、サイトへの安心感から「SNSを見るだけで収入がUPするからやりませんか?」といった勧誘広告を見ても、つい信じてしまう人が多いのだ。
この手の勧誘広告に導かれるがままクリックしていくと、登録と称して、氏名、住所、携帯電話番号、メールアドレス、生年月日、クレジットカードの番号、銀行口座……といった個人情報を入力させられる。
ページのデザインや多言語対応の選択メニューを見ると、こうしたサイトが日本製ではないことがすぐに分かる。
必須項目への入力と暗証番号による本人確認が済むと、「これであなたも億万長者への扉が開かれました!」的な、夢のような演出が施されたスタートページへと移動。「すぐに担当者から連絡が来ます!」といったメッセージが表示されるのである。
実際、瞬く間に非通知で、「担当者」を名乗る人物からスマホに電話がかかってくる。
多くの場合、彼らは中国語訛りの日本語を話し、性別に男女の偏りはない。「ハシモト」とか「カナイ」といった日本名を名乗り、あくまでも自分は日本人であると主張した上でキャンペーンへの参加を勧めてくる。
「どこの国の人なんですか?」「本当に日本人なんですか?」と質問してみたことがある。すると「ハーフです」とか「中国人です」「台湾人です」という答えが返ってくることが多かった。
「なぜ日本名を名乗っているのか?」と質問したこともある。「ハーフ」と答えた担当者は「本名です」と説明した。外国籍であることを認めた担当者は「仕事上の名前です。本名は〇×△……です」と答えた。
とにかく、担当者が怪しげな人物であることは明らかだった。そして、彼らが勧めてくるキャンペーンの内容は、投資関係がほとんどだった。こんな具合だ。
「今なら500ドルの投資で700ポイントになりますよ。普通はメンバーになっただけだと100ポイントのサービスで、100ドルごとに100ポイント加算されますが、今、500ドルを申し込んだらさらに100ポイント追加されて、合計700ポイントからスタートできますからとてもお得ですよ……」
早口で片言の日本語で説明する。投資対象は何なのか、株式なのか仮想通貨なのか、そんな説明は皆無で、とにかく“ポイントサービス”を強調してくることが特徴だ。
投資金額の単位はアメリカドルで100ドルということが多い。電話によるリモートコントロールを使い、ホームページ上で再度、暗証番号を入力させ、「投資金額入力ページ」にアクセスするよう熱心に誘導してくる。登録者から金をむしり取ろうと必死だ。
繰り返すが、彼らは何の商品説明も行わない。ひたすらポイントサービスであることを強調し、ネット上でクレジットカードを使わせようとする──こんなものがまともなセールス行為と言えるはずがない。
たいていの人も、この時点で怪しいと感じる。担当者とのやり取りを打ち切ろうとするのだが、本当の地獄はこれから始まる。担当者との接触を断つのは、決して簡単なことではない。
例えばAさんの場合、「何もしないで月50万円稼げる!」という広告に関心を持ち、ホームページでの登録が完了するまでは期待に胸を膨らませていた。
ところが、その後に連絡してきた担当者の怪しさに嫌気がさし、「もうやりません」と告げた。しかし翌日からは、非通知だけでなく番号を通知した状態でも、Aさんのスマホに電話がひっきりなしにかかってきた。
表示された番号は、ドイツやスペインといった国番号だったという。ただし、スマホの場合、ドイツの国番号である「49」が表示されても、本当にドイツから発信されているとは限らない。
ドイツで登録されたスマホだと、別の国から発信してもドイツの国番号が表示されてしまうのだ。よって、実際にどこから電話をかけているかは不明である。
電話に出ると、同じように片言の日本語で日本名を名乗る人物が、「あなたの担当者になりました」と話し始める。再びポイントサービスを強調した営業トークで投資金額の入力を迫って来るのだった。
Aさんが「やりません。興味もありません」と断ると、担当者は「分かりました」と言ってすぐに電話を終えた。意外とアッサリとしたものだった。
しかし、その数分後には、別の番号で、別の担当者から「私があなたの担当者になりました。よろしくお願います」と再び電話による勧誘を仕掛けてくるのだ。
もう話しても無駄だと悟ったAさんは、電話が鳴っても出なくなった。すると、何度も連続して電話がかかってくる。
1日に20回以上、繰り返しスマホは鳴り続けた。時間帯は主に昼か夕方だった。それが延々と毎日続く。
着信拒否設定を考えたが、自分の番号を相手は把握している。別のスマホから電話をかけてくるのは明らかで、着信拒否にしても意味がない。
Aさんは1日に20回以上鳴るスマホに耐え続けた。3週間も過ぎると、精神的にかなりのダメージを受けてしまった。刑法の観点から考えると、脅迫罪やストーカー規制法などに抵触しても全くおかしくない被害だろう。
Aさんは「確か、『500ドルを申し込んだら、さらに100ポイント追加され、合計700ポイントからスタートできます』と言っていた……。500ドルは、日本円で約6万5000円。それさえ払えば、この電話地獄が終わる……」と考えるようになった。
そしてAさんは「ヨコヤマ」を名乗る担当者の電話に出た。言われるがまま、ネット上で自分のクレジットカードから500ドルを引き落とさせた──。
その後、「キャンペーンが終了しました」という通知が届いた。もちろんAさんが月に50万円を稼げることはなく、500ドルを失って終わった。
オレオレ詐欺にも同じ傾向が認められるのだが、電話を悪用した詐欺の詳細を見ると、詐欺師が言葉巧みに金銭を騙し取ったという被害事例ばかりではない。
毎日続く電話攻撃から逃れるため、その対価として金銭を支払ったという被害者もかなりの数に上るのだ。
ネット上で詐欺を働くような組織は、騙すテクニックばかりではなく、ターゲットに精神的な被害を与えて金を奪い取るテクニックも熟知している。
詐欺師の粘り勝ちと言えるのかもしれないが、明らかに強要や恐喝に該当するのは言うまでもない。
ネットにはびこる怪しい広告の裏には、詐欺組織が潜んでいるというより、「悪質な恐喝グループ」が登場するケースも多いと心得ていたほうがよさそうだ。
Bさんも「スマホを見るだけで収入がUPし、億万長者になれる」という広告を信じた一人だ。スマホに電話をかけてきた「イシハラ」という女性に勧められるまま、ポイントを買い漁ってしまった。
イシハラはBさんに「未公開コインに投資してください」と説明した。「未公開コイン」とは新種の仮想通貨のことである。
実はBさん、過去に某仮想通貨が上昇したおかげで、1000万円以上の利益を得た経験があった。2度目のチャンス到来と信じ込み、イシハラの話を疑うことはなかった。
投資を始めて約1カ月で、Bさんはイシハラが勧める未公開コイン銘柄の全てに投資した。その額は約700万円近くに達した。
Bさんはイシハラのことを完全に信じ込んでいた。LINEでも友達登録を行い、ビデオ通話も行った。
イシハラは自分のことを「台湾生まれの投資スペシャリスト」と説明した。未公開コインが専門であり、仮想通貨取引所で登録(上場公開)されると多額の利益が得られる。20代半ばだが、もう10億円以上は稼いだ──こんなことを豪語した。
時々、イシハラは「資産を日本に持ち込みたいが、どうすればいいか?」とBさんに相談した。
Bさんは「日本で不動産を購入すればいい」と提案。いくつもの物件をLINEのビデオ動画で紹介した。
Bさんが登録したサイト上では、初期投資した約700万円が約2億円以上に膨らんでいた。あとは引き出し可能となる利益分配日さえ待てば、この利益分を引き出せるという仕組みだった。700万円が2億円になるのだから、とんでもない利益率だ。まさに億万長者の気分をBさんは味わっていた。
投資を開始してから約6ヵ月が過ぎた頃、Bさんに最初の利益分配日が訪れた。イシハラに確認すると、彼女は「あなたの銀行口座にカネを入れるけど、毎日6万円だけ入れます」と言った。
「確かに利益分配日は到来したが、現在、上場が遅れており、投資した未公開コイン銘柄は未公開のままなので、未公開中にカネを引き出してしまうとコインの価値が下がってしまい、公開時の儲けが減ってしまいます。利益の全額を引き出すのは待って、毎日6万円だけにしてほしい」
Bさんが自分の銀行口座を確認すると、確かに6万円が振り込まれていた。Bさんはイシハラの話を信じた。
Bさんは、毎日送金されてくる6万円を毎日引き出した。他に投資していた未公開コインの利益分配日が訪れると、イシハラは再び「公開するまで待ってほしい」と言い、やはり6万円を口座に送金してきた。
Bさんの口座には毎日6万円から12万円、18万円と振り込まれた。小額ではあるが確かに現金が払われている。Bさんは「待ってさえいれば、そのうちに2億円以上の利益を手に入れられる」と笑っていた。
だが、1週間も経たないうちにイシハラは音信不通になった。口座への送金もストップ。Bさんは700万円を“投資”し、返ってきたのは約400万円。差し引き300万円を騙し取られたことになる。
詐欺組織からすれば、Bさん1人から約300万円の収益を上げたわけだ。ターゲットが10人いたとすれば、組織は7000万円を手に入れたにもかかわらず、4000万円を返金。最終的には3000万円しか騙し取れなかったことになる。
この“利益率”をどう思うかは人それぞれだろう。だが、ここで重要な点がある。イシハラが送金してくれている間、有頂天になったBさんは周りの知人に投資話を積極的に勧めていたのだ。
詐欺組織はBさんが“投資”した700万円の全額を騙し取ることもできた。だが、そうはしなかった。
これはBさんが投資話を周囲に勧めてくれるのなら、Bさんに戻した400万円は“宣伝費”と見なすことができるからだろう。詐欺組織からすればお安いものである。
実際、Bさんの誘いに乗ってCさんも投資してしまった。同じように担当者は音信不通になり、数百万円の損害を受けた。
やはりCさんも担当者から送金されている間、有頂天になって多くの人々に投資話を勧めていた。
こうした詐欺組織は海外に拠点を置いている。そのため、日本の司法組織が摘発することはとても難しい。
そもそも組織が拠点にしている国が、日本とは「犯罪人引渡し条約」を結んでいないケースが大半だ。
2020年の段階で日本と条約を結んだ国は、アメリカと韓国の2カ国しかない。ちなみにイギリスは115カ国、フランスは96カ国、韓国は25カ国と条約を締結している。
日本との条約締結国が少ないのは、日本が死刑存置国だからという説も根強い。いずれにしてもそんな背景から、海外の犯罪組織にとって日本は「稼ぎやすい国」だろう。
日本人にとっても「海外組織による犯罪被害は泣き寝入りせざるを得ない」という状況になっている。司法による摘発は期待できないのだから、被害に遭わないよう心がけるしかないのだ。
藤原良(ふじわら・りょう)作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。2020年に『山口組対山口組』(太田出版)を、22年に『M資金 欲望の地下資産』(同)を上梓。
デイリー新潮編集部

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